九條もぐ
2026-01-04 20:54:03
2710文字
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伊剣ワンドロワンライ【夜明け】

伊剣ワンドロワンライ
お題【夜明け】をお借りしました。
FGO軸ですが、本作は第二部終章の内容とサムレム本編の2周目以降の内容を含みます。
1ページ目の注意書きを読んだ上、自己責任にて閲覧お願いします。


「はぁっはぁっはぁっ
 カルデアは今、空想樹討伐作戦を実行中。伊織とタケルも例外ではなくカルデアで苦楽を共にしてきたマスターの未来のため、空想樹M・スペクトラムと交戦中だ。
「はぁっはぁっセイバー、まだっ、動けるかっ?」
「はぁっはぁっああっ、辛うじてっ、なっ
 とはいえあの数の空想樹を今この場に集った数多の英霊達と討伐し残すは最後の一体となった。ここにいる英霊達全員、満身創痍という状態だがすべては苦楽を共にしてきたカルデアのマスターのためという意思でここまで戦ってきた。
「あとはアレを討伐すれば、すべてっ終わるのだな」
「っ
(そうだな皆と過ごした日々は、誰の記憶に残ることなく、ただ無に帰る)
 カルデアがマリス・カルデアスの機能を完全停止すれば、これまでの旅の思い出ごとすべて消えマスター達は元いた世界に帰るだけ。カルデアという存在そのものがマスター達の記憶から消えてしまうのだ。
 そしてカルデアで再会を果たしたかつてのマスターである伊織とも別れることになる。タケルはそれをできるだけ考えないようにと、必死に剣を振り続けた。
(イオリは剪定事象の存在だから座に還ることなどなく、ここで消えてゆく此奴を斬ればもうっ、会えない)
 タケルは手元が震え、視界が徐々にぼやけていくのを感じた。駄目だ、それでは示しがつかないと己を鼓舞するも、走馬灯のように浅草を中心とした盈月の儀を駆け抜けた時の思い出とカルデアでの思い出が脳裏に流れてしまう。
 そんな様子に察した誰かの大きくも温かい手が、タケルの小さな背中に触れた。
「っ
「─しっかりしろ、セイバー。斯様な事で折れぬのが、お前ではないのか?」
「い、おり?」
「お前なら、斬れる迷わず、放て!!」
 タケルの背中に触れる手は微かに震えている。伊織だって覚悟してこの戦いに挑んでいるのだ。ここで諦めてしまえば夜明けは来ない。タケルは目元を乱暴に擦りながら、空想樹に剣を向ける。
また、きみに叱咤されるとはな」
「また?」
「いやこちらの話だ。なればこの悪しき邪神を、我が剣にて祓い清めてしんぜよう!!」
 タケルの剣が凄まじい光を放ち、本来の姿に戻る。覚悟を決めたタケルの背に、伊織はまた手を置く。
「─空想樹を斬ってくれ、タケル
 その言の葉と共に、伊織はタケルの背中を押してやる。
「─界剣・天叢雲剣!!」
 光を纏った神剣を空想樹に向け振り下ろす。タケルの力を全解放された宝具になす術なく、空想樹は真っ二つに斬り裂かれた。斬り裂かれた空想樹はボロボロと原形を留めることなく崩れ去る。
「っ終わったっ!!」
「っ、セイバー!!」
 残るすべての力を空想樹にぶつけたタケルは、その場に膝から崩れるも伊織に支えられた。すると伊織とタケルの身体から小さな光の粒が放たれる。それはその場にいるサーヴァント達も同じだった。
終わりのようだな」
「そう、だな
(もう、終わったのだから)
 タケルの目からつぅと涙が溢れ落ちる。我慢していたものが一気に溢れてしまったようだ。
「っもうっ、きみにっ、会えぬ、のだな
セイバー」
「いやだいやだっ、きみに、二度と、会えないだなんてっ!?」
 タケルが泣き出す寸前で、伊織がタケルを抱き寄せた。
「確かに俺は、英霊として座に残ることはない。それでもマスター達が未来を取り戻すことができたら例え記憶がないにしても、別の形でまた会えるのかもしれん」
「イオリっ
 伊織は涙で濡れたタケルの目元を拭い、頭を撫でてやる。
「俺には盈月の儀に関する記憶はないが、お前にはあるその記憶が、未来で再会する時の鍵になるかもしれないと思ってる。そんな奇跡が起きることを信じてる」
 伊織の言の葉にタケルの涙が更に溢れてしまう。タケルはそのまま伊織の胸に顔を押し付けた。
「っ、信じるぞその言の葉また、きみに会えると、信じる
「ああ
 ほとんどのサーヴァントが退去し、伊織達も別れの時間となった。
頃合いだな」
「あああとは、任せたぞカルデアのマスター。必ず未来を、取り戻すのだぞ」
 遠くでまだ戦いを続けるマスターとマシュに希望を託し、伊織とタケルは姿を消した。この明けぬ夜に、未来という名の夜明けが来ることを信じて。

 ◇

 時は202○年、元日。まだ夜も明けぬ時間帯であるにも関わらず、浅草寺には新年を迎えたことを祝うため参拝する者達で溢れていた。
「まだ夜中だと云うのに物凄い人だな」
「仕方ないさ新年を迎えたんだ、皆考えることは同じって事だ」
 参拝客で賑わう浅草寺に、若者二人がやってきた。
「それにしてもきみを願いごと斬り伏せた場所で新年の挨拶とやらをすることになるとはな」
「まだ根に持ってるのか、セイバー
「だって私は、本当の願いを押し殺してきみの願いに寄り添ったのだからな!!当世では、私の願いに付き合ってもらうぞ、イオリ!!」
 若者伊織とセイバーは現代に転生し、再会を果たした。二人が再会し、そして今があるのは名に残らぬごく普通の少年が数多のサーヴァントと共に未来を取り戻したからだ。
 だが、そんな壮絶な戦いが起きたことなど伊織とセイバーは知らない。無論伊織とセイバーもその少年のサーヴァントととして戦ったことも。伊織とセイバーが唯一有してる記憶は盈月の儀で共に駆け抜けた記憶だけ。
「はぁ腹が減った。なぁイオリ〜、肉まんが食べたい」
「もう少しで夜明けだから我慢しろ。夜明けを見たら家でおせちを食べるんだから
「そうだった!!きみとカヤが一昨日から仕込んだおせち!!あとは雑煮も!!」
「まったくお前は飯の話になると本当にあっ」
 伊織がセイバーに呆れて空を見た瞬間、徐々に明るくなっているのがわかった。
「セイバー、空を見ろ」
「ん?あっ夜明けだ」
 夜空が徐々に日の出と共に明るくなる。前世では共に見ることができなかった夜明けを、今共に見ている。
「これからも、よろしく頼むタケル」
「っああ、これからもよろしくな、イオリ!!」
 伊織とセイバーは笑い合いながら夜明けを眺めるのであった。