白殊皎(しらよし こう)
2026-01-20 12:00:00
4739文字
Public FGO【歳勇/土近】
 

そしてそれは誇りを持って

二人の子供は近藤の胎内で順調に発育していた。
──しかし見えてきたのは最終決戦。
二人は決断を迫られる。


『そしてそれはやわらかく』( https://privatter.me/page/693d325fda9ee )の続きです。
オメガバースでもなくにょたでもない男性妊娠ネタ。
近藤さんのお腹に土方さんとの子供がいます。
ご注意ください。

ご都合主義で書いています。
もう少し続くと思われます。

ハッピーエンドにします!
させてください!!





 歳の子が、自分の腹に宿るなんて、考えもしなかった。

 それは当然だろう。
 自分たちはサーヴァントという言ってしまえば死者の影。
 それに加えて男同士なのだから。
 でも、自分たち二人にそれは授かった。
 だから、大事にしたい。
 産み育てて幸せになって欲しい。

「あとで土方と一緒に医務室に来い」
 先ほど異常を知らせるサイレンが鳴ったので、何事かとで廊下に出た近藤は部屋の前に来ていたアスクレピオスにそう言われた。
 妊娠がわかってからストームボーダーの時間で二ヶ月ほど。
 自覚した時点で二ヶ月ほど経っていたというから、合計で四ヶ月。
 女性ならそろそろ腹部が目立ち始める頃だが、どういうわけか近藤はそれほどでもなかった。

 物資の補給に駆り出されていた土方が戻ったので声をかけ、二人でアスクレピオスの元を訪う。
「お前たちの子供のことなんだが」
 二人が揃うと、アスクレピオスはそこで言葉を切った。
「何か問題でもあるのか?」
 土方が緊張を宿した面持ちで聞く。
 近藤も、同じように息を詰めた。
「いや、順調だ。普通の子より少し育成が早いようだがな」
 医神の言葉に二人はほっと息を吐いた。
「だが──産めるかどうかの、雲行きは怪しい。特に土方はわかるな? その上でお前たちの覚悟を聞きたい」
「む…………
 続けていわれた言葉に、土方は眉間に皺を寄せて唸る。
「一体何が?」
「僕が口を挟むことではない。土方、お前の口から言え」
「あぁ……
 アスクレピオスに促され、土方は近藤の方を向いた。
……最後の戦いが、近い──」
 土方の口から絞り出された言葉は、それだった。
 聞いて近藤の顔はさっと蒼ざめた。
 先達てマスターがレイシフトから帰還した。
 それによって人理定礎盤はAを示し、ついに南極への道が開かれることになったとは土方の口から聞いていた。
 そこで行われると思われるのは異星の神との最終決戦。
 それは、何が起こるかわからないが最後の戦いになることは間違いない。
 サーヴァントとして、戦うためのものとしてここに現界した以上、避けては通れない。
 総力戦になることは必須。
──つまり。
「俺も、戦わざるを得ないということだな」
「そうだ。このままだとお前は子を抱えたまま帰るあてのない戦いに身を投じることになる」
 きっぱりとアスクレピオスは言い切った。
「時間的な猶予がどれだけあるかはわからない。産めたとしてもその子がどういう存在になるかもわからない。お前たちが消えるのと同時に消滅するやも知れないし、人間の子として生きることになるのかもしれない。僕はそこまで与り知らんが、それでもという覚悟がお前たちにあるのか聞いておきたい」
「全ては、俺たち次第ということだな?」
 腹部に手を当ててじっと考え込む顔になった近藤の肩に手を置いて、土方は言う。
「覚悟の上でと言うのなら僕の可能な限りバックアップはしてやる。まずは二人で話してこい。答えだけ教えろ」
 医神の言葉は冷たいとは思わなかった。
 彼もまたサーヴァント。
 最終決戦に臨むものなのだから、自分たちと何ら変わりはない。
 その中で自分たちに時間と手間を割くと言ってくれているのだから、むしろ感謝せねばなるまい。
「土方、これを渡しておく。扱いはお前の判断に任せる」
 呆然としてふらふらと医務室を去る近藤を支えて出て行こうとした土方をアスクレピオスが呼び止め、何かを渡した。
……あぁ、わかった」
 土方はそれを受け取り、見ると納得したように懐にしまった。



 部屋に戻っても、近藤は沈んだままだった。
 まだあると思っていた時間が大層短かったことを改めて自覚したのだから。
 人理を取り戻す最終決戦。
 そのために喚ばれた自分たち。
 戦えないと、逃げることは出来ない。
「歳……俺は……
 どうしたらいい、と紅の瞳を揺るがせて近藤は土方に縋った。
「一緒に逃げても、いいぜ。近藤さん」
 土方は近藤を抱き寄せると耳元で囁いた。
 きっとそれをしたとて、表向きそしるものはいるかもしれないが誰も何も言うまい。
 だけど逃げてどうなるというのだろう。
 いまはマスターとストームボーダーからの魔力供給で現界している身、それが途絶えれば自分たちは消滅し、座に還る。
 そうなればおそらく子供も一緒に消えるだろうし、常ならぬ妊娠だ、医神の助けがなければ産むこともままならないだろう。
「逃げたい……でも……
 ぽろり、と涙を零して近藤は土方の目を見つめる。
「でも、逃げたら……顔向けが出来ない! おまえにも……この子にも!!」
「あんたは、そう言うと思った」
 くしゃり、と近藤の朱鷺色の髪を撫で、土方は苦笑いを浮かべる。
「護ってやる、と言ったのに、結局俺は何も出来てねぇな……。すまん」
「歳は悪くない……だれも……悪くない……
「全部自分が悪い、とか言ったら、俺は怒るぞ?」
…………
「あんたが悪かったら、そもそも腹の子が悪いってことになっちまう」
「この子は……!!」
 近藤は腹に手を当てて思い詰めた顔になる。
「悪くない、だろう? あんただって同じだ。奇跡を奇跡のままめでたしめでたしにさせてくれねぇのはどのカミサマだって同じって事だ……
 土方は近藤の手に自分の手を重ね、そこをそっと撫でる。
「なぁ、近藤さん」
 そして懐に手を入れると、何かを取り出し近藤に見せる。
「こいつはちゃぁんとあんたの腹に宿ってる。時間があるにしろないにしろ、猶予がある間はしっかり育てて、自分の両親は最後まで立派だったと思ってくれるようにしようや」
 見せられたものは白黒の奇妙な写真だったが、よく見ると手足を丸めた人影が見て取れる。
──それは以前の検査時に撮影された、近藤の腹部エコーの写真だった。
…………
「男、だとよ」
 下部に走り書きのようなもので自分たちにもわかる言語が書かれていた。
「名もつけてやろう。産まれたらどちら似かも考えよう。来るべき時が来るまで、それでいいじゃないか」
──たとえそれが実を結ばないものだったとしても、消滅するその時まで、二親として子に恥じない生き方をしよう。
 そう土方は囁いた。
「歳…………うん……そうだ…………
 近藤は肩をふるわせ、新たな涙を零した。



「僕のところに来たということは、覚悟は決まったんだな」
「近藤さん」
「アスクレピオス殿、俺はその日が来たら最後の戦に出る。だが腹の子は……育て続ける」
「ほう」
「お手を煩わせて申し訳ないが、お力添え願いたい」
「土方もそれでいいんだな?」
「あぁ、頼む」
「──だそうだ」
 二人の返答を聞いて、アスクレピオスはすい、と二人の背後に視線を滑らせた。
「!?」
 いつの間にか二人の背後に、人影があった。
「そうか」
 そのサーヴァントはゆっくりと三人の前に姿を現した。
──偽典ソロモン、またの名をゲーティア、またはレフ・ライノール・フラウロス。
 ロマニ・アーキマンの姿を借りて三つのオーディールコールを課した張本人は、先ほどここに現れ、カルデアに最終決戦の日を告げたばかりだった。
「アンドラスが最後を託した男というのは、おまえか」
 ソロモンは土方を頭の先からつま先まで品定めするように眺め回した。
「アンドラス? あぁ、あの魔神柱か」
 かつてある特異点の要石となっていた土方が沖田総司に敗れ闇の中で消滅しようとした時、土方に最後の願いを託していった魔神柱。
 それが何だというのかと土方はソロモンを睨み付ける。
「そしてそっちがその愛人か」
「なっ!?」
 不躾な言葉に土方が目を険しくする。
「事実だろう。子が出来るような関係なのだから」
 ソロモンは無感情に言い放つ。
「いいんだ、歳。本当のことだ」
 近藤は土方を押しとどめた。
……それで、あんたは何の用だ」
 ソロモンは警戒を露わにする土方から視線を近藤に移し、無遠慮に見つめる。
「この期に及んで実体化を許されているサーヴァントがいると聞いてな。どんなものだか見定めに来た」
「──ッ」
 確かにそうだろう。
 今ほとんどのサーヴァントは霊体化をしているか霊基グラフの中で待機しており、必要な時にだけその姿を現す。
 土方と近藤はマスターの計らいでその例外としてこうして姿を保っている。
「随分と、面倒な霊基のようだ」
 まぁ、オレほどではないかと微かに笑ってソロモンは視線を外した。
「お前たちは〝それ〟を最後まで抱えていくというのだな」
「あぁ。最後までこの子の親として、恥じない戦いをしてやらぁ」
「その通りだ。俺たちは決して逃げない」
「あと八日。それでもか」
「──!!」
 示された日数に二人は目を見開いた。
──短い。
 二人が思ったことは同じだろう。
 様々な思いが錯綜する。
 近藤は腹部の衣服を掴んで沈黙し、土方もその肩に手をかけ口を引き結んだ。
……それでも」
 やがて二人同時に口を開く。
「それでも、俺たちは逃げない」
 同じ言葉で、決意を持った瞳でソロモンを見つめてはっきりと言い切った。
「どちらも、面倒なことだ」
 それを見てソロモンは口の片端を僅かに上げた。
「持っていけ」
 そして何やら柔らかな光の球を片手の上に生じさせると二人に向かってふわりと移動させた。
「?」
 光球は二人の間でぱちんと弾け、土方と近藤は一瞬その魔力に包まれる。
「用は終わりだ。短い時間、大切に過ごせ」
 ふい、と二人に背を向けてソロモンは立ち去った。
「僕も用はない。帰れ」
 それを見届けたアスクレピオスも背を向ける。
「──ありがとよ」
 よくはわからないがソロモンはなにやら魔術的な補助をくれたらしいと感じ、土方は呟いた。



 その日はやってきた。
 おびただしい空想樹が空間を埋め尽くす。
 それらを全て刈り尽くし、最後の敵へのマスターの突破口を開く、それがサーヴァント達の役割だった。
 沖田、斎藤、山南、永倉、原田、藤堂。
 新選組の面々はそれぞれに浅葱の羽織を纏いストームボーダーの一角に集っていた。
「沖田ちゃん、打ち合わせ通りに頼みますよっと」
 斎藤がいつもの調子でへらり、と笑ってみせた。
「任せてください!」
 沖田は気合い十分に答える。
「それでは、皆さん──」
 山南が皆を見回し出立を合図しようとしたその時──
「おい、俺たちを置いていくつもりか?」
 全員に聞き覚えのある声が、それを遮った。
「え!?」
 それに全員が振り返った。
 そこには浅葱の羽織を纏ってその髪を高々と結い上げて鉢金を締めた土方がおり……その後ろには──
「副長に……局長!」
 浅葱の羽織を纏い浅葱混じりの黒髪を靡かせた近藤の姿があった。
「近藤さん──」
 沖田が呆然とその姿を見遣る。
「逃げなかったんスか……
 原田も意外そうに二人を見た。
「マジ……かよ……
 永倉は頭を抱えた。
「二人とも……馬鹿じゃないか……
 呆れたように藤堂が言った。
「何を考えて……
 山南も信じられないものを見るように呟く。
「──いいんですね?」
 斎藤は覚悟を決めたように二人に聞いた。
「勿論だ」
 二人の声は静かに重なる。
「じゃ、いきましょう」
 やれやれ、と言った顔で斎藤は髪をかき上げた。
「あぁ」
 その斎藤に土方はニヤリと笑みを返す。
「新選組、出陣!」
 近藤は皆を見回し、声高らかに宣言した。