John
2023-09-05 18:24:26
2524文字
Public 武新
 

艶書と遺髪

武新。生前の新兵衛の死に触れる内容ですが、カルデア時空でオチが付きます。
イゾーさんの素人あいまい土佐弁あり。


時が遥か進んで、武市瑞山と田中新兵衛はカルデアで再会した。

「田中君、相変わらず柔らかで うるわしい筆使いだが何を書いているんだ」
「はっ……先生。先日のレイシフト関連で提出せねばならない書類がありまして。臥所 ふしどを抜け出して失礼を」
「相変わらず私の書かねばならないものまで書いてくれているのか」
「勝手をいたしました、ご迷惑でしょうか。あとで うかがうつもりでしたが」
「いや、いつも助かる。……ありがとう」
「っ……

今の新兵衛は はかまを編み直しているが面頰 めんぽおをしておらず、豊かな赤髪を結い上げて肌を さらしていた。
耳に生前はあまりなかった素直な言葉を吹き込まれ、新兵衛の素肌が、朱色 しゅいろを増した。

そんな義弟の様子が面白く、義兄は椅子に座った義弟のうなじを指先でもてあそんだり、威勢良くはみ出した髪の束を指に絡めたりなどして。
自分の情を身の内に受け入れた後まで甲斐甲斐しく真面目な新兵衛をからかっていたが。
ふと思い出して言ってみた。

「そういえば、君には生前、好いた女子もいたのではないか」

だが、全く新兵衛に心当たりはないようで。
武市は手紙の件を持ち出す。
もちろん焼いたなどは言わないが。
すると、新兵衛の顔がますます茹蛸 ゆでだこのようになった。
武市は茹蛸に必ず すみを吐かせるとでもいうように、誰への文であったのか問い詰める。

出て来た墨は、墨絵の龍を描き出した。

武市は、新兵衛のあの手紙が自分にてられたものだったというなら。
遺髪と共にこっそり持っておけばよかったと、後悔したのだった。