ここ
2025-12-30 14:55:27
13160文字
Public 小説
 

【リバリン】百年の亡霊🔞

<2025.8.10初出>
リバリン。ブレワイでメドー解放後。100年前に付き合ってた設定。


 2人の間に落ちた、リンクにとって苦しいだけの沈黙を破ったのは、唐突に叫ばれたリーバルの「ああもう!」と言う声だった。
「違うよ、さっきのは八つ当たりだ」
……?」
「見苦しいのは僕の方だ」
 リーバルが頭をガシガシとかきながら吐き捨てる。
「君が風のカースガノンを倒してくれてから、君のことをずっと見てた。君はかつての自分が完璧な超人だったとでも思っているみたいだけどね、そんな大層なものじゃなかったよ。普通に怪我はするし、強敵には手こずるし、調子が悪い時だってあった。僕が窮地を救ったことも何度もね」
……そうなんだ」
「そうさ! 嬉しいことがあれば喜んだし、辛いことや苦しいことがあれば悲しんだ。それを互いに激励もしたし、慰め合ったりもしたよ。あの頃は」
「リーバルも?」
 リンクだけではなく、リーバルもリンクに弱音を吐いたり、慰められたりしたのだろうか。一方的に助けられていたのではなく、リーバルにとってもリンクは救いになっていたのだろうか。短い問いに込められたリンクの気持ちを読み取ったかのように、リーバルがゆっくりと一度瞬きをする。
……ああ。君が思い出した通り、君と僕はそういうことをする関係だったしね。あの頃ちゃんと言葉にしたことはなかったけど、」
 一度言葉を切ったリーバルが、ポツリとこぼすように「互いに、互いを特別に思っていたんだよ」と呟く。
「それなのに今の僕はどうだい。君を助けることはおろか、触れることもできないんだ。できることはただ、必死にもがく君を眺めることだけで。風のカースガノンからは解放されたけれど、もう君を支えることも慰めることもできないんだって改めて思い知らされて、悔しくて気がふれそうだった」
 リーバルの表情は、先ほどまでのリンクのように自嘲に歪んでいた。リーバルの苦しい吐露は、それを聞いているリンクにも痛みをもたらした。しかしそれを一言でも聞き漏らしたくなくて、リンクは静かに耳を傾ける。
「いや、実際に気がおかしくなっていたのかもね。君のところに行けないなら、世界を呪ってやるだなんて思ってたんだから。そしたらどういうわけか、気づいたらあの馬宿にいる君のところに行ってたのさ。それだけじゃなくて、なんでか君にも触ることができて……
 リーバルが気まずそうに視線を落とす。
「最初は単に君に怪我がないかとかを確認するだけのつもりだったのに、一度触れたら我慢ができなかったんだ。悪かったよ」
 その言葉に嘘はないのだろうということはすぐにわかった。見えない手は最初、リンクに優しく触れるだけだったのだから。リンクがリーバルの名を呼んで、そう望んだからリーバルもそれに応えたのだ。
「ううん。俺、嬉しかったよ」
 リーバルの心情を反映したようにゆら、と揺らぐリーバルの姿をしっかりと見つめて、リンクは嬉しかったよ、と繰り返す。
「リーバル、今も触れるのかな」
「さぁね、どうだろう」
「触れるなら、触ってもいい?」
「君さぁ、それがどういう意味かわかって言ってる?」
 揺らぐ青白い光の玉に囲まれたリーバルが、リンクの真意を探るように目をそばめる。
 かつてリーバルと愛し合った記憶の欠片は、リンクにとって辛いことの多い過去の記憶の中で暖かく光を放っていた。それをもっと知りたい。思い出したい。今のこの身体にも刻みつけたい。それが今は失われてしまった温もりだと後で悔いることになっても。
「うん。わかって言ってる」
 リンクの答えに、リーバルは何も言わなかった。自分に向かって伸ばされるリンクの指先をただ黙って見つめている。
「あ……
 リンクの指先が、半透明に揺らめくリーバルの翼に触れた。艶やかな羽毛の、しっかりとした感触がそこにある。触れられる。
「リーバ、」
 リーバル、とリンクが名を呼び切る前に、リンクの身体はリーバルによって引き寄せられていた。ふわふわとした羽毛に覆われた力強い腕に、息が詰まりそうなほど強く抱きしめられる。かつて何度も熱を分かち合った、懐かしい腕の中。
「まだ、君に触れられる……!」
 噛み締めるように吐かれたリーバルの言葉は、かすかに震えていた。その様子に、リンクはリーバルもリンクと同じなのだということを知った。リーバルだってあの晩、かつて失った温もりを手にしたのだ。ハイリアの女神の気まぐれのようなその奇跡がまだ続いていて欲しい。そう期待しながらも、失う悲しみと絶望を恐れている。
 リンクを抱きしめながらも声と同じように震えているリーバルの身体を、リンクも同じように抱きしめた。目で、肌で、匂いで感じるリーバルそのものに、あの夜からリンクの身体の中に燻っていた熱が、じわり、とぶり返してくる。
「触れる、リーバル」
「そうだね」
「もっと、触りたい」
「本当にいいの」
「うん」
「僕にああされるまで、僕たちの関係も忘れてたのに?」
「うん」
……触れられるのは、きっと今だけだよ。それでもいいの」
 こんな奇跡は何度も起きない。一度深く触れてしまえば、喪失感に苦しむことになる。リーバルは、この先もひとりで進み続けなければならないリンクを案じてそう言外に言っている。
 でも、それでも良かった。リーバルの腕の中に抱きしめられながら、リンクはリーバルの嘴に頬を擦り寄せた。あの馬宿の夜に触れることは叶わなかった、柔らかい羽毛とは違う硬くスベスベとした感触に、きっとかつての自分もそうしたようにそっと唇を押し当てる。
「今だけでもいい。リーバルのこと、もう一度ちゃんと感じたい」
「わかったよ」
 リーバルは短く答えると、それ以上は何も言わなかった。ただ、リンクを腕に抱え込んでメドーの中へと引き摺り込んだ。

 メドーはリンクが内部を攻略した時とは違い、ハイラル城の厄災ガノンに向けて照準を合わせるためにその巨体を立たせている。必然、内部も斜めに傾いており、平らになっている場所はほとんどなかった。リーバルとリーバルに抱えられたリンクはそのわずかな場所へと降り立ち、明かりもなくほの暗いメドーの中で時間を惜しむかのように忙しなく互いの体をまさぐり合った。
「どこも、怪我は、してないよね……っ」
「んっ、大丈夫……、あ、ぅ」
 狭い上に敷くものも何もない硬い床の上で、リンクとリーバルは向かい合って座った状態で互いの存在を確かめるように身体中を触れ合わせる。姿形を確かめたい。熱を感じたい。ずっと触っていたい。早く繋がりたい。相反する気持ちがせめぎ合って、頭の中が煮詰めすぎたスープのようにドロドロになる。
「ここ、触るよ……!」
「あ、ぁあっ」
 服を脱ぐのももどかしく、下半身だけくつろがせたリンクの秘所にリーバルの指先が触れた。無論、潤滑油なんてものはない。リンクが手渡した傷薬の滑りを助けに、リーバルの指がリンクの中に潜り込んでくる。性急なのはお互い様だった。突然の侵入者に反射的に締め付けてしまう後孔を緩めるように、リンクはリーバルの肩に押しつけた口からふ、ふ、と短く息を吐いて力を抜くように努める。少しくらいそこが切れたって構わなかった。暴かれる痛みすら、リーバルに与えられているのだと思うと悦楽に感じられ、勃起したリンク自身からはだらしなく先走りが溢れていた。スリットからはみ出るほどに勃起したリーバルのものも同じように濡れていて、それが身体の動きに合わせてリンクのものと擦れ合うのがたまらなく気持ち良い。半透明だったリーバルの身体は、今や生前のそれと変わらない様子になっていた。触れ合うほどに存在感を増すリーバルの姿にどうしようもなく感情が昂り、リーバルのトサカや三つ編み、嘴に何度も唇を這わせる。
「もう、いいよね?」
「んあっ」
 ぬぽ、と湿った音を立ててリーバルの指が引き抜かれ、リンクは身を震わせた。リーバルはリンクの身体を軽々と抱え上げると、自身の膝の上へと乗せた。埋まっていた質量を失ってひくつくリンクの後孔に、指よりもずっと熱く滾ったものが当てられる。
「挿れるからね……っ」
「は、んぅ……ぁあっ、あああっ!」
 獰猛に勃ち上がったリーバル自身の上に腰を落とされ、ズブズブと一気に貫かれる。あの新月の夜からずっと求めていた熱量をやっと与えられて、リンクは挿れられた瞬間に達していた。リンクの吐き出した白濁で、互いの腹がベッタリと汚れる。
「おいおい、こんな身体でよく一人で過ごせたね?」
 それとも誰かに慰めてもらってたの、と嘴の端を歪めるリーバルの言葉を必死に否定する。
「ちが、っリーバルだから……っ、」
 あざが残りそうなほどの強さで腰を掴まれ、達した衝撃で痙攣する内壁を無遠慮に擦り上げられる。その苦しいほどの快楽に舌を縺れさせながらも、リンクは必死に言葉を紡いだ。こんな風にされたいのも、されて嬉しいと思うのもリーバルだけなのだ。嬌声混じりの、ほとんど文章にならない途切れ途切れの言葉でどれほど伝わっているのかわからない。それでも気持ちをリーバルに伝えたくて、何度も繰り返す。
「リ、バル、ぅッ、リーバル……っ」
「わかったから、もう黙って」
「ああっ」
 リーバルはなぜか苦しげに顔を歪めると、それ以上リンクに言葉を紡がせないようにするかのようにリンクを激しく揺さぶった。リンクはリーバルの肩に回した腕が解けないようにしがみつくのがやっとだった。リーバルのものがリンクの中から抜け落ちてしまうかと思うほどに引かれ、次の瞬間に最奥を目掛けて思い切り突き立てられる。リーバルの腰骨がリンクの尻にぶつかる程に深く穿たれ、リンクはたまらずに嬌声をあげながら背を弓なりにしならせた。快楽にとろけた声がメドーの中に反響する。
「ああ゛〜〜〜っ」
「はぁっ、はぁっ……、皮肉なもんだよね……っ!」
 頭を振り乱して悶えるリンクの顎を掴み、自身の方へ引き寄せながらリーバルがアハハと笑った。
「っ、リーバル……?」
「ほら、こっちを向きなよリンク。生きている時はこんな暗がりじゃどうしたって見れなかった君の顔が、こんな身体になってやっとよく見えるんだ」
「あ、やっ、……あぅ」
 鳥に近い目を持つリト族は暗がりでは目が利かないのだと聞いたことがある。しかし今のリーバルは肉体から解放されたためか、薄暗いメドーの中でもリンクの顔がはっきりと見えているようだった。羞恥に顔を背けようとしても、リーバルがそれを許してくれない。体液にまみれ、発情し快楽に歪んだ顔にリーバルの視線が這うのを感じる。リーバルはあの頃見れなかった姿を目に焼き付けるようにひたすらにリンクのことを見つめていた。欲望の色に濡れた翡翠の瞳が、リンクだけを写している。その事実に、リンクは脳髄が焼かれるような思いだった。肉体的にも精神的にもリーバルに攻め立てられ、リンクの身体が再び限界を迎える。
「あぁっ、イくっ、リーバル、も、イく……っ」
「いいよ、イきなよ。見ててあげるからさぁ!」
 興奮を抑え切れないようにリーバルが叫ぶ。
「ぁあ゛ーーーーっ!」
 ばちゅん、と一際強く腰を押し付けられたのに合わせてリンクは絶頂した。肌を焼くように注がれるリーバルの視線さえ、今や快楽に感じていた。頭のてっぺんからつま先まで稲妻のように快感が走り、絶頂から降りてくることができない。腸壁がギュルルとうねり、最奥まで侵入したリーバルを締め付ける。
「ああ、あああっ……!」
「うっ……
 リーバルが呻き、リンクの中に精を注ぎ込んだ。咥え込んだリーバル自身がどくどくと脈動する、そのわずかな刺激にもリンクは肌を震わせて喘いだ。リーバルはそんなリンクの身体を少しも離したくないとばかりに強く抱き込み、精液を塗り込むようにグリグリと腰を押し付けた。まるでリーバル自身を深くリンクの中に刻みつけたいとでも言っているかのようだった。
「はぁ、はぁ……
「あ、ぅ……、んぅ」
 甘く痺れる絶頂の余韻の中、荒い息のままどちらともなく無言で舌を絡ませた。涙と鼻水混じりの唾液を啜りあう。気づけば、リーバルの身体はまた元の半透明のものへと戻りかけているようだった。少しずつ色を失い、薄れていく熱に唇が震える。信じたくなかった。これが幻影だなんて。リーバルの証を注がれた腹の中はこんなにも熱いのに。リーバルの息が、触れ合っていた肌の感覚が、薄いヴェールを隔てたように曖昧になってくる。それを少しもとりこぼしたくなくて、リンクはリーバルの身体を掻き抱いた。

……こんな風に、君を囚えたいわけじゃないのに」
「リーバル……?」
 リンクに抱き締められたリーバルから発せられた声は、聞いたことがないほど細く震えていた。狼狽えたリンクがリーバルの顔を覗き込もうとするのを拒むように、リーバルがより強くリンクの肩に顔を押し付ける。
「君の心を未練と後悔で絡めとるような、惨めなことがしたいわけじゃないのに」
「わかってるよ。俺が望んだことだから」
 リーバルが涙を見せないのに、リンクが泣くわけにはいかなかった。否、リンクには泣く資格などなかった。誰のせいで、リーバルはこんなにも苦しんでいるんだ。鼻の奥がツンと痛むのを堪え、ぼんやりと発光し感触が曖昧になったリーバルの頭に両手を回して抱きしめる。
……リンク、必ずあいつを倒してくれ」
 ──そして僕を終わらせてくれ。
 言葉にならないリーバルの願いが、リーバルの身体を通して伝わってくる。
……約束する」
 いつも自信に満ちていたリーバルの声に、ドロリとした怨嗟のようなものがまとわりついていることに気がつかないふりをして、リンクは何度も頷いた。必ず厄災を伐つよ。100年前の過ちを正すよ。自分の成すべきことを成して、君を、皆を苦しみから解放するよ。それがリーバルとの本当の別れになるとしても。そんな決意を込めたリンクの答えに、リンクを抱きしめるリーバルの翼が力を込めるように動くのが視界の端に映る。
 けれど、その翼の力強さを身に受けることはもうできなかった。完全に霊体へと戻ったリーバルの輪郭がぼやける。リーバルの顔が当たる肩のあたりにはじわりと湿った熱の名残りをまだ感じるのに、リンクのシャツにはシミの一つもできないことが途方もなく悲しかった。

<終わり>