nana
2025-12-23 10:30:05
2155文字
Public FF14
 

フローレスナイト

#ヒュエメワンウィーク
お題【お祝い】

 目蓋を開くと、そこは見知らぬ場所だった。草木のにおいが漂い、空からは淡い氷の粒が舞い落ちる。柔らかな灯火や色とりどりの風船があふれるその中心には小さな音楽堂があって、いままさに華やかな衣装の楽団が音楽を奏でていた。
 傍らには友の姿があって、彼もまた楽団の様子をベンチに座って眺めている。外見は本来とは違う、この時代でいうなればエレゼン族の姿だけれども。自身の手元をみるに、また同じ種族の姿をしているようだった。それだけで、状況をおおまかに悟る。
 これは、すぐとなりにいる友人――エメトセルクのせいに違いない。
 民の外見にふたりの記憶の一部が投影されている。その魔力の筋をたどると、ひどく懐かしいにおいがする。そうしたい理由は定かでないから、ふと視線を隣にスライドさせる。いたずらに口元へと笑みを寄せれば、友の眉間の皺が深まった。
「どうして、こんなことになっているんだろうね?」
「まあ、古代の術式が暴走したとでも考えておけ」
「で、それに影響されてワタシたちもこの時代に来てしまったって? いつ戻るんだろう」
……さあな。だが、おそらくこの祭りに活気づいて起動したようだな」
 あたり一面が彩られているのは『星芒祭』という祭りに起因しているのだという。ふたりをこうしたのは、この星が穏やかに輝く瞬間を見届けたかったという、純粋な友の願いゆえなのかもしれない。
 素直じゃないけれど、かわいくて愛おしい友人。たったひとりでここに降り立つのではなく、ヒュトロダエウスをも連れてきたことも相まって、そんなことを思う。
 魂が少しずつ洗われていくそのあいだも、すぐそばにいるというのに。それでも、自身もエメトセルクに対して同じようなことを思う。
 ふと傍らに転がる手の甲の上に、自身の手をそっと重ねる。ぎょっとしたようにこちらを見る琥珀色の瞳が、かつてと寸分たがわぬ色をしていた。輝く星になるそのさなかでは、こんなふうには触れられない。
 ――ねえ、キミも同じ気持ちなのかな?
 たしかな想いを胸に携えながら、何事もないように音楽堂の外を指差した。着ぐるみのトナカイや雪だるまを示しながら、フフ、と笑う。
「イデアでつくったような、ふしぎな生き物がいっぱいだ。ずいぶんと賑やかなようだね」
 弾んだ声でそう伝えれば、一拍おいて、エメトセルクがため息をつく。
……まるで失敗作のようだが」
 おそらく、トナカイがひょうきんな調子で舞を踊っているのを見て、そう述べたのだろう。彼らしい。なんだかその些細なやりとりが心地よかった。
 胸が張り詰めるような感覚は本来持ち得ないはずで、だけどたしかに感じる高揚は、この地に深く根付いた想いが織りなすものなのかもしれない。
 ふたりのあいだに横たわる感情を互いに確かめられないまま、それでもたしかに手を繫ぎ合った。楽団の者たちが演奏を終え一礼して、それから白いローブに身を包んだ子どもたちが、互いの手を取り合うようにして舞台へと上っていく。
 その姿は子ども時代の自身と、エメトセルクを彷彿とさせた。光に包まれて笑う子どもたちの顔がまぶしく映る。
「きれいだ」
……ああ」
 どちらからともなく呟いた。ふたりのあいだに落ちる言葉は少なくて、だけども同じ気持ちを抱いていると確信する。それだけで満足してしまうのだから、いかにも自分たちらしい。
 より身を寄せて、エメトセルクに肩をくっつける。こちらを見やり、なにか言いたげに開こうとするくちびるを遮るように、言葉を紡ぐ。
「せっかくだから……キミが守りたかったものの結末を、ゆっくりと見届けようじゃないか」
 エメトセルクの、その魂が愛したもの。
 この星の未来を、そしてそこに生きるものたちを。そのすべてを見届けてみたいと願うのは、きっと同じ気持ちだと信じたい。
「そうだな」
 そう答えたエメトセルクが、どんな表情をしていたのかはわからない。それでも、ほんのわずかに震えて聞こえた声を――その場のあたたかな光が、降りしきる粉雪が、子どもたちの笑い声が、祝福のようにそっと覆い隠していた。