初春に彩りを

MHRウ教×ハ♀。
夫婦。ハ♀視点。

新年の最初の日、最初に目にするもの。



寝起きはずのあなたの金色こんじきの瞳は、大きく見開かれて、わたしだけを映した。

その瞬間、頬を赤く染めながら食い入るようにわたしを見つめてくれるあなたの喉仏が、ごくりと震える。分かりやすく息を呑んだのが見えて、とっても嬉しい。

「ま……な、でし……! えっ…………! そ、そうか、その着物は……
「ふふふっ……はい。お正月用にって、あなたが仕立ててくれたものです。今年は……着物に合うよう、お化粧もしてみました」
「そ、そう、だよね……? ッ……

あなたはまた息を呑みながら、ゆっくりお布団を出て、わたしの前に正座してくれた。
移動している間もあなたはずっとわたしを見つめてくれていて、どうしても視線が絡まり合うので、喜びと照れの狭間、少しだけ恥ずかしくなってくる。

黙って見つめ合うと、ますます心が高鳴って爆発しそうになってしまいそうなので、何か言おうと思った時、わたしは今日という日に深く感謝できた。

「あ、の。あ……あけまして、おめでとうございます、ウツシ教官……!」
「あ……! う、うんっ! そ、そうだね、あけまして、おめでとう!」
「今年も、よろしくお願いします」
「こ、こちらこそっ! 今年も、よろしくね! お、お正月で、その着物……本当に、とっても似合ってるよ、愛弟子……! こんなに素敵に着てくれて、嬉しいな……すごく、すごく似合って……!」

わたしを見つめ続けていたあなたが、不自然に言葉を止める。

どうしたのかとわたしが小首を傾げると、あなたの目尻がとろりと蕩けて笑いじわが寄り、頬は赤く染まって、幸せそうに瞳が潤んだ。

「キ……レイだ……! 愛しい、我が妻よ……! お、お化粧も……本当に、上手で……! こんなに……こんなに可愛い、美しいキミが……俺の……!」

絞り出すようにそう告げてくれたあなたは、感極まったように言葉を途中で止めた。

わたしの心は、冬を飛び越えて春を迎えたみたい。先ほど以上の至福の温もりで包ま れる。

あなたのそんな表情で、少しだけ高めの上擦うわずった声でその言葉を聞けたことはもちろんだけれど、何より嬉しいのは。

(今年、あなたが最初に見たわたしは──あなたの着物を纏って、あなたのためにお化粧をした、あなたの妻であるわたし)

通年、わたしがあなたによく見せるのは、まだまだ未熟な『愛弟子』の姿。
結婚して数年経っても、幼い頃にあなたのところにお泊まりをした時の延長のような、寝起きの無防備な姿ばかり見せてしまっていたから──たまには、こんな風に始まる年があっても、いいですよね。

少しずつ、日の出の曙光しょこうが家の中に降り注いでくる。格子窓こうしまどからのまばゆく温かな光芒こうぼうには、元旦らしい明澄めいちょうおもむきがあった。

光の中でわたしが微笑むと、あなたの頬がますます赤く染まったのも見えて──とても嬉しくて、愛おしくて、いつもよりも妙に可愛く感じてしまう。
あなたは上気じょうきした表情のまま、ゆっくりと立ち上がった。

「お……俺も、すぐに支度するよ。最高の天気だし、このまま一緒に初詣に行こうか!」
「はい、そうしましょう。えへへ、楽しみです」
……

あなたは、じっとわたしを見つめてくれる。その視線をずっと浴びていたら少しずつ照れくさくなってきしまった。
少しだけ目を伏してしまった刹那、あなたがわたしの耳元に顔を近付けてきて。

「可愛いお化粧が落ちちゃうから──口付けは、帰るまで我慢する……ね」
「!」

不意に、わたしの耳元でそう呟いたあなたの甘やかな声に、身も心も、ぶるりと震えた。

今朝は、今年の最初はわたしが不意をつけたと思ったのに。
やはり、あなたにはかなわない。少しずるい言葉の選び方だと思う。

あなたに我慢なんてさせたくない。本当は、今すぐにでも、今年最初の──。

わたしが視線を向けると、あなたはもう立ち上がっていて「おいで」と、わたしに手を差し伸べてくれていた。

その手に片手を重ねて、大好きなあなたに手を引かれ、ふわりと立ち上がって──そのまま、もっとあなたに引き寄せられて。

「あっ……!?」

思わず、驚声きょうせいこぼれてしまった。

いつの間にか、わたしはあなたの腕の中。おひさまよりも温かくて、何よりも安心できる場所。
あなたはわたしを抱きしめたまま、またわたしの耳元に唇を寄せた。

「ごめん……これ・・は、我慢できなかった……! 着物、乱れないようにするから……!」

そう言って、あなたは少しだけ腕に力を入れて、ますます強くわたしを抱きしめてくれた。

何を謝るのでしょうか。わたしはあなたの愛弟子、あなたの妻。何があっても何年経っても、わたしは心から、あなたが大好き。

「ね、ね。ウツシ教官」
「うん? っ、ん……!?」

名前を呼んで「なあに?」とあなたがわたしの顔を覗きこんでくれた直後、わたしは、あなたの唇に自分の唇を重ねた。

紅が、あまりつかないように。軽く触れるだけの口付け。

あなたは目を見開いて「ッ……!」と、また喉仏を震わせて、じっとわたしを見つめてくれた。

「っ、あ…………! ま、愛、弟子、だめだよ、せ、せっかくのお化粧が……!」
「まだ初詣に出かける前ですし。お化粧は、直せば良いんです」
「い、いい、の? そ……そんなこと、言われたら、俺……!」
「いいんです。今年も、大好きですよ……ウツシ教官……わたしの大切な旦那さま」
「俺も、俺も……! ッ、愛弟子……愛しい我が妻よ、俺はずっと……どんなに時が経っても、俺は……!」

言葉さえもどかしそうに、あなたは、わたしに食らいつくように唇を重ねてくれた。
体が溶けてしまいそうなくらい嬉しくて、わたしもあなたの背に腕を回す。

今日は、新年の最初の朝。

年のはじめから、あなたの腕の中で、あなたと唇を重ね合える喜びは、筆舌ひつぜつに尽くしがたい。

どちらからともなく唇を離した時、あなたの唇に少しだけ、わたしの紅がついてしまったのが見えた。

こうなるとは思っていたので、拭かなければと思い、あなたの腕の中で身をよじった矢先、あなたの腕が力を増して──私はあなたの腕の中から動けないまま、至近距離で真っ直ぐ視線を絡ませることになった。

「んふふ……俺のお口、キミとおそろいになった?」
「ええっ? そう、ですね……わたしの紅がついちゃったので」
「えへへぇ、嬉しい。じゃあ、キミがお化粧直しをする前にもう一回……ね?」
「えっ、あ──」

楽しげに笑いながら、あなたはまた、わたしと唇を重ねてくれた。

その笑顔につられるように、わたしも笑って、お互いの吐息が交わり合うのを感じられた。唇はこの世の何より甘く、熱く、柔らかくて、病みつきになりそうな感触。

唇を重ね合ったまま、わたしたちは笑い合って、朝の冷気が存在感をなくすほど、お互いの体温に包まれながら、一頻り抱きしめ合って──やがて、鼻先を触れ合わせたまま、唇を離した。

「ずーっと、こうしていたいけど……さすがに、初詣は行こうか」
「ふふふっ……はい。この続きは、帰ってから……ですよね?」
「んふふふっ……そうだねえ、帰ってから、ね」

間近で視線も吐息も、初笑いも重ね合わせて、わたしとあなたは最後にもう一度だけ、ついばむような口付けを交わす。

身も心も、芯からとても温かくて、幸せ。陽射しの中で、わたしを見つめてくれるあなたの笑顔は、何よりも愛おしい。


生まれた時から、ずっとずっと──何年経っても見守ってくれている、大切な笑顔。

今年も、あなたのおかげでとても良いことがありそうな予感がしてくる。わたしは本当に果報者。

化粧台の、鏡の前にもう一度正座して、わたしは自分の顔を覗き込んだ。

唇の紅は潤みながら、掠れている。
紅という縁起の良い色の中にはまだ、あなたの味が残っていて──その喜びに、わたしの顔には冬知らずの至福の笑顔が花咲いた。



@acadine