でがらし
2025-12-30 17:33:13
5491文字
Public 【吸死】みっぴき・他CPなど
 

【半田夫婦】あの日みたいに踊りましょう

2022年3月20日吸死男女CPオンリーイベント「キミとダンシングトゥナイト」展示で載せた作品です。シンヨコダンスパーティーで繰り広げられる男女それぞれの物語(半田夫婦編)です。1ページ目は半田白視点のパーティー前日談、2ページ目が半田あけみ視点の本編になります。
他のCPなども合わせた形で本にしました。7割はWEBでの再禄です。
https://degarashi2525.booth.pm/items/4771831
初出:2022年3月18日



―――あら、私ったら張り切りすぎちゃったかしら……
 シンヨコダンスパーティー会場に一人足を踏み入れた私は、どこに行こうかときょろきょろと周りを見渡していた。会場を訪れた人のほとんどは普段着と変わらない恰好をしている。ちらちらと視線が刺さると、私の真っ白なドレスが浮いてしまっているように思えて自然と顔が真っ赤になってしまう。
「で、でも、これは白さんをびっくりさせたくて……うん、大丈夫!」
 そう自分に言い聞かせてドレスの裾をぎゅっと握ると、羽織ってきた厚手のカーディガンの中の携帯が震える。

「はぁいもしもし……あ、ももちゃん!ええ、今着いたところ!えぇと、看板には正面入り口って……え、今から向かう?でもお仕事は……あ、どうしましょう切れちゃった」
ももちゃん、大丈夫かしら。とりあえず分かりやすいように看板の近くにいたほうがいいわよね。そう思って歩き始めたその時、「お母さん!!」と叫ぶ声に呼び止められる。振り向くと白い隊服に身を包んだももちゃんが全速力でこちらに駆けてきた。

「あらももちゃん、早かったわね!お仕事は大丈夫?」
「はぁ、はぁ……ああ大丈夫だお母さん、今は休憩時間だから!それより大丈夫か?変な輩に声を掛けられたりしてないか!?」
「嫌だわ、こんなおばちゃんに声をかけてくる人なんていないわよ!」
「いいや心配だ!……だって今日お母さん、お洒落してきてくれてるし……すごく似合っている、から……
 そう言ってくれるももちゃんに「ありがとう!」と言うと、照れくさそうに頭を搔いてはにかむ。その笑顔は小さい頃から変わらないのに、吸血鬼対策課の隊服をピシリと着こなすももちゃんは凛々しくて逞しくって……立派に育ってくれて、お母さんまで嬉しくってなんだか照れちゃうわ。


「うわぁ懐かしい、ブラッドジャムサンドだわ!それにこのスープも美味しそう!」
 ももちゃんに立食パーティーの会場まで案内してもらった私は、色とりどりのお料理に思わず手を伸ばす。夜も更けてきて冷えてきてしまった身体をスープで温めていると、このお料理たちはドラルクさんと退治人ギルドのマスターさんが中心になって作ったものだとももちゃんが教えてくれた。流石ドラルクさん、ロナルド様のお腹を満たすご飯だけでなくて、吸血鬼用のお料理もお手の物なのね。あら?ということは……

「ねぇ、ももちゃん……もしかしてロナルド様、今日来ているの?」
「うぐっ!!」
「ももちゃん!?」
 慌てて背中をさする。急にお腹が痛くなったみたいに苦しそうな顔をしていたももちゃんだけれど、段々呼吸が落ち着いてきたみたい。しばらく口をぱくぱくさせていたけれど、こちらを向いて首を振る。
「さ、さあな、退治人のことはよく分からなくて!それよりも……お、お父さんは仕事か?」
……ええ、お昼過ぎに会社から呼び出されちゃって。お仕事が終わったらここに来てくれるって言っていたけれど……


―――折角の日曜日なのにお仕事だなんて、身体が心配だわ。
 白さんのネクタイを締めてあげながらそう呟いた昼下がりを思い出す。あの時「絶対にパーティーには間に合うようにするから」と言って私のおでこにキスをしてくれた白さんの顔を思い浮かべると、頬がぽっと熱くなる。あの人が「絶対」と言ってくれたのだから、ゆっくり待っていましょう。だって約束をいつも守ってくれる人だから。毎年くれる花束もそうだし、あの時だって……そう思い出を辿っていきながら会場をぼおっと見回してみる。会場には近所の子供達が家族と一緒に来ていたり、吸血鬼同士のカップルが仲睦まじく踊っていたり、お化けの恰好をした人が隣の女の子とくるくる回っていたり、遠くの方では退治人さんたちが賑やかに踊りながら会場の人に声をかけていたり……あ、あの赤いジャケット、もしかして……

「ロ、ロナルド様!?」
「ウワァーー!!」

 思わず叫んでしまい、あっと口を抑えるとももちゃんが私以上に大きな声を出していた。そうよね、ももちゃんも私と同じでロナルド様のファンだものね!やだどうしましょう、声かけちゃおうかしら?わたわたしていると、大声に気づいてしまったらしいロナルド様と目が合って、こちらに会釈してくれる。ああ、今日も素敵だわ、ロナルド様……
「うぅ、っ……そろそろ、休憩時間が終わるから、また後で会おう、お母さん。俺は……っ、退治人たちと状況確認して、くるから……!!」
「あ、あらそうなのね!案内してくれてありがとう、ももちゃん!!」
お父さん譲りの俊足で駆けだしていくももちゃんを見送る。……あの子、いつの間にセロリなんて持っていたのかしら?

 ももちゃんが走り去ってしまってから何となく手持ち無沙汰になってしまったわ。会場をぐるぐる回ってご近所さんに挨拶して過ごしていたけれど、何となく気になって携帯を取り出して連絡が来ていないか確認してしまう。
……白さん、中々来ないわ。まだお仕事のトラブルが落ち着かないのかも。お腹空いていないかしら、心配だわ。もし、もしも疲れて倒れてしまっていたらどうしましょう、連絡したほうがいいかしら、でもお仕事中かもしれないし。おろおろしながら歩いていると、さっきももちゃんと会った入口の看板の所まで戻ってきてしまった。

―――やっぱり、今日は帰りましょう。
 今から帰れば、白さんが終電で帰ってくるころにはご飯の支度が出来るはず。そう思って公園を後にしようと足を踏み出すと、向こうから走ってきた人とぶつかってしまってよろけてしまう。思わず目を瞑ってしまった瞬間、抱き留めてくれたのはぶつかってきたその人だった。

「すみません、お怪我は……あ、あけみさん!!」
……白さん!!」
 目を開けると、結び目が緩んだチェック柄のネクタイと心配そうに私を見下ろす白さんの姿が映る。
「ごめん、あけみさん。遅くなってしまって……それにぶつかってしまうなんて……大丈夫かい?どこか怪我でも……
 息を切らしながら私の肩をしっかりと抱いている白さんの身体が温かい。ここから駅まで大分距離があるけれど、ずっと走ってきたのかしら?白さんが受け止めてくれたから大丈夫だと、首を振って立ち上がろうとするけれど白さんはなかなか離してくれない。
「白さん、私は大丈夫だから……
「いや、休める場所まで運ぶよ。さあ掴まって」
 そう言って白さんが腕に力を籠めると、ふわりと身体が持ち上がる。それはまるでお手本のようなお姫様抱っこで、真っ白なドレスを着てきてしまった私はまるで結婚式の花嫁さんのようで。さっきまで息を切らしていたはずの白さんはもう呼吸を整えて軽やかに落ち着いた足取りで私を運んでいく。

「あ、白さん……恥ずかしいわ、みんな見てる……
「何も恥ずかしいことはないよ、大丈夫。それにそのドレス、今も本当によく似合っている。大学の卒業パーティーの時のだよね?」
「ええ、そうなの……身支度しているときに箪笥の奥から出てきて……ダンスパーティーだし、折角だからと思って着てきちゃった。それよりお仕事は大丈夫?無理させちゃったんじゃないかと思って心配で……
「思ったより手間取ってしまったけれど、あけみさんに会いたかったから走ってきたよ。……お待たせ。一緒に楽しもう」
 真っ直ぐな目で私を見る白さんを見つめ返す。……やっぱり、そういう顔はあの時から全然変わっていないのよね。そう思うと、可笑しくて、嬉しくてたまらなくなって。
……?」
「やだ、ごめんなさい……ふふっ、白さんに出会った頃のことを思い出して、つい……
 くすくす笑っていると、どこからともなく懐かしい曲が流れてくる。はっと白さんの顔を見ると、私と同じ顔をしていた。
……覚えてるかい、あけみさん?この曲……
「忘れるわけないわ!だってこの曲は、貴方と初めて踊った曲だもの。ねえ、白さん踊りましょう!」
 そうせがむと白さんはそっと私を地面に下してくれた。白さんの大きくて温かい手を取って、ゆっくりとステップを踏み踊り始める。最初はおぼつかない足取りだったけれど、昔の記憶を辿っていけばどんどん足取りは軽くなって、白さんと呼吸を合わせてターンを決めて笑いあう。

「懐かしいわね……卒業パーティーの時、貴方がダンスに誘ってくれて……嬉しかった」
「あけみさんのその白いドレスを見て居ても立っても居られなくなったんだ。この人に想いを伝えなきゃ、一生後悔すると思った」
 嬉しそうに、白さんはぎゅっと私を抱きしめてくれる。この街で、白さんとももちゃんと暮らすことが出来て、本当に私は幸せな吸血鬼だわ。

「ふふ、ねえ、白さん?あの時思ったの……私、貴方と結婚するんだって!」