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魔王と勇者の戦いの裏で


灯台下暗し

それは先入観だよ、ヴェルナー。


 夜の街を彩る店の、軒先にいくつも吊るされたランタンの淡い光が、夜道を柔らかく照らしている。石畳に落ちる小さな光を踏みながら跳ねるようにして歩く親友の、無邪気な仔犬のような背中を追うヴェルナーの視界は、薄く靄がかかっているようにぼやけていた。
 その曖昧な視界の中でも、前を歩く親友の朱い髪だけは、鮮やかに存在感を放っている。
 どこにいても目立つやつだなと、自然と口角が上がった。
「少し、飲みすぎたな」
「何か言った? ヴェルナー」
 じわりじわりと歩み寄る睡魔を追い払うように、目頭を揉みながらぽつりと呟いた独り言は、機嫌よく歩いていた親友には聞こえなかったらしい。光を踏んでいる片足を軸にして、くるりと踊るように回転した親友――マゼルは、新緑の瞳を不思議そうに丸くして、ことりと首を傾げた。
 まだあどけない曲線を残した頬を紅潮させながらも、しっかりとした体幹を維持している様子は、さすが未来の勇者様としか言いようがない。飲んだ量は同じはずなのになあ。遠い目をするヴェルナーに、マゼルがますます不思議そうな表情を浮かべた。
「どうしたの? 気分悪い?」
 黙り込んだヴェルナーを体調不良だと誤解したらしいマゼルが、慌てた様子で駆け寄ってきた。たった数歩離れていた距離がほぼゼロになり、ぼやけていたその輪郭が、ヴェルナーの視界にはっきりと映る。
 暗い夜道で店から零れる光を纏うマゼルは、髪も瞳もきらきらとしていた。
 まるで夜明けを告げる太陽のようだと、ふわふわ解れていく思考と共に、ヴェルナーは目を細める。
「ヴェルナー、大丈夫?」
 マゼルの、剣だこだらけの細い指が頬に触れた。
 生まれ持った才能に驕ることなく努力を続けるその手は温かく、ヴェルナーを気遣う優しさに溢れていて、何故だか無性に泣きたくなった。 
……大丈夫。少し酔っただけだ」
 頬に添えられた温かな手を取り、そっと離す。情けないことに、離れる熱を少しだけ惜しく思ってしまった。
 マゼルは優しい。けれども、この優しさはヴェルナーだけに向けられるものではない。

 この男は、世界を照らす太陽なのだから。

2022.12.10

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