【小説】ミカヅチとアクタ

本日のログボから、勢い執筆。



「おい、アクタよ。その手に持ってる物はなんだ」

 胡乱な表情でこちらを見やった相手に、男は両目を瞑って笑う。決してその視線から逃れるためではない。そうとも。「見ての通り、活力丹:生だ」と手に握ったジョッキを持ち上げ、そのまま口元に運んだ。途端、シュワッっと口内で弾ける泡。嚥下すれば、喉を通り抜ける刺激。
 教団内でも滅多に出会えない極上の味が喉を潤した。

――たまには、酒の代わりに活力丹だけで過ごすのもいいな」

 ジョッキから口を離し、思わず言葉が続く。
 そんな、今現在、ミカヅチに誘われて酒の席に在ったアクタの言葉に、目の前の男の眉がぴくり、と跳ね上がる。こいつは失言だったか。素直に謝ろうと思ったアクタは、口内に残ったものを飲み下し、ふと、相手の杯に目が行った。まるで、天啓が下ったかのような思い付きに、思わず、口角が持ち上がったのを自覚する。

……そのつもりだったんだが、『酒を活力丹で割ると美味いぞ』という、内なるささやきが聞こえてな……

 ――何ィ?

 あまりにも邪道過ぎる旗長の発言を受けて、凶悪な面に凄味が増す。「まぁ、なんだ、こいつを飲んでみてみてくれ」と己の手にあったジョッキをミカヅチの前に置いた。一見に如かずってやつだ。元より、あまり出回ることのない活力丹だ、少々の興味があったらしい。ミカヅチは自身の杯から手を放すと、訝しげな表情のままジョッキを呷って――カッと両目を見開いた。
 にんまり、とアクタの口に悪い笑みが浮かぶ。
「これは……」と呟いたきり、口元に手を当てたままミカヅチが唸る。酒の趣味が合う男だ、こちらの言いたいことが伝わったようだが、あと一押しってところか?

「実はな、あと数杯分ある。これは、俺自身が受け取ったやつだから私物だ。……ってことなんだが、どうだ?」

 しばらく前にマホミさんから受け取った物だ。一体、どんな方法で生成されているのかわからない。それでも、とある手伝いで彼女の実家のあれそれに一個人として手を貸した折の、お礼だった。受け取れないと一度は断ったが「アクタ様、お酒、お好きでしたよね?」の一言に陥落したのだ――あまりにも、試しの一杯が美味すぎたので。
 つまり、単体としての完成度は完璧だ。それでも、こうやって酒の席を開いた最中に、思い出したように引き釣り出してきたのが悪かったのか、はたまた、美味い酒を持参した相手ゆえに思い出してしまったのが悪かったのか、定かではない。しかし、この好機、逃してなるものか。
 まだ残りがある。
 その言葉に、ぴくり、と残された側の長い耳が揺れたのを見逃すアクタではない。伊達に、癖の強い仲間達に揉まれちゃいない。「それに、既に一本は開けちまったんだ。このままじゃ、この炭酸も抜けちま――」と、最後まで言葉を言い終わる前に「仕方がねぇ、取って置きの数本を部屋から持ってくる。待ってろ」と言葉が投げ掛けられた。
 云うが速いか、あっという間に部屋の戸が閉まる。
 雷のような速さだ。
 ――まさに、鳴神ってやつだな。
 ぶふ、と思わず噴き出して「さてと、こっちも追加で肴を出そうかね」とアクタも重い腰を上げる。いつもは静かに杯を傾けることが多いが、これはこれで楽しいもんだな、と躍る心を自覚しつつ、友を待つのだった。





※勢いで書いて投稿してます。