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柄
2026-01-26 22:04:25
3668文字
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元セエメ光ちゃん短編2つ
どこで出したのか覚えのない漆黒期の短編と、書きかけだった恋人期の短編
1
2
恋人期:花を摘んだひと
声を聞いて、彼だと思った。目を見て、全てを思い知った。とっくに好きになっていた。恋だった。恋を、していた。好きで、好きで、そばにいられるのなら何だってよかった。触れて欲しかった。話しかけて欲しかった。見つめて欲しかった。
けれども、それは全てきっと私ではないあの人のもので、私は二度とあの人になれることはなくて、それに、何より。
私は、この手で。好きな人を、殺したのだ。
跳ねるように飛び起きる。厭な汗をかいていて、背中に張り付く布が不愉快だった。少し震える肩を抱き締めてゆっくりと息を吐く。
そばで眠っていたはずのチョコボが顔をあげ、どうしたの、と首を伸ばして頭を寄せる。ごめんね、平気よ、と囁いて撫でてやれば、彼はきちんと理解してまた眠りに落ちる。私の、一番初めの相棒だ。
時折、見る夢がある。この手で、ハーデスを殺した時の夢だ。あの時は今を生きる人として、覚悟を持って彼を討った。今もし過去へ渡ったとしても同じことをする。たとえ、彼があの人で、私があの人を好きになっていたと理解していても。
けれども、理解していたって苦しいものは苦しいのだ。ずっと、ずっと、胴に穴を開けた彼の静かな視線を思い起こす。忘れるわけがない。ずっと、刻み込まれている。それはきっとエメトセルクが望んだ以上の鮮烈さと重さを持って、ずっと心の深いところに突き刺さっている。
リトルシャーレアンの夜は外と変わらない濃さで空気に闇を落としている。ほんの少し湿度のある、冷たい空気に汗が冷やされてこのままでは風邪をひいてしまいそうだ。すこし悩んで燻る火種に手を翳せば、ごうっとあっという間に燃え上がる。すこし眩しいけれのも、きっと相棒は起きないだろう。爆ぜる炎の熱に息を吐いて俯く。
「
……
エメトセルク」
小さく呟いて膝を抱え込んだ。ああ、追加の依頼を受けずに夕方のうちに帰ればよかった。会いたくてたまらない。抱き締めたいし、抱き締められたい。なんなら、すこし乱暴に抱いて欲しい。生きていると、そばにいるのだと教えて欲しい。
「ハーデス」
教えられた名前をなぞる。好き。大好き。愛してる。私の、初恋で、きっと唯一の恋。
納品はいつでもいいと言っていたのだから、明日の朝一度帰ろう。そうして落ち着いたら、また依頼の品を集めにこよう。連絡よりも早く帰ることになるけれども、きっと彼はおかえりと変わらずに迎え入れてくれるはず。だから、大丈夫。ちゃんと、大丈夫なのだ。
「ハーデス」
「なんだ」
答える声に顔を上げるのと、後ろから抱き締められるのはほとんど同時だった。
「まったく、何度も呼ぶのだから何かと思えば。何を思いつめている」
振り返れば外套を纏ったエメトセルクが呆れた顔でそこにいる。どうして、と尋ねる声は掠れていた。
「お前が呼んだのだろう」
「喚んでないわ」
「呼んだ。だから、きた」
「
……
酷く、良い耳を持ってるのね」
「良く通る声で泣く奴がいるからな」
エメトセルクがチョコボの名前を呼ぶ。ゆっくりと目を開けたチョコボに帰るぞ、と声をかければ、相棒はゆっくりと瞬きをした。私に言うわけじゃないんだ、とぼんやり考えながら、軽快に響いた音と共にぐるりと世界が回る感覚に身を委ねる。
すぐに世界は正しくなった。緑と土の匂いはさっきとそう変わらないけれども、聞こえる音は確かに違う。風が、通っている。遠く走り抜ける風は、黒衣森の青い香りがした。庭先のチョコボ厩舎に自ら入りまた丸くなる相棒を尻目に、エメトセルクは私を抱え上げたまま一人でに開いたドアから家に入る。小さな、我が家だ。植物と書物のためだけの空間だった場所は、人が過ごす温かい場所に作り変えられた。
真っ直ぐにベッドに向かおうとするので、着替えたい、と申告すればまた指を鳴らされる。柔らかい肌触りの寝巻きはお気に入りのもので、魔法ってすごいなあ、と思いながらベッドに降ろされ、素直にそのまま押し倒される。
「さて。話を聞かせてもらおうか」
「ふふ、それ尋問みたい」
「そう捉えてもいい」
髪をゆっくりと梳かしていく指先が時折肌に触れるのが心地よい。すこし、夢を見たの。囁いた声は掠れていた。
「あなたを、殺した時の夢を見たの」
「
…………
」
「後悔はしてないわ。私は、私が歩みたい未来のためにあなたを殺したの。今過去に戻ったとしても、私はもう一度あなたを殺す」
「
……
そうだな。私も、お前を本気で殺そうとした。エルピスでの記憶を失った私にとって、それが私の意義だった」
「うん」
わかってるの、と囁いて目を閉じる。でもね、理解と感情は、別物なのだ。
「でも、私」
この限りではないのだ。もう何度も、こうして彼に慰められている。
「好きな人を、殺したの」
この夜だけじゃない。もうずっと、彼を殺す夢を見ては、こうして行き場のない感情をエメトセルクに受け止めてもらっている。
「初めて、好きになったの。たった一度の恋なの。でも、それを知った時には、もう殺してしまってて」
「ああ」
「それに、あなたはアゼムが好きで」
「そうだ」
「だから、私」
「だが」
エメトセルクが腕を回してくる。抱き締める力は強くて、それが嬉しい。ああ、そうだ。
「今、私はお前といる」
彼は、ここにいる。
名前を呼ばれる。うん、と声を返して、名前を呼び返す。
「ねえ、お願い、ハーデス」
少し体を離して、何を言われるかわかってるような顔でこちらを覗き込む。もう、呆れた顔なんてしないで欲しいわ。笑いながらそっと囁いた。
「何もわからなくなるぐらい、めちゃくちゃに抱いてくれる?」
お前はまったく、とあきれた声だけれども、触れる手はずっと優しくて甘い。どうか、夢も見ないぐらい、深く、深く。ぐちゃぐちゃになって、境界線も曖昧になって。
心臓の一番奥で夢を見る寂しさを、ひとときでも忘れさせて。
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