asahito
2025-12-24 00:55:52
14482文字
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Irish Coffee_R18

前作駒草太夫の現パロのお話はこちら⇒https://www.pixiv.net/novel/series/7583585
この話の続きです。https://privatter.me/page/69357be5586e5
クリスマス現パロユイ阿梨のすけべまでクリスマスイブに仕上げてしまった。

 今夜は長い夜になるという事はお互い予想していた。
 どちらが上になるかは決めてはなかったけど、相手を求めるだろうという気持ちだけは一致していたと思う。
 ならゆっくりお風呂に浸かって躰を休めてから。いつもみたいに阿梨夜にドライヤーで髪を乾かして貰って、他愛ない会話をしながら寝室に行く頃合いを二人で見計らう。
 それが通常の営みだけれど。特別な日の夜は、イレギュラーな事が起きるのも当然か。
「寒くない?よければ寝室から毛布持って来るよ」
 マグカップを置いて阿梨夜が立ち上がろうとするのを、手を握って制した。
「ひざ掛けがあるから。暖房も効いてるし」
 暑がりかつ寒がりと言うより。体温調整が普通の人間よりもうまくできない体質の私を、彼女はいつも心配する。あまりにも心配しすぎてムードを壊しがち。
「そう……でも、最近風邪も流行ってるでしょ。躰を冷やすと危ない」
 人間は恒温動物で体温の調整ができるのに。体温調整がうまくできないなんて、変温動物みたい。授業でその言葉を習った時に真っ先に思ったのは自分の躰の特質だった。
 変温動物に該当するのは蛙や蛇。長めの舌も、色白の肌も、犬歯が阿梨夜よりも鋭いことも、鼻が普通の人間よりも効くことも。
 まるで蛇のようだと思ったことはある。誰に対しても口にしたことはないけど、私は本当に人間なのだろうか。
 手も足もあるのに馬鹿げていると、思っていても。
 幼い頃阿梨夜が読んでいた本に出て来る、お嫁さんになりたくて人間に化けた蛇の話を聞かされると。
 そこに何か胸を締め付けられるような、懐かしい苦しみを覚え。同時にもうそれは終わったことだと、盾を掲げるように私の苦しみを遮ろうとするものがある。
「阿梨夜にくっついていれば温かいもの」
 苦しみを遮るのはそれだけではない。阿梨夜の躰に触れて彼女の熱を与えられている時。抜けないまま刺さっていた深い棘が抜けるように和らぐ。
 深い棘の正体は分からない。漠然とした悩みや不安なんて、誰でも抱いているものでしょう。だから、ほんの一瞬の悪い気みたいなものだと言い聞かせる。
 私はちゃんと覚えている。過労のあまり彼女を酷く傷つけてしまったことを目を背けずに覚えているから。これ以上忘れていることなんてない筈よ。
 頭を阿梨夜の顎のあたりに摺り寄せてもたれかかる。
少しでも、触れる面積があればあるほど。彼女の熱を私の肌に与えられるから。
 マグカップの中のカクテルは少し熱が落ち着いてきたので、もう飲みやすい温度だろう。私の中からも熱を発さないと彼女の熱を奪うだけだ。少し飲む量を増やすと、更に深くアルコールは私の中に染み入って来る。
 あまり飲んでいる気はないのに、ふわふわした感覚が湧き上がり。少し躰が浮ついてきた気がする。
「このお酒も結構強いわね」
「元のお酒だけだとかなりの度数だって。残った分はどうしようかな」
 もう開けちゃったから、誰かにあげるなんて失礼だよねと彼女は言う。
 家であまり飲酒習慣のない阿梨夜にとって、この買い物は本当に今夜の為の特別なものだったのだろう。
「じゃあ、また作って欲しい」
 砂糖と生クリームのお陰で甘くて飲みやすいし、寒い時に飲むと躰の中からぽかぽかと温まる。
 実家の冬山の雪を眺めながらこのお酒が飲めたら格別だろう。
「作るのは構わないけど飲み過ぎるのは怖いわね」
「うちで酔ったり泣く分には別に構わないけど」
……ユイマンにだけ作るよ」
 あまり見せない泣き上戸を初対面の駒草さんの前で見せてしまったことを、未だ恥として引きずっているようだ。
 あれくらい大したことないし出禁にされてないから、大丈夫だと思うんだけど。
 彼女はしっかりしている分、他人に迷惑かけることを必要以上に気にしてしまうきらいがある。
「今日の忘年会は大丈夫だったし……今も、ちゃんとユイマンと会話できてるでしょ」
 負け惜しみなのか、プライドを保ちたいのか。カクテルを飲みながら彼女はソファの横にあるひざ掛けに手を伸ばす。
 阿梨夜のものと、私のものがあるけれど。寒がりの私は主にそれを自分の部屋で作業するとき使うことが多いため、ここに置いてあるのは阿梨夜が使うひざ掛けだけだ。
 マグカップを一回テーブルに置き。それを広げて私に掛かる面積を大きめにした状態で躰を包む。裏起毛の繊維は彼女の熱を外側から閉じ込めてくれた。
「あ……今年はプレゼントも買ってあげられなかったわね」
 包んだ後にマグカップをもう一度手に取り、阿梨夜は思い出したように言う。言われて初めて思い出したけど、私達今年はクリスマスプレゼントもお互い用意してなかった。
「別にいいわよ。私も欲しい物言ってなかったし」
「今からでも言ってくれれば買えるのに」
 ここで冗談でも新しい猟銃が欲しいなんて言えば。
 阿梨夜は必死に購入方法を調べて、何としてもそれを手に入れようとしてしまう。今から買おうとしても数年はかかると思うけど、やろうとすればやり遂げる可能性がある。
 だからあまり冗談は言わないで置いた方がいい。おまけに家柄的に買えなくはない資産があるため洒落にならない。
 彼女の真面目な部分は美徳だとは思うけれど。融通が利かない石頭だと言えば、彼女の困った点でもあるのだ。
「逆に阿梨夜はないの?欲しい物」
……私は、ユイマンと一緒にいられればそれでいいよ」
 困ったように笑うその答えも。毎年聞いては、なんとか必要そうなものを私で考えてプレゼントしているけど。
 何でも我慢しがちだし、欲しい物は自分で買えてしまうような人だから。考える身にもなって欲しいのよね。
「じゃあ、来年お互いの行きたい場所に旅行するにしましょ」
 交通費は私が出すから、泊まる場所のお金は阿梨夜が出して。そうやって折半して楽しく旅ができればどちらかが払いすぎることもないだろう。
 とんでもないハイグレードの宿泊先を阿梨夜が選んだりしたら止めるけど。
「旅行かあ、それも楽しそうだね」
「場所とか観光地を調べるのは阿梨夜に任せる」
 私と一緒にいられて、自分の得意分野を活かし好きな事ができるとなれば彼女も遠慮はないだろう。
 来年は休みが長めに取れるようにしないといけない。
 頑張らないと、と気合を入れる為にマグカップの残りのカクテルを飲み干す。一杯飲んだだけで安い居酒屋のお酒を何杯か飲んだような感覚、いやそれ以上の酔いが回る。
 お酒には割と強い体質だけれど、前に駒草さんのバーで飲んだ時も一杯飲んだだけで酔いは割と来た。
 阿梨夜を見上げると彼女の表情はいつもの表情。マグカップのお酒はいつの間にか空になっていて。同じ量を飲んだ割には落ち着いているように見える。
 情けない泣き上戸になってしまう時と、そうではない時の違いって何が起因なのかと不思議だ。
「来年も、楽しいことが沢山あるといいわね」
「そうだね。早く冬が終わらないかな」
 酔いが回ってくると、普段抑えている部分の制御が少し弱まるのだろうか。
二人して同時にマグカップをテーブル置くと、自然と寄り添うように躰を寄せ合い見つめ合う。
お風呂も入ってないし、阿梨夜は仕事の格好のままだし、化粧も落としてないけれど。もう、今夜はいいかなと。
 阿梨夜の首の後ろに手を回し口吸いを求めれば、彼女はひざ掛けごと私の腰を抱きとめて唇を重ねてくれた。
 これはもう、承諾の合図であるから。気持ちが通い合ったようで嬉しい。
「ねえ」
「うん?」
「阿梨夜ってもしかして冬が嫌いなの」
 先ほどの旅行の日程について冬を候補に入れない彼女の言動に。ふと気になって、尋ねてみる。
 営みをしながらなんてことない会話ができるのも、もうお互いが伴侶になり時間が十分に経っているからだろう。
 冬が嫌いだとは幼い頃から聞いた覚えはないけど。
 色々考えてみれば、嫌いな時期にずっと外を歩くのを付き合わせてしまったかもしれないと思ったから。
 私の言葉に、阿梨夜は少し唸ってから答える。
「嫌いと言うか冬は苦手なの……何故だか昔からね」
 寒いのは平気なんだけど、と付け加えて。私よりも体温調整はできるはずなのに、それでも苦手なものは苦手か。
 ばてるから夏は苦手だとか、春は花粉症があるから嫌だとか言う人だっているし。
「雪かきとか雪道がきついから?でも阿梨夜の家って人を雇ったりしてたと思うけど」
 こちらの方では不要な肉体労働や、交通の便が悪いことが嫌なのかもしれない。けれど、彼女は首を振った。
「冬だけね。永遠に終わらないような気がするんだ」
「終わらない、って……
 突拍子もないことを言いだす彼女の発言に驚くも。
 永い歴史の中で何もかもが凍ってしまう冬の時代があったのは、私だって知っている。
 天変地異で殆どの生物が死に絶え。辛うじて生き残る術と変化ができた生物だけが、何とか生き延びたという時代だ。
 でもそれは人間が今の姿を持つ前よりも、もっともっと昔の時代。私も彼女も存在すらしない時代。
「小さい頃買ってもらった恐竜の図鑑とか、本の影響だと思うけれど。職業病かな」
 馬鹿馬鹿しい事を言って申し訳ないと言う表情。だけど、その割には心底寂し気な表情を浮かべるのは何故なの。
……死に絶えたものがこのままずっと変わらないで、そんな中に私だけ取り残されるような夢を見たりしてね。そういう時怖くなって、子供の頃はこっそり泣いてた」
 子供の頃の記憶や夢と言うものは、理路整然としておらずとんでもない奇想天外な内容であることがほとんどだ。
 特に阿梨夜は小さい頃から色んな知識を貪欲に求めて寂しさや醜さへの嫌悪を紛らわせようとしていた分。
 その思い込みが強くなったということは、おかしな話じゃない。
 何もかもが凍り付き、残っているのは僅かな植物や生物と。変わる事のできない無機物たち。
 その中で独り耐えるように言われたらきっと。孤独に慣れていなければ、狂ってしまうだろう。
 それでも残ってしまうと言うのは、狂うことも死ぬことも許されないということなのだろうか。
「おかしいよね。生まれてもない時代の出来事をまるで見てきたみたいに、怯えるなんてさ……
 乾いた笑いを上げながらも私をソファの上に押し倒し、求愛をする彼女は。酔っているせいなのか、それともその怯えた記憶に不安定さを呼び起こされたのか。
 気まずそうな表情を浮かべるのは求め方がよくないと思ってるせいだろうけど。不安定な時に傷つけた私に比べれば、甘えたい衝動をどうして責められるのか。
「きっとそこに、私はいなかったのね」
 もうここは寒くないし。私がいるから甘えてもいいのだと、彼女の背中に手を回すと。
膝を立てて私に体重をかけ過ぎないように体勢を整えつつも。私の首筋に唇を寄せて味わうように私の肌に触れる。
 苦い香りと、吐息に混ざるアルコールの匂い。彼女の熱に溶かされて私の鼻腔を刺激する。
匂いは、もどかしい欲になって、私の躰に流れ込んでは求愛に応えるように下半身がむず痒くなる。
……それに、冬だとユイマンと遊べない日が多かったから」
 雪が深く降れば遊びに行くこともできない。危ないから家に居なさい、と言われ。家の中で過ごすしかなくて。
 先ほどの誰もいなくなった世界で孤独だった話から、急に幼い頃のちょっとした寂しさにスケールダウンすると。
 彼女は大丈夫だと安堵とともに、可笑しくなってしまう。
「寂しかったの?でも雪で遊んだりもできたじゃない」
「ユイマンみたいには動けなかったよ」
 幼い頃の不得手は、未だに不得手らしく。そうして思春期になればお互いあまり一緒にはいられなくなり。
 その間の冬も寂しいと感じることはあったのだろうか。冬の間だけは会えないなんてまるで、冬眠ね。
 だから冬の間でも会える今があるなら、私は蛇じゃなくて人間なのだ。
……ユイマン、嫌だったら言って」
 営みに及ぶときに、彼女は必ず言う。何度躰を重ねても絶対にこの言葉は忘れない。
 私を想ってくれているからこその科白だという事はわかっていても、彼女と躰を重ねることが辛いかもしれないと。
 私が思うことがあると、疑っているのだろうか。
 そんな気持ちが湧くことはないと、それを示すために私は彼女のシャツのボタンに手を掛ける。
 服を着たままの行為は好きでも、少し寒くても、彼女の肌を、熱を。触れるがままに感じたいと欲した。
 どんな季節であっても心地よい熱を発し続ける彼女の躰。その躰は、気温に左右されやすい私には羨望だった。
 熱を失うことがないから、あんな夢を見るのかもしれないけど。その熱は、安らぎの熱だから。
 ボタンの最後を外し終えると、今度は阿梨夜が私の部屋着に手を掛ける。脱がしやすいように両腕を上げると、ゆっくりと裾を捲って下着姿になった。
 半脱ぎのシャツから覗く肌。全裸よりも、煽情的に見えてしまう。いつも一番上まできちんと留めて、暴かれないような盾を纏っているから余計に。
 部屋着の下にもすぐに手を掛け、そこにもう躊躇いはなかった。脱がせ合いばかりしていたらすぐに肌に触れることはできないから、我慢ができず彼女の耳元に顔を寄せる。
 暖房の効いた部屋でも、冬の空気は冷たい。私の変化しやすい肌の熱が失われる前に、彼女の熱が欲しい。
「早く……触れて」
 そう囁くと。阿梨夜はすぐに残りの自分の服を脱ぎ始め、一糸纏わぬ姿へとなった。何の躊躇もないのはきっと、お酒が入っているから。
 私より早く飲み終えたのも熱を蓄えるためだったのか。
 少しでも触れている部分がもう熱くて、私もすぐに部屋着と下着を脱いで床に落とした。
 ソファの上で求め合うのは。あまりない分、どこか高揚感がある。普段の彼女なら落ちたら危ないと言って、止めようとするからだ。
 彼女が圧し掛かり私の背中に手を回すと、焼けそうなほどの熱が私の肌を覆い尽くす。
 腕も、肩も、胸も、お腹も、性器すらもその熱で溶かされそうなほど彼女は熱かった。
「はあ……阿梨夜」
 この熱にずっと触れられればいいのに。そう希いながら、彼女が醜いと嫌悪する痣のある背中に手を回す。
翼があった跡のように見えるその痣は。私は醜いなんて思ったことは、一度もない。それは彼女が彼女である証。
 求めるように手をまさぐって彼女の背中に触れ続けると、吐息が漏れて彼女が私の顔を覗き込む。すぐに右手を私の頬に当てると、優しい口づけをしてくれた。
 触れるだけの口付けから、啄むように時折唇を挟む口づけに変わっていき。そうしてやがて、私の口の中を開けるように舌で突くものへと変わっていく。
 長めの舌を伸ばしその求愛に応えると、彼女の舌と当たって生々しく滑った感触がする。
 先ほどの味が唾液に混ざって息に含まれ。互いの舌を蛇の交尾のように絡め合わせるだけで、より酩酊に陥る錯覚を覚える。
 直線的な交わりしかできない躰と比べて。舌だけは、自在に動く分彼女と深く交われる。
 くちゃくちゃと唾液が混ざる音。阿梨夜からする時は一番ここに時間を掛けたがって、それだけで私が十分に濡れてしまうほどだ。
 息継ぎをして苦しみを和らげ、更に深く私の中に舌を差し込む彼女は。いつもよりも少し荒っぽい気がする。
 それでも長く時間を掛けて私の躰を溶かすように掌で背中を温め続けてくれる。
 じれったいと思うことはない。けれど、舌だけの交尾だけでは物足りなくて。もっと、他の部分でも交わりたいと望んでしまうのは。何の気持ちからなのか。
 性器での交わりでもなく、人間には持ちえない部分で交わる望み。
 例えば尾のようなものを絡め合わせられたら。
 その願望を抱いても、口にしてはきっと阿梨夜が困るだろう。私自身が困っているのだから。
 長い舌を彼女の舌で愛撫され尽くした後に。別れを告げるように口づけて顔を離す。その鋭い瞳は潤んではいても、真っ直ぐに私を見下ろしている。決して、逃すまいと。
「あ……
 私はユイマンと違って目つきが悪いから、相手を怖がらせてしまう。そう語る彼女の瞳は確かに鋭く、ともすれば近寄りがたさを持つ。
 度がほとんど入っていない眼鏡を掛けるのも。その目が怖がられないようにするためだと言っていた。
 けれどその目に見降ろされた瞬間に。ゾクリと寒気に似た快楽を覚え。下半身が痺れるように熱くなる。
 短い前髪を掻きあげて呼吸を整えるその姿。きっと、誰も知ることのない彼女の本能を見たから。私の本能が誘発されて、欲情の感覚を呼び覚ます。これも酔っているせいなの?
 求め合い過ぎた末の、口の端にある唾液を。彼女は指で拭い掌でまた口を覆ってしまう。
……ごめん、何か変かも」
「どうして?」
 今更恥ずかしがることなんてあるはずないのに。それでも、そうなってしまう理由があるというのか。
「だって……いますぐユイマンの中に入れたいって……
 ちゃんと触れてないのに、準備もさせてないのに、勝手過ぎると。こんなのおかしいと。
 自分の中で湧き上がる醜い欲を呪うように、彼女は両手で顔を覆い隠してしまう。
……
 その言葉を聞いて彼女が自分勝手な人だなんて、思うことはない。普段は愛撫に時間を掛けてくれる人だって知っているし、挿入したとしてもそれは凄く優しさで溢れている。
 私を傷つけまいという事を一番大切にしている伴侶。
 その彼女が、すぐに求めてしまうという事は。きっと彼女の中での我慢が自分で思う以上に限界だから。
 本当はすぐに、私に会いたくて。私が仕事でなければ忘年会にだって出ないで一緒に周りたかったのだろう。食事だってちゃんと、予約のできるお店でしたかったはずだ。
 いつも私が彼女との機会を台無しにしてしまって。口では大丈夫だと言っていても、本当は寂しくて仕方なかったのだろう。
 自分の欲を出さずに、いつでも大丈夫だと言い張る人は聖人なんかじゃなくて。ただの諦めた人ではないか。
「入れても大丈夫よ」
 自分の躰は自分が一番分かっている。阿梨夜の指を受け入れる準備はもうできているのだ。
 寧ろ、口づけ程度でここまで濡れてしまっていることを彼女に悟られる方が恥ずかしいと思うけれど。
 彼女はそれを嬉しいと捉えるだろう。
 ソファに愛液が垂れないように、彼女がひざ掛けを敷いておいてくれてよかった。
 少し大胆だけど足を軽く開き彼女に状態が分かるように見せると。まじまじとそれを見つめて来る。
 こんなに見られると余計に恥ずかしいし、吐息もかかるから反応をしてしまうけれど。
 彼女の瞳は真剣そのものだから、足を開いたままにする。
……ね?」
「大丈夫だと思うけど……
 そこでまごついてしまえば私の行為は無駄になる。冷めてしまうと、もう一度同じ熱を纏うには時間が必要だと言うのはお互い知っているから。
 異常な熱を抱いた彼女の熱を、熱を保てない私が冷やしてあげれば熱は元に戻れる。
 蛇のように冷えるしかない躰が彼女の役に立てるなら、それ以上の嬉しさはない。
……ユイマン」 
 怖気づくことなく、阿梨夜は私の足を持つと両脚を開き性器が見えるように間に陣取る。
 そして顔を近づけると、手をそっと伸ばし、はあ、と深くて熱い息を吐いた。
 すぐ熱を失った吐息に愛液に塗れたそこが冷されて、思わず躰を震わせる。
 指が入ってくると思ったのに、彼女は躰を屈めたままで私の秘部に顔を近づけているから。
「あ、あり……や?」
 それが初めての行為でないことは確かでも。阿梨夜が、口を使って秘部に触れることは珍しい。
 どちらかと言えば私が口や舌を使う方で。彼女は指を使う方だと思っていたから、そうされるのは意外だった。
「うまくできなかったら、ごめんね」
 くぐもった声と共に触れる濡れた感触と。生暖かい熱の柔らかいモノが秘部の形に沿って動く感覚。
 お風呂に入ってない状態でこんなことをさせてしまうのは、汚くないかと思ってしまうけど。それを今止めてしまえば阿梨夜の気持ちを蔑ろにしてしまう。
 終わったらちゃんと彼女の躰も、顔も清めてあげないといけない。お風呂も沸かしておけばよかった。
「んん……
 舌が割れ目を巡る度に。敏感な部分が舌先に当たって声が漏れる。指先での行為に慣れている分、動きは舌の方がぎこちないのは確かだけど。
 苦しそうな声を上げながら舌を動かす彼女の音に、躰が熱くなり捩ってしまう。あまり大きな声を漏らすと近所の人に聞かれてしまうと口を手で覆って。喘ぐのを我慢する。
 伸ばしっぱなしの前髪が乱れ私の顔の前にかかり。はっきりしない視界の向こうで部屋の蛍光灯は光り続け、阿梨夜の姿が視界に入る。
 私の両脚を両手で固定し一心不乱に舌を動かす姿に。鼓動が高鳴り、それだけで羞恥なのか快楽なのか分からない感覚が襲って来る。
「ああ……はあ」
 いま、ここで彼女と視線を交えてしまったら。その瞳に射抜かれただけで達してしまいそうな恐怖。私が達さなければ彼女は私が満足できなかったと思うだろうけど。
 達してしまうには惜しいほどに、秘部への感覚が嬉しくて仕方がない。まだ、達したくない。もっと私に触れてくれる彼女を見ていたい。
「ありや、もっと、ゆっくり……
 敏感な部分に触れる度私の躰が跳ねるのが分かって、その部分を執拗に舌先で突く彼女に。たどたどしい口調でおねだりをすると、私の顔を上目遣いで一瞥した後に。
 動きを緩くしたまま、舌全体を使ってその愛液を舐め取る動きに切り替えていく。
 敏感な部分への刺激はなくなっても、舐め取る度に粘着音が部屋に響き。
 何度阿梨夜が舐め取っても、私から溢れてしまうのだと耳で気づかされると恥ずかしさが湧いてくる。
 声を殺すために指先を咥えて耐えていると。ぐっと阿梨夜が私の太腿を掴みそれを諫めるように指に力を込める。
……ユイマン、自分を噛んだらだめよ」
 やめなさい、と諫める態度はいつも通り妹を叱る姉のよう。
 私に噛みつかれるのは平気でも、私が私に噛みつくことは嫌なのか。
 彼女に諫められた以上は指を口から離すしかなく。
 手をソファに下ろすと、安堵したように彼女は笑みを浮かべた。
「だって……おと、いや……
「どうして?気持ちよさそうなのに」
 今が気持ちいいのは本当。愛撫で高まった躰はソファの皮の冷たさが心地よいくらいに熱を持っている。ひざ掛けに摺り寄せる肌も敏感になっていて。
 発情、という状態があるならきっとこの状態なのだろう。
 太腿に舌を這わせる阿梨夜の表情は。少し酩酊したようになっていて、酔いが更に回っているようにも見えた。
 私の快楽を肯定するような言葉は、彼女の本心。私がここで気持ちいいと言えばまた続けてくれるだろうけど。
 これで達してしまうことがどうしても嫌なのは。私が、阿梨夜の顔を見ながら達したいと願うから。
「嫌なものは嫌。嫌なら言えって言ったのは阿梨夜でしょ」
「はは……そうだね」
 末っ子特有の我儘を通す駄々を捏ねると、彼女は苦笑しながら自分の言葉に縛られる。
そうして私の足を離すと、優しく私の上に乗ってユイマンが好きな事をしましょうと囁く。
 なら、とまず彼女の口づけを求めると。阿梨夜は私の口に手を当ててそれを制する。
……流石に今の口だと、ちょっとね」
「あ……
 先ほどまで彼女がどこに触れていたかを考えると、それはもっともな意見だった。彼女との口づけは好きでも、できないとなれば別の触れ合いを提案するしかない。
「だったら背中向けて」
 この提案も嫌な顔はするだろうけれど。彼女はそれを否定することはしなかった。
 私の中で、聞いて貰えるであろう阿梨夜へのおねだりの範囲は分かっているからと。狡いし卑怯かもしれないけど、それを許されるのも伴侶である私だけだから。
 見せられた背中は変わった模様の痣が一面に広がっており。何度見ても、その形は博物館で見たあのレプリカにそっくりだ。
 こんな痣が偶然できるのかと思っても。医者に見せても、生まれつきのもので悪性の何かではないと言われるだけだったと彼女は語った。
 この痣があるから両親は醜く産んでしまったという負い目を自分に持ち。
 美しい妹には醜い姉の癖に両親に要らぬ気を遣わせるのだと、何度も罵られたと。
 だからこの痣は彼女にとって嫌悪する対象。
『生まれながらにして妹と違って醜く。結婚も断られて、未来永劫醜いままの神様がいるんですって』
 神話の本を読んだ阿梨夜が語ったことは。彼女とその神様を心のどこかで重ねているのだという事は分かった。
 学校でも心無い言葉を掛けられたことはあったろうけど、彼女の家は地元でも名家だったから。親や教師がそういう子供をすぐに叱ったお陰で、緘口令に近い扱いだった。
 けれど子供は残酷故に、そして妹さんが自身の美しさ故に、親や教師の見えない場所で彼女に何を言ったかなんて考えたくない。
 初めて躰を重ねた時に、阿梨夜が背中を見せまいと怯えきった表情をしたことを思い浮かべればどれだけそれに心を傷つけられ、諦め、苦しんでいたかが分かるのだ。
 だから、その呪いに触れさせてくれることは。本当に私だけが赦された行為なのだと。
 彼女の背中は熱を持つと言っても。痣の部分は、より熱く感じる気がする。
 普通は首筋の様な場所が温かい筈なのだけれども、それでも背中の痣は。ともすれば火傷するように熱いと、感じる。
低い体温の私には猶更。
「いつもあったかいね、阿梨夜は……
 ソファの上で座ったまま彼女に後ろから抱き着くと、じんわりと熱が私のお腹や胸に広がる。このままくっついて眠ってしまいそうなくらいの心地よさ。
「ユイマンの体温も低めだから、気持ちいいよ」
 彼女が私の腕に触れながら、言ってくれる。
体温調整がうまくできないことが、本当は私のわだかまりの一つであっても。
 それは彼女と違い目に見える様な問題ではないから、きっと取るに足りない悩みなのでしょう。
 変温動物なら人間じゃないみたいだ。そう言われても、この姿が人間でないなら何だと言うの。
 人間同士だから彼女の伴侶になれる。だから、大丈夫だと言い聞かせ彼女の熱をさらに求める。左の掌を彼女の手の甲の上に乗せると、甲はひっくり返り握り返してくれた。
 そうして、私の薬指の指輪を撫でて。愛おし気にそれに口づける。
……こんな醜い背中でもユイマンの役に立てるなら……ちょっと嬉しいかな」
 それは、長年否定し続けた中に芽生えた僅かな肯定なのかもしれないけど。そう彼女に言って貰えたことは嬉しくて。
 彼女の頬に口づけるとくすぐったそうに彼女は身を捩る。
「大好きよ」
 言葉にしてもすぐに雪のように溶け消えてしまう。それでも、その言葉を伝え続けていれば。何かの変化をもたらすかもしれないと。
「阿梨夜……好き」
 途方もない時間がかかるとしても。言ったとしても何の意味もないのかもしれないけど。言わないままでいたら、きっといつかは伝えられないまま終わってしまう。
 言われる相手がその言葉を受け取れない状態になるか。
 言う方がその言葉を発することができない状態になるか。
 どちらになったとしてもきっとそれは、身を切られるように止まらぬ血を流し続ける痛みであろう。
 頭を私の頬に寄せ。彼女は目を閉じて口を開き。
……私も、愛してる」
 穏やかな低い声で。静寂の中燃える様な感情を放った。
 今夜は特別な日だから。そう言ってくれるの?それとも酔っているからなのか。
 彼女のその言葉だけで燻っていた熱が湧き上がって来て、むず痒い衝動のようなものがどうしようもなく激しく暴れ出す。
「ね、阿梨夜……いますぐ欲しい」
 一度火がつけば燃え上がるままに止められない。こんな誘いをしてしまうのは、恥じらいはあるけれど。それ以上に彼女が愛を告げたことに歓びを感じ。
 欲しいと思ってしまう自分がいるからどうしようもない。
 彼女は何も言わずに敷き直したひざ掛けの上に私を寝かせると、そのまま躰を沈めて耳元で囁いた。
「私も欲しいよ、だから……
 ひたすら彼女が熱い。その感覚しかもうなくて、自分の口元が笑っているような気がした。すぐに両脚の間にあてがわれる彼女の指を感じ。そのまま目を閉じる。
 そしてごめんなさい、の言葉の後に。すぐに挿入されたのだと気づき彼女の頭を抱く手の力を強めた。
「うあ、あ……
 躰をのけぞらせ声を上げたのは、痛みではなくて。あまりの熱さにこのまま溶けてしまいそうだったから。
 女性にしては大き目で、指も長い彼女の手。私が良いと思える場所を的確に捉えることができる。
 十分に愛液で満たされた泥濘は。彼女の指を柔らかく包んで、弱い部分を擦っていく。
 外側の刺激でずっと焦らされた分、内部の刺激を与えられるとそれが爆発するように連動して。
 阿梨夜の指が動く度に、私は声を上げて彼女の行動を肯定していく。気持ちいい、と。伝えないと、彼女はいつまでも否定の呪いから抜け出すことはできないから。
「あり、や……
 醜いと呼ぶ背中に私の手を回して受け入れ。名前を呼んで彼女を求める。飽きるまで求め続ける。足りない、交わりたい、何かを絡め合わせて。
 何かとは、何?それが分からなくてもどかしい。口づけは先ほどできないと分かったから、もどかしさと彼女を求めるあまり私は彼女の左肩に歯を立てた。
「うう」
 その痛みに彼女のくぐもった声が上がる。けれど、私の中の右手は勢いが止むことはなく。何度も動き続けて求め続けてくれる。
 彼女が私の中にいる。私が噛む力を強めれば、強めるほど。もっと強い力で答えてくれる。
悪い癖だと何度言われても噛みついてしまう。だって欲しいのだと、伝わってくるのが嬉しくて。
 歓びに打ち震えてずっとこの感覚が続ければと思っても、駆け抜ける快楽は待つことはできず。
 限界が近いと躰が信号を出せば私は噛むのを止め、阿梨夜の名前を呼んだ。
 それすらも昂りの行為になってしまうのであれば、もうこのまま彼女の名前を呼び果てたい。
「阿梨夜、ありや……わたしっ」
 迎える限界がいつもより強い気がして、彼女の短髪に乱暴に指を差し入れその衝撃に耐える。
何かに掴まっていないと、彼女に触れていないと、それを迎えるのが怖くて。
……大丈夫、ユイマン」
 その恐怖を和らげるように彼女は囁いてくれる。
 私が達しやすいように中に入れていない方の指で乳房に触れながら、その瞬間を見届けるように待ってくれている。
 彼女が中にいると、とてもあったかくて。その熱が躰の中に溶けて行く度、私の躰は彼女に近づける気がした。
 好きよ、阿梨夜、大好き。 
 その言葉を抱いたまま、躰に快楽の波が押し寄せる。ぶわっと風が抜けたように駆けて行き。そうして最後に残るのは弛緩した私の躰と、彼女の熱の収まらない指だけ。
 達せた安堵感に阿梨夜を抱く手の力を緩めて。そうして躰を起こす彼女を見つめる。
 指は中にまだ入ったままだけど、もう動かす気はないようで。私と目が合うと指はそのままに大丈夫かと声を掛ける。
……
 いつもなら返事ができるはずなのに、体中の力が抜けてしまい声も出せない。焦らされた分、達した時に使う体力がいつもより大きいのだろうか。
 ぼうっとした頭で彼女の顔をただただ見つめる。何か下腹部に溜まっているような、変な感覚もある。
 確か、これって
「ユイマン?」
 いつまでも私が返事をしないので彼女も心配したのか、焦って私の中から指を抜こうとした瞬間。
 少し乱暴に抜いてしまった指が私の中を刺激して、そのまま何かが漏れ出す感覚が広がった。
「あ……これ……やだっ」
 閉め忘れた蛇口みたいに、秘部から垂れる液体は少量だけれども流れだすと止まらず。力を入れて止めようと思っても弛緩したからではそれができなくて、結局漏れてしまう。
「え……
 阿梨夜はそれを見ると一瞬固まっていたけど。すぐに自分のひざ掛けを引き寄せて、受け止めるように置いてくれる。
 大判で厚手のひざ掛けはそれを受け止めるには十分だったようで、垂れるのが止まった後は。液体を吸ったひざ掛けだけが私たちの間に残った。
……止まった?」
 これは間違いなく、夏に阿梨夜がしてしまった時と同じで。自分はそういう体質ではないと思っていたのに、それは勘違いであったと思い知らされ。
 いざ自分がしてみるとどうしようもなく恥ずかしいものであると、自覚させられるものであった。
「わたし……ごめんなさい」
 これは快楽の結果で粗相ではないと彼女に言っていても。している行為は粗相でしかない。
 あの時阿梨夜は大泣きして布団に隠れてしまったけれど、私は隠れる様な場所もなく。
 泣くことも忘れてただただ謝るしかできなかった。
 ペットシートは阿梨夜の寝室に置きっぱなしで、彼女にしか使わないと思ってたのに。
……ユイマンもできたんだね」
 こんなこと起きたら誰だって驚くし恥ずかしいよ、と彼女のフォローが入るけれど。
 今度からお互いがどちらの立場でも気にしないといけなくなるのかしら。
 案外、その行為をしてしまってもどこか冷静になっている自分がそこにいて。どうして彼女の様に泣けないのかと思ったけれど。
 それは多分、先に彼女が快楽のあまりにそうなってしまったと知っているから。
 今度はそれを私が伝えられたと思えば。それほど恥じらうべきことでもない気がした。
 勿論、洗濯や後片付けはちゃんとやるけれども。
「ひざ掛けは洗っておくから大丈夫だよ。お風呂も沸かしておくし」
 彼女は先ほどから段取りを伝え、私を励ますように声を掛けてくれるけれど。それでも、どこか気になるのは。
……阿梨夜。なんで心なしか嬉しそうなの?」
「え、その……そんなこと……
 夏の派手な粗相を未だに気にしている阿梨夜にとっては、お相子のようで嬉しいのかもしれない。
 こんな困った癖、お互いについてしまったら旅行でも予め準備しないと行けなくなるじゃない。
 図星だったのか気まずそうに顔を背ける彼女に腕を伸ばして蛇のように絡みつき、低い声で囁く。
「別に私は阿梨夜がまたああなっても平気よ?」
 阿梨夜の方が体質のせいなのか凄い量だし。恥ずかしがって泣く姿が可愛らしいのは本当だし。
最近は可哀そうだからずっと控えめにしていたけど、そういう態度を取るなら私ももう我慢しない。
「本当それだけは勘弁して、お願い……
 そう情けなく懇願する彼女は。本当に先ほど私に愛していると言ってくれた彼女なのだろうか。
 でも、どの表情でも彼女なのは確か。
「じゃあ、明日ホットケーキ焼いてくれたら考えてあげる」
「明日ケーキ屋さん行くのに、朝から?」
 そんなに甘い物ばかり食べられるかと心配しつつも、冷蔵庫に卵と牛乳あったかなと言い出す彼女は。きっと私のお願いを受け入れてくれるのだろう。
「まだ私たちの中ではクリスマスだもの」
……分かった。期待しててね」
 とんでもない食事の計画なんて滅多にしないけど。
 変化の溢れる日々というのは、私たちが生きている証でもあるのだ。



終わり