(サンダルフォン視点)
頭がまだ少し痛い。昨日、オイゲン達おっさんメンバーとの晩酌に付き合わされたせいだ。酔いが中々取れずベットから出るのが遅くなり、そのせいで遅めの朝食を取る羽目になった。まぁいいさ。今日は非番だから部屋でゆったりと読書しようと思っていたところだ。食パンを齧りながら、食堂でくつろぐ団長、ビィを見つめる。彼らのテーブルの上には地図が置かれていた。目的地までの道のりを確認していたのだろう。今日の彼らの任務は記憶喪失の星晶獣の記憶を取り戻す事で、その星晶獣に会う為に港町に向かっている。
「後、10分位で着きそうってラカムが言ってましたよ!」
食堂に入ってきたルリアが団長に告げた。
「了解!道のりも確認できた事だし、到着までもう少しのんびりしますか」
「折角だから、甲板に出ませんか?今日はとても天気が良いですし!」
「そうしようぜ!」
そう言って三名は食堂を出て行った。そろそろ俺も自室に帰るか。食器を片付けようとしたその時、騎空艇の外から星晶獣の気配がする事に気付いた。その気配はとても弱々しいが、俺のよく知るものであった。方向からして向かっている港町からくるものだろう。勢いよく立ち上がり顔を気配がする方に向けて呟く。
「この気配は
……?」
何故?ありえない。どうして?思考が頭を駆け巡り考えがまとまらない。これ以上の思考は無意味、確かめるしか方法はない。そう結論付けた俺は勢い良く食堂を出て甲板に向かった。
「サンダルフォンさん!」
甲板に出るとルリアの声が背後から聞こえた。彼女も気配の正体に気付いたのかもしれない。
「先に行かせてもらう!」
純白の六枚羽を広げて飛び立ち、気配の元へ向かう。全速力で飛行したためあっという間に港町へ到着した。少しでも目立たぬよう街で一番高い建物の屋根へと着地し、羽をしまって気配のする方向へ降り進んだ。港町は朝から人でごった返していたが、非常事態だったので人並みを掻き分けて進んだ。そうして、遂に見つけた。人通りの邪魔にならないよう配慮していたのか、街から少し外れたところにそのお方がいた。
「ルシフェル様!ルシフェル様!」
声を張り上げ呼びかけるも返事はなかった。顔はこちらに向いているので聞こえていない訳では無さそうだが反応が薄い。猛ダッシュしてあのお方の側に近付いた。
「ルシフェル様!どうしてここに
……?いや、そんなことよりも
……」
近付いた事ではっきりと分かった。ルシフェル様の気配がとても弱い事に。それこそカナンの神殿で感じ取った気配と同等レベルだ。その状態でここに存在している事が奇跡としか言いようがない。言葉に詰まる俺に、ルシフェル様が声を掛けられた。
「君がルリアだろうか?本来の待ち合わせ場所におらず、申し訳なかった」
今何と?漸く会えたと思ったルシフェル様は俺の事を覚えておらず、何よりいつ儚くなってもおかしくない状態だ。どうすればルシフェル様を助けられる?助けられず、またルシフェル様が死にゆく様を眺める事しかできないのだろうか?カナンの地で首だけになったルシフェル様を思い浮かべてしまう。手の震えが止まらない。深い悲しみに囚われているとルシフェル様が手をこちらに伸ばしてきて
……。
バチッ
鋭い音が聞こえた。ルシフェル様がご自身の手を見つめている。先程の音と何か関係があるのかもしれない。再度ルシフェル様が手を伸ばしたところ、同じように大きな音がした。
「今の音は?」
「手に強い電気の衝撃を受けたような感覚があった。君は問題ないだろうか?」
「は、はい」
衝撃?俺は全く感じていない。ルシフェル様の身に一体何が起きているんだ?早期の事態解明に向けて四大天司に思念波を送る。皆、すぐこちらに来てくれるそうだ。
「ルシフェル様、騎空艇に戻りましょう。貴方のお身体の状態が気になります。一刻も早く検査させてください」
「検査?よく分からないが君に従おう」
ルシフェル様を騎空艇まで案内する間、背後にいる彼の気配を常に追った。気配が消えてしまわないか、気が気でなかった。団長達と合流し、握手を交わすルシフェル様を見つめる。彼らとは接触しても問題ない事が分かった。
* * *
俺は一人、俺の部屋のベッドに横たわるルシフェル様を見つめる。ルシフェル様は検査のために集まった四大天司を見るなり倒れられてしまったのだ。四大天司を待つ際にルシフェル様は自分に起きる奇妙な症状について話されていた。過去を思い出そうとすると頭痛が起き、酷い時には失神してしまうとも。また、ルシフェル様は把握されていなかったようだが、「ルシフェル」というご自身のお名前も聞こえないようだ。奇妙な現象に苛まれるルシフェル様を一刻も早くお救いしたいのだが簡易的な検査では何も分からなかった。その為、錬金術師の開祖であるカリオストロの知恵も借りて本格的な調査をする予定となっている。それまではただルシフェル様を見守ることしかできない。そんな自分が歯痒かった。
後日、本格的な検査を実施したが結果は変わらかった。どうやって再顕現なされたのか、どうして頭痛などの現象が起こるのかなにも分からなかった。何か悪しき者の影響を受けているのではと言った声も出てくる。原因が全く分からない為、その可能性も否定する事はできなかった。騎空団の悩みの種になるならルシフェル様を連れて船を降りようか。共に山奥で静かに住むのも良いかもしれない、とも考えていた。しかし、それは杞憂に終わった。団長、ルリア、ビィといったいつものメンバーだけでなくコスモスも引き留めてくれた。ルシフェル様に過去世話になり、その借りを返す時だと申し出てくれたのだ。結果、ルシフェル様の周りにはいつも誰かしら武芸に秀でたものが側に付き、常に状態を観察できるよう環境が整えられたのだった。
* * *
朝日が部屋に差し込む。もうすぐ朝食の時間だ。ルシフェル様が団に所属されてから一ヶ月が経ったが、ルシフェル様は相変わらず記憶を喪失されたままだった。一つだけ変化した点といえば気配だ。再会した当初よりも僅かだか強まってきている。理由は依然分からないままだが原因解明の糸口になるかもしれない。今日の夜は四大天司と協力して研究所の資料を漁る予定だったが、まず最初に情報のアップデート及び意見交換をしても良いかもしれない。そう考えて、部屋を出た。
ルシフェル様と朝食を食べ終わって別れた後、カリオストロが話しかけてきた。
「ルシフェルさん、最近どう?」
彼女もルシフェル様の事を気に掛けてくれているようだ。
「症状に変化はみられないな。
……丁度良かった。君の力をまた借りたいのだが、今夜空いているだろうか?」
「えー⭐︎?またカリオストロちゃんの力が必要なの?仕方がないなー⭐︎」
親指と小指を立てた手を顔の横に当てた状態でウインクされた。そういえば前回の検査時には協力の対価として特性珈琲とお菓子を振る舞った事を思い出した。今回も何かしらの対価を求められるだろう。ルシフェル様の記憶喪失問題解決の為ならば俺にできる事は何でもするつもりだから、珈琲のサービス位は大した事ではないが。
「ルシフェルさんの珈琲も飲んでみたいなー⭐︎」
「
……最初に飲ませて頂くのは俺だからな」
今のルシフェル様は珈琲を見ると頭痛がすると言い、珈琲が全く飲めない状況だった。当然、珈琲を振る舞うなんて事もできない。俺もお預け状態なのに、他人に先を越されるのは誰であろうと勘弁被りたかった。
* * *
ルシフェル様が団に所属されるようになってからもうすぐ二ヶ月が経つ。ルシフェル様の記憶喪失の症状は依然改善されていないが、もうすぐその状態も解消されるだろう。四大天司やカリオストロ、団の知性派の面々の協力により、ルシフェル様の記憶喪失の原因が俺にある事が分かったのだ。ルシフェル様と再会したいという秘めた願いが、無意識に十二枚羽の力を発動させた。ルシフェル様の御首級を依代として再顕現させてしまったらしい。身に覚えが全くないが。ルシフェル様の力が以前より安定してきているのは、彼の自己修復機能が働いているからだと検査結果で判明した。そこで、俺は継承された天司長としての力を返還する事にした。ただ、一気に返還するとルシフェル様が保持できる容量を超えてしまい、悪影響を及ぼす可能性が高い。その為に十二枚羽の力を制御する鍛錬を行う事にした。今日はミカエルが訓練に付き合ってくれている。
「悪くないぞ、サンダルフォン。鍛錬を始める前とは制御する力が格段に上がっている」
「ああ、俺もそう感じる。訓練に付き合ってくれるアンタ達四大のおかげだ」
「妾とてルシフェル様には幸せに過ごして頂きたいと思っている。その為の協力を惜しむはずがない。さて、まだまだ行けるな?」
「当然だ」
ミカエルの出す炎に包まれる。それに焼かれないよ自身の周りの元素を制御する訓練だ。始めた当初は制御が上手くできず大怪我をする日もあった。元素制御と自己治癒を繰り返し行い疲弊する日々を送っていた。そのような俺の様子をルシフェル様にはどのように映ったのか不明だが、距離を置かれるようになってしまった。何か誤解されている可能性が高い為、問題の解消に努めたかったが彼の記憶に関わる話はできないため、状態を改善する事はできなかった。俺が不甲斐無いせいでルシフェル様に負担を掛けてしまっている。早く問題を解決し、彼の心からの笑顔を取り戻したい。その一心で訓練に向き合った。
* * *
夕陽に照らされた空を翔る。風を切る音を聞きながら口を開けた。
「ルシフェル様!漸く貴方に天司長の力をお返しできます!」
俺は遥か遠くのグランサイファーに向かって呼びかけた。正確にはその中にいるルシフェル様に向かってだが。当然ルシフェル様には聞こえないだろう。そのような事は当然理解しているが、高揚して叫ばずにはいられなかった。早く、早く会いたい。しかし、意識が昂っていたためか肝心な事に気付くのが遅くなってしまった。ルシフェル様の気配が騎空艇からしないのだ。高揚感から焦燥感に塗り替わる。ルシフェル様の本日の外出の予定はお昼の買い出しのみ。もうすぐ夕方だから本来であればとっくに騎空艇に帰ってきているはずだ。ルシフェル様の居場所を探るために俺の力を空に向かって拡散させる。ルシフェル様に手渡したブレスレットが呼応してくれるはずだ。そうすると騎空艇が停めてある街内から反応が帰ってきた。どういう事だろう。今日のもう一人の買い物係であるコスモスに話を聞くため騎空艇へ向かった。
「本当にすまない、サンダルフォン。ルシフェルには囮になってもらう事になったのだ」
「オトリィ!?
……状況を詳しく説明してもらおうか」
よく耐えたな、と自分を褒め称える。騎空団に入ってきた当初の俺であったらルシフェル様を囮に使うとは何事だとコスモスに掴みかかっていた事だろう。
「わ、私から説明するね!」
見かねた団長が救援に来たようだ。団長の話を要約すると、買い物中にルシフェル様が怪しい人物に声をかけられ、ルシフェル様がそれに乗ったとの事だった。
「当初はルシフェルを止めようかと思ったのが、この街には人身売買も行う闇商人がいる事を思い出したのだ。仮に該当の人物であれば、野放しにするのは良くないと考え、団長の意見を仰ぐ事にしたのだ」
「それで、闇商人を泳がせるためにルシフェル様を囮に
……。ルシフェル様は闇商人について把握されているのか?」
「教えてないんだ。相手に勘づかれたらマズイし。後、教えて彼を正しい道に導かねばとか言い出されても困っちゃうし
……」
「いくらルシフェル様でもそのような事、流石に
……」
ない、とは言い切れなかった。少なくとも天司長だった頃のルシフェル様であれば言いかねない。
「大丈夫、ルシフェルに万一の事がないように、団の人にバーに潜り込んでもらっているから!」
「よく、バーに潜り込めたな。闇商人行きつけの店を知っていたのか?」
「ううん、分からないからこの街全部の酒場•バーに団の人達に入ってもらったんだ!」
恐るべき人海戦術だ。
「状況は分かった。俺も現地に合流しよう」
ルシフェル様。待っていてください。今、お迎えにあがりますから。
* * *
結果的に闇商人捕捉作業はスムーズに終わった。仕込んだ酒で眠らされたルシフェル様をオトリに闇商人の動きを観察し、彼らの本拠地を発見したところで奇襲を掛けた。拠点には闇商人の仲間が数名いたのだが、何とバーの店主もグルだった事が判明した。
「おい、貴様ら。ルシフェル様に眠り薬を仕込むなんていい度胸しているな。覚悟はできているんだろうな?」
縄でぐるぐる巻きにされた闇商人達を睨み付けて吐き捨てる。闇商人達が震え上がる。
「サンダルフォン、ストップ!ストップー!」
団長が俺と闇商人の間に入った。腕を交差してバツ印を使っている。
「団長!俺は散々我慢したんだぞ、奥義一発撃ち込むくらい良いだろう?」
「うーん、パラダイス・ロスト-(マイナス)、光ダメージ(極小)なら良い
……かな」
「よし、分かった」
「ダメですよ、ジータ!サンダルフォンさんも!」
「そ、そんな事より、あっちで眠りこけてるルシフェル、早く回収してやった方が良いんじゃないか?」
ビィの言葉にハッと我に帰る。
「そうだった。こんな奴らに構っている暇はなかった。後は任せたぞ」
三名の了解の返事を聞きながら、その場を立ち去る。ルシフェル様は布で体をぐるぐる巻きにされた状態で大きめの木製の箱からなる台車の中に入れられていた。顔色は酒に酔ったのか少し赤くなっているがそれ以外に変化は見られなかった。身体に問題がない事は気配から察していたが、ルシフェル様の顔を実際に見るまでは安心できなかった。だが、もう気を揉む必要はなさそうだ。
「ルシフェル様、失礼します」
ぐるぐる巻きにされた布を少しずつ剥がしていき、遂にはルシフェル様のお身体そのものに触れる。今の俺ならルシフェル様と問題なく接触できるはずだ。じっとルシフェル様の顔色を伺ったが、特に異常はなさそうだった。
「ルシフェル様、色々とお疲れでしょう。でも、もう大丈夫です。帰りましょう」
俺はルシフェル様を横抱きにして、闇商人の拠点を後にした。飛翔してグランサイファーを目指す。飛翔中らルシフェル様が目を覚まされた。眠りを妨げないようなるべく音を立てずに注意していたのだが、足りなかったようだ。
「サンダルフォン
……?」
ぼんやりとしていらっしゃる。まだ、酒の影響が抜けきっていないのかもしれない。
「ソラさん
……。いえ、ルシフェル様。もう少しで騎空艇に着きます。もう少し眠っていても大丈夫ですよ」
「ああ、ありがとう。そうするよ」
こてりと顔を横にされて、目を閉じられた。微かな寝息も聞こえる。ルシフェル様の寝顔をこんなに近くで見られるようになる日が来るとは思わなかったし、考えたこともなかった。近い将来、寝顔以外のルシフェル様の新しい一面を拝見できる日が来るかも知るない。そう思うとワクワクする。そんな事を考えながら空をゆっくりと移動した。
* * *
今日はルシフェル様の記憶復活の記念パーティを開催する日だ。その参加者は多岐に渡っている。団長、ルリア、ビィなどのいつものメンバーはもちろん、四大天司、カリオストロ、コスモス、闇商人捕捉に協力してくれた団員達、そして今回の騒動とは無縁だけどお祭り騒ぎに参加したいという団員達だ。参加者をもてなす為に、俺は朝からパーティの食事準備をしていた。団長達は今、借りた会場の飾り付けの準備をしてくれている。四大天司も午後に合流し、食事の準備などを手伝ってくれる予定だ。
「で、何故貴方がここにいるんですか?ルシフェル様」
エプロン姿で現れたルシフェル様を凝視する。
「今日は私の為のパーティなのだろう。準備を手伝わせて欲しい」
「主役がパーティの手伝いをするなんて聞いた事ありませんよ!」
「硬い事を言わないで欲しい。そうだ、珈琲を入れよう。休憩が必要なのではないか?休憩したら一緒に準備を再開しよう」
笑顔を綻ばせるルシフェル様。それを見て俺は絆されてしまう。
「仕方ない、一杯だけですよ。飲んだら作業再開します。もちろんルシフェル様にも手伝って頂きますからね」
「ああ、望むところだ」
久々に飲んだルシフェル様の珈琲。ずっと飲みたくて仕方がなかった。今日という日と共に俺の大切な記憶となった。
終わり
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