Privatter+
Font
Serif
Sans Serif
Color
Light
Dark
auto
Font size
Large
Medium
Small
Language
Japanese
English
Sign in with Google
Sign in with ID and password
Account ID
Password
Sign in
Forgot password?
Create account
roku
2026-01-15 16:27:29
1238文字
Public
松イチワンドロライ
第2回『卒業式』
・卒業するまでの約束で付き合っていたふたりの話
「さよならだね」
目の前の恋人が当たり前のように吐き出した別れの言葉に胸がきゅうと締め付けられた。
目を閉じ、深く息を吐き、再び開いた瞳で一之倉を捉え「別れないが?」と抵抗を示すと、「言うと思った」と下がった眉をさらに下げて困ったように笑った。
「納得行かねぇ」
「納得も何も、付き合う時に約束したでしょ」
いつでも一生懸命で、負けず嫌い。誰よりも努力し、弱音を吐かない。地獄の合宿からも唯一逃げ出さなかった我慢強さを持つ一之倉のそんな姿に惚れて告白したのは松本だった。
一之倉も松本のことをいいなとは思っていたが、同性の自分がいいと思う相手を異性が放っておくわけはなく、女子からの告白は日常茶飯事で、選びたい放題の松本と男の自分がどうこうなろうなんてことは微塵も考えなかった。だから断ったのだ。
なのにその答えに納得の行かなかった松本は、何故だ?何がいけない?と詰め寄り、一之倉に「卒業するまでなら」という返事をもらうに至ったのだ。
松本にとって、一之倉と恋人として過ごした高校生活は辛いことなどなかったと思えるくらい幸せで溢れていた。だからそんな約束忘れていたし、もし覚えていたとしてもなかったことにできるのではないかというほど、ふたりの時間は濃厚だった。
「それは
……
した」
「なら約束守って」
小ぶりな口をキュッと結び眉根を寄せた一之倉。それは一之倉が別れる以外の選択肢を持たないことを意味していた。
「
…………
」
松本はムッと不機嫌に唇を突き出し、まだ納得のいかない様子で一之倉を見やる。
「そんな顔してもだめだよ。約束は約束だから」
昨日まで甘い雰囲気を出していた恋人とは思えないくらい、目の前の一之倉は松本との間にはっきりと線を引いていた。
「わかった」
「わかってもらえてよかった」
ほっとした表情の一之倉は、続いた言葉に耳を疑った。
「一旦別れる」
「は?」
「だから一之倉。もう一度オレと付き合ってくれ」
腰を折り頭を90度に下げて手を伸ばす。
「馬鹿なの?」
一之倉は、はぁ〜と大きなため息と一緒に吐き出した。それにはさすがに眉間に皺を寄せ「あ?」と凄むが、一之倉の決意は固く、揺らぐ気配はなかった。
「どうしてもだめか?」
今度は凛々しい眉を下げ縋るように言う。狡いとは思いつつも、一之倉がこういう言い回しに弱いことをわかっているから。
「だめに決まってるでしょ」
どこまでいっても頑なな一之倉。きっともう何を言っても変わらないだろう。そう悟った松本は「そうか
…
」と手首を掴んで強引に自分の元へ引き寄せた。
「松本!?」
「最後だからな。これぐらい許してくれてもいいだろ」
“最後”
その言葉に絆されて一之倉は自らの腕を松本の背中に回した。
「そのうち忘れるだろうけどさ、」
「忘れねぇよ」
春は別れと出会いの季節だというけれど、松本はこの先誰かに出会い恋をするとは到底思えないまま、まだ蕾のままの桜の木の下で、最後の口づけを交わした。
Reaction
If you make a mistake, you can cancel it by pressing the reaction.
Custom color
Reset color
広告非表示プランのご案内