まぁるい想いを四角にこめて

恋人同士になって初めてのバレンタイン・デー。
苦手なことだけれども精一杯の想いを込めて。


この作品はWaveboxにてリクエストをいただきました!
◆リクエスト内容
「『夢の語り部』の設定でバレンタインに土方さんのために頑張ってチョコレートを手作りする黒剣の近藤さん」

『夢の語り部』のお話の少し前、土方さん社会人一年目、近藤さん大学三年生のバレンタインで書かせていただきました!
やれば、出来る子です。

『夢の語り部』( https://privatter.me/page/69566231a7634 )設定
現代転生パロ。
近藤さんのが年下設定(二歳差)で、1臨・黒の剣士の外見。
土方さんには記憶があり、近藤さんには記憶無し。

 二月十四日がやってくる。
 世間で言うところのバレンタイン・デーだ。
 昔は女から男へが主流だったらしいが、今となっては友チョコ、とかいって同性同士送り合うのも珍しくないとか。
──俺には無縁……ではなかった。
 友人づきあいが始まった頃から、甘いものは結構好きな俺に歳はいつも手作りのチョコ菓子を贈ってくれた。
 それに対してはいつも買ったもので済ませてしまっていたが──。

 今年は昨年末に晴れて恋人同士になって初めてのバレンタイン。
 絶対に失敗は出来ないし、既製品で済ませるつもりもない。
 幸いなことに俺の親は忙しいからとほぼ家に居ないので、邪魔をするやつは一人もいない。
 いまは一人暮らしをしていて、合鍵ももらっている歳の家でもいいかもしれないと思いはしたが、いつも綺麗に整頓されているあの家の台所を汚すのは気が引ける。
 何をするかというと──チョコレートを、手作りする。

 正直に言えば俺は料理が苦手だ。
 製菓だって言うに及ばず。
 それでも、歳のために何かしたい。
 そんな俺の、一大決心。

 こういうものは背伸びしてもロクなことにならないのはわかっているから、ネットで調べてレシピを読み、簡単で理解できそうなところを選んだ。
 材料を揃え、道具も家にないものは仕方ないので買い足して準備は整えた。

「えっと……まずはチョコを刻んで……
 一応学校の家庭科で包丁くらいは握ったことがある。
 袋のラーメンを作る時にネギくらいは刻んだ覚えもある。
 ざくざくと案外簡単にそれは出来た。
 甘い匂いにちょっとだけ欠片を口に入れる。
 歳が喜んでくれれば、それだけで嬉しい。
 刻んだチョコをボウルに入れ、次に必要になる少し小さめのパッドを用意してオーブンペーパーを敷く。
「その次は……生クリーム……
 生クリームを鍋に移して火にかける。
 中火というのがどの程度なのかよくわからないが沸騰させない、と書いてあるので失敗しないようにできるだけ火を細める。
 おそらくここで別のことを始めると、混乱してどうしようもなくなるだろうからじっと鍋を見つめる。
 鍋の中のクリームにふつふつと小さな泡が立ち、湯気が出始めたので火を止める。
「チョコのボウルにそれを入れて……
 湯気が消えるまでいじらない、とあるので素直にそれを待つ。
 ここで水が入ると台無しになるらしい。
 なので湯気もダメなのかと思った。
 ほどよく温度が下がったところで泡立て器でチョコを混ぜる。
 ボウルの中でチョコは生クリームの熱で溶け、粘質と艶のある状態に混ざっていった。
 レシピの写真と見比べて、遜色ない状態になったのを確認してオーブンペーパーを敷いたパッドに流し込んだ。
「これで、こうして。あとは冷蔵庫で約一時間……
 とんとんとパッドをテーブルに落として表面を平らにして冷蔵庫に収める。
………………
 ここまで来ればほぼ失敗はないだろうと、ほっと息を吐いて冷蔵庫の扉を閉める。
 いつも歳はこれに更に手をかけたものを作ってきてくれていたのかと感心をした。
 一息ついてテーブルの上を片付ける。
「なんかもったいないな……
 固まりかけているボウルの中のものをどうしようかとしばらく考える。
 生クリームで伸ばしたのだから……牛乳ででも入れればチョコレートドリンクにでもなるのでは? と思ってみる。
 まだ水につけてなかったのでちょうどいいと鍋に牛乳を入れて温める。
 それをボウルに入れて溶かし込むと、上手い具合にココアのような色合いになった。
 カップに移し、ちょっと口をつける。
 そこに、スマフォが鳴った。
 この着信音は歳だ。
「歳」
『近藤さん、今は家か?』
「うん」
『明日、食事でもどうだ?』
 明日──つまりバレンタイン当日。
 今年は平日だから歳も忙しいはずなのに、こうして俺を気にかけてくれている。
「行く。歳、いつもありがとう」
『何時がいい? 迎えに行く』
「じゃあ十八時。大学で待ってる」
『わかった』
 電話では互いに素っ気ないけれど、明日になれば逢えるのだから気にはしない。
 明日の午後は一つ講義があるだけだからもっと早く時間は空くけれど、歳の時間を考えて遅めにした。
 俺の時間はいくらでも潰せるから。

 電話を切り時間が経ったので、冷蔵庫に入れたチョコレートの様子を見る。
 上手く固まってくれたようで、ほっと胸をなで下ろす。
 レシピを再確認する。
 湯で温めて水気を拭き取った包丁で切り分けるとなっている。
 入れる予定の箱に合わせて切り分け、ココアをまぶせば出来上がり。
 俺の、正真正銘初めての手作りチョコは、生チョコレートだ。
 とりあえず一つ味見をする。
 歳がいつもくれる繊細な味のものには遠く及ばないけれど、なんとなく安心できる味がした。
 用意した箱に入れて蓋をする。
 ラッピングも上手く出来ないのはわかった上なので箱はテープで留め、ラッピング袋にいれて口をリボンで縛った。
 今日日小学生の女の子でももうちょっとマシなのではないかと思ったりもしたが、俺の実力ではそれ止まり。
 下手にいじって中身がひっくり返ってしまう方がよっぽど怖い。



「近藤くん」
 バレンタイン・デー当日、歳が来るまで、と図書館で時間を潰していたら数人の女性に声をかけられた。
 それぞれの手には花のように可憐な装飾のチョコレート。
「受け取ってください」
 つまり、この女性達はよりによって俺に想いを寄せているというのだろうか。
「ごめん。俺、恋人がいるから」
 そう、俺にはもう自分より大事な恋人がいる。
「受け取るだけでも……
「そんな不誠実なこと、俺にはできない」
 潤んだ目で見られても、応えることは出来ない。
 時間が近かったので荷物をまとめ待ち合わせの門に向かう。
 歳はもう来ていて、俺の姿を認めるとにっこりと微笑んだ。
「歳!」
 諦めきれないのか女性達は距離を取って俺に付いてきていたが、気にせずに俺は歳の元に駆け寄った。
「彼女たちは?」
「俺にチョコが渡したかったらしいけど、断った」
 歳は目敏く彼女たちを見つけたらしく、少し気にする様子だったのでさっさと腕を取って門から離れた。
 明日には俺の恋人は男だと広まっているかもしれないけれど、誤解でもなんでもないし、そんなことはどうでもいい。
「あんたに目をつけるとは、なかなか見る目があるじゃないか」
「俺は歳がいればいい」
 歳はくすりと笑ったが俺にしてみれば迷惑この上ない。

 心なしかカップルの多い通りを二人で歩く。
 歳が予約を入れてくれていたのはお高いレストランとかではなく、個室のある居酒屋だった。
「近藤さん、これ。今日はバレンタインだからな」
 最初の注文を済ませ、飲み物が来た時点で歳は俺に小さな箱を差し出した。
 チョコレートにしては箱が小さすぎるから、多分別のプレゼントだと思った。
「ありがとう、歳。俺からも……
 稚拙なラッピングは、すぐに手作りだとバレるだろう。
 見劣りするだろうけれど、想いだけは込めた。
「ありがとよ、近藤さん」
 歳は蕩けるように笑むと開けていいか? と言ったので、俺も開けると頷いた。
 歳が俺にくれたのは高級ブランド、とまではいかないが、丁寧な仕事で仕上げられたパスケースだった。
 今使っているのがだいぶ草臥れているのを、いつの間にかチェックしていたようだ。
 本当に気のつく、俺にはもったいないくらいの恋人──それが歳。
「近藤さん……
 歳は俺からの贈り物の中身を見て、それはそれは嬉しそうに笑ってくれた。
「──初めてだけど……マシに出来た方だと思う」
 今更のように照れ臭くなって、視線を逸らす。
 その俺の目の前で、歳は一つを手に取り口に入れた。
「うん、美味い」
 じっくりと口の中で転がし、再び微笑む。
「味見はしたけれど、食べられるのなら、よかった」
「何言ってんだ。あんたの手作り、最高だ」
 その辺りで料理が届き始めたので、贈り物はそれぞれ引っ込める。
「近藤さん。あらためて」
「うん。歳、これからもよろしく」
 こつん、と飲み物のグラスを合わせて、俺たちは乾杯をした。

 恋人同士になって初めてのバレンタイン・デーは大成功とは言い過ぎかもしれないけれど、上手くいったのは確かだと思う──。