くりやの卓報告置き場
2026-01-28 14:25:47
3589文字
Public その他
 

【SS】🐐☁

自探クロスオーバーSS。カノヨと都市伝説課ネタバレあり


ノートパソコンと帳簿を開き、それらを交互に見ながら物件を探す。
そろそろ孤児院を出る年齢だ。今までここで暮らしつつ、時たま依頼で小銭稼ぎをする日々だったが、そろそろ通信教育の課程も終了する。同年代の子ども達も着々と就活を始めているため、僕もこうして本格的に引っ越しの準備と探偵業の確立に追われているというわけだ。
しかし、事務所兼自宅になる新居へ移り住むにしても、孤児院から近場のところを探さなければ。妹が見つかるまで、出来るかぎりここを出入りする警察や役所の人間とのコネは保持しておきたい。
カチリ、と場所と価格帯で絞り込む。左足の問題もあるから、住むならばアパートの1階かせめて2階までが理想だ。そうなると、選択肢がだいぶ狭まってくる。201202……あ、回線や空調についても考慮しないといけないなぁ。時期的にはまだ余裕があるとはいえ、如何せん考えることも、やるべき手続きも多い。目頭を押さえ、ふぅとため息をついた時だった。
「─オレ、あと何が出来るかなぁ」
急に声が聞こえ、驚いてそちらを見ると、向かい側の席に青年が腰掛けていた。同年代ぐらいだろうか。整った顔をした金髪の子だ。
「うわっ……、びっくりしたー」
「っあ、お、驚かせて、ごめん……
その子は僕と目が合うなりその涼しげな表情を崩し、しどろもどろといった様子で狼狽える。
なんだか……違和感を感じる。そもそも、こんな子 施設にいただろうか?最近は大人たちと接してばかりだったけれど、年が近いならさすがに知っているはずだ。
となると、目の前の彼は……と様々な予感が頭を過ぎったが、あぁ、これは深く入れ込まない方がいいやつだ、と肌で感じ思考を打ち切る。
──仮に彼が”そう”だったとして。自分がその類に遭遇する心当たりがあるとすれば。
やはり過去に片足持ってかれて死にかけたことか、はたまたこの前メリーさんを騙って犯人の家にイタ電したことが祟ったのだろうか。……ごめんメリーさん、本物は「今あなたの家を包囲したの」とか言わないよね。どうか怒らないでください。
犯人ビビってたから許してくれないかな〜、とかなんだの呑気に考えていると目の前の彼が「あ、えと」と口元をまごつかせる。しばらくして、手が隠れた長袖の裾をちょん、と僕の方に向け、申し訳なさそうに眉を下げる。
……君、顔はよく見かけるんだけど……名前、なんだっけ。ごめん。忘れちゃって……ごめんね」
……これ、答えていいんだろうか。かと言ってこのやたら低姿勢な彼を無視するのもなんだか悪い気がしてくる。よし、適当に答えるか。
「ひつじくんでいいよー」
ひとまずニックネームとしてギリ使えそうなやつを言う。これなら『言わないとダメ』でも『言っちゃダメ』でも、どっちのパターンでも助かるはずだ。
「ひつじ君。あ、ひつじ君の方もオレのこと分かんない、よね。」
僕の名前を呼んだあと、向き直って彼は自己紹介をする。
「オレは……繧√≠」
……なんて?? すごい、全然聴き取れなかった。この子マジモンかもしれん。聞き返すのは申し訳ないし怖いし、誤魔化しとこ。
「じゃあ、メーちゃんだね」
全然何が『じゃあ』なのか分からないけど、適当に呼んでみる。ヒツジが唐突にメエと言ったところできっと問題はないだろう。繧√≠はメーちゃんと呼ばれると俯いて少し縮こまったあと、不服そうにぼそりと呟く。
「くん、がいい」
「メーくん」
……、うん……っ!」
言われた通り訂正すると、彼は顔をあげて嬉しそうに小さく頷いた。よかった、そっちか。前半はこのままで許されたらしい。よかった。
話を軽く聞いてみたところ、どうやら彼も就活組らしい。市役所への就職を目指しているんだとかなんとか。
「ってことは事務とかが希望?」
「あ、えっと………とりあえず市役所の職員になれたら何課でもいいんだ。念のため狩猟免許もとったんだけど」
「狩猟免許とったんだ?」
「うん」
狩猟免許とったんだ。タヌキにもビビって負けそうだなと勝手に思ったけど、もしかしてかなりの強者を前にしているのかもしれない、僕。
「でも、まだ何かできるかなって……就活とか初めてだしよくわかんなくて……準備できることは出来るだけ準備しておきたい」
「へぇ〜」
「ひつじ君、何かアドバイスとかある?」
「ぇえーー……?」
控えめながらもすごく期待に満ちた眼差しで、彼がこちらを見てきた。でも目の前の男はハンターじゃなくて職員さんになるために狩猟免許を取りに行くほどなんだろ?多分思いつくかぎりのことは既にやっているのでは?
そう過ぎり、逆に何をやっていないんだよ……と頭を悩ませていたら、不意に机の上に折り紙の手裏剣が飛んできた。何事かと振り返ると、小学生の皆が帰ってきていたようだ。全然気がつかなかった。イヤホンを外して首にかけると、確かに先ほど作業していた時よりもずいぶん建物全体にざわめきと活気がある。もうそんな時間になっていたのか。
「あっ、ひづきくんごめーん!!」
飛ばしたであろう子が少し遠くから話しかけてくる。
「はいはーい。それ学校で作ったの?」
「そ!なんか変なとこ飛んじゃった。こっち投げてー!」
「小学校って急に折り紙ブーム来るよね〜、よっと」
彼の方へ折り紙の手裏剣を投げてやる……が、飛距離も虚しくそれは早々に床へと落ちた。その子が笑いながら落ちた手裏剣を拾う。
「なんだ、ひづきくんもヘナチョコじゃん」
「だって僕忍者じゃないしー」
手裏剣の心得などない。僕はどちらかというと鶴とかお花とかを折っていた人間だ。バタバタと去っていく子どもを見送り、気を取り直して繧√の方へ向き直る。
「話途中になっちゃったね、ごめん」
「いやっ、そんな……大丈夫!」
彼に軽く詫びを入れると、それ以上の謝罪のこもった声色で慌てたように腕をブンブン振られた。小動物的なのか大胆なのかが最早分からないが、子どもたちの誰もがこの青年に気づいていなかったのは確かだった。……まぁそれは置いといて。それで、何ができるかだっけ。
「えーーーっと………手裏剣とか始めたら……?」
「手裏剣……?」
「メーくんってなんか忍者っぽいこと向いてそうだし」
半分は本気で半分は適当なことを言っている。
「なるほど
ふむ、といった様子で彼が真剣に考えこむ。この子がどこまで適当なことを真に受けてくれるのかちょっと気になってきたな。少し申し訳なさも出てくるからやらないけど。
まぁ、それこそ折り紙とかでもいいんじゃない?子どもやご老人にウケ良いと思うよ」
無難な意見も追いで添えておこう。役所の人間に必要なスキルかどうかと言われると、微妙だが。
「折り紙……。 ……………っ!」
え?」
彼が急にハッとした様子で目を見開く。そしてしきりに自身の手─正確には袖─で頭をコンコンと叩きながら、口元をニヤつかせ始めた。顔立ちこそは綺麗なのだが、その光景はどこか不気味に映る。
「いいかも……折り紙」
「なら良かった」
笑顔を返すのは得意だ。内心を悟られないよう、微笑みながら彼のことを見る。
「ひつじ君ありがとう。オレ、頑張ってくるよ
「お、上手くいくといいね」
「うん。あの人……たしかそうだったから」
「?」
なんのことだろうと瞬きをしたら、繧√はもうその場から居なくなっていた。
「あー……行っちゃった」
口から出たそれはただ事実を述べただけのもので。
「もっと話したかったのに残念だ」とは思っていないが、「居なくなってくれて安心した」とも思っていない。
僕にとっては何かに会ったなぁ程度のことだ。それが人でも動物でも妖怪でも、血の繋がった家族以外なら、そういうものなのだ。
「でも……市役所員か〜」
役所とのコネなんて、僕が常に欲しているものだ。もし彼が受かったらどこかで恩返しでもねだろっかなぁなどと思いながら、開いていたノートパソコンを閉じた。