ひよこ
2025-12-12 20:04:58
13055文字
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サンルシで記憶喪失ネタ一回書いてみたかった

・メインストーリーでルシフェル様が(想像と大分違った風に)復活しそうなので今のうちに自分なりの復活ネタを書いてみました。
•ルシフェル様が公明正大に書かれてません(サンダルフォンが関わると特にぽやぽやになるという独自解釈の元、書いてます)
・2ページ目にサンダルフォン視点を追加

 朦朧とする意識の中で、声が聞こえた。

「おい、お兄さん。大丈夫か?」

話者は誰か確認する為に何とか意識を向けると、恰幅のよいドラフの男性が見えた。

……ここは?」
「ここは騎空艇の中だ。あんた、いきなり空中から落下してきたんだよ?ふわふわと。何か心当たりはあるか?」
……分からないな」
「そうか……

暫く沈黙が続いた後、ドラフの男性から問われた。

「そうだ、お兄さん。名前は?」
「名前?私の名前は……?」

自分の名前が分からない事に気付いた。名前だけではない。過去の記憶が一切無かった。

* * *

……と、いう事で星晶獣に詳しい騎空団の方にお声がけしました。二、三日でこちらに来られると思います〜」
「ありがとう。シェロカルテ殿」

 シェロカルテ殿はとても頼りになる方だ。私が世話になった騎空艇に彼女もたまたま乗り合わせていたのだが、私が星晶獣であるという事が分かると、私の身元特定の協力を申し出てくれた。

「いえいえ〜。こちらこそ、よろず屋のお手伝いをして頂きありがとうございます〜。実はここだけの話、ソラさんのお陰で売り上げが上がっておりまして……

シェロカルテ殿は満面の笑みを浮かべた。

……私のお陰?よく分からないが、役に立てているようで良かった」

ソラ。私の仮の名。空から降ってきたからソラにしようとドラフの男性から名付けてもらった。ソラという名前は良いとは思うのだが何故だか未だに馴染まない。私の本当の名前は一体……。いけない、また頭痛が……

「うっ……
「だっ、大丈夫ですか〜?」
「ああ。ありがとう。また、やってしまった」
「焦りは禁物ですよ〜」
「その通りだな、気を付けよう」

過去を思い出そうとすると何故か頭が痛くなる。ひどい時には失神してしまう。シェロカルテ殿が言うには失神前の記憶が抜け落ちてしまっているらしい。それが判明してからはなるべく思い出さないよう努めているのだが、たまに失敗してしまう。また余計な事を考えないよう、シェロカルテ殿のお手伝いを再開しよう。

* * *

 シェロカルテ殿が紹介してくれた騎空団の面々と会う日になった。シェロカルテ殿は別件で立ち会えず申し訳ないと言い、出かけて行った。私は暇だった事もあり一人で乗艇港に向かった。道中、理由は分からないが様々な人に話しかけられたので想定より時間が掛かってしまった。私は予定があると言っているのに、話しかけるもの皆が少しでも時間が取れないかと念押ししてくるので断るのに苦労した。

 乗艇港の入り口付近から港を眺める。人々が忙しなく行き交っており、賑わいに溢れている。シェロカルテ殿が紹介してくれた騎空団はもう到着しているだろうか?私は騎空士達の顔は分からないが、星晶獣の気配が分かる者がいるそうなので私を見つけてくれるだろう。それまで港や人々を眺めていようと考えていたら、声が聞こえた。

「ーー様!ーー様!」

声が聞こえる方を向くと茶髪の青年が勢い良くこちらに向かって来るのが見えた。例の騎空団の者だろうか。

「ーー様!どうしてここに……?いや、そんなことよりも……

茶髪の青年は僅かに涙を溢していた。何故泣いているのだろう。無断で港に来てしまったので迷惑をかけてしまったのだろうか。謝罪をせねば。

「君がルリアだろうか?本来の待ち合わせ場所におらず、申し訳なかった」

それを聞いた青年は目を大きく見開き、固まってしまった。とても悲しそうな顔をしている。彼の悲しそうな顔をもう見たくない、という思いに溢れた。震える彼の手を握ってあげる事で気持ちが落ち着くだろうか。そう思って手を近づけたところ、バチッと音が聞こえ鋭い痛みが走った。この現象は何だろうか。もう一度彼に触れようとしたところ、また鋭い痛みが走った。

* * *

「おはようございます。ソラさん。今日もいい天気ですね」

グランサイファーの甲板で空を眺めていたら、後ろから声が聞こえた。

「おはよう。サンダルフォン。本当にいい天気だね」

横に並び、空を見やる。この穏やかな時間がとても好ましい。

 この騎空団の一員として所属するようになってから一か月経った。相変わらず、記憶は戻らないが、騎空団の者達の助けもあり問題なく過ごせている。……一点だけ除くが。サンダルフォンの事だ。彼は出会って以降、私の面倒をよく見てくれている。サンダルフォン。何だろう。彼を見ていると懐かしく感じる。深く考えると頭痛がするのでこれ以上の思考を止める。本当はもっとサンダルフォンと色々話をしたいのだが、頭痛を誘発してしまうかもしれない。私としては頭の痛みを伴ってもサンダルフォンと色々と話したいと思っているのだが、サンダルフォンがとても気に掛けているようだった。その為、サンダルフォンとは些細な会話しかできていない。もどかしいがこれ以上距離を置かれるよりマシだろう。

「ソラさん、朝食はもう食べられましたか?」
「いや、まだだ」
「ご一緒しても良いでしょうか?」
「勿論。一緒に食べよう。サンダルフォン」

サンダルフォンが微笑む。私もつられて微笑んだ。

 朝食中、サンダルフォンから、今日彼が行く任務について教えてもらった。異常繁殖したンナギの生態調査だそうだ。サンダルフォンは面倒だと言いつつ、とても嬉しそうだ。生態調査はそんなに面白いのだろうか。私も戦闘が出来たのなら付いていけるのに……

 朝食を食べてサンダルフォンと別れた後、彼と団員が話しているのが聞こえた。

「ーーさん、最近どう?」

錬金術を得意としている少女、カリオストロだ。団に来て直ぐに紹介された。

「症状に変化はみられないな。……

二人の声は聞こえなくなってしまった。盗み聞きは良くないし、私も団員としての仕事に取り掛かる必要がある。今日は夕飯のカレー作りの担当だ。サンダルフォン達に喜んでもらえるよう、入念に準備しよう。

 団で過ごす時間が増えるにつれ、私に変化が起きた。サンダルフォンと語っている時は勿論、仕事をしている時も、部屋で一人休んでいる時もサンダルフォンのことばかり考えてしまうようになった。この時は気付かなかったが、サンダルフォンに心惹かれていた。サンダルフォンと沢山話をしたい。サンダルフォンが許してくれれば寄り添って夜が明けるまで語り合いたいという願いが湧く。だが、自分の記憶喪失に伴う奇怪現象がそれを許してくれなかった。サンダルフォンが何か真剣に語ろうとすると頭痛が起きる。失神してしまったこともある。彼と意図せず接触した時は接触部に鋭い痛みが発生する。なんてもどかしいのだろう。

* * *

 騎空団に所属するようになってからニか月が経ったある日。私は自室から空を見ていた。遠くに厚い雲が掛かっている。暫く空を見ていると扉をノックする音が聞こえた。恐らく彼だろう。

「おはようございます。ソラさん。今日は、朝食は……
「おはよう。サンダルフォン。今日も朝食を食べる気分ではないんだ。すまない……
……そうなのですね。どこか身体の調子が……
「身体は問題ないよ。ただ、本当に気分が乗らないだけなんだ」
「なら、良かったです。それでは失礼します」
どことなく寂しそうな顔だ。胸が苦しくなる……

キィ、と扉が閉まる音響いた後、静けさに包まれた。……これで良いのだ。と自分に言い聞かせる。
彼の親切心を利用するような形になってしまうのは不本意なのだ。団に来た当初は笑顔に溢れていた彼だったが、近頃は度々疲れた様子を見せている。何かに焦っているようでもあった。私の存在が彼に負担を掛けているのだろう。サンダルフォンには笑顔でいて欲しいのに、私の存在が彼の笑顔を曇らせてしまっている。彼を想うと胸が詰まるようになってしまった。

 サンダルフォンとぎこちないやり取りをする日々が続く。そのような中、サンダルフォンは任務のたびにお土産をくれるようになった。海辺の貝殻を詰めた小瓶やお菓子など様々だ。ブレスレットをもらったこともある。金色のチェーンでアクセントに可愛らしい羽のモチーフが付いていた。外を出る時には必ず付けてくれると嬉しいと言われたため、外出時はいつも着用するようにした。部屋の中が少しずつ彼のもので溢れていく。とても嬉しいのに、とても苦しい。

* * *

 窓の外から夜を照らす明かりが見える。カウンターテーブルの目の前に、リキュールが置かれた。カランと氷の音が鳴る。並々と注がれたリキュールのグラスを持つとアドバイス通りに一気に飲み干した。

「よっ、兄ちゃん。見かけに寄らず良い飲みっぷりだねー!」
「ふふっ。そうだろうか」

 私は街のバーに来ていた。昼の買い出しの時に、行商人と名乗る男性から夜飲まないか誘われた。私の境遇を知らない者と語らえば気が紛れるだろうか、と考え承諾した。ちなみに私が街に来ていることは今日のもう一人の買い出し係だったコスモスしかしらない。サンダルフォンに何か聞かれても、疲れたから早く寝ると言っておいて欲しいと言伝しておいたので大丈夫だろう。

「行商人との事だったがどのような商売を?」
「おっ、ソラさん俺に興味持ってくれてるの?嬉しいな」
「ああ、以前よろず屋の手伝いをした事があってね。そこでの経験はとても貴重だった」
「なるほどねー。ソラさんもう一杯飲みませんか?」
「飲む事は問題ないのだが、お金をそこまで持ち合わせていない。無駄遣いは控えたい」

団に来た当初、空の民の生活に疎い私にサンダルフォンは色々と教えてくれた。珍しい物に直ぐ惹かれてしまう私に節制を教えてくれた。とても優しい子だな、と改めて思う。

「今日は俺が誘ったんだから俺の奢りですよ!ほら、じゃんじゃん飲んで飲んで!」
「そうか。では、遠慮なく」

二杯目、三杯目も直ぐに飲み干してしまった。すると、頭の感覚が鈍るように感じた。段々と眠気も強くなる。以前も酒を飲んだ事があったがこんなに早く酔いが回らなかった。質の悪い酒は悪酔いしやすいと団員が言っていた。それが原因だろうか……。それ以上、思考が回らなくなり、意識を手放した。

* * *

 日差しが眩しく感じ、目を開けるとサンダルフォンが覗き込んでいた。見渡すと見慣れた景色が広がった。私の自室だ。昨日、酒を飲んでから記憶がない。もしかして……

「サンダルフォン。私はまた、君に迷惑を掛けてしまったのだろうか……
「ええ。それはもう、大迷惑を」
……

沈黙が流れる。サンダルフォンに迷惑を掛けまいとした事が逆効果だったようだ。彼と面を向かって話をすべく、ベッドから身体を起こそうとしたが上手く起こせなかった。昨日飲んだ酒の影響がまだ残っているようだ。サンダルフォンは気にせずそのままの体勢でいてください、と声を掛けてくれた。

「サンダルフォン。本当に申し訳なかった」
「そうですよ。しっかり反省してくださいね」

サンダルフォンは軽く私の頭をこづいた。

……?」
「ははっ。気付かれました?」

サンダルフォンが私に触れても何も起きない。これはもしかして……

「問題が解決したと貴方に報告したくて全速力で帰って来たのに肝心の貴方が居ないんだから……。これ以上驚かせないでください。……ルシフェル様」
「ルシフェル……
「そうです。貴方の本当の名前です」

私の名という言葉を聞いた時、僅かだが思い出した。唯一人、天司長ではなく唯のルシフェルとして接してくれた中庭のあの子を。

「ルシフェル様。長い間、貴方に煩わしい想いをさせてしまい大変申し訳ございませんでした」

サンダルフォンは私の記憶喪失とそれに付随する体質の原因を説明した。

「原因は俺の持つ十二枚羽の力なんです」

サンダルフォンは私の復活をずっと願ってくれていた。その願いを本人の意図しない形で叶えてしまったようだ。

「ただ、貴方を元の形で復活させるには力が足りなかった。そこで記憶を喪失させる事で貴方の力を封じていたようなのです。俺と接触が出来なかったのも、貴方の力が俺の元に戻らないための措置だった。」

ルシフェルと言う名が聞こえなかったり、私の過去に関する言葉を聞くと失神して記憶が無くなってしまうのも、全ては私を存在を維持する為のものだったそうだ。この地で再顕現したのもエーテル濃度が比較的濃いからだと考えられる。

「俺が未熟だったせいで、貴方に苦しい想いをさせてしまいました。申し訳ございません。今は羽の制御が安定したので、少しずつですが貴方に天司長の力をお返しする事ができるようになりました。貴方の記憶も徐々に戻ってくる筈です」

「サンダルフォン。私こそ、すまない。団に来てからの私は不甲斐なく色々と君に迷惑を掛けてしまった」
「そんな事ないですよ……。と、言いたいところですが、闇商人に騙されて人身売買されそうになっていたのは流石に見過ごせないですね」
「人身売買……

そうか、あの酒には細工がされていたのか……

「悪酔いしたのかと思ったのだが、違ったのだな。以後気を付けねば……
「何を呑気な事を……。」
サンダルフォンにため息をつかれてしまった。珍しい表情が見れて嬉しくなる。サンダルフォンに何で笑っているのですかと怒られてしまった。

「まぁ、仮に貴方が誘拐されていたとしてもブレスレットを着けてくださっていたので直ぐに発見できたでしょうけど」

サンダルフォンがくれたブレスレットは特殊な物で、サンダルフォンの力に呼応して位置を知らせる機能があったらしい。知らない間に守られていたようだ。いや、彼は団に来てからずっと見守ってくれていた。

「闇商人騒動解決に協力してくれた団員達やコスモスに後で礼を言わなくては……

私も礼を伝えねば、と考えているとサンダルフォンは気怠そうに伸びをしながら話しをしてきた。

「今日の任務、その捕まった闇商人の調査•捕捉だったんです。その任務を昨日代わりにやったので今日は休みになりました」
そう言ってサンダルフォンが私の手を握り、彼の顔に寄せた。
「昨日、想定外の仕事をする事になってしまったので疲れてしまいました」
「本当にすまない……
「謝罪はもういいので、貴方のベッドのスペース、半分お借りしても良いですか?」

と、言いながらベッドに入って来た。彼の為にベッドの端に寄るが、充分なスペースが取れないのとサンダルフォンがどんどんと詰めてくる為、彼と密着する形になった。

「漸く、貴方に触れられた。貴方が「居なかった」間の事、沢山話したかった。話を聞いて欲しかったんです」

彼の目には涙が浮かんでいた。拭ってあげたかったが視界がぼやけていて上手くできそうにない。そうだ。私は「あの時」彼を見送ったのだ。私の安寧が帰って来てくれた。

「サンダルフォン、お帰りなさい」

それを聞いたサンダルフォンは目を見開いた後、満面の笑みで答えてくれた。

「ただいま、ルシフェル様!」