−−俺も、貴方の役に立ちたいんだ
……
* * *
−−サンダルフォン。廊下を走っては危ないよ
『ルシフェル様』の声が聞こえた。俺は慌てて歩を緩める。周りに人がいないからと走ってしまった。たまに無鉄砲な行動を起こしてしまう俺を『ルシフェル様』は常に正しい方向に導いてくださる。俺が貴方の役に立ちたいと思わず愚痴を溢してしまう時も、優しく励ましてくださるのだ。そのお気持ちを踏み躙らないよう気を引き締めなければ。しかも今日は補佐官から任務を受けている。些細なお使いだがあの御方のお役に立てる初めての機会。胸が高鳴り、抱えていた本を少しきつめに抱き直した。
白を基調とした廊下が続く。その中を進んでいくと天司達の姿がポツポツと見え始めた。皆、白い目でこちらを見てくる。俺がこの場にいる事が相応しくないとでもいう様に。悔しいが反論はできない。
−−サンダルフォン、案ずる事はない。君に相応しい役割が与えられる日は必ず来る。その役割を果たせるよう日々精進して欲しい。
『ルシフェル様』の穏やかな声にまた救われる。心が軽くなり、歩みに力が戻った。
暫く歩くと目的地となる会議室の扉が見えてきた。会議中なのだろう。複数人の声が聞こえてきた。邪魔をしない様、静かに扉を開ける。ドアノブがひんやりと冷たい。中に入ると部屋の中の大多数がこちらを見ていた。皆、異物を見る様な顔をしている。一人を除いて。
「サンダルフォン。一体何があった?」
ルシフェル様は何処となく気遣わしげな表情だ。俺が外出を許可されていない身だから心配なされているのかもしれない。大丈夫ですよ。今日は特別に許可を頂いているんですから。
「補佐官からこちらの本をルシフェル様に届けて欲しいと言伝を頂きました。皆、忙しく手が付けられないとの事で特別に外出の許可を頂いたんです。」
「そうだったか、ありがとう。助かった」
ルシフェル様は僅かに顔を綻ばせ仰った。遂にあの御方のお役に立つ事ができた。思わず笑みが溢れる。
「サンダルフォン。この会議が終わり次第、中庭に向かおうと思っていたところだ。先に戻り準備をして欲しい」
「はい。分かりました」
役割がある他の天司とは違い、俺にはここにいる資格がない。その事実を改めて突き付けられると少し辛くなる。いや、今日はルシフェル様のお役に立つ事が出来たのだ。堂々と胸を張って帰ろう。
* * *
パタリと扉を閉める音が鳴る。このまま帰っても良いが、持ち運んだ本がどの様にルシフェル様の役に立つのか気になり少し耳をそば立てていた。すると声が聞こえてきた。
「天司長様、この本は一体
……」
「
……本日の議題について昨日ベリアルと話をしていた。使えそうな本を見繕っておくと言っていたが彼を使いに出すとは
……」
「それでは、中身を確認しましょう」
暫く沈黙が続き、やがて声が聞こえた。
「この本に記載されている内容、既に天司長がお話しされていた仮説と同じ様に見受けられるのですが
……」
……今、何と?
「
……ああ、そのようだ」
「流石は、天司長様。既存の資料から求めていた理論を導き出していたのですね」
……そんな。それじゃああの本は
……
一刻も早くこの場から離れたくて逃げ出す様に走った。
−−サンダルフォン。廊下を走っては危ないよ
声がまた聞こえた。
……ごめんなさい。今は立ち止まれなさそうです。折角『貴方』がお言葉をくださったのに
……。
* * *
中庭に戻ってきた。呼吸を整える間に辺りを見渡す。見慣れた景色が広がっている。俺がいるべき、俺に相応しい居場所。白い廊下やルシフェル様のいる会議室とは違って
……。
今日こそルシフェル様のお役に立てるのではと思ったがダメだった。あの本も俺も役割を果たせなかった。その事実に胸が張り裂けそうになる。
−−君が案ずる事はない
そんな俺に『ルシフェル様』はいつも通り優しく声を掛けてくださる。でも、俺は。俺も他の天司達のように
……
「
……」
終
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