nozomu_HK
2025-12-25 16:56:42
6757文字
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初めての贈り物は共に過ごす時間を(デーヴェル)

クリスマスプレゼントにデートするデーヴェルの話

「もうすぐクリスマスだね」

「もうそんな時期か。なのはもう何貰うか決めたのか?」

星穹列車のラウンジ。穹となのかの会話が、傍のソファに座っていたサンデーの耳に届く

盗み聞きするつもりも、口を挟むつもりもなかったが、なのかの発した聞き慣れない言葉が気になってしまった

「クリスマス?」

会話外のサンデーから疑問が飛んで来たので、二人は驚いてサンデーに視線を向けられる

やってしまったと思った。なんでも気になるのは自分の悪い所だ

きっと引かれてしまっただろう。人の会話を勝手に聞くなんてと怒られてしまうかもしれない

サンデーは慌てて弁明しようとするが、その前に穹が口を開いた

「あ、そうか。サンデーは知らないのか」

「サンデーが列車に来たのってクリスマスが終わった後だったもんね」

穹となのかは顔を見合せてうんうんと頷いている。怒っている訳ではないようだ。ほっと胸を撫で下ろす

なのかは再びサンデーを見ると怒気など一切含まれていないと分かる明るい声で教えてくれる

「クリスマスっていうのはヨウおじちゃんの故郷のイベントなんだって」

そう言われて合点がいった

なるほど。ヴェルトの故郷は遠く離れた観測されていない星だと聞く。存在が知られていない星独自の風習ならサンデーが知らないのも無理はない

「それで、クリスマスは何をする日なのですか?」

「皆で集まってパーティをするの。あ、あとクリスマスと言えば.....」

「「サンタさん!」」

穹となのかが弾むような声で言った

「サンタさん、とは?」

また知らない単語が飛び出したのでサンデーは首を傾げる

「クリスマスの時期にツリーを飾るんだけど、サンタさんっていうおじいさんがその下にプレゼントを置いて行ってくれるんだって」

「なるほど...?」

穹はやや興奮気味に教えてくれるが、サンデーは納得していかず、首を捻る

「あの....よろしいですか?」

「なんだ?」

「そのサンタさん?という方は何故そのような事をするのでしょう?」

「そういえばなんでなんだろうな。なの、どうしてなんだ?」

「えっ!?そんなのウチだって知らないよ!」

「それにいくら善行とは言え、勝手に住居に入るのは犯罪なのでは?」

なぜなぜ期の子どものように矢継ぎ早に質問を浴びせられ、穹となのかはお手上げ状態だった

そもそも二人だって聞き齧っただけで詳しく知らないのだ。それにプレゼントを貰えることしか重要視していなかったのでサンデーのように疑問にすら思わなかった

そんな時だ。ラウンジに繋がるドアが開いた。やって来たのは今一番求めていたヴェルトだ

「皆で集まってどうしたんだ?」

「ヨウおじちゃん!」

「助けて!サンデーを納得させて!」

穹となのかはヴェルトはこれ幸いと縋り付く

突然、二人に左右から泣き疲れたヴェルトは、何が何だか分からず困った表情でサンデーに視線を向けた

「一体何があったんだ?」

ヴェルトは穹となのかの頭に手をやり、慰めながら尋ねる

けれどすぐに返答はなかった。サンデーの瞳が、意識が、二人の頭を撫でるヴェルトに向いてしまったからだ

──羨ましい

ついそう思ってしまう。自分はヴェルトに触れることすら憚られるのに、二人は彼の服にシワが出来るのも気にせず遠慮なしに縋り付き、あまつさえヴェルトに頭を撫でてもらっている

「サンデーさん?」

ヴェルトに声を掛けられ、はっと我に返る。何を考えているのだろうか。そもそも今の状況は自分が二人を困らせてしまったから生まれたのだ。羨ましいも何もあるものか

「実は──」

サンデーは申し訳なさそうに眉を下げてぽつ、ぽつと少しずつ話し始めた

「──なるほど」

事情を把握したヴェルトは軽く頷く。その表情はどこか嬉しげだった

「そういう事だったのか。サンデーさんにはまだ話してなかったな。すまない」

決して謝るようなことではないはずなのに、彼は躊躇わずにそう言う

「クリスマスは俺の故郷で行われる行事だ。地域によっては恋人と過ごしたりするんだが、俺の育った所では家族とパーティをして過ごす日だった。この日ばかりは殆どの仕事が休みになるんだ」

「そうなのですか?」

「あぁ。レストランなんかも休むことが多い」

「え!?そうなんだ。不便そう......」

「そうでもないぞ。その分家族とゆっくり家で過ごせるからな。それに仕事で普段取れない家族の時間を得るためのものでもある」

「それもそっか」

なのかは苦虫を噛み潰したような顔で言うが、ヴェルトが説明するとすぐに納得したようだった

さて、とヴェルトは再びサンデーに向き直る

「サンタというのは赤い衣服のおじいさんで、クリスマス前日の晩に子どもにプレゼントを持ってくるんだ。サンタが来ることは皆知っていて歓迎しているから、罪にはならない」

「そうなのですね」

「あぁ。そして、何故そんなことをするのかだが、俺にも分からないんだ」

「えっ」

「ヨウおじちゃんでも分からないことがあるんだ」

「俺をなんだと思っているんだ?分からないことくらいあるさ」

なのかが驚いて言うと、ヴェルトは肩を竦めて苦笑混じりにそう返した

口にしなかっただけで穹とサンデーも同じことを思っていた。彼がこんなにもあっさりと分からないと言うと思わなかったのだ

目を丸くする二人を横目にヴェルトは続ける

「そんな深い意味はないと俺は思ってる。一年中いい子にしていたご褒美、と言ったところだろう」

「ふぅん.....」

穹はあまり納得していなさそうだったが、サンデーにとっては意義があるものだった。少なくとも、彼の中にはサンタという存在がしっかりと形作って刻まれるだろう

「それでしたら何故列車に?ヴェルトさんの故郷の方なのでしょう?」

「俺には息子がいるからな。少しツテがあるんだ」

ヴェルトはそう言うとにやりといたずら子っぽく笑った

「一応言うが列車の外には内緒だからな。遠い星にまでプレゼントを届けないといけなくなったら、可哀想だろう?」

「分かった!」

「それで、もう欲しいものは決めたのか?」

「俺ゲーム!」

「ウチはこの服!好きなブランドの新作ですっごく可愛いの!」

穹となのかは待ってましたと言わんばかりに口々に欲しいものを言う。微笑ましい光景だ

スマホを取りだし、欲しいものの画像を見せる二人を制しながら、ヴェルトはサンデーに視線を向けた

「サンデーさんはどうするんだ?」

「ワタシ、ですか?」

「あぁ。なんでもいいぞ。まだ時間はあるからゆっくり考えてくれ」

「分かりました」

まさか自分にも聞かれるとは思っていなかった。思わず返事をするが欲しいものなど思いつかない。遠慮などではなく本当にないのだ

幼い頃であれば違ったであろう。けれど、オーク家当主として抑圧されて育ったサンデーは自分の欲しい物がなんなのか、分からなくなっていた

なのかのように集めている物も無ければ、穹のようにこれといった趣味もない

すっかり黙り込んでしまったサンデーに、ヴェルトが助言する

「別に形あるものである必要はない。こういったことがしたい。でもいいんだ。大事なのはプレゼントを送るという行為そのものだからな」

「したい、こと」

一つだけある。けれど、それを口にしようとして、一度は開いた口を閉じる

果たして言っていいのだろうか。困らせてしまわないだろうか。やはり、何も言わない方が──

「サンデーさん」

ヴェルトの真剣味を帯びた声が、やけに大きく聞こえた

「ヴェルト、さん」

「遠慮しなくていいんだ。もう誰も君の欲しいものを否定したりしない。君の気持ちを聞かせてくれ」

どこまでもずるい人だ。いつものように押し殺そうとした感情を見つけて優しく救ってくれる

「.....ワタシは」

覚悟を決める。ヴェルトの瞳を見つめて、真っ直ぐに想いを口にする

「ヴェルトさんの時間が欲しいです」

「.....俺の?」

ヴェルトは想定外だったのかぱちりと瞬いた。言ってしまってから恥ずかしさが襲ってくる

なんてことを口走ってしまったのだろうか。ヴェルトに迷惑をかけるようなことはしたくなかったのに

「今のは聞かなかったことにしてください......!」

サンデーは顔を背ける。ほんの少しの照れ隠しと、勝手に拒絶された気になって涙に濡れた瞳を隠す為に

「サンデーさん」

名前を呼ばれて肩が跳ねる。怖い。否定されるのが。何を言っているのかと叱られるのが恐ろしくて、ぎゅっと目を瞑った

「喜んで」

「え.....」

けれど聞こえたのは優しく暖かい声で、驚いたサンデーの瞳に映ったのは慈愛に満ち溢れたヴェルトの笑顔だった

「よろしい、のですか?」

「勿論。たださっきも言ったようにクリスマスは家族と過ごす日だ。パーティもあるから前日でいいか?」

「も、ちろんです」

ヴェルトは申し訳なさそうに言うが、サンデーは了承を得られた嬉しさで、それどころではなかった。果てしない喜びで声が上擦ってしまう程には



*****



「ここが、ベロブルグ......」

約束の日、サンデーが二人っきりで出掛けてみたいと言ったのでそうすることにした。ベロブルグを提案したのはヴェルトだ。ついでに買い出しも頼まれた

「俺もこの星に来るのは初めてだ」

そう言うヴェルトは心做しか嬉しそうだ。メガネの奥の瞳がらんらんと輝いているのが分かる

正しく少年のようなヴェルトに笑みが零れる。かくいうサンデーも胸の高鳴りを抑えきれなかった

身を凍らす冷たい空気も、規則正しく並べられた石畳の地面も、道路を平然と走る路面電車も、全てが見たことがないものだった。執拗いほど心臓がうるさいのはヴェルトが隣にいるからではないと言い聞かせる

「行こうか」

「っ.....!」

はぐれないようにとヴェルトはサンデーと手を繋ぐ。もうそれだけでおかしくなってしまいそうだった。顔から火が出そうなほど赤くなった顔を羽で隠しながらヴェルトが振り返らないことを願った

「これで全部だな」

買い出しは案外早く終わった。ヴェルトは紙袋をベンチに置いて座るとサンデーを隣に誘導した

「しつれい、します」

もうサンデーの心臓は破裂寸前だった

恥ずかしさからヴェルトから目を逸らす。その先にはアパレル店のショーウィンドウがあり、映ったそれに思わず目を奪われる

「.....マフラーか?」

サンデーの視線に気付いたヴェルトが言う

ショーウィンドウにあったのはダークグレーのマフラーだ。偶然にもヴェルトの物と似ているそれに、サンデーは釘付けになっていた

「サンデーさん」

ヴェルトに呼ばれ、振り返ろうとすると、暖かいものが首元に当てられた。見るとそれはヴェルトのマフラーだった

「あ、あの、ヴェルトさん、これは」

「寒かったんだろう?」

「そういうことでは....!いえ、ありがとうございます」

大した防寒もせずに来てしまったので寒かったと思ったようだった

サンデーは絶えずドキドキしていたので寧ろ暑いくらいだったが、ヴェルトと同じマフラーだから見ていたなどと口が裂けても言えず、サンデーは暖かさを噛み締めるようにマフラーをぎゅっと握り締めた

それから二人の間を吹き抜ける風の音だけが響いた。暫くした後にふとヴェルトが口を開いた

「......ありがとう」

脈略もなく告げられた感謝にサンデーは首を傾げる

ヴェルトの頬は寒さのせいか赤かった

「あの.....ヴェルトさん。意味が分からないのですが」

「あぁ。すまない。.....先日、君がサンタさんのことを聞いたのを思い出したんだ」

サンデーはますます首を傾げる。何故それが感謝に繋がるのだろうか。礼を言うべきは教えてもらったこちらだというのに

「嬉しかったんだ」

「嬉しかった?」

ヴェルトはふわりと微笑んだ

過去を懐かしむ、悲しくも暖かい表情だった

「俺も昔、君と同じ質問をして父を困らせた事があるんだ」

「ヴェルトさんも?」

「あぁ」

ヴェルトは恥ずかしげに苦笑した

あれは確か六才の頃だった。サンデーと同じ疑問を持った彼は、それを父に尋ねた

ヴェルトの父親はユーモアに溢れた口達者な人であったが、同時に嘘が苦手だった。サンタの正体を知っていることと、想定外の質問で上手く答えることが出来なかった

そんな彼に助け舟を出したのが母だった

彼女は柔らかく微笑むと、ヴェルトと目線を合わせるために屈んで、一つずつ丁寧に説明してくれた

考古学者だった母は歴史も交えて教えてくれた事をよく思えている

両親と会えなくなってから何十年も経ってしまえば、忘れてしまうことも多い。年に十数回しか会えなかったとあれば尚更だ

けれど、それははっきりと覚えている

そのはずだったのに

「俺は思い出せなかったんだ」

忘れていた訳ではない。確かに記憶にはあったのに、思い出せなかった。何度もクリスマスを送っているのに、掠りもしなかった

「君のおかげで思い出せたんだ。ありがとう」

「いえ、ワタシはそんなつもりでは.....」

サンデーはただ疑問を口にしただけだ。感謝されるのはお門違いだろうと謙遜するが、ヴェルトは譲らない

もう一度ありがとう。と笑ってサンデーの頭を撫でる

もうダメだった。キャパオーバーだ。このままではあらぬ姿を晒してしまう。サンデーは自分を律する為に立ち上がった

「っ〜〜~~!!もう帰りましょう!皆さん待っています!」

サンデーは礼と共に寸分乱れず畳んだヴェルトのマフラーを返すと立ち上がる

「あ、あぁ。....サンデーさん。すまないが先に行っててくれないか?」

買い忘れた物があると言うのでサンデーは荷物を預かって先に列車に戻った

訪れたのがベロブルグで良かった心底思う。どれだけ顔が赤くても寒さのせいだと誤魔化せるから