水樹咲夜
2025-10-19 22:33:11
9545文字
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僕の願いのその先へ(VARLETの話)

こちらはヴァレットの二次創作で、後半のストーリーChapter7、8辺りのネタバレ、特に主人公関連のネタバレがもろにあります。出来ればクリア後に見る方がいいかと思います。

主人公とクイント、そして『欲望』たちと本体の話。


■五番目から九番目への祈り

 始まりはいつだったろう、これは何回繰り返されてきたんだろう。もう既に、僕らがここにいる理由を教えるために残されている『僕』の記憶でも曖昧になってきている。
 過去の僕への引き継ぎが行われるのは、何かを失敗した時だった。例えば、仲間や友達、大切になった人たちが死んだ時や、デザイアが現実に溢れ出す未来を止められなかった時。その場合、自分が生存していても誰かを喪ったり変えられなかった時点でもう生き残っていても意味はない。その時はデザイアの力で、過去の自分へと飛ぶ。
 生き残っている時はそのまま、その僕の意識のままの時と、次の僕に任せる時とあったように思う。きっと、その僕の心がこれ以上は自分には戦えない、無理だと思った時に、次の僕へとバトンタッチしていたんだろう。大切な人を助けられなかったら、そうなってしまっても不思議はない。

 もう一つ、強制的に過去への引き継ぎが行われる時があった。それは僕たち自身が死んだ時で、自分が完全に息絶える前に過去へと向かうようになっているものの、特に強い死の衝撃と記憶によって、自分の記憶や力が少しずつ削られ摩耗していく。それはきっと仕方のない事だ、何せ僕たちが挑んでいるのは、勝ち目があるのかどうかもわからない戦いなのだから。自分の何かを、記憶を、力を、喪っていくとしても、僕たちは何度でもそうして繰り返すしかなかった。
 勝ち目があろうとなかろうと、それでも宿主が、本体が望む事を、その欲望を叶えようとするのが僕たちデザイアの在り方だ。こんな世界は嫌だと絶望し、変える事を願った本体と、始まりのデザイアの僕が望み、選んだのだから。僕たちにはそうする以外の選択肢なんて存在しない。
 世界を欲望のみで染めない為に、仲間となった人たちを、大切になるかも知れない人たちを殺させない為に……僕たちの果てしなく長い戦いの旅はそうして始まった。

「ノノ……彼の事はノノと呼ぼう。記憶にある限りでは、多分九番目に代替わりしたもう一人の僕、終わりの僕。恐らくこれ以上はもう、過去へ戻ることが出来ないだろう。彼の中には僕たちがデザイアだという記憶も、繰り返しているという記憶もないし……始まりの記憶もない。きっと、『橘彩世』から生まれたデザイアの存在は、もう限界なんだ」

 ノノは生まれた時、殆どまっさらだった。僕たちがデザイアだという自覚も記憶もなく、どうして戦っているのか、何故自分が革命体になれるのかも覚えていない。恐らく、それでもいつかは自分がデザイアであるという事実に気付いてしまうだろうけれど。
 デザイアの天敵、同族殺しのデザイア。それが僕たちだ。グリッチに入れるのも、デザイアを倒せるのも本来デザイアだけ。革命体とは、デザイアの力で人のまま戦える力の事。何故グリッチに入れるのか、どうして最初から革命体になれたのか。その事に、『僕』が気付かない訳がない。

 殆ど記憶もないのに、ただひたすら彼は人を、誰かを助けようとして戦っていた。そんな彼に呼応するように、彼の周りには少しずつ仲間が集まって行った。確かに僕や『MENA』が手助けもしているが、仲間たちが集まったのは、きっとノノ自身の願いと行動でもあるのだろう。
 僕たちの通ってきた道の中でも、より多くの友情と信頼、愛情を彼は得ている。それが純粋な想いだったとしても、一緒にいたい、こうしてほしい、こんな関係になりたいという無意識に向けられる望みは僕たちデザイアにとって何よりの力になる。
 不思議と、まっさらなノノからは希望を感じる。彼は、僕たちにとって最後の希望の光となった。

「ノノ……君なら、もしかしたら。いや、これが最後なら、達成されなければならないんだ」

 けれど、ノノを見守るうちに、五番目の僕にほんの僅かにそれだけではない願いが生まれていた。僕と君は同じ『僕』なのに、君の思うように生きて欲しい、出来れば幸せになってほしい。そんな願いが心を満たすようになっていた。これはある意味自分に対するものなのだから、自己愛という事になるのだろうか。それとも、本体の僕が僕たちデザイアを大切に想っているから?わからない。それでも。

「どうか、君は君の思うように生きて欲しい、ノノ。たとえ僕たちの選ぶ終わりが、デザイアが消える事だとしても」

 これは、始まった時から僕たちの終わりへと向かう為の旅路だ。デザイアを元あるただの実態のない欲望として、人々の中へと戻す為の。僕たちが消える為の旅だった。それなのに、それがわかっていてこんな事を書くのは酷だろうか。そう苦笑をしながら、僕はその封筒をデータ化してしまっておく。僕が何かで死んだ時に、これが学園の中庭に転送されるように設定しておいた。
 ノノがこれを見つけるかどうかはわからない。読んでどう思うのかも。その頃には僕はもう完全に消えているだろうから、もし文句や言いたい事などがあったとしても、もう文句の一つも聞いてはあげられないのだけれど。

……ノノ。君は、僕たち最後の希望の光だ。守ってみせる、必ず。もうこれ以上、僕は僕を殺させない」

 デザイアは本来同時に存在する事は出来ない。説明する役割を与えられて、グリッチの中に隠れる事でずっと何とか存在を保ってきたけれど。まっさらなノノが生まれた時点で、もう僕たちという橘彩世のデザイアの力に限界が来ている事はわかっていた。
 それも仕方のない事だ。僕たちは何度も死んできたし、何度も過去へ戻る事を繰り返してきている。人の欲望というものに、いくら強い力があったとしてもその限界はきっとある。

 多分、本体の橘彩世は誰より強欲で、そして誰かを救いたいと思うくらいに傲慢だったんだろう。そうでなければ、未来を変えたい、誰かを救いたいなんていう願いで、僕たちは何度も繰り返してなんていない。救いたいという傲慢な願いも、何度も繰り返してでも未来を変えたいという強欲も、構わない。その欲望は僕たちにとっては強い力になるし、それは『橘彩世』という存在の大切なエゴだ。
 願いを叶えてくれる悪魔なんていないとしても、代わりに僕たちデザイアがいるから。虚飾な生命体、本体の欲望や願望から生まれる弱くて強い望みのカタチ。願いがデザイアの力になるというのなら、僕は最後の僕を守り、そうして彼にこの心の強い願いを託して逝こう。

「ごめん、ノノ。君にはきっと、今までの僕たちよりも多くの負担と重責がかかってしまう」

 それでも、ノノならそんな負担や重責すらも受け入れて真っ直ぐに前を見る。僕たちの、仲間たちの願いを背負って、彼は最後まできっと辿り着ける。そんな気がした。
 彼は、僕たちの最後のデザイア。何度も繰り返し続けるほど強欲な『橘彩世』が願った最後のデザイアなら……虚飾なデータ生命体である僕たち『欲望』の願いの果ての最後のカタチなら、記憶なんてなくてもノノはきっと誰よりも強い。

「ノノ……どうか」


■九番目から君たちへの誓い

 もういなくなった『僕』から、最期の依頼が届いた。皆からグリッチやデザイアの記憶が消され、僕以外のデザイアが皆消えてしまって、全てが無かった事にされたような状況で、自分の記憶すら疑っていた僕を導くように、クイントからの依頼が来るなんて思ってもみなかった。

……君は本当に、優しいというか、何と言うか……面倒見がよすぎるんじゃないかな、クイント。いなくなった後まで、こんな文を遺すなんて」

 多分、もしかしたら自分も彼のことはあまり言えないんだろうけれど。もしクイントが面倒見いいとしたら、本来同じものである僕もそうなのかも知れないから。
 学園の中庭の中央に、いつの間にかそっと落ちていた……置かれていた封筒を迷いなく開けて、そこに書かれていた文を読む。それは間違いなく、クイントから僕への手紙だった。近くにMAYAがいるが気にしない。もし見たとしても、彼女にはきっと意味がわからないだろうから。

「ありがとう、クイント。確かに受け取ったよ」

 君の祈りを、僕の願いを。もう一人の自分でありながら、どこか兄のように見守っていてくれた……むしろ本当の兄より兄らしかったかも知れないクイントの事を想う。
 殆ど何も覚えていなかった、自分がデザイアであるという記憶すらなくなっていた僕を、いつも夢の中で導いてくれていたのは彼だった。記憶を失っていた僕ではなく彼こそが残るべきだったんじゃないか、そう思ってしまうけれど、彼に守られた以上は、僕が最期までやり遂げなくてはならない。

 願ってもいいのだろうか、仲間たちと最期の時まで一緒にいたいと。彼らに与えられた幸せを壊してまで、そう願ってもいいのか。僕はクイントの手紙を読むまでは、迷っていた。
 デザイアの事、グリッチの事なんてもう忘れてしまって、皆が幸せの中にいるなら、もう皆は戦わなくてもいいんじゃないか。戦うとしても、僕だけが戦えば……仲間たちが得た幸せを、壊してしまう事はないだろうから。寂しさはあっても、僕は独りでも戦う事は出来るだろう。

 それでも、願ってしまった。デザイアである僕は、自分の「欲望」からも逃れられない。皆に思い出して欲しい、寂しい、一緒に……最期の時まで一緒にいたい。たとえ全てを終わらせて、この体が、デザイアとしての僕が消えていってしまうのだとしても。

『いいんだよ、ノノ。遠慮はいらない』

 クイントの声が聞こえた気がした。気のせいなのかも知れない。けれど、クイントは『僕』でもある。僕たちは橘彩世のデザイア、分かたれた同じ存在なら、君の姿が消えても、僕の中にその想いはあるのかも知れない。
 これは僕たちが終わりへと向かう為の旅路。仲間たちには、僕から苦しみしか残せないのだとしても。一緒に戦ってほしい、そして僕の最期の瞬間まで、一緒にいてほしい。

 ……本当は、消えたくないという気持ちはある。僕たちは消えて、元の欲望という形のないものに戻って、本体の内側に戻るべきだとわかっているのに。僕がそう思っているという事は、今までの僕たちもそう思っていたのかな。そうだとするなら、この願いは誰かに届くのだろうか、いや、誰にも言わずにこの心にしまって逝くべきだろう。

 「皆と……一緒に、いきたかったな」

 誰にも聞こえない程小さな声で、ぽつりとそう呟く。誰にも届かない僕の、もしかしたら僕たちの願っていた想い。どこにも届かないとしても、どうしたってそう願ってしまう。普通の人間のように、皆と一緒に行きたかったし、生きたかった。
 だって、僕たちは、デザイアは、たとえ偽物の生命だとしても、虚飾の存在だったとしても、ここにいた。ここに生きていた。心が、僕というエゴがここにあるのだから、生きたいと願って何が悪い。その願い自体に罪はないはずだ。

 それでも、僕は、僕たちデザイアは消えていくしかない。わかっている。だからどうか……君が生きて。消え逝く僕たちの願いの源、本体である『橘彩世』、君の願いを最後の『欲望』である僕が叶えるから。
 苦しくても、悲しくても、支配されたり、嫌なことがあったとしても、それでもどうか、僕たちと共に。姿は消えてしまうとしても、欲望は君の中に。君の願ったその想いは、きっと君へと還るだろう。
 一つに戻ったその時、どうなるのかは僕たちにもわからない。だって今まで何度繰り返したって、そこまでは辿り着けていないのだから。でも、何かが残ると信じよう。君にも、皆にも、この旅路の意味がなかったなんて思いたくはないから。

「君は……『橘彩世』は、誰かの身代わりになんてならなくてもよかったんだ。兄の身代わりじゃない。『僕』は、『僕』として生きていいんだよ」

 全ての欲望が姿を消して、人の心の中に戻ったその時、『僕』にも何かが届くだろうか。わからないけれど、届いたらいいと思う。

「きっと、僕が終わらせてみせるから」

 僕たち最後の、そしてこの世界で最後のデザイアとして。この長かった僕たちの旅路を、ここで終わらせると誓おう。


■そして僕の願いの先へ

 何度も、何度も未来が変えられるまで繰り返した、僕の欲望たちの旅路をずっと見ていた。僕は他の殆どのデザイアの本体たちと同じように、自分から望んで、僕のデザイアと入れ替わった。そうして『橘彩世』のグリッチの中で眠り続け、その間、僕のデザイアたちの旅路をずっと夢に見ていた。
 普通は恐らく、デザイアと本体は少し違っていたり、またはほぼ別の存在になっていたりするものなのかも知れない。プリーモの頃は確かに、僕の理想の姿としてデザイアが現れていた気がする。けれど、繰り返していくうちに、デザイアたちは自然と本体の僕に近くなっていたのかも知れない。
 そのせいか、それとも長く繰り返していたからか、胡蝶の夢のように、僕は僕のデザイアたちの戦いを夢に見るようになっていった。僕がデザイアになっているのか、デザイアが僕になっているのか、境目が曖昧なくらいに。

 何人もの僕が死んでいき、何回も繰り返した。そのたびに、僕の何かまで擦り減っていくようで、苦しくなった。僕自身が何度も死んで、仲間や友達や大切な人たちが死んでいくのを繰り返し見ていた。悲しくて苦しくて、きっとそのせいで、欲望に終わりが来てしまったんだろう。
 人の欲望には終わりはないと思っていたのに、もうこれが限界だとわかった。最後に生まれた『ノノ』は、一番僕に近い『僕』だった。デザイアとしての力以外は、ほぼ僕と変わらない。
 それでも、僕と違うのは、彼が自分として存在していて、仲間たちに大切に想われていた事だろう。それはきっと、本体の僕には出来ない。

『本当に、そう思うの?』

 ふと、目を開けると、そこには僕が……いや、僕のデザイアがいた。何番目の僕だろうか、五番目か、それとも。

『僕は僕たちであり、そして君でもある』
「どういう意味?」
『そのままの意味だよ、だって僕たちは君の欲望なんだから』
「本体の僕には、君たちのような事なんて」
『出来るよ、確かにデザイアの力は使えないとしても、欲望を力にする事や戦う事は出来なくても。それでも、人間には、無限の可能性がある』
……君は、ノノだね。僕の欲望の最後のカタチ。誰より強かった、最後のデザイア」

 そう言ってみると、彼はしばらく考えてから、違うと言って首を振る。

『今の僕は、デザイアではなく君の所に戻るただの欲望で、僕たちだった全てと入り混じっているから、呼称としては違うかな。確かに、ノノと呼ばれていたデザイアの部分が多いんだけれど』
「それならやっぱりノノじゃないか。でも、その、君はもう消えてしまったのかと思っていた」
『君が眠りから覚める前に、僕が消えてしまう前に、少し話がしたくて』
……話って?」
『君は、誰かの身代わりになんてならなくてもよかったんだ。橘彩世は兄の身代わりなんかじゃない。「僕」は、「僕」として生きていいんだ。それを、最期に伝えておきたかったんだ』

 ノノはそう言い微笑む。その体は少しずつ透けて、消えてきているのに。僕のデザイアだからって、最期のその瞬間まで本体の事なんて気にしなくていいだろうに。

……消させない」
『え、彩世?』
「君も彩世だろ?僕には僕として生きろと言いながら、君は……僕のデザイアたちは皆、僕の身代わりになってずっと戦って、そうしてこんな風に消えていこうとしている」
『それ、は……だって、デザイアたちを人間の心の中に戻すのが、未来を欲望に満ちた世界にしない事が、君の願いだったんだろう?僕は結局それを記憶としては思い出せなかったけれど』
「そうだ、そうだけど、でも……僕はずっと見ていた、プリーモから、ノノまでずっと……その戦いを、旅路を。頑張って来たのはデザイアの君たちなのに、僕は……君に消えてほしくない」
……僕は、心の中に戻るだけだよ。元に戻って、人間の感情や想いの一部になるだけだ』

 彼は困ったように微笑むだけだった。けれど、僕は見ていたし聞いていた。君が、消える決意をしながらも、消えたくないと思っていたのを。皆と一緒にいたいと、いきたかったと呟いていたのを知っている。

「悟ったみたいに笑うな、消えたくないんだろ、皆と生きていたいって言ってたじゃないか」
『何でそういうとこまで聞いてるんだ……意地悪い事を言うなよ、これから僕は消えていくしかないのに』
「君は僕でもあるんだろう?自分で言ったじゃないか。なら、僕になればいい。消えずに僕と一つになって、僕になればいいんだ」

 消えかけてきているその腕を掴んで、僕はそう言う。そうだ、僕はずっと……僕のデザイアたちに、消えてほしい訳ではなかった。デザイアを人の心に戻さなければ未来が変わらないから、未来を変える方法としてそう願っただけだ。
 自分の欲望を醜いと拒絶する人もいるかも知れない。でも僕は……多分、一緒にいたかったんだ。僕のデザイアだけが、僕自身を見てくれた。兄の身代わりではない僕自身を見て、願いを叶えようとしてくれた。それはデザイアの本能のようなものかも知れない。それでも、嬉しかったんだ。
 僕という存在を、『橘彩世』という存在を、そのままの僕として見てくれた事が。僕を見て、僕の願いを叶えようと、ずっといてくれた事が嬉しかった。

『そ、そんな事をしたら、欲望の僕と本体の僕が入り混じる事になる』
「そうしたいって言ってるんだ。僕だって、僕のデザイアが消えるのが怖い。本体の僕だけになるのはもう怖いんだよ」
『それは……そうかも知れないけど』
「それに、人間には大なり小なり欲望があるものだ。僕は自分の欲望を否定しない……ここまでずっと、その存在に救われていたのは紛れもない事実だ」

 幾度も繰り返された時の中で、僕のデザイアたちが苦しみながら、嘆きながら、何度も自分や仲間を失って、それでも抗うのを見てきた。僕が願ってしまったせいで、ひたすら繰り返して戦うのを見てきた。それは、誰も知らないループの中での出来事で、仲間たちですらそれを知る事はない。
 でも、僕だけは、本体である僕だけはそれを知っていた。それがいい事だったのかはわからない。だけど、ずっと一緒にいて、デザイアたちの事を見ていたんだから、彼らが消えて終わりだなんて、どうしても許せなかった。

「ずっと一緒だったんだ、ずっと見ていたんだ。君の、君たちの旅路を、僕の願いの果てを。今更独りにするな」
……やっぱり僕の本体は、強欲で傲慢だ』
「そうだよ、だって『橘彩世』の本体なんだから、当たり前だ」
『人は欲望を嫌がり、目をそらすものだろうに……欲望を受け入れて、デザイアの僕のまま受け入れ、僕たちという存在を救おうとするとは思わなかったよ』

 そう、僕は多分誰よりも『強欲』で、未来を……自分の願いのせいで消えゆく自分のデザイアすらも救いたいと願うほど『傲慢』なんだろう。それが僕だった。それが僕のデザイアたちだった。だからきっと、『橘彩世』という存在は、そういうものなんだろう。

……ノノ、いや、僕の欲望。君は僕で、僕は君だ。僕は君になりたかったんだ」
『君は僕だよ、僕たちだって本当は……君になりたかった。好きで分かたれたんじゃない、欲望だけ本体から切り離されて自由になりたかったんじゃない。僕は僕に受け入れてほしかったんだ。僕という欲望を、望みを……ここにある願いを、受け入れて欲しかった』

 自分を嫌いだった、誰かに認めて欲しかった。そういう人たちから切り離されたのがデザイアだったのかも知れない。本当に認めたかったのは、受け入れたかったのは、大切にしたかったのは、きっと自分自身だった。誰かに認めてもらいたいのも本当だ、でもきっと、自分自身の心がぐらついたままでは、ただ他者からの賞賛を求めるだけの承認欲求の化け物になっていくだけだろう。

「行こう、一緒に」
『うん、一緒に行こう。願いの先へ』

 僕が願い、『僕たち』が繰り返し続け、叶えた願いのその先へ。そっと抱き締め合うように、労るように触れて、額をくっつける。触れた部分から混ざり合い、境界線がなくなって溶け合っていく。

 そうして、混ざってひとつになって、僕たちは『僕』になり、目を開ける。引き裂かれていた存在が一つに戻ったような、むしろ生まれ変わったような、不思議な感覚だった。
 夢から覚めたその場所は、恐らく病院だろうか。グリッチから外に出て、そのままその場で倒れて運ばれたのかも知れない。その辺の記憶は曖昧でよく思い出せない。
 何度も何度も繰り返していたから、本体の記憶ではずいぶん長く眠っていたような気がするけれど、それを覚えている存在はもう、僕しかいない。本当の現実の時間としては、長くても数ヶ月ほどだろうか。『ノノ』が生まれ、そして学園に来た時から終わらせるまでの時間は恐らくそれくらいだったはずだ。

 もう繰り返していた君たちはいない、独りになってしまった。そう思いかけて首を振る。もう僕は独りなんかじゃない。戻ってきた欲望と共に、僕のエゴはもうここにある。

……でも皆は、僕を、本体の僕を受け入れてくれるだろうか」

 大丈夫だよ、皆は強いし優しいし、僕たちは誰より強欲なんだから。僕たちが願いを叶えたように、今度は自分で掴み取れ。心のどこかから、僕のデザイアの声が聞こえたような気がする。
 もしも皆が戸惑うなら、もう一度始めればいい。皆との絆が繋がってないなら、また繋ぎ直せばいい。初めましてからやり直したって構わない。僕にとっては、皆も大切な存在だ。

 そうして欲望がくれた光を胸に抱いて、僕は前を向いて歩き出す。怖いけれど、それでも、この心にある欲望を希望に変えて進んでいこう。君と、君たちと、皆と共に、願い叶えた未来のその先の旅路へと。