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志良(シイラ)
2025-11-29 22:57:06
2582文字
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【タソガレドキルートプロット】生きるために温もりを
「生きるために温もりを」のタソガレドキルート
タソガレドキに先に発見された場合
1
2
屋敷が燃えている。
崩れる破片の一部に頭を打ち、意識が飛んでいたようだ。
「そうだ、確か
……
きり丸は
……
」
土井先生は頭を押さえてゆらりと立ち上がった。
記憶のほとんどが飛んでいたが、きり丸が側にいたことは辛うじて覚えていた。
燃え盛る梁の向こう側に、求めた姿があった。
だが、その前に
――
。
「半助、ここにおったか!」
「や、山田先生
……
待ってください。きり丸が、まだ
……
きり丸ー!」
きり丸は燃え盛る梁の向こう側で、笑っていた。
組みひもは解けて、髪は流れるだけ。
そして、彼らに背を向けた。炎の向こうにきり丸は消えてしまう。
「行くな、きり丸!」
「半助、今はもう脱出することだけ考えろ!」
山田先生と土井先生は燃え盛る屋敷を脱出する。
土井先生は天鬼であった時の記憶の大半を失った。
ドクタケの機密情報と、きり丸と関係を持ったことさえも。
ただ、自分が天鬼と呼ばれていたことと、近くにきり丸がいたことだけを覚えている。
ドクタケ関係者は口をつぐむ。八宝斎も知らんと言う。きり丸に追っ手がかかることはなさそうだ。
「きり丸は無事なんですか?」
「タソガレドキ領で保護したと聞いたが、衰弱しているらしく動かせんらしい」
きり丸は頭を打った天鬼に向かって、焦って「土井先生」と呼びかけたのだ。
だから土井先生は目を覚ました。
「きり、まる
……
」
天鬼が呼びえない名前に、きり丸は記憶が戻ったことを確信して反射的に離れたのだ。
もし、何も覚えていないのだったら天鬼だった間のことはなかったことになるのだろうか。
また、失うの? 内なる声に恐怖し、きり丸は逃げた。
土井先生と焔に分断された後、山田先生と一緒にいるとを見て安堵して笑い、天鬼と共に逃げるつもりだった脱出口から堀へその身を投げた。
もう死んでもいい。そう思っていたけれど、炎の中で朽ちるよりも水に沈むことを選んだ。
きり丸は屋敷の堀に身を投げた後、タソガレドキの狼隊に回収された。
タソガレドキの黒鷲隊からの情報では「軍師天鬼の小姓」として情報があった少年はきり丸だった。
きり丸は生きる気力を失っており、タソガレドキ忍軍に保護される。
少しのやけどと打ち身。だけど食欲はあまりなく、夜は眠れていない。
タソガレドキ側で、尊奈門と山本がきり丸の世話を焼く。
山本は父親であり指導者としても子どもの扱いを心得ているが、きり丸の心はどうしようもない。
忍びの村では親を亡くす子供はいても、きり丸ほどの家も失うようなことはない。
だから、土井先生が無事だと告げる以上のことはできない。
山田先生は昆奈門から、およそのところは聞いていた。
軍師天鬼の小姓きり丸。恐らくすべて事実で、土井先生は何も覚えていないのだ。
山田先生がきり丸と面会した時、きり丸の生きる威力は半分ぐらいまで回復していた。
土井先生の無事を知らされたから。
だが言動がおかしい。土井先生と天鬼を別人のように扱うから。
「土井先生が天鬼さまだったことを覚えていないって、それはそうでしょう。先生は天鬼さまじゃないんだから」
深く慎重に尋ねると、天鬼を先生と呼んだ時に「人違い」と言われたショックで無理くり天鬼と土井先生を別に分けて精神の均衡を保っていたことを知る。
「天鬼さまは人違いだって言ったんです。だから、人違いでないと
……
だめです」
どうしようもない地獄。もし、土井先生がすべて思い出したとしても、救えない。
きり丸の心はこれ以上の喪失に耐えられまい。
「山田先生、僕がいない方が土井先生にはいいですよ、絶対」
全てをあきらめたようなきり丸。彼を救う方法方はない? 本当に?
「はあ
……
高い銭払ってあんたも入学したでしょうに。戻る気はないのかね」
「天鬼さまが、僕の欲しいもの持ってきてくれるなら戻りますけど」
「土井先生ではなく?」
「天鬼さまじゃないと意味がないんです」
謎かけのような言葉に山田先生は首を傾げながら、了承する。
「せめて消息でも知らせてあげなさい」
「あげるなんて、嫌ですよ」
土井先生ときり丸は手紙でやり取りする。
きり丸の最後の一文は常に「俺の欲しい物わかりますか?」と言う暗号になってる。
何度かやり取りしているうちに気づいた暗号。
土井先生は全てを思い出すと自分の所業に深い罪悪感を抱くが、自分が確かにやったことだと認める。
全てを謝罪するには受け入れる覚悟を決めたきり丸にも失礼だ。
もし自分が抱いていい罪悪感があるとしたら、忘れてしまったことのみ。
だけど、本当にそれでいいのだろうか。
お互いにあの時、救いを求めていた。だけどそれ以上に求めていたものは
――
。
その中で、自分が欲しいものはきり丸の欲しいものと引き換えだったことを思い出す。
山田先生の監視のもと、土井先生はきり丸に会いに行く。
桜が舞う中、きり丸は髷を結わずにおさげにしている。
「
……
きり丸」
二度と聞くことがなかったはずの呼び声を聞き、きり丸は振り返る。
土井先生が手招きをしていた。
「おいで、きり丸。お前の欲しかったものを持ってきた」
「天鬼さま
……
」
天鬼の表情が優しい笑顔になる。眩しくて、きり丸は目を細めて泣いていた。
「ごめんな、きり丸。あの時お前が分からなくて傷つけた」
「いいんです。全部思い出して、会いに来てくれたんですから」
きり丸の笑顔。ひどく遠回りをしたけれど。
「きり丸」の願いも「天鬼」の願いも果たされた。
「山田先生
……
、僕
……
戻ります。忍術学園に、またちゃんと学費貯めて」
「きり丸。風鬼からお前宛てに賃金が届いておるぞ」
風鬼はきり丸が生きていると聞いて、きり丸宛てにお賃金を送っていたのだった。
「きり丸。お前はゆっくり休みなさい」
春から新しい季節が始まる。
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