あいのかたちをおしえてほしい

鏡開きの朝、土方は汁粉作りに余念がなく、なじみのない行事に近藤は首を捻る。

以前投稿した『夢の語り部』と同設定の現代転生パロです。
近藤さんのが年下設定(二歳差)で、1臨・黒の剣士の外見です。
土方さんには記憶がありますが近藤さんには記憶無し。

近藤さんの子供時代すこし不幸を感じさせる描写があります。

『夢の語り部』
https://privatter.me/page/69566231a7634

 家中に甘い匂いがする。
「おう、おはよう近藤さん」
 ベッドから抜け出してリビングに行くと歳が振り向いて声をかけてきた。
「おはよう、歳。朝からなにしてるんだ?」
「今日は鏡開きだからな、汁粉をな」
「かがみびらき?」
 聞き慣れない単語に俺は疑問を返した。
「あぁ……そうか……
 それを聞いて歳は言い淀んだ。
「なんていうか、正月に供えたモチを今日下ろして今年の健康と幸運を願って汁粉にして食う昔からの行事とでもいうのかな」
 それを聞いて、俺になじみがないのがよくわかった。
 俺が育った家庭では年中行事に頓着がなかった。
 というか、子供の俺を持て余し気味だったから、そういうことをやろうといういう頭がなかったのかもしれない。
 誕生日もほぼ祝ってもらったことなどないし、クリスマスにプレゼントがあったこともない。
 歳と付き合うようになってから初めて誕生日を祝ってもらったし、クリスマスに一緒に出かけて食事をしたり、プレゼントをもらったくらいだから。
 だから歳は正月の鏡餅をこだわったのか、と思った。
 今はパック入りのモチが中に入ったハリボテの鏡餅が多い中、歳はやっぱり鏡餅なら全部モチじゃないと、と少し大きめのモチだけの鏡餅を供えていた。
 それは今、丁寧に小さく分けられて、テーブルの上に積み上がっている。
「いろいろあるんだな」
 テーブルの上のモチを手に取りながら俺はしみじみと返した。
 歳との生活は俺の人生に潤いをくれる。
 知らなかったことをいろいろ教えてくれる。
「いろいろ、やっていこう。これからもな」
 歳は微笑んで、俺にモチをトースターに入れてくれ、と頼んできた。
 それに頷いてトースターの網の上にモチを並べてスイッチを回す。
「いろいろ、教えてくれ。歳」
 汁粉が入っていると思われる鍋の火加減を見て歳は俺の横に立つ。
「もちろんだ。これからいくらでも時間はあるからな」
 そして俺の手を取り、ちゅと手の甲に口付けを落とす。
 俺が赤くなって黙るのが可愛いといつもそう言うが、こんな色男にそれをされて照れない人間がいるのかと反論したくなる。
 でもその色男は、間違いなく俺の恋人なのだ。
 他の人間に絶対にこんなことはして欲しくない。
「ほら、モチが危ないぜ」
 頬を染める俺をつついて、歳は言う。
「おまえが悪い!」
 俺はちょっと慌ててトースターを止めた。
 幸いにもコゲもなくちょうどよく焼き上がっている。
「わるいわるい」
 歳はくくっと喉の奥で笑って正月の雑煮にも使った朱塗りの椀を二つ用意し、三つほどのモチをそれに入れて上から汁粉をかけた。
 ほかほかと湯気のあがる汁粉はそれだけで幸せの景色を見ている気分になった。
 歳は他にもきなこ、醤油と海苔、大根おろしなどを手際よく用意する。
「汁粉ばかりじゃ飽きるからな、あとは好きな味で食ってくれ」
「うん」
 一体いつの間にこれだけ仕込んでいたのかと思うくらいだったが、歳にとってはきっとなんでもないことなのだろう。
「いただきます」
 ダイニングテーブルに向き合って座り食材に手を合わせる。
 これも、歳と付き合うようになって初めて俺の中に根付き、加わった事だ。
 きっと歳は俺の何倍も何十倍も丁寧に、きちんと育てられてきたのだと思う。
「美味しいよ、歳……
 手作りの汁粉は歳の優しさの味がすると思った。
「それはよかった」
 歳は俺の顔を見てにっこりと笑う。
 俺たちの生活は、まだ一年も経っていない。
 きっと、これからはもっといろいろなことがあるのだろう。
 ひとつひとつ覚えていこうと思う。
 優しい恋人の元で一緒に──。