ugmm_
2025-12-24 22:24:55
4416文字
Public 現パロ
 

冷たくて甘いぱちぱち

現パロ。
プレゼントを買いに行くハンニバルとマハルバル、引率のハスドゥルバルの短いやつ。ハミハスの一場面だったのを没にしたのでアイスを付け足しました。



「なんか、顔色悪くないですか」
 躊躇いがちに言うマハルバルを見下ろして、ハスドゥルバルは笑みを浮かべた。
 その笑みに訊くんじゃなかったと顔を顰める子供は、早々に選び終えたメッセージカードを手にしている。プレゼントを選び終えた彼らへの、カードを添えるとずっとよくなるだろうというハスドゥルバルの助言を容れたハンニバルに付き合ってのことだった。
 ハンニバルはまだ棚の前で吟味を続けており、それを待つふたりは手持ち無沙汰だった。こういうとき口出しをすると嫌がる年頃なのだ。
 ショッピングモールの雑貨屋では浮ついたクリスマスソングが延々と流れていた。
「床で寝たら風邪を引いてね」
「なんで床……? じゃあ、ハミルカル様と喧嘩したっていうのは関係ない?」
「ヒミルコ殿に事情を聞き出すよう言われたかい、マハルバル」
 一度目線をどこか遠くに飛ばしてから、マハルバルは開き直った顔で頷く。
「言われました」
「そのカードにこうお書き、詮索好きの諂い屋が忠臣と呼ばれた試しはない」
「書きます」
 本当に書きはしないだろうに大真面目に頷く子供は、瞬きの間ほどしかハンニバルから目を離さなかった。父親による極端な教育の成果か、彼自身に思うところがあるのか、犬の仔のようにいつもハンニバルの後ろをついて回っている。
「君はご両親に何を買ったの」
「あいつが選んだやつ真似しました。ハンニバルからってことにしようかな、ハミルカル様が毎年何かくれるのすごく嬉しそうだし」
……ハンニバルはヒミルコ殿にお礼を言われても困るんじゃないか」
「あ、そっか」
 ハミルカルはこの特に思うところのない行事では身近な部下たち、特にカルタゴを知る者たちには自ら選んだ贈り物をし、その家族の分まで持たせる習慣だった。マハルバルにも、それこそ生まれた年から贈り物がされていた。
 それは常にハンニバルと揃いだとか、一緒に遊べるようにだとか、そういう基準で選ばれた贈り物だった。ヒミルコとその妻が「今度は若君と同い年だ」と喜んで首の据わらない乳飲み子を見せに来たのがよほど嬉しかったのだろう。こうした環境が、幼子にこんな物言いをさせるのだが。
 吟味を終えてこちらにやってきたハンニバルと、マハルバルの手からメッセージカードを取り上げる。すぐに察したハンニバルの伸ばす手をいなして財布と共にそばに控えていた男に渡すと、ムッとした顔でその男がレジに向かうのを見送った。
「自分で買うのに」
「ハンニバルがお金持ちなのは知ってるけど、カードは私が勧めたんだから」
 あまり納得していない様子だったが、会計が済まされてしまうとそれ以上は言い立てなかった。ラッピングされたプレゼントともに紙袋にまとめて大事そうに抱える。子供のお小遣いにしてはずっしりとした財布を持って選んだ贈り物については、絶対に口外しない約束になっていた。
「少し休憩して帰ろうか」
 ちょうどおやつどきだからか子供たちは素直に頷いたが、どちらかと言えばハスドゥルバルの方が慣れない空気に疲れていた。ショッピングモールは休日とあって家族連れで混み合っている。ハスドゥルバルは日頃利用することのない施設だったが、子供たちの懐具合からすればちょうどいい店が揃っているだろうとヒミルコの勧めがあったのだ。
 店を出た彼らの後ろを、周囲からはついてきているように見えない距離で続くのは、この日は先ほどの男を含めた二名だった。どちらも自分たちが守る幼子が何者なのかを知っている。ハミルカルが私的に雇ういわば従者たちの中には、親子の指揮下にあった兵士も少なくなかった。戦いに明け暮れて社会生活など馴染み薄く、その記憶のせいでこの時代に適応できない者たちを拾い、居場所を与えていると言ってもよい。
 ハンニバルは彼らに気がついているが振り返らなかった。出かける時に必ず人がつけられること、彼らをあってないものと扱うことに、ハンニバルやその姉弟たちは慣れきっている。
「ハンニバル、マハルバルと手を繋いで」
「なんで」
「しっかり者のマハルバルに手を繋いでもらっていないと危なっかしいから」
「父上と言ってることが逆だ」
 そう言いながらもマハルバルの手を取るあたり、別にどちらでも構わないのだろう。
 しかしこういうところにはどんな店があるのだか、よく知らないのでふたりに選ばせることにすると、途端に目が輝きを増した。一階に行くと言ってエスカレーターへ小走りに向かっていく。
 あそこ、とマハルバルが指さしたのは青とピンクの看板のアイスクリーム屋だった。目をつけていたらしい。
「好きな店なの?」
「行ったことないんだけどなんかあの……ぱちぱちするアイスがあって……色がすごいから奥様が食べさせたがらないんですけど、そしたらうちの親はハンニバルが食べてないものは食うなって言って」
 どんな育て方だとハスドゥルバルでさえ思ったが、当人に悲壮感がないのでそうと頷く。
「その話をせずにねだったほうが食べられる確率は上がるけどね」
「あっ」
「いいよ、奥様には怒られてあげる」
 エスカレーターを降りてまた小走りに、おそらく大人に走るなと言われないぎりぎりの速さで店へ向かう。追いつくと背伸びをしてショーケースを覗き込んでああだこうだと真剣に相談を始めていた。
 その後ろから見てみれば、ぱちぱちするアイスというのは、確かに夫人が嫌がりそうな色をしていた。ミントグリーンのアイスに真っ赤なチョコレートが混ぜ込まれて、お世辞にも体によさそうとは言えない。
「おれがこれ頼むから分けたらいいじゃん、なんか好きなの選べよ」
「マハルバルはどれがいい」
「これとこれ、あとこれ」
「赤いのばっかりだ、ぜんぶ同じじゃないか」
「名前違うんだから味も違うだろ」
 他にショーケースを見ている客はおらず微笑ましげな店員の目線を受けながらいつまでも悩んでもらって構わなかったが、それぞれひとつだけを選ぼうとしている様子にハスドゥルバルは首を傾げた。
「別に好きなだけ頼めばいいんだよ」
……好きなだけって? トリプルにしていいってこと?」
 マハルバルの指さしたショーケースの上の表示を見るに、いろいろな頼み方があるらしい。三つに絞るにしても難しい選択を迫られた顔をしているが、ちょうどいいものが目に止まった。
 ハスドゥルバルが声をかけるとアルバイトらしい店員が裏返った声を出した。
「このバラエティボックスを」
「あっ、ぜ、全種類の方で」
「はい」
「少々お時間をいただきますが」
 頷くと慌てた様子で準備を始める店員を子供たちは何事かと見守っていたが、額を寄せてひそひそと話し合い始めた。
「バラエティボックスってなに」
「全種類の……?」
「ぜんぶって何個!?」
 看板に書いてある数字である。
 信じられない……と顔に書いてある幼い顔に、ハスドゥルバルはどうしてそうも深刻なのだと思った。ハンニバルがなぜか諭すようにショーケースを指さして「食べきれないと思う」と首を振った。
「誰かに手伝ってって言えば食べてくれるよ」
「誰かって誰だ」
「そのあたりにいる人」
 ますます混乱を深める子供たちにも、せっせとアイスを掬う店員の手を今更止めるわけにいかないとは分かる。大きな箱にカップが並べられていくのをなすすべなく見守る横顔は、しかしと言うかやはりと言うか、色とりどりのアイスクリームがずらりと並ぶのを前にすると、だんだんと好奇心と楽しさに染まっていく。
 一仕事終えた達成感に満ちた店員に見送られて店を出た時には、ハンニバルとマハルバルが大きな袋の持ち手を片方ずつ握っていた。
「姉上たちにばれたら木に吊るされる」
「でもこれ持って帰っても叱られるだろ」
 ごみごみとしたフードコートに席を見つけ、テーブルに箱を置いた彼らは目立っていたが、ふたりともそれは気にしないで箱を開けた。明らかに大人数を想定した数のスプーンが添えられているのにこちらを見上げ、何も言わずにひとつずつ手に取る。
 従者のひとりに温かい飲み物を買うよう指示して、ハスドゥルバルは例のぱちぱちするアイスから取り掛かる子供たちを眺めた。期待通りだったらしく笑い合って、サンタが来なくなるなどと、そんなことあるはずもないと思っている口ぶりだった。
 幼い頃に、ショーケースから好きなケーキを選ぶよう言われて「こんなにたくさんから選べない」と泣き真似をすると、父が同じことをした。もちろんハスドゥルバルはひとつしか食べなかったし、家族で食べきれなかった分は使用人にでも渡っていったのだろうけれど。
 従者の買ってきたひどい味の紅茶に顔を顰めていると、ハンニバルが新しいスプーンにアイスを掬ってハスドゥルバルに差し出した。
「これが好きだと思う」
 受け取って口に含むと、林檎のフレーバーらしい。カラメルの苦味があって確かに好きな部類の味だった。
「美味しい。ハンニバルはなんでも分かるんだね」
 頭を撫でると嫌そうな顔になりながらもされるがままだった。一応はここに連れてきてもらった恩を感じているらしい。
 全ての味を一周し、好きな味を集中的に掘り進めたのち、当然だが三分の二程を残して子供たちの手は完全に止まった。ハスドゥルバルは周囲をざっと見まわし、先ほどからこちらを窺っていた学生の集団に視線を止めた。そのうちの一人と目を合わせて手招きをすると、及び腰で近づいてくる。
「この子たち、もう食べられないんだ。君たちで食べてくれない?」
 困り顔で言うともごもごとした要領を得ない返事だったが、箱を手渡すと受け取った。
「ありがとう。さっき撮った写真は消しておいてね」
 言い訳だか了承だか、また何か言いながら戻って行った。ハンニバルやマハルバルを写した訳ではないようだから、深追いする必要はないだろう。
 成り行きを見守っていたマハルバルが首を少し傾ける。
「あれって大丈夫なんですか」
 口を拭いたウェットティッシュや使い終えたスプーンはまとめて従者に渡し、この場では捨てない。ハスドゥルバルは自分が捨てたカップ類がすぐにゴミ箱から拾われるのに慣れていたが、この子たちの親にその話をして以来そういう習慣だった。
「君たちに興味がありそうにないからあげたんだよ。他人の食べさしでもいいなんて信じられないね」
「うわ……
 失礼なことを考えている顔に笑みを返して、席を立つ。秘密にしておけるかと問うとふたりとも頷いていたが、結局は従者が何もかもを報告してしまうのだ。
 知らないふりをしてあげてくださいと、彼らの抱えて帰ったプレゼントのこととともにその報告に言葉を添えた。ヒミルコが直接言わないのかとしつこく怪しんでくるのには知らぬ顔をした。