日々の暮らしを愛おしく

日常の一コマ。
いろいろと一緒にできるようになりたいから。

この作品はWaveboxにていただいたリクエストが元になっています。
◆リクエスト内容
「『夢の語り部』設定で、料理苦手な黒剣ちゃんが土方さんと一緒に料理を頑張って作って食べる話」

不器用じゃないんです、多分。
やってないから出来ないと思っているだけで……。
けれども土方さんよりは不器用であってほしい願望があります。

けんちん汁の作り方や具は他にもいろいろあると思いますが、とりあえず白殊の作ってる具とやり方でやってます。
その辺りもよしなに。


『夢の語り部』( https://privatter.me/page/69566231a7634 )設定
現代転生パロ。
近藤さんのが年下設定(二歳差)で、一臨・黒の剣士の外見。
土方さんには記憶があり、近藤さんには記憶無し。

 朝は歳のこだわりなのか、大抵ごはんに味噌汁と和食が多い。
 昼は歳が作ってくれた弁当、在宅ワークの時は用意しておいてくれたもの。
 夜はその日によって歳が作ってくれるいろいろ。

──それが、同棲を始めてからの俺の食生活だ。

 料理が全く出来ない俺でも、流石に歳に負担をかけすぎだと思う。
 歳にそれを言えば全く負担じゃないと返されるのでいつも甘えていたが、先般歳が熱を出した時のことを思えば、出来ないより出来た方がいいに決まっている。
「歳。今日の夕飯の予定は?」
 台所で二人分の弁当を詰めていた歳にそう切り出す。
「ん、こないだ買った大根を使い切りたいからけんちん汁にしようと思ってるんだが、なにか希望はあるか?」
「なら、俺も一緒に作りたい」
 一瞬、歳の動きが止まった。
「気にしなくていいんだぜ?」
「気になんてしていないけど、俺が一緒にしたいんだ。だめか?」
 一度に何もかも出来るようになんては思っていない。
 けれど、少しでも歳と一緒に出来ることを増やすことはしたい。
「大歓迎だ。じゃあ今日の買い物、頼んでもいいか?」
 歳はにっこりと笑って、メモ用紙にさらさらと内容を書き付けた。
「うん。帰りに買ってくる」
 それを受け取り、ざっと内容を確認してスケジュール帳に挟んだ。
「頼んだ」
 そう言って、弁当と飲み物の入った水筒を渡してくる歳は、とても嬉しそうだった。



 在宅ワークが多い俺だけど、週に一日くらいオフィスに出向く日がある。
 今日がその日だ。
 始めは物珍しそうに俺を昼食に誘ってくる先輩(女)や同期(女)がいたけれど、どう見ても誰かの手作りな弁当を広げている俺を見て、だんだんとそれはいなくなっていった。
 その点だけでも歳には礼を言わなければならないだろう。
 だって、そういうのは苦手でたまらないから。
 ただ、歳の方は──と思いを巡らせると、マメに手作り弁当を持って仕事をする出来のいい男なので、ちょっとモヤモヤしたものを感じる。
 女性がいるのならさぞやモテるだろうし、同性だって惹かれることはあるだろう。
 見てもいないものに嫉妬をするのはナシだと思うが、気になるものは仕方がない。
 それでも、歳は俺を選んでくれたのだから、それは物凄く嬉しい。



 帰り道にいつものスーパーで食材を買って帰る。
 買い物は二人で来ることが多いから、ものの善し悪しを見る目はついたと思う。



「お帰り、近藤さん」
 家に帰れば歳はもう台所で待っていた。
「買ってきたよ」
「ありがとうな。じゃあ手を洗ってこっちだ」
「うん」
 歳は戸棚からエプロンを出してきて、俺に差し出した。
「あと、髪もやっとこう」
 俺がエプロンを身につける間にすい、と後ろに回り込み髪を綺麗にまとめてくれる。
「何からすればいいんだ?」
「あぁ、一番手間が掛かるのが野菜を切るところだからな。そこからやっていこう」
 歳は言いながらまな板と包丁を二本用意してくれた。
 歳ほどではないが、俺だって包丁くらいは握ったことはある。
──まぁ、袋ラーメンにいれるネギを切ったことくらいだけれども。
 大根、にんじん、ネギ、ゴボウ、とうふ、鶏肉と調理台の上に出していく。
「大根はもう半端だから、葉の根元を切って縦半分。皮はピーラーで剥いてくれて大丈夫だ」
「こうか?」
 半端というように、大根はもう葉っぱのついていたところから十センチくらいしか残っていない。
 ついていた葉っぱは先日菜めしになって出てきているのでもうないのはわかっている。
 少し青い葉っぱがついていた根元から切り落とし、ピーラーで皮を剥く。
 言われたとおりに縦半分にすると、更に半分、といわれたのでもう半分に切る。
「そこからあまり薄くならないように横に。それがいちょう切りってやつだ」
「この扇子みたいな形が?」
「あぁ」
 答えながら歳はゴボウをさくさくと不思議な切り方をしていた。
「それは?」
「これはささがきっていってな。笹のような形に揃えて切りたい時のちょっとした一手間さ。やってみるか?」
 大根は終わっていたので、俺は頷いて歳の手元を覗き込む。
「じゃあ、ゴボウをこう持って」
 歳はゴボウを俺に手渡し、手を添えて持ち方を教え、包丁の添え方を示してくれた。
「あまり力は入れすぎずに包丁の先で鉛筆を……今は削らねぇか、今は。ゴボウを回しながら削ぐように切っていけばいい」
「ん……んむ……
 なかなかに難しかった。
 そこそこ力を入れなければちゃんと切れないし、下手に力を入れると分厚く、大きくなってしまって形が揃わない。
「ゆっくりで大丈夫だ。上手い上手い」
 歳の倍は時間がかかったし、かなりフォローがあってのことだったが、ようやくゴボウも切り終えた。
「にんじんは?」
「大根と同じように、皮を剥いて四つ割りにしていちょう切りだな」
「わかった、やってみる」
 大根よりも少し固かったが案外いけたのでちょっとほっとした。
「次は?」
「鶏肉だな。あまり小さくなりすぎないようにでも唐揚げなんかよりは小さめに……。うーん、とりあえずこれくらいだな」
 根菜を他の器に避け、まな板の上に鶏肉を据え、歳は少し包丁を入れて大きさを示してくれた。
 野菜より水気と粘り気があって少し切りにくい。
「手だけは切るなよ」
 危なっかしい俺の手元を覗き込んで、歳が言う。
「気をつけてはいる」
 そうするうちに、歳は小さな鍋に湯を沸かし始めた。
「それで作るのか?」
「いや、これはこんにゃくの下茹で用だ」
「下茹で?」
「あぁ。こんにゃくは先に一度湯を通しておくのがよくてな。今のこんにゃくはしなくても大丈夫なことも多いが、した方が味のしみも良くなるし、臭みが消える」
「そういうものなのか」
 本当に自分は知らないことばかりなのなだと思い知らされる。
「大丈夫だ、なんでもやっていけば覚えるから」
 そうするうちに歳はこんにゃくを手でちぎって鍋に入れていく。
「歳は、なんでも器用にこなすな」
 その手元を見ながら、俺は呟く。
「少しやることがあっただけだ。あんたも不器用じゃないんだ、すぐできるようになるさ」
 手が止まってるぞ、とつつかれて手元に視線を戻す。
 残っている鶏肉を切り分けて次は? と聞く。
「いよいよ本編だ」
 歳はこんにゃくをザルにあげて、大きめの別の鍋を用意する。
 ほんの少しの食用油を入れて熱すると、そこに鶏肉を入れた。
 ぱちぱちと音をさせて色が変わるくらいまで炒めるとにんじん、大根、ゴボウ、ネギと入れていく。
「そういえば、とうふは?」
「あぁ、こっちに用意してある」
 とうふはキッチンペーパーに包まれて重しがされていた。
 水切りというらしくとうふ自体を濃厚にして、煮崩れも防ぐ一手間だとか。
「とうふは手で崩して入れてくれ」
「わかった」
 言われたとおり崩しながらとうふを入れる。
「そしたら全体を混ぜて……水だ」
「水なんだ」
「根菜はな水から煮るのがいいんだよ」
「へ~」
 歳に教えてもらいながらおたまで具を掻き混ぜる。
「このちょっと色の悪い泡みたいなのは丁寧に掬ってくれ」
「これ?」
「あぁ、アクといってちゃんと取らないと風味が落ちる」
 ふんふんと頷きながら掬って捨てる。
「そろそろ全体が煮えたかな」
 歳はにんじんを一つ菜箸でつまみ上げ、手で受けて口に入れる。
「大丈夫そうだ」
 ぺろり、と唇の端を舐めるその仕草に、妙な色気を感じてどぎまぎしたのは内緒にしておく。
「あとは、塩と醤油で味をつければ完成だ。濃いめより薄めの方があとから調整が効くから薄めでな」
 量を教えてもらいながら調味料を入れれば、ふんわりと立ちのぼる湯気に醤油でほのかに色づいた美味しそうな汁物が出来上がった。
「汁は俺がやるから、近藤さんメシの方を頼む」
 歳は茶碗としゃもじを用意して、俺に手渡した。
「うん」
 よく似たデザインの大きさの違う茶碗だけど、実は大きい方が俺の茶碗だ。
 歳は食べる量は普通だけど、俺は結構多い。
 それはもう気にしないことにしているのでいつものように炊飯器からごはんを盛り付ける。
「ありがとよ」
 茶碗と汁物の椀を並べ、それぞれの席に着く。
「いただきます」
 声を揃えて手を合わせ、箸を手に取る。
 歳の手が入っているから当然だが、けんちん汁は根菜の出汁と鶏肉の出汁がよく合って身体が芯から温まる優しい味だった。
「美味しい」
「うん、一緒に作ったものはやっぱりいいな」
 歳は優しく微笑んで俺を見つめた。
「明日も一緒に作りたい」
「じゃあ、早起きして朝からやるかい? だし巻きたまごの特訓だ」
 頭の中にぽん、といつも歳が作ってくれる幸せそのもののような色をした卵焼きが浮かぶ。
 あれを俺に作らせるというのはなかなか難易度が高いと思うが、歳は嬉しそうだ。
「うん、やる!」
 何事も経験と俺は返事をした。
 いつか歳のために一人で料理ができるようになりたいけれど、一緒にいるのだからずっと二人でやったっていいじゃないか──そんなことを考えつつ……