【小説】酒の失敗

普通に友人なミカアクの朝チュン話。
これの続き→【小説】ミカヅチとアクタhttps://privatter.me/page/6897fed6c2146

 アクタは頭を抱えていた。
 ガンガンと痛む頭。
 それだけであれば、慣れたものだ。
 しかし、しかしである。

 ――あらぬところが痛ぇ……

 どことは敢えて云うまい。
 今、隣で同じように頭を抱えている男が居ることも。
 それが同じ布団の上であるとか、諸々あるが。
 あるが、だ。
 ナニがあったか――部屋の惨状を見れば、語る必要もないだろう。

 そう、これは、只の酒による失敗なのだから。

 傍らの相手に向かって昨日の記憶はあるか、などと問い掛ける必要は無い。
 どんよりとした重い空気が部屋の上空を占めている。
 おざなりに敷かれた布団の上で、真っ裸の野郎ふたり――おい、誰だ。
 お前はいつも裸だろうとか抜かした奴ァ。
 下は穿いてると何度言えば。
 画面の下枠は想像で補完しやがれ。
 弁明でもするかのように言葉が脳内で一人歩きする。
 ガンガン、ガンガンと頭痛は治まる気配もなく、素っ裸のままなことが寒くも感じられてきて――ハァ、とどちらともなく吐き出したため息が部屋に転がった。
 まるで背中を押されるように、口が動く。

――ケツが痛ぇ……
「俺は腰が怠い……
「頭も痛ぇわ……
「応よ……多分、酒のせいだ……

 酒に焼けた互いの擦れた声だけが、確かに酒乱の宴があったことを告げていた。
 いや、勿論、空けた酒瓶はそこかしこに転がっている。
 ――まあ、同じように下帯やらも落ちちゃあいるんだなァ、これが。
 酒だけで済んだとは言わない、紛れもない決定的な証拠だった。

 ――花鳥風月に楽しむ飲み方はどうした。

 そう、傍らの男に問い掛けたくてたまらない。
 しかしである。
 美味い酒と美味い酒。
 新たな呑み方の模索。
 未知の味。
 活力丹・生との相性の良い酒を見つけようとミカヅチが持ってきた秘蔵の酒を片っ端からひっくり返し、躍起になって呑みまくって――最終的に酒に呑まれた。
 風情なんてくそ食らえ、わはは! と肩を組んで最終的に盃を高く掲げた記憶は確かに、あって。
 そんな呑み方したのだから、相応な失敗をしたのは当然の結果であり、そうして今に至っているというわけである。
 きちんと理解はしていたアクタだった。
 なので、ミカヅチを責めるのは筋違いであり、お互い様なのである。
 尻は痛いが。

……とりあえず、起きるか」

 そう言ったのはどっちやら。
 ある種の現実逃避にか、さっさといつもの日常に戻ろうと「よっこら、……」とお互いに重い腰を上げた――ものの見事にすっ転がった旗長が居たのは、言うまでもないだろう。
 盛大な音を立てて転がったアクタは、呆然と天井を仰ぐ。
 勿論素っ裸だ。
 布団のおかげで衝撃は少ない。
 背に当たる布の感触に、俺はいつ布団を敷いたんだ、などと今更のような疑問が頭を過ったが、それは横に置こう。

 思考が固まってしまったアクタを俯瞰するように観察する気配ナニかを感じたような気がした。

 が、それを掻き消すように噴き出したミカヅチの声が、男の逸れた思考を現実へと引き戻す。
 バッと視線を向けると、上体を僅かに前傾させた相手がぶるぶると全身を震わせていた。
 コイツも真っ裸だ。
 こちらは寝転がっているのだから、当然見上げる視覚になって最低の光景である。
 というか、おい。
 いつまで震えてやがる。
 何ドツボに嵌まってやがんだ。
 巫山戯んな。

……クッ、アクタよ、調停者が聞いて呆れる……っ、クク、ハハハッ」
「だぁ~! うるせぇうるせぇッ、誰のせいだと思ってやがる!! 笑うな!!」
「俺か?」

 ――気にしたはずの気配ナニかから意識が逸れていた。

 一夜の過ちといってもおかしくない事態。
 それでも、おかしな空気がそれ以上立ちこめることは無かった。
 それは、互いにとって何よりも幸いなことであったことは間違いない。
 なんとか身を起こしたアクタが息を吐く。
 喉に痛みを感じる理由なぞ考えたくも無くて、痒くも無い頭をガリガリと掻いた。
 本当に、何をやっているんだか。

「ったく、こんな日に限って見廻りとはついてねぇ……

 思わず愚痴るように言葉を吐く。
 それでも、仕事を投げようとは思わないアクタであった。



 * * *


 ざっと身体を拭ったミカヅチはというと、男のその言葉で、己も同じく今日が見廻りの担当であることを思い出す。
 褌を締め、衣服に腕を通しながら、今も尚、布団の上に胡座をかいたままの旗長たる男のつむじを横目で見下ろした。
 いつもは撫で付けられた髪が崩れ落ち、特に存在感を主張する黒の仮面を隠している。
 つまり、表情があまり見えない。
 それでも、仕事を投げようとする男ではないことを知っているミカヅチだった。
 ふ、と鼻で息を吐く。
 それから、視線を巡らせ、近くに落ちている褌や黒い衣服を拾い上げると、背後の男に向かって放りやる。
 バサッとした布切れの音と「うわっ」と上がったアクタの声。
 それをハッと鼻で笑い、にやりと口の端を持ち上げて言い放つ。

「柄の悪い連中は任せろ。ひと睨み利かせてやる」

 二人分の仕事なぞ、造作も無い。
 代わりに、報告書は任せようと思うのだった。



 * * *



 ――そりゃあ、頼もしいこって。

 思わず口元をへの字に曲げたアクタである。
「へいへい、そうかい」とおなざりに、しかし今の己の足腰のヨボヨボさを思うと、有り難くもある言葉でもあった。
 ――犯人は紛れもなくコイツだというのが腹立たしいところであるが、原因というか、発端は己なのだ。
 仕方がないだろう。
 腰と尻の犠牲を呑み込んだアクタは、そろそろ立てそうかと何気なく己の下半身へと視線を向けて――内股の歯形を見つけた瞬間だった。

「おいいい! なんつー場所噛んでやがる!!」

 折り合いを付けたはずの鬱憤が爆発する。
 背中を向けている相手へと苦情を陳情したアクタは更なる追い打ちをかけるべく口を開き、「うぐッ」と声を詰まらせた。
 ミカヅチの広い背中。
 そこに無数の引っ掻き傷を認めたせいだ。
 バッと爪を確認する。
 伸びている。
 俺か。
 紛れもなく、犯人は自分だろう。

 ――こんなにも心が色めかない情事の痕があるのかよ……

 これがミカヅチの色恋相手によるものであれば、話の種になっただろうに。
 相手は紛れもなく己自身では、笑いの種にもなりゃしねぇ。
 ゲンナリとした表情を浮かべるアクタを他所に、さっさと上着に腕を通した相手が「傷のひとつやふたつ、たいしたことねぇだろ」と鼻で笑う。
 ソウデスネ。
 己の所行を今まさに目の当たりにしたアクタである。
 お前の背中もだよ、などとは言えなかった。
 よろよろと立ち上がる。
 腹をくくるほか無かった。
 尻は相も変わらず痛かったが。



 思ったよりも早朝であったことが幸いしてか、誰かしらとかち合うことも無く井戸の水を頭から被り、昨夜の名残を水に流した男たちが居たとか。
 当然、腹を下した旗長に、ひとりで荒事を片付けた左近衛大将が居たとか、色々だ。





 * *




 その後、予定通りの見廻りを終えたあとの一服。
 茶屋娘視点。

「あ~ケツが痛ぇ」
「軟弱」
「ア゙? 誰のせいだと???」
(何の会話なの)
「でも、割るの楽しかったよなぁ~。最後のやつ、とびきり美味くなかったか?」
「兄者の村のだ」
「なんつーもん持ってきたんだよ!? というか、知らん間にあの村に行ってたのかよ!」
「貴様が美味い酒って言ったからだろ。ちなみに、俺は行ってない。シチーリヤのヤツが持って来た」
「確かに一番美味かったけどな!? しかし、シチーリヤのやつ、いつの間に。ちゃんと休んでんのか? ……――なぁ、使い切っちまったのか?」
「応」
……買いに行くかぁ」
「独り占めせずに俺も呼べ」


 *


 ちなみに、しっかりふたりして酒に焼けた声をしていたので、ウコンに「なんでぇ。俺には声掛けずに楽しんだのかよ」とか言われてほしいし、「あ~(こいつがいれば失敗しなかったかも? いや、酒が足りん)」とか思っちゃう現金な思考なやつはありますね。
 あってほしい。
 酒の失敗を取るか、酒の備蓄を取るか的なwww


 *


 マロロが居てくれればストッパーになるかも?
 いや、マロロは利き酒する上品な呑み方だし、活力丹生で割る呑み方には賛同してくれないかもしれねぇ。
 でも一緒に呑んでほしいような。
 わいわいしていてほしい。
 結局皆で再チャレンジして「おう、面貸せ」「いいだろう」って軽い感じでどこかにしけ込む冒頭のふたりで完。






※最高なお話を読んだので、書き途中のまま放置していた作品だけどこれ以上書けない気がするなぁとup。テンポが良くて面白いお話書ける人に憧れる。活力丹、精力剤的な扱いしてすみませんでした。でも、お酒とちゃんぽんしたらこんなことになっても不思議じゃなくない???供養。