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幸希(ユキ)
2025-12-10 22:59:49
2106文字
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それでも
与えられる事に慣れてしまった。君のせいだ。
「ん
…
」
「むつ
…
」
静かな寝室に響く微かな水音。色を得るには拙くて、初でいるには熱が籠って仕方ない。
「は
…
」
「ん、は
…
」
恋仲になって2年。多くはなかったスキンシップは年を負うごとに増えて、気づけば、傍に寄ったのを合図のようにしてこうして唇を合わせる。するのが当たり前で、しないと落ち着かない。
「苦しゅうないかえ。」
「大丈夫。」
口づけの合間に落とされる気遣い。熱に浮かされて流されていこうとする私を引き止める声。
「
……
あのさ。」
「ん?」
「ほぼ毎日こうして、呆れたりしないの?」
自分で言うのもなんだが、色事には疎い上、慣れてない事には忌避感を覚えて逃げようとする。そのくせ慣れてしまえば際限なく求める浅ましさ。自分でアホじゃないかと考えるくらいには欲の皮が突っ張ってると思う。
「呆れる必要あるかえ。」
「だって
…
」
「おまさんは我が儘くらいでちょうどえい。」
「えー
…
。」
昨日我が儘言って困った顔してたの誰だ。
「おまさんがねだる事なぞそう多くはないきに。これでおまさんが満たされるがやったら、別にかまんきね。」
「
………
。」
こういうのが困る。普段“自分1人でなんとかしないといけない”という意識がある分、甘える事を許されると、自分の中のストッパーが緩む。甘えていいのなら、もっと、もっと欲しい。そう思ってる自分がいる。
(でも、昔これで失敗してるからな
…
。)
むっちゃんと出会う前。心を許した相手にこの甘えを見せた事があった。けれど、受け入れる度量が相手になかったのか、はたまた私が我が儘過ぎたのか、相手に拒否をされてしまった。以来これが怖くて身内以外に甘える事をしなくなってしまった。
(加減が分からなくなるし
…
。)
恋愛に限らず人間関係は大概そうだが、尊重や持ちつ持たれつが必要になる。もちろんそこは私も重々理解してるし、そこを疎かにするつもりはない。だからこそ、【我が儘】を肯定しきれないし、甘える事を是とする事が難しく感じてしまう。甘える事で自分がひどく自己中心的になってしまうのが、私は恐ろしい。
「?」
首を傾げて、黙り込んだ私を覗き込むむっちゃん。
「何考えゆう。」
「むっちゃんの甘やかしが困るなって。」
「困るがか。」
「1人で立てなくなる。」
愛されている自覚を持っていたとしても、愛してくれる事を分かっていても、根本に深く根付く孤独への怖さや忌避感、嫌悪感。それから逃れるには1人でも平気じゃないといけないという本能に近い思考。むっちゃんは容易くそれを壊しに来る。
「立たんでえい。」
「怖いよ。」
「わしがおまさんから離れると思うかえ。」
「
………
。」
「離さん。離れん。やき、安心して寄り掛かって大丈夫じゃ。足るばあ甘やかいちゃるき、もっとわしを求めとうせ。」
小さなリップ音が立ったかと思うとキスの雨が降ってくる。
「やめてって。」
「嫌じゃ。おまさんすぐ理性に返ろうとするき。良いように流されてしまえばえいに。」
「よくどしいにはなりたくない。」
「どういて?」
「キリないじゃん。」
「別にわしはかまんけんどのう。」
「私が構うの。」
もう何か意地張ってる気分だ。
「あまえなおまさんもおまさんじゃろう?イメージと違うっちゅうて拒否するべこの気がしれん。」
「!」
「元来のおまさんは甘えん坊じゃろ?わしはそがなおまさんも大好きやし、もっとそれを見せてくれたらち思うがよ。」
「
………
キリないって。」
許されると緩んでしまう。ラインを超えたら離れられてしまう。だから自分でコントロールしないと──
「何のために少しずつスキンシップ増やして、おまさんを甘やかいて来たと思うちょる。おまさんが無意識に築くその壁を超えるためじゃ。おまさんがわしを安全地帯と認識して、寄り掛かって甘えられるように、おまさんをわしがどればあ甘やかいても許される環境を作るためじゃ。」
「え
……
」
「甘えるのを怖がるおまさんが、ほぼ毎日わしと唇を合わせて、甘えに来るこの状況。自分で作ったこの状況を、どういて呆れにゃあいかん。」
つまり。
「むっちゃんの、手のひらの上
…
?」
「そうとも言うにゃあ。」
いたずらが成功した子どものような顔をして笑うむっちゃん。楽しそうだなおい。
「ほんで?それでもおまさん抗うかえ。まぁそれもえいぜよ?わしがおまさんを甘やかすがは変わらんきに。」
「ずるくない?」
「なーんも?惚れた
者
もん
愛す為なら、当然の手じゃろう?」
手を取って手のひらに口付けるむっちゃん。やることキザなのよ。
(でも、)
それすらもかっこいい、好きだと思ってしまってる辺り、私も大概だ。そして何より、
「どうしてもおまさんが嫌っちゅうならやめるがの。」
「
………
私がむっちゃん拒否れないの知ってるくせに。」
「そがなわしの事も好きじゃろう?」
「好きだけどさぁ
…
。
……
ちゅー、して?」
それでもやっぱりむっちゃんが欲しくて、意地悪を言われてもねだってしまう。
全部全部、君のせいだ。
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