こゆ
2026-01-10 16:24:46
5431文字
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付き合ってると言ってくれ!

ドルパロ第三弾
ファン公認いちゃラブ配信するペンシャチを肴に酒を飲むモブ子の話

※モブ視点です
※ペンシャチは付き合ってます
※壇上ゼロ距離彼氏面(https://privatter.me/page/67c936b61fa4d)
と、偶像(https://privatter.me/page/6804775449fa7)
より後の話で“そういう売り方”をするようになった世界線ということで🖐️
※AI学習転載禁止









 マンションのエントランスの鍵を開ける。防犯上仕方ないとはいえ、この透明な機械仕掛けのドアが動く時間も惜しい。カツン!と、ヒールの靴音がロビーに響くのも構わず走ってエレベーターのボタンを押した。七階建てのマンションで、エレベーターが止まっていたのは六階。私の部屋は四階だ。ゆっくりとランプが五、四、三、と降りてくるのを数えながら、早くしてよ、と足踏みしそうになるのを堪える。自宅が三階だったら階段使ってたかも。
乗り込んだエレベーターの中でスマホを取り出してアプリを開く。動画配信サイトのトップに、「あなたの登録しているチャンネル」の最新動画が羅列していて、その一番初めのところに赤く縁取りされた『Live中』の表示。え、っと思い急いでタップするもまだ待機画面だ。
よかった間に合った。
配信開始はに21時。今は21時から5分過ぎている。仕事で帰宅が遅れてしまったが彼等も少し押しているみたいだ。エレベーターが止まった。私は早足で自分の部屋に向かう。片手でスマホを持って、未だ待機中の画面を睨んだまま、自宅の扉の鍵をがちゃがちゃと開けて無事帰宅。靴を脱ぎ捨て鍵を閉めて、ついでにドアチェーンもかけて、「よっしゃ間に合った!」と声を上げた。

どうにか間に合って本当に良かった。
本来なら1時間前には帰宅している予定だったので、思いのほかずっと遅い帰宅だったが、配信にはひとまず間に合ってよかった。
スマホで見ていた画面をテレビに映す。かわいらしいBGMと『準備中!』の動く文字。シャワーを浴びたかったがいつ配信がはじまるともわからないので、まああとでいっか。と冷蔵庫に向かった。ばか、と冷蔵庫を開けてビールを二本手に取った。ついでにおつまみチーズと生ハムはパックごと取り出す。そこで、BGMが切り替わったのが聞こえてきた。「やば!」慌ててソファの前にどたどたと戻る。
部屋着にも着替えたいし、メイクも落としたい。それでも、そんなものは後回しだ。

『映ってる? ちょっと遅くなってゴメンな』

「あーん、待って待って」

聞きなれた軽快なBGMが控えめになり、やわらかい声がふたつ。画面には爽やかな笑みを浮かべる明る髪に色が濃いカラーレンズをつけた男性とつまらなさそうにソファに座る短髪の男性が映っている。

「え、まってペンギンいる日!? 前髪ピン止めしてる……なになに、わっシャチ髪の毛結んでるのレア」

かわいらしいクマちゃんのラバークリップで短い前髪を無理やり止めているの男性、ペンギンは気の抜けたジャージ姿でソファにあぐらをかいていた。ソファには座らず、その前に座っているもう一人、このチャンネルの本日の主役シャチは珍しく肩につくかつかないかの髪を後ろで緩く結んでいる。どうやらシャチは画面のコメントを呼んでいるようで、「待たせてゴメンな~」とニコニコしていた。

『いや、おれ今日メン限の担当だから配信時間を伝えてたはずなんだけど、ペンギンが風呂に入っちまってて』
『忘れてた』
『忘れてた。じゃなくてごめんが先だろって』
『スマン』

ペンギンがそう一言カメラに向かって言うと、画面のコメントはものすごい勢いで「いいよ!」「いいよ~」「許す!」「むしろ邪魔してごめん」などの文言で流れていく。私もコメントを打ちたいところだが両手がビールとつまみで塞がっていたしとりあえずこれらを置いてストッキングを脱ぎたかった。

「えーんコメント打ち込みたいしペンギン担のTL見たい〜」

今日のHeartチャンネルのメン限はシャチだ。私の推しメンバー。もちろんアイドルグループのHeartは箱推しなので誰が生放送してても見るけど。それでも、最推しのシャチと、そんなシャチの幼馴染でニコイチでセット売りされてるペンギンの生放送は特別だ。しかもしかも、今回のペンギンの登場は予告なしだったのでペンギンとシャチをセットで推してるファンは今ごろSNSで声にならない叫びを上げているはずだ。

「私も叫びたいよー!」

もたもたとストッキングを脱いでいると、画面の方では誰かが赤色のスパチャをしているのが見えた。しかも連続して2件も。

『え、赤スパ早くない? えーと、今帰宅しました~仕事疲れたけど、間に合ってよかった! 今帰宅? 遅くまで頑張ったんだなあ。仕事お疲れ様!』

にこにことシャチがそのコメントを読みながら手を振る。別の誰かのコメントだけれど、お仕事お疲れ様とか、今まさに私も帰宅したばかりだし、とても効く。えーんありがとうどこぞの社畜仲間~私もあとでコメントを送らなくては。

そこにもう一個のスパチャ。こっちの方が先に表示されてたけど、エフェクとト共に表示されるコメントになんとも言いえない気持ちになった。シャチが読まなかったのはコメが流れたわけではないだろう。

『で、えーっと、』
『ン』
『えっ、あ、ちょっ、ばか!』

コメントを読んでいて前のめりの姿勢だったシャチに、後ろでやる気なさそうにしていたお風呂上がりと思われるペンギンが身を乗り出して、シャチの頬にちゅ、とキスをした。なんの準備もしていなかったせいか、シャチの突然の接触に慌てた様子でペンギンを振り返った。その表情は見えない。

「ぐっ…………

突然の推しふたりの仲良しっぷりに心臓が痛い。

『急にすんなよ!』
『だってしろって』
『書いてあったけど!あれはペンギンがおれにじゃなくて、』
『口が良かった?』
『そうじゃない!』

会話が通じなくてむきーって顔してる推し。

「がわ゙いい~~~~ばかって、なに!」

プシュ、と私は缶ビールを開ける。一瞬ささくれた心がすぐに潤ってしまった。コメントは大盛り上がりだ。まさかのペンギンからのほっぺチューが開幕見れるとは!
シャチが困った顔をした原因の赤スパ。『キスして♡』のコメント。投げキスとかチュウ顔とかの痛いリクエスト。いつも通りスルーかなって思ったけど、しっかりペンギンに拾ってもらって、良いようにダシにされて、ぶっちゃけざまぁみろって思った。
 
ここで、私が最近どはまりしているHeartを紹介する。Heartは実力派のダンス&ボーカルグループだ。総勢21人という大所帯ながら、メインボーカルのトラファルガー・ローのカリスマ性を筆頭に個性豊かなメンバーが集まっている。
とくに私が推しているのは今まさに配信しているペンギンとシャチの幼馴染コンビでHeartがまだ四人だけだった頃のオリジナルメンバーだ。公私共に仲良くてルームシェアも公言していて、とにかくこの二人距離が近い。ふたりセットなのが最早当たり前過ぎて、個々としても大変推せるのだがセットで推しているファンの方が多い。と、思う。
いや、一部のガチ恋勢はふたりの近過ぎる距離にご意見もあるみたいだが私の知ったことではない。
Heartのチャンネルでは、歌やダンスの他に、かなり色々なことをしている。基本的には雑談のLive配信。そもそもアイドルとはいえ、コンサートではパフォーマンス重視でファンサはしないのがデフォだ。だがメンバー個人の配信では、ゲームを実況してみたり、料理を披露してみたり、美容垢顔負けのメンズスキンケアやメンズメイクのやり方講座や、筋トレ動画とか、アウトドア配信とか、応急処置の仕方まで、まあとにかくレッスンやライブ以外でメンバーが日常やっていることをただ配信してる感じなのだが、なんというかそのどれもクオリティが高い。普段ファンへの触れ合い的なサービスをしない分、彼らのチャンネルでその人柄に触れられるためチャンネル登録数はつい最近100万人を超えたほどだ。
今でこそ、私も彼らのコンサートに足を運び、TVや雑誌をチェックするが元々はペンギンの料理のショート動画から彼らを知ったクチだ。そう、私は彼等を流行りの動画配信者だと思っていたのだ。料理の手順もすごくわかりやすいし簡単だし、ていうかめっちゃイケメン!と思って過去のアーカイブをチェックしたところ、どうやら彼らはお料理チャンネルではないことに気が付き、歌を聴き、ダンスパフォーマンスを見て、そうして柔らかな声で全コメレスするシャチに出会ったのだ。冒頭のお疲れ様で文字通り疲れがぶっとんだように、シャチの癒しのトークの破壊力はなおも衰えず、私は毎回その手の届きそうな存在に少女に戻ってキュンっとしてしまう。
そして、まあ、なんというか。
ペンギンがかっこいいのとシャチが癒し系なのは置いておいて。
それは、それとして。
やっぱりペンギンとシャチがいちゃいちゃしているのをみるのがこのチャンネルの一番楽しい所なのだよわかるかね!
そもそも、アイドルとアイドルが普通よりもちょっと近い距離で戯れているって言うだけでかなり栄養価が高いのにもかかわらず、実はこのふたり、本当に恋をしているのでは?と思わせる瞬間が確かにあるのである。

「絶対今の照れ、ビジネスじゃないって」

コメントでも言われているけれど、彼ら二人は「ビジネスカップル」的な売られ方をしている。もともと距離の異常に近い幼馴染ではあったが、最近はメディアで突っ込まれても本人たちは否定はしない。それどころか、やたらとベタベタしていることが増えた。事務所の方針が変わったのかも知れないが、デビュー前後のコンサート映像に比べて最近のパフォーマンスはやたらとハグしたりキスしたり “そういう売り方” が多い。メディアもファンも喜んでいるので大きく否定はせず、「ビジネスカップル」なんて巷では言われている。

でも、聡明で理解のあるファンは気付いている。どう考えてもペンギンとシャチはお互いのことを素でめちゃくちゃ好きなのである。見ていてバレバレなのである。
さっきの赤スパの「キスして」にシャチは多分動揺していたと思う。それをいったん見なかったことにして、前半のお仕事終わった~という内容に対してコメントをしていたのが顕著だ。いつもなら多分一呼吸おいて、無視。もしくはやんわりと「そういうのはしないかな、ごめんな?」って天使のように諭してくる。でも、今日はシャチが言葉に詰まったのでペンギンが動いた。たまに見せる、ペンギンの彼氏面である。大変美味しい。

『ていうかまだ配信はじまったばっかなのにペンギン事故で終わらせるつもりかよ』
『いいじゃん別に。いつもしてることだろ』
『え、あ、いや……んんっ、こほん! ……ったく、えーと今日は料理配信です~ちょっとしたおつまみを生で作って行こうと思ってます~簡単なの何品かつくるから作れそうな人は一緒に作ろうな!カメラはペンギンが回すから』

おお。今日は生料理だ。いつもは料理動画はペンギンの手元固定のカメラで動画になっていることが多い。シャチが雑談しながら料理を作るのは珍しい。ペンギン曰くシャチの料理はかなり美味しいらしい。

『ペンギンのリクエストでまずはガパオライス』

シャチがレスしながら、そろそろキッチン行くぞーってペンギンを振り返る。

「リスエスト聴くのかわいい! もしかしてペンギン早く食べたくてキスしたのかな」

オープニングトークをさっさと終わらせたかった可能性が微レ存。そう思ってコメントをたぷたぷ打つと、私と同じことを想っていたひとが数人いたらしく似たようなコメントが数個流れた。それを見たシャチがジト目でペンギンを見るが、ペンギンはひとこと『早く食べたいかって?』と呟いた。ぷくりと頬を膨らませたシャチがペンギンと目を合わせていると、沈黙が降りる。

『あんまイタズラすると作らなねーからな?』
『え、おれ既にガパオライスの口だから困る』

どんな口だよ、そう言ってにらみ合って、先に動いたのはやはりペンギンだった。ソファの上であぐらをかいたまま、ペンギンが前かがみになり、シャチの膨らんだ頬を片手で掴んだ。

「え、え」

『む』

この正面のカメラでははっきりとはわからないが、引き寄せられたシャチが後ろを向かされて、ペンギンと重なっている。き、キッスしとるがな!!二回目!! 片手で持っていた缶ビールから、メコと音がした。コメント欄が「あ」とか「ぎゃああああ」とか「え」とかでドドドドドと流れていく。
ぱ、と手を放したペンギンがのそのそとソファから降りてカメラを手に取った。画面が暗転。
先ほどよりも近くなったペンギンの声が『こういう口』ってちょっと掠れた声で言った。小さく、『ごちそうさま』って付け足した気がした。多分イヤホンでこの配信聞いてた視聴者死んでるんだろうなと思う。その後、画面が揺れてふたりが映った、
ペンギンの唇が僅かに動いたが何も聞こえなかった。

「ミュートにされてる?」

その疑問を払拭するように、シャチがカメラの方には一切向かず『バカは放っておいてキッチンに移動するなー』って立ち上がってスタスタ歩く姿が映る。その後ろ姿をペンギンがカメラで追ってる画面を見ながらゴキュゴキュとビールを飲み干した。

「シャチ、首真っ赤じゃん」

多分、聡明なファンは全て悟っている。キスくらいでこんな風になるわけがない。キスくらい“いつもしていること”だ。

だから、はやく。



付き合ってると言ってくれ!