──だってβだと思ってたんだ。
サムが生まれる少し前にバースという性別が発症されたらしく、もちろん世界は混乱したという。しかし産声をあげるころにはスターク社の迅速な発明により世間の混乱が終息していたし、サム自身がβであることからあまり困ることはなかった。
極端な貧困層ですら最低機能のプロテクター配布があるほどだ。人々はバース性を忘れているのではとたびたび話題になる。
「おい落ち着け、バーンズ
…っ、バッキー!」
サムはこの日のことを一生忘れないだろう。
スティーブの代わりにずっと探していた男が住んでいる街、部屋まで特定した。思わず両手でガッツポーズを作ったほどだ。
しかし話を聞けばその男は一週間前に転がり込んできて、すぐ出ていくと管理人に言ったという。
スティーブは今、国外で任務に当たっており、いくらバーンズ絡みとて来れる状況ではない。
…それでもスティーブに連絡してから行けばよかったと何度も後悔すると知らずにサムはその部屋に向かった。安いアパートだ。都会から外れ、治安は並の静かな街。
該当の扉の前に立ち、心拍数に比べて緩やかなノックをした。返事はないがサムは声を張る。
「スティーブの友人だ」
とたん、無理やり消していた気配が中で暴れて、ガタガタと音がする。大きな家具が裏返り床を剥がして、布と木が擦れる音。
逃げられる、そう思ったとたんサムはドアを蹴破っていた。窓から出ようと足をかけていたバッキーが止まる。まさか止まるとは思わなかったサムは無理に追わず「話がしたい」「保護できる」そんな響かない言葉を投げ、形だけドアを閉めた。
しかしバッキーは袖で顔を覆うと、まるで攻撃されたかのような顔でこちらを睨む。
「何した、お前
…っ」
「は?何って
…どうした」
やはり洗脳がまだ残っているのか。サムがバッキーの意図を汲み取ろうとブルーの瞳と視線を絡ませた刹那であった。
「
…ッ」
全身が痺れた。毒とかではなく甘い、もっと言うと下半身に直接響くような官能的な波。視界が滲むくらい体温が上昇し腹がずくずくと脈打つ。この異常事態にバッキーから目が逸らせない。
足に力が入らずそばにあったベッドに手をついたが最後、窓にいたバッキーが押し倒す形でサムの上に乗った。
ロマンチックな物ではない。
捕食するような目とありえない力で手を押さえつけられて、ああこの男αなんだなと、なぜか気にした事もない他人のバース性が過ぎる。
「甘い、」
搾りだしたらしい声は獣のようであった。己の身体の変化についていくのに必死であったがふと尻の違和感に気づく。下着の一部分が湿っていく。粗相ではない、これは。
結びたくもない点と点が頭の中に浮かんでくる。
甘い匂いがすると言う我を失ったα、それを前にして力が入らない身体、熱欲
…濡れはじめた孔。
βだったと思っていた身体はΩだったなんてそんな、フィクションでも使い古されてる。今まで発情期も来ていないのに?フェロモンなんて指摘されたこともなかった、一人のαで何故こんなことになるんだ、なんで今、
恐ろしいほど頭が冴えているのに肝心なところが混乱で追いついていない。
「っ、ここ、ここだ」
「ひ、
…っおい、!」
くん、と人間の腕で首を掴まれて折られるのかと息が詰まる。片腕だけでそれが出来てしまう男だ。しかし首の裏を探り当てるとバッキーはぐるんとサムの身体を反転させた。抵抗したが力の入らない体と超人兵士では赤子と大人だ。
「
…ッ!」
これはΩとしての本能なのか、力の入らない腕が一番にうなじを防御した。しかし赤子の手のひらなんてバッキーは簡単に剥がしてしまう。
「おい!冗談じゃすまないぞ!やめろ
…ッ!!」
「
……ッ」
ぴたりとバッキーの動きが止まった。彼もまた突如現れたαの本性に困惑しているのかもしれない。ウィンターソルジャーの次はコレなんてついてないなと、同情してやる暇は今のサムにない。
嫌だ嫌だと首を振っていたらベッドに顔面を押し付けられた。頸に息が当たって熱い。
ああまずい、ごめんスティーブ、
脳裏に浮かんだのはバッキーを、親友を気遣う誠実な彼の瞳であった。
「ぁ、
…っ、ぐ
…!ぅぅ!!」
歯が皮膚を破った感覚さえした、噛みちぎられて死ぬのかと思った。加減もクソもない痛みと衝撃に全身が跳ねたがそれ以上に身体が溶けてしまうのではと怖くなるほどの熱。何か身体の組織がおかしくなってしまったと錯覚する内側のマグマのような灼熱に、泣きたくもないのに涙がぼろぼろと溢れた。
未知の現象に目を閉じて耐えるしか、今のサムにはできなかった。
100年前の君とハッピーエンドを
第三話 言えない秘密
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