でがらし
2025-12-30 17:33:13
5491文字
Public 【吸死】みっぴき・他CPなど
 

【半田夫婦】あの日みたいに踊りましょう

2022年3月20日吸死男女CPオンリーイベント「キミとダンシングトゥナイト」展示で載せた作品です。シンヨコダンスパーティーで繰り広げられる男女それぞれの物語(半田夫婦編)です。1ページ目は半田白視点のパーティー前日談、2ページ目が半田あけみ視点の本編になります。
他のCPなども合わせた形で本にしました。7割はWEBでの再禄です。
https://degarashi2525.booth.pm/items/4771831
初出:2022年3月18日

 次は新横浜、新横浜、と車内アナウンスが聞こえ吊り革をグッと握りなおす。車内の電光掲示板を確認すると、時刻は夜八時四十五分に差し掛かろうというところ。ギリギリではあるが、何とかあのお店の閉店時刻には間に合いそうだ。年度末が近づくとどうしても残業が多くなってしまうが、今日はどうしてもこの時間までに帰りたかったので何とか仕事を終わらせてきた。闇夜を切り裂き走っていた電車がスピードを落とすにつれ、車内が明るく賑やかな街並みに包まれていき、僕もほっと息をつく。
電車のドアが開き、ターミナル駅らしい人混みをかき分けながら改札へと進む。逸る気持ちからかついつい早足で歩いてしまうと、急いでいることを察してくれたのか周りの人が一斉に避けてくれた。やっぱりこの街の人たちは皆優しいなぁ、ここに住んで良かった。きびきびと歩きつつもつい微笑んでしまう。

 目的地の花屋は駅から歩いて五分程の商店街の片隅にある。店に辿り着き腕時計を見ると閉店五分前、何とか間に合ったと思っていたのだが……シャッターが少し降り、早くも店じまいの準備をしている様子だった。困ったな、今日どうしてもあけみさんに渡したい花があるのに。そうだ、少しルール違反かもしれないが店員さんにお願いしてみよう。重たいシャッターを手で押さえながら中を覗き込む。

「あの……まだ開いていますか?どうしても頂きたい花があるのですが」

 ダメ元で頼んでみたけれど、優しい店員さんで良かった。何とか今年も手に入れることができた花束を抱きかかえながら家路を急ぐ。閉店間際なのもあって、お目当ての花は小ぶりなのが一枝だけだったが、店員さんがかすみ草もサービスしてくれたので見た目は随分と豪華になった。おまけしてくれるなんて少し悪いなと思ったが、「どうぞどうぞ!!」と必死に薦めてくださったのでご厚意を有難くいただくことにした。
かすみ草の白に囲まれながら真ん中で揺れる小さな黄色い花は、あけみさんの天真爛漫な笑顔とよく似ている。春の訪れを思わせるような柔らかい甘い香りを吸いこむと、もうすぐ会えるはずなのにもうあけみさんのことが恋しくてたまらなくなる。

 早足で歩いてようやくたどり着いた愛しい我が家。明かりが零れるドアを押し開くと、「あっ!」と嬉しそうな声と、パタパタと軽やかな足取り、そして太陽のような笑顔で出迎えられる。
「おかえりなさい、白さん!お夕飯出来てるわ……うわぁ!」
 毎年この日にはミモザの花束を。随分昔に僕が勝手にあけみさんに約束しただけなのに、彼女は毎年新鮮に驚き、そして喜んでくれる。その笑顔にはどんな花束も宝石もきっと敵わない。
「今年もありがとう、白さん!うふふ、どこに飾ろうかしら……♪」
 ルンルンと鼻歌を歌いながらあけみさんは花束を受け取る。くるくると回り無邪気に喜んでいる姿はまるであどけない少女のようで、初めて出会った頃から全く変わっていなくて。堪らずあけみさんを抱きしめて「いつもありがとう、愛してるよ」と囁けば、「私も!」と照れながらぎゅっと抱きしめ返してくれる。ああ、あけみさんと結婚できて、僕は幸せものだ。

「あ、そうだ!白さん、見てほしいものがあるの」
 あけみさんお手製の夕食を食べながら二人きりの団らんを楽しんでいると、向かいに座った彼女がおずおずと一枚の紙を差し出してくる。箸を置いて読んでみると、それは町内会主催のダンスパーティーイベントのお知らせだった。日没から開始し夜明けまで種族関係なく踊り明かし、吸血鬼と人間の親睦を図るものらしい。
「お買物していたら駅前で配っていたの、すっごく楽しそうじゃない?連休中の日曜日の夜だし、白さんと一緒に行けたら楽しそうだなぁ……って!あ、でも最近お仕事忙しいみたいだから、疲れていたら無理はしてほしくないのだけど……
 あけみさんからデートに誘ってくれるなんて。照れくささと同時にじんわりと温かい気持ちが胸に広がっていき、仕事の疲れが一瞬で吹き飛んだ。もちろん行こうと返事をすると、あけみさんの顔がぱあっと明るくなる。
「わあ、ありがとう白さん!そうそう、このパーティーにはももちゃんもお仕事で行くみたいでね……
 桃の仕事ぶりも間近で見られるのか、まるで授業参観に行くみたいでますます楽しみだ。「なんだか授業参観に行った時を思い出すわね!」と同じことをあけみさんが言うものだから思わず吹き出してしまうと、彼女はくすくすと笑いだす。僕たちの笑い声と一緒に、窓際に飾られた花々も揺れていた。……二十日が待ち遠しいな。