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roku
2026-01-15 16:32:35
1207文字
Public
松イチワンドロライ
第4回『桜』
・第2回『卒業式』
https://privatter.me/page/696896e11015f
の続き
〝そのうち忘れるだろうけどさ〟
そんな言葉を吐いた一之倉に対して、忘れないと強く言った松本と最後にキスを交わしたのは3年間で何度も往復した桜並木道。
離れて行く松本に投げかけたのは何とも自分勝手なセリフだった。
〝桜を見た時ぐらいはオレのこと思い出してね〟
工業高校はほぼ男子校で、だからなのか男同士が仲良くしていたところで、誰しもあいつらは仲が良いなと思う程度だった。松本と一之倉だって例に漏れずだった。だから付き合っていたことはきっと誰も知らない。
卒業後松本は関東の大学に進学した。一方の一之倉が地元で就職し、バスケを辞めてしまったことでふたりの接点はなくなったと言っていい。
そんな中、一之倉のもとに風がもたらした便り。
―
松本に彼女ができた
―
もとよりこうなることはわかりきっていたことだった。
結局その程度の好きだったのだ。
やっぱり女の子の方がよかったのだ。
きゅうと締め付けられた胸を押さえ、これでよかったのだと言い聞かせた。
あれから何度季節が巡っただろうか。
風が運んでくる4月の香りはあの頃と同じ優しさで、いつからか、ふと顔を上げると満開のピンクが咲き誇る並木道で松本が笑っている。そんな幻覚を見るようになった。自分が思っているよりもずっと松本のことが好きだったのだと気付いてからは、会いたいという衝動に駆られ、心が激しくかき乱された。
頭の上に広がるピンクの世界を見上げ、明日が雨予報だったことを思い出す。今年もまた春が終わるのに一之倉は松本を忘れることができず、思い出すこともない。
〝そのうち忘れるだろうけどさ〟
よくそんなことが言えたな。と自嘲する。
縛られているのは一之倉の方だった。
そろそろ本当に忘れなきゃな。
一歩踏み出すために下げた視線。
その先にいたのは髪が伸び大人の色気を纏った松本だった。いつも現れる松本は坊主頭で少年の面影を残した高校生の松本だったのに。一之倉は軽くパニックに陥り、ここ最近残業が多かったから疲れているんだと結論づけた。
「久しぶりだな」とかけられた声。
「は?喋った
……
?」
「何言ってんだよ?」
怪訝そうに寄せた眉。不服な時に見せるよく知った表情。告白を断ったときも、別れを告げたときも、同じ表情だった。
もしかして
…
「本物?」
「あ?」
「うそだ」
一之倉は現実を受け止めきれずに踵を返すと勢いよく走り出した。
「ちょ、一之倉!待てよ!!」
逃げる一之倉はあの頃の速さを失っていない松本にいとも簡単に捕まり、そのまま腕の中に閉じ込められてしまった。
「離せよ!」
「嫌だ」
「何でだよ!?」
「迎えにきたから」
まさかの松本の言葉に時間が止まったみたいに動けなくなる。ゆっくりと現実味を帯びて触れた部分から体温が上がっていく。
ふわっと吹き抜けた風に揺れた桜の花びらが舞い降りる。松本の熱を帯びたくちびるとともに。
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