2026-01-26 22:04:25
3668文字
Public
 

元セエメ光ちゃん短編2つ

どこで出したのか覚えのない漆黒期の短編と、書きかけだった恋人期の短編

漆黒期:ガラス越しのひと

「あなた、恋人がいたのね」
 断言の形で話しかけてきた彼女になんだ、と片眉をあげる。対話すると決めて、彼女は付かず離れずでよく話しかけてきた。深入りしすぎない距離感を掴むのが上手いとこの姿で出会う前から知っている。前は、もう少しだけ近かった。それよりももっと、遠く遠くは、誰よりも近しかった。
「なんだ。言っただろう。かつての私達はお前たちのように、誰もが親しい関係性を築いていた」
「いいえ、あなたの話をしてるのよ」
 まっすぐ見つめてくる瞳に、つい目を凝らす。けれども眩く白に焼かれた魂は鮮やかな色彩を失っていて、望むものは殆ど見えない。
「何故?」
「女の勘」
 はぁぁぁ、と深く溜息をつく。なんて馬鹿馬鹿しい。しかしあってるわよね、と断定してくる声は疑い一つ持っていない。
「それで、私に恋人がいて、お前に何か不都合でもあるのか?」
「いいえ」
 さっくりとした返事がすぐに返ってきて驚く。ならば何故こんな質問を、と目を細めて見やれば、彼女はだって、と唇を尖らせる。女としての魅せ方をよくわかっている仕草だった。
「あなた、時々私を通して誰かを見てるじゃない」
 つい、息を止めた。けれども一瞬である。しかし聡い彼女にとっては充分で、満足気にやっぱり、と笑って首を傾げた。
「私もね、あなたが少し私の好きになりたかった人に似てるから、分かっちゃった」
……なんだ、その好きになりたかった人、とは」
「私がきっと普通の女の子だったら好きになってたわ」
 蠱惑的に三日月を描く唇は、そこらにいる女のものと変わらないはずだ。けれども、彼女は原初世界における英雄であり、この世界においても闇の戦士という業を背負っている。
「私は、英雄だから。恋しちゃダメなの」
 ああ、本当に。厭になる。いつだってこの魂の持ち主は、人を救って、愛して、そうして孤独になる。
「馬鹿馬鹿しい」
 吐き捨てれば、そう?と彼女は笑いながら歩き出す。
「随分と弁えている、いい子でしょう?」
 また話を聞かせてね、なんで言いながら去っていく背中を眺め、指を鳴らして転移する。他者に見つかりづらく、昼寝しやすいその場所に腰を下ろし、深く息を吸って、長く長く吐き出す。
 本当に、腹立たしい。
 もし、この先彼女と手を取ることがあるのならば。古き姿を見せ、驚く彼女に言葉を告げる。そばに置いてやろう。今のお前は並ぶに足りるが、強度としてはやはり弱きものなのだ。それでも焦がれる色彩を隣に置けるのならば、きっとエメトセルクの長い長い孤独も報われる。ああ、もし、そうなれば。彼女にはよくよく、孤独にならないように言い聞かせてやろう。英雄になるな、と。英雄とはどの時代も、孤独に死んでいくのだと。あいつのように。
「私を、失望させてくれるなよ」
 小さく呟いて目を閉じる。見れなくとも、何度も思い描いた色彩はいつだって瞼の裏に描けるのだ。