からりとした冬の陽射しが降り注ぐニュー星元ビルの屋上で、SKIPの皆は観測装置のメンテナンスをしていた。
「ユウマ、そっちの支柱もうちょい上げれるか?」
「これくらいでどうですか?」
「オッケー! 水平ラインに揃ったよ!」
「SKIPのネットワークとの通信は良好。計測数値も問題なし!」
「宇宙科学局の回線経由での接続も確認できました。こちらも問題ありません」
「
……よーし、これでひと段落だな」
ヒロシが腰に手をあてながら、ぐっと背を伸ばす。
足元ではリンが手早くケーブル類をまとめている。
その傍らでシュウが操作しているノートPCの画面をユウマが覗き込んだ。
「この装置で今までよりも防衛隊とのデータ連携が早くなるんですか?」
「ええ。今まではいったんSKIPのデータベースを経由して防衛隊にデータが送られていたのですが、この装置はSKIPと防衛隊の共同ネットワークにつながっているので、両組織がスムーズにデータにアクセスできます」
「防衛隊側の観測拠点にもこの装置を設置してるところが増えたから、わたしたち側からもデータが確認しやすくなってるの」
リンも手許の端末の画面を見せてくれる。
ユウマはへーと大きく頷いた。
「この数ヶ月で防衛隊とSKIPの協働もだいぶ増えたからなぁ。石堂さんがいろいろ働きかけてくれてるおかげです」
「いえ、私はそれほど」
「所長! わたしもけっこうやりとりしてますよ!」
「ユピーもリンのためにデータ集めたりしてるよ!」
「あー、わかってるよ。2人もありがとう」
ヒロシの言葉に満足して、リンとユピーは工具類の片付けに戻った。
「確かに防衛隊とSKIP合同で動くことも増えましたよね。シュウさんもなんだかんだでよくこっちに来ますし」
「怪獣出現の頻度が減ったおかげで、組織間の連携方法を見直す時間が多く取られるようになったからでしょうか」
「なるほど」
ユウマとシュウの会話を聞いていたヒロシが、ふと晴れた空を見上げた。
「
……そうか、もう一年経つのか」
「何からですか?」
「ユウマが宇宙に向かっていった日から」
あの日も、今日と同じように良く晴れた冬の日だった。
屋上で冬の風に吹かれながら、短い時間にたくさんの話をして、そしてユウマは旅立っていった。
「え、もう一年ですか!?」
「そうだよ。今日でちょうど一年経ってるよ」
「あの時はほんとに急だったよね。いきなりいろんなこと話されて、情報量多っ、てなってるうちにユウマは飛んでっちゃうし。いつも勝手に走り出すユウマだけど、あの時がいちばん驚かされたな」
「残されたこっちは事務手続きとかけっこう大変だったなぁ」
「いや、僕もあの時の闘いが始まってから知ったことがけっこう多くて、急な話になっちゃったのは仕方ないところもあったというか
…………その
……シュウさん
……」
ユウマは慌てて弁明しかけたものの、リンたちの呆れた視線に耐えかねて助けを求めてシュウの方を向く。
黙ってそこまでのやりとりを見守っていたシュウは、仕方ないですね、というように優しく微笑んでいたが、その眉根にぐっと力が入っていることに気が付いて、ユウマはそれ以上に言い募ることができなかった。
「
……その節はご心配おかけしてすみませんでした
……」
「まあ、無事に戻ってきて、一年後の今もこうやって元気にやってるんだから、結果オーライだな」
ヒロシにぽんと肩を叩かれて、ユウマはほっと息を吐き出す。
シュウやリンたちの空気もいつもの柔らかさに戻った。
「そういえば、全部説明したのはあの日だったけど、僕がアークだということはみんなわかってたんですよね? いつから気付いてたんですか?」
「えー、いつからだっけ? ユウマが四日くらい姿を消してたとき?」
「あの時はユウマとアークが同時にいなくなってたもんね」
「俺はその前の霊体怪獣が頻出してた頃かなぁ。ユウマがしょっちゅうトイレっていなくなってたから」
やはりあの時の言い訳はどれも苦しかったのか
……とユウマは苦い顔になる。
「シュウさんもその頃ですか?」
「いえ、私が最初にあれ? と思ったのは、ギヴァスの時ですね」
「え!? そんな前からですか!?」
シュウは記憶を引き出すように指先を顎に当てる。
「ギヴァスと対峙していたアークが姿を消したとき、同じ場所でギヴァスと向き合っていたのはユウマくんでした。その後、ザディーメとの闘いでアークが消えたときにも、その場所でユウマくんが倒れていました。その時は慌てていて深く考えられていなかったのですが、その後に起こった様々な事象を重ねて考えていくうちに、ユウマくんとアークの関連性に辿り着きました」
シュウにはいろいろと見られていたことを知って、ユウマはいたたまれない気持ちになってきた。
振り返ってみれば、シュウには何度か探りを入れられているようなときもあった。その度に誤魔化せていたと思っていたのに、実際にはまったく隠せていなかったなんて。
「シュウさんはユウマのこともアークのことも良く見てましたもんね。ユウマがいないときにアークが出てくることに最初に気付くのも当然か」
リンがうんうんと頷いている横で、シュウが軽く首を振った。
「確かにユウマくんの不在とアークの出現の一致がきっかけではありますが。ユウマくんとアークが私の中で結び付いたのは、単なる状況証拠ではなく、二人の行動が重なって見えたからです」
「僕とアークの
……?」
「ええ。怪獣に対してもまずは相手のことを良く知ろうとするところ、無駄な争いは避けようとするところ、人々を守るときには率先して前に向かう姿勢。そういったアークの様子は、私の良く知っている友人の姿とそっくりでした」
シュウはユウマをまっすぐに見つめながらそう言い切る。眼鏡の奥の瞳から感じられるユウマとアークへ向ける気持ちに、ユウマの口許は自然と上がっていた。
「
……そうですか。僕とアークが似てるから
……」
冬の澄んだ青い空に向かって、ユウマはゆっくりと両腕を伸ばす。それからその腕を引き寄せて、自分を抱えるようにクロスさせる。
――――――僕は君であり、君は僕だ
……!
あれはユウマとアークの在りようを言い表すために湧いてきたものだった。自分たちがそうだと分かっていれば良い言葉だったけれど。
信頼する友からもそのように見えていたのであれば、より自分たちの在り方が肯定されたような気持ちになる。
そんな嬉しさを抱き締めていたユウマに、明るい声が掛かった。
「言われてみれば、ユウマとアークは似てたよ。ユーがたまにアークの近くに行ったときには、ユウマと一緒に調査してるみたいな気がしてた」
「そう言われればそうかも。アークがわりと一人で突っ走っていっちゃう感じとか、ユウマと同じ」
「そうだな。たまに突拍子もない闘い方するところとかも、ユウマっぽい」
「そうそう、まさかそんなことする!? ってときがけっこうありますよね」
ユピーとリンとヒロシが笑い出して、ユウマは我に返る。
「え、待ってください、今、シュウさんはいい話をしてくれてましたよね
……ってシュウさんまで笑わないでください!」
ユウマは腹いせにシュウも引き合いに出すことにした。
「だったらシュウさんはどうなんですか!? シュウさんと黒いアークだって似てますよね!」
「私とギルアークですか?」
「シュウと黒いアークはもう動作がおんなじだよね。立ち上がるところとか、構えるところとか」
「アークを助けに行く黒いアークは、ユウマを助けに行くシュウさんそのままよね」
「最近のアークと黒いアークの闘い方は鏡写しなことが多くて、それもユウマと石堂さんっぽいよな」
再び盛り上がり始めた会話に、シュウは目線を伏せてスーツの襟元を引っ張る。
「目の前で皆さんにコメントされるのは、落ち着かない気持ちになりますね」
「僕の気持ちわかってくれましたか!?
……なんか、内側でアークもそわそわしてます」
「ギルアークも同じく」
ユウマとシュウがどうやって会話を切り上げてもらおうか考え始めたとき、開きっぱなしだったリンの端末から電子音が鳴り始めた。
「
……! 怪獣出現です! 星元市郊外○○○地区、住宅街のすぐ近くです!」
「防衛隊観測拠点の映像を出すよ!」
「大きいな。このあたりは道が細いから防衛隊が近付くのに時間がかかる場所だ」
現地の動画を見て、ユウマはシュウを振り返った。
「シュウさん、これは先に向かった方が良さそうです!」
「ええ。防衛隊が近付きにくいということは、現地の避難も手間取りそうなので、その分の時間も確保しなければ!」
「所長、こちらはお願いしていいですか!?」
「わかった、こっちは任せろ。ユウマと石堂さんも気を付けて
……リン、ユピー、行くぞ! SKIP、出動だ!」
「はい!」
ヒロシたちは機材を素早く片付けて階段を駆け降りていく。
それを見送って、ユウマとシュウは屋上の端に走り寄った。
強い風が二人の髪や上着を翻す。
揃ってポケットからキューブを取り出す。
「行きましょう、シュウさん!」
「ええ、ユウマくん!」
二人で顔を見合わせて、にっと笑って頷く。
「「せーのっ」」
透けるように晴れ渡った空に向けて、青く/赤く煌めくキューブを掲げる。
「「想像力を、解き放て!!」」
あの日と同じ空に向かって、青と赤の光が同時に広がる。
彼らの未来を、今は二人で、共に守るために
――――――
――――――――――――――――――
TV本編の放送が終了してもう1年が経ったけれども、私はまだまだアークの世界が大好きです。
ラスト部分は、EXPO 2026 「ブレーザー×アーク×オメガ バディ×バディ×バディ!スペシャルトークナイト」の個人的ハイライトシーンをお借りしました。
ちなみに、放送開始1周年記念のお話はこちら。
『あなたが名付けてくれたから』
https://privatter.me/page/68694c0f44884
If you make a mistake, you can cancel it by pressing the reaction.