pinopipi
2026-01-06 08:15:13
7254文字
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春に浮かれる

ヌヴィフリ/予言後/恋人設定。仕事で忙しいヌにフが別れ話を切り出す話。格好良いヌは不在、ちょっと情けない感じなので注意。1P:フリ視点、2P:ヌ視点。ハッピーエンド。


真っ赤に熟れた顔でぱたぱたと走り去って行くフリーナの後ろ姿に、私は引き止める声すら掛けることが出来なかった。とうに見失った背中へ向かって思わず伸ばした手を、ゆっくりと降ろす。
フリーナは相変わらず逃げ足が早い。
昔と変わらぬそれが非常に懐かしく感じ、目を細めた。

先程、フリーナから別れを切り出された時はかなり肝が冷えたが、なんとか繋ぎ止めることが出来て良かった。彼女がいないと生きていけないというのは誇張表現ではなく、紛れもない事実である。それが"番"というものなのだ。それに、凡そ500年にも及ぶ片想いの末ようやく実った恋を、今更そう易々と手離すなど出来る筈がない。
私の職務や立場について、元水神である彼女は誰よりも理解してくれている。だが私はその"理解"の上に胡座をかき、結果として一番大切な彼女の気持ちを疎かにしてしまっていた。それは私の至らなさ故の過ちである。
今後はより厳密にスケジュールを調整し、彼女と過ごす時間を死守しなければ。もう二度と、同じ過ちは繰り返さない。愛する彼女に寂しい思いをさせたくない。

再び仕事に戻る。早く全てを片付けて、フリーナに会いに行きたい。先程の口付けで思わず読み取ってしまった彼女の直向きな愛がどうしようもなく嬉しくて、私は柄にもなく浮かれていた。
彼女は今日も可憐で美しかった。現在フォンテーヌ廷内で流行しているファッションは今まで彼女が好んで身に纏っていたものとは異なる系統であるが、素人目で見ても彼女にとてもよく似合っていた。あのようにめかし込んだ可愛い恋人と共に過ごす予定が潰えてしまったのは非常に残念である。
故に今日は何が何でも定時で上がり、フリーナを訪ねて、うんと甘やかそう。500年分のありったけの愛を彼女に伝えなければ。あわよくば、一晩中彼女を愛したい。いや、それだけでは足りないな。今回の事で痛感したが、まだ私達は法的効力のある契りを交わしていないので、たった一言で容易に関係を解消されてしまう可能性がある。それはあまりにもリスクが高い。なるべく早く"彼女は私のもの"であるのだと世に知らしめなければ。そうだな、人間社会の慣例に習い、婚姻を結ぶことが最も民衆に理解されやすく、強固な契りといえるだろう。であれば早急にプロポーズを計画し、実行しなければ。サプライズ好きの彼女も納得する最高のものを考えよう。だが、それよりも先に彼女の心が変わったり、煩わしい羽虫が付いてしまっても困る。なので、彼女へ正式な求婚をする前に"仮予約"をしておかねばなるまい。ああ、今この瞬間でさえも時間が惜しい。兎に角、今すぐにでもフリーナへこの想いを伝えたい。

ヌヴィレットは信じられないスピードで手を動かし、昼前には翌日の分までの書類仕事を全て片付けた。急遽午後から担当することになったとある複雑な事件の審判も、いつも以上にキレッキレな最高審判官の手腕により、予定よりも1時間早く終了した。だというのに、控え室で時計を見遣ったヌヴィレットは思わず小さく舌打ちをする。何故なら、定時まであと20分しかないのだ。颯爽とエピクレシス歌劇場を後にし、いつものようにポート・マルコットへ向かおうとしてーーー踵を返す。巡水船を使うよりも泳いだ方が断然早いので、ヌヴィレットは泳いでフォンテーヌ廷まで戻り、パレ・メルモニアへと急いだ。執務室の扉を開けた時点で、終業時刻の5分前。ヌヴィレットは退勤前に明日の休暇届を記入し、自ら承認する。それから定時ぴったりに執務室を退室し、すぐに上階の私室で最高審判官の威厳を脱ぎ去って、堂々とフリーナの自宅へと向かった。


翌朝。最高審判官と元水神の熱愛報道がされ、本人達が不在の中、国中がお祭り騒ぎとなったのは言うまでもないだろう。