roku
2025-12-21 08:56:20
1998文字
Public 松イチ
 

クリスマス【松イチ】

・去年ワンドロライで書いた話 https://privatter.me/page/69699a6113655 の1年後

12月を折り返し今年も残り10日ほどで終わりを迎えるそんな忙しない週末。松本が買い物に行こうと声をかけてきた。普段松本が一之倉を外へ誘う時は大抵食事だった。今回は珍しく買い物だったので「何買うの?」と首を傾げた。
「ん?クリスマスツリー」
……え?もしかして覚えてた?」
それは去年訪れたクリスマスマーケットで交わした会話。
小さいのあってもいいかな?
今買ってもすぐにしまわなきゃいけねぇし、買うなら来年でいいんじゃねぇか
その時当たり前に〝来年〟を口にした松本に一之倉の胸はトクンと跳ねたのだ。
そして今、覚えていたのかと訊ねた一之倉に対しても「当たり前だ」と答えた松本。松本の中心にはいつも一之倉がいる。一之倉は驚きと嬉しさが入り混じり目頭が熱くなった。あぁ、もう歳かも

ネットで簡単に購入可能なこの時代にわざわざ店を見て回る。そんな松本らしさに胸がくすぐったくなる。あまり人目を気にしない松本に付き合い始めた頃は抵抗していた一之倉も、今は自分から手を繋ぎ松本を驚かせている。
「誰が見てるかわからないぞ」
「誰も見てないんじゃなかったっけ?」
一之倉を気遣い心配する松本に、ふふっと口角を上げた。「誰も見ていない」は松本が日頃からよく口にするセリフだった。
どれにしようかと商品を見る一之倉。松本はそんな一之倉を慈愛に満ちた目で見つめている。
……オレのこと見てないでちゃんと選んでよ」
「ん?オレは聡が選んだやつなら何でもいいが
「それなら一緒に来た意味ないだろ」
「まぁそうか」
とは言ったものの、サイズも値段も様々でやはり松本は決めかねた。
「あ、これ可愛い」
一之倉が目を留めたのはガラスでできた卓上タイプのツリーだった。
「どう?」
「相変わらず聡はオシャレだな。いいと思うぞ」
よかったと胸を撫で下ろした一之倉は、結局オレが決めちゃったと申し訳なさそうに眉を下げたが、松本はそれで満足だったので気にするなと頭を撫でた。
店を出ると日が暮れた大通りの街路樹がキラキラときらめいていた。
「去年、イルミネーションってクリスマスじゃなくても見れるよなって、見に行かなかったけどこれはこれでいいんじゃねぇか?」
……そうだけど……何でそんなことまで覚えてんの?」
「オレは聡とのことなら何でも覚えてるぞ」
言葉通り、松本はどんな些細なことでも一之倉とのことなら記憶している。それは一之倉が引いてしまうくらいに。
「どうした?」
「正直オレを好きすぎる稔に引いてるよ」
「なっ‼そんな……
松本は首が落ちそうなくらい俯き肩を落とした。
「ふ、ははっ!冗談だよ」
落ちた肩をぽんぽんと叩く。
……本当に冗談、か?」
視線を一之倉に向けた松本の唇はムッと突き出している。わかりやすく拗ねている。
「そうじゃなきゃとっくに別れてるって。ほら行くよ」
動き出そうとしない松本の手を取り引っ張り「オレの買い物も付き合ってよ」と言えば沈んで拗ねていた松本はどこへやら、「もちろんだ」と顔を綻ばせ指を絡めた。

向かった先はデパ地下の洋菓子売り場。
「あんまり甘くないやつがいいんだけどな
甘い物が苦手な松本を思い、独り言のように呟いたそれを松本が聞き逃すことはなく「気にすんなよ」という答えが返ってきた。
「あ、聞こえてた?」
「聡のことは「あー、わかった!わかったから黙って!」
続きを言わせまいと口元に手を翳して遮れば、松本は不満げに目を細めた。その視線を軽く受け流しつつも、せっかくのクリスマスなんだから一緒に食べれるものがいいなとフロアを一周した。
「決まったか?」
「あれもこれも食べたい」
「食べたい物は全部買えばいいじゃねぇか」
松本自身は食べないが甘い物に目がない一之倉には好きなだけ食べてほしかった。一之倉は松本がそう言ってくれたので食べたいと思ったケーキを買って回った。

ガラスのツリーをテレビ台に飾る。テーブルの上には皿の上に丸く並べられたカットケーキ。そのサイズはおおよそひとり分ではない。
「本当に全部食うのか?」
「欲しいの全部買えばいいって言ったの稔だし」
「そうだけどよ
見ているだけで胸焼けすると顔を顰めた松本だったが、一之倉の淹れたブラックコーヒーに口をつけ、ケーキを頬張る一之倉を見つめていると心は満たされていった。
「あんまり食べるとできなくなるぞ」
「しなくていいよ」
松本は手を伸ばし口の端についたクリームを指で拭った。そして正面から真っ直ぐ恋人を捉え「オレが抱きたいんだよ」とストレートに告げる。一之倉の頬がみるみるケーキの上のイチゴのように赤く染まってゆく。フォークを置いた手を頬に触れた松本の手に重ね、指に残るクリームを赤い舌で舐め取った。
そんな一之倉からの合図に松本の口角が緩やかに上がった。