白殊皎(しらよし こう)
2025-12-13 20:00:00
3996文字
Public FGO【歳勇/土近】
 

そしてそれはやわらかく

FGO【歳勇/土近(としいさ/ひじこん)】
調査帰りの土方の元に、思い詰めた顔の黒の剣士姿の近藤が訪れた。
そこで判明した事実。
「──ができた」

男性妊娠ネタです。
人を選ぶのでご注意を。
ひょっとしたら続くかもしれない……。

夢を見ましてね。
黒剣ちゃんが土方さんに「子供が出来た」という夢を(私は壁)。
土方さんが驚くでもなく嬉しそうに「そうか……」と言ったのでネタにしました。
肝の据わった心の広い男だぜ、土方歳三……!

 今日は近藤が来ていない。
 ふとそんなことを思って土方は首を傾げた。
 自分は先ほどまで微少特異点の調査に連れ出されてはいたがその間にも部屋には居ていい、あんたのために整えてある、と電子錠ロックの解除キーも教えてある。
 だから大抵の場合、近藤は自分の部屋で過ごしていることが多いのだが、来ていない。
 まぁ、そんなこともあるか。
 一人で過ごしたい時もあるだろうし、と入り口から一段高くしてある畳の縁に腰をかけ、以前図書館で借りてきてそのままになっていた本をペラペラとめくり、眺める。
 そこに──
『歳……入ってもいいか?』
 インターフォンが鳴り、外から近藤の声が聞こえた。
 土方に否やはない。
 すぐに立って扉まで迎えに出る。
「どうしたんだ近藤さん。いつでも入ってきていいと言っているのに」
 扉の前に立っていたのは黒の剣士だった。
 別段気になることでもないので、部屋に招き入れる。
………………
 部屋に入っても近藤は物憂げな顔をしたまま、突っ立っている。
「何かあったのか?」
 そっとその頬に触れ髪に触れると顔を覗き込む。
………………
「俺はなんでも受け取る準備は出来てるぜ? 言ってみな?」
 言うべきか言わないでおこうか、かなり迷っている様子なので、再度疑問を投げかける。
……とし。…………………………
「え?」
 あまりに小さく切れ切れな声だったので、聞こえなくて聞き返す。
……だから……おまえの……こどもが……できた……
 近藤はうつむいて自分の腹を撫でると、少しだけ大きな声で呟くように言った。
「近藤さん!」
 土方は咄嗟に近藤の両腕を掴んだ。
「そうか……
 土方の言葉に近藤は驚いた。
 どう聞いてもそれは疑問ではなく喜びに満ちた声だったのだから。
「歳! おかしいと思わないのか!? 俺たちはサーヴァントだし、それ以前に男同士だぞ!?」
 近藤の疑問はもっともだ。
 カルデアに夫婦サーヴァントは何組もいるがその間に新たな子供が授かったなどという話はついぞ聞いたことがない。
「何言ってんだ。俺はな、もうカルデアここでどんな奇跡が起ころうと驚かねぇ」
 心底嬉しそうな顔で土方は続ける。
「なんせ、もう永遠に逢えないと思っていたあんたと再び逢えて、その上恋仲になれたんだからな」
「とし……
 近藤はその紅の瞳に水滴を溜めて土方を見返す。
「でもな、一つだけ聞かせてくれ」
 それを指先で拭って、問いかける。
「?」
「なんで腹に子がいるってわかるんだ? まさか俺のいない間に医者連中のところへ行ったんじゃないだろうな?」
 土方の疑問はもっともだ。
 女性でも自分の妊娠に気付くまで時間がかかるのだし、場合によっては全く気付かず過ごす人もいる。
 それに、カルデアの医神たちのところに先に行っていたら、多分タダでは済まない。
「わかるんだ……こう……おまえとの子が、俺の胎にいると」
 この霊基が影響しているのだとしたら、怖い……と付け足して近藤は俯いた。
「大丈夫だ、近藤さん。絶対にそれは悪いものじゃねぇ。あんたと俺の大切な授かり物だ」
 言って土方は近藤を抱きしめる。
「あぁ、でもそうなるとあんたの身体のことも考えないといけねぇし、マスターにも言わないとだなァ。……医者たちにも話を通しておいた方がいいか」
 隠しておけるものでもないか、と土方は呟き、それには近藤も頷いた。



「サーヴァントで、しかも男が妊娠した?」
 案の定カルデア医務室の医神・アスクレピオスは今回の件を聞いて目を輝かせた。
「──しかもそれが何もしていないというのに、自分でわかったとは驚きだな」
 霊基のスキャンや様々な検査を経て、それが間違いないと結果が出ると真面目に近藤に向き直った。
 そういうところはさすが医神と言ったところだ。
「気分が悪かったり、吐き気などはないんだな?」
「ない」
「ふむ、状況的には妊娠初期、二ヶ月くらいのようだが体調に変化はなし、と。やはりサーヴァントな事と、男同士という特殊事例が絡んでいるな」
「俺はこれからどうすればいいんだ?」
 胎の子は大切にしたいし、産みたい、と同席しているマスターとダ・ヴィンチちゃんにも訴える。
「そうだな、過ごし方は普通の妊婦と同じだ。無理をしないことと、その霊基なこともあまり気に病まないことだ」
 それを聞いて、近藤はえ? と言うような顔をした。
……霊基は変えない方がいいと?」
「当たり前だろう。お前は特に姿が変わりすぎる。霊体化も控えろ、何が起こるかわからん。で、お前マスターはどうするんだ」
 そこまで来てやっとアスクレピオスはマスターに問いかける。
──近藤さんが望むようにしてくれればいいです。
 少女マスターの答えは明瞭だった。
「う~ん、近藤くんが当面戦闘参加不能か~……。仕方ないか、新しい命は大切だ」
 ダ・ヴィンチちゃんは少し難色を示したが、自分で自分を納得させたようだ。
「そうか……俺は……
 近藤はそれを聞いて腹部を押さえて少し呆然とした表情になった。
 無理をしない、ということは戦えないということだ。
 カルデアで、サーヴァントでそれということは存在意義がないのではと思ったようだ。
「気にすることはねぇ、近藤さん。あんたは俺が護るから、あんたは腹の子を護ってくれればいい。それが大事な役目だ」
 近藤くんが動けない分、君に頑張ってもらうからね、とダ・ヴィンチちゃんから目配せを受けて、当たり前だと目だけで返して土方は近藤の肩に手をやる。
「歳……
「あぁ、それと」
 目の前でイチャつきそうな雰囲気を感じてか、アスクレピオスが付け足す。
「軽い運動程度は構わんが、夜は控えるように」
「誰に言ってやがる!!」
………………
 その言葉に土方は手が出そうになったがなんとか抑え、近藤は真っ赤になって沈没した。



「──というわけで、近藤さんは今大事な身体だ。無理をさせたらお前らぶん殴るからな」
「はぃ? 何の冗談です?」
 医務室でのやりとりの後、一応新選組の隊士たちには言っておこうと招集をかけ状況を説明した時の沖田総司の反応である。
「──はっ! つい意識が飛んだ……
 いつものへらっとした態度から斎藤一は真顔になった。
……どういう原理なのかな……局長はお……とこ、だったよね?」
 こちらは理性でなんとか保っているという感じの山南。
「なんでそんなことに……
………………
 藤堂は少し呟いて絶句、永倉に至っては無言で倒れた。
「そうっスか。おめでたいんじゃないっスかね」
 原田は何故かまともに受け止めた。
「うん、二人がそういう仲だというのは、知っていたけれど……まさか……
 こめかみを押さえながら組随一の常識人・山南は納得がいかないように呟き続ける。
……知って……いた?」
 それを聞いて近藤が他の姿よりも白いその顔を真っ赤に染める。
「今更なんです? 近藤さん。バレてないと思う方が間違ってますよ」
 ついにそのレベルの奇跡まで行くとは思ってませんでしたけどね、と沖田が言う。
「総司……
 知っていたのなら教えてくれと言いたそうな顔をしたが、ひとまず隊士全員に周知したことは事実なのでほっと息を吐き出す。
「気にすんな、近藤さん」
 土方はこうなることはわかっていた、という顔をして近藤の背を撫でた。



 二人で土方の部屋に戻り、畳の縁に腰を下ろす。
「皆、あれで納得してくれたんだろうか……
「大丈夫だろう、あいつらが近藤さんと俺の言葉を信じねぇわけがない。それより近藤さん。身体が冷えるといけねぇからこっちに上がりな」
 土方はいつも使っているいぐさの敷物をどけ、代わりにふかふかとした座り心地の良さそうな座布団を据えた。
「うん、ありがとう。歳……
 その言葉に素直に従い座布団に移動する。
……でも……よかった……
 そのまま卓の上に頤を乗せて、向かいに座る土方を見つめた。
「何がだ?」
「最初に、おまえが信じてくれて……。でなければ、俺はこの子を抱えたまま路頭に迷うところだった……
 それを聞いて土方は眉をしかめ、怒ったような、困ったような顔をした。
「何言ってんだ、近藤さん。俺があんたの言葉を信じないわけがないだろう?」
……そうだな」
 そこまで言うと近藤は上半身を起こし、ふにゃ、と顔を歪めた。
「歳……ずっと、一緒に……いてくれ……。俺とこの子の傍に……この、戦いが終わっても……
 カルデアで、全てが終わった後エーテル体の自分たちの間に生まれる子供がどのようになるのか、身籠もっている近藤も、まして土方にもわからない。
 願うのはただただ、共に居たいという事だけ。
 言葉で言うのは簡単だが、実現するかどうかは別の話で……
「近藤さん」
 ぽろぽろと紅い瞳から涙を零す近藤に土方は席を立つと、その傍らに身を寄せた。
「大丈夫だ。一つ奇跡が起こったんだ。あとは、いくらでも起こる」
 手にした清潔な布で涙を拭い、肩を抱き寄せ額に唇を寄せる。
「うん……
 近藤はその胸に頭を乗せてぬくもりを感じるように目を閉じる。
 土方はその髪をずっと撫で続けた。
「あんたとその子は、俺が絶対に護る。だから、あんたも俺を信じてくれ。そうすれば、俺は絶対にあんたの元へ帰るから」
「うん……
 やがて近藤も土方の背に腕を回し、ぎゅ、としがみついた。
「信じる。何があってもおまえを、信じている」
 静かに、密やかに二人の誓いは交わされた。
 やがて生まれるであろう命にも、その誓いは届くだろう。
 幸あれかしとの祈りと共に……