kurou1994trpg
2025-11-25 12:08:01
2440文字
Public 自陣/自探索者 文字創作
 

同じ空には昇れない。 自陣向けSS げんみ❌

自陣向けSS
エンドA その後


※HO太陽 視点
吸血鬼になったその後





夜がやってくる。

吸血鬼として生を受け直して少し経った。
まだ未だに夜の訪れを奇跡のように感じている。きっとこの先、何年、何百年経とうとも、この喜びを忘れることはないのだろう。
昼間の時間は確かに少なくなったが、人間として過ごした最後の時間よりも遥かにその時間は長く、そして皮肉にもとても「人間的」だと思えた。

結翔は寝床に座り、窓の外を見上げた。
カーテンの開かれた先にある夜空はあまりにも美しく、そして焦がれていた夜だった。
座り込んだ彼と共に眠れるこのベッドも柔らかく、そして温かい。
広い部屋は生活感に満ち溢れ、質のいい家具がそこに鎮座する。

この部屋の主は今は不在だった。
力を取り戻した彼は毎日が忙しそうで、それでも毎日、自分のことを大切にしてくれる。そんな日々が来ることなんて考えたこともなかった。
幸せ、というのは生きる、というのは。きっとこういうことを言うのだと思い知った。
疑いようのない温かさと幸福。
それなのに、自分は今。

満足に眠ることが出来ていなかった。



夕暮れを横目に見て意識が落ちていく日々を思い出す。
太陽が高くなり、その太陽が世界を赤く染め上げ終わるまでのたかが3~5時間が、唯一自分が生きている時間。擦り切れていく時間の中で、溺れそうになりながらもがいた時期もあったけれどもがくよりも沈む方が楽なことに気が付いてしまった。家族が奪われた憤りも、時間を奪われた焦りも、取り残される悲しみも、全部考えないことにした。そういうものだと受け入れて、いつか誰にも知られずに終わっていくんだと思ってた。
―――彼と出会う、その瞬間までは。


植え付けられた殺意、と言っても許されることではない。それでも彼はそんな自分のことを「心臓」とまで言ってくれた。
沈んでいくだけだった自分の伸ばされたその腕はあまりにも力強くて、最初は痛くて仕方がなかったけれど。
今は、彼とともに生きていたいと思うくらいには。彼もまた生きてほしいと言ってくれるくらいには。
自分の存在は価値のあるものなのだと思えるようになっている。
だからこそ、怖くて仕方がないのだ。




月が傾き、もうすぐ日が昇り始める夜明け。それは吸血鬼にとっては眠りの始まり。
少し開いたカーテンに手を伸ばし、空を隠した。
そして、そのままベッドの上で蹲る。目を閉じることもなく、ただ小さくなって昼が過ぎ去るのを待とうとした、その時に。

背中から抱きしめられるように体温と重さを感じた。

自身に回された白く美しい腕は自分の体温よりも少し冷たい筈なのに、その温度が心地よくて顔を上げた。
目にしたのは月のような黄色の瞳。それがまっすぐと自分を見つめていた。

「今戻った、結翔」
おかえり、ベル」

鼓膜を揺らす優しい声の主に言葉を返す。
こうやって誰かにおかえりと言うのも、あの時にはできなかったことだった。それを叶えてくれるのは、やはり彼なのだなとまた納得をした。

眠れないのか?」

彼のその言葉に少しだけ肩を跳ねさせたが、無用な心配はかけたくなくて微笑んで見せた。

「眠くないだけだよ、もう少ししたら寝るから大丈夫」

そう言い切る前に、彼の指が自分の目元を撫で、その黄色の瞳は射貫くように自分を見つめた。

「ここ最近、お前が眠れていなかったことは気づいていた。だが、お前が自分から言うのを待っていた」
そ、そんなことないよ
「隈ができている」

「話してくれ、結翔。我は、お前のことが知りたいのだ」

愛おし気に触れられるたびに、幸せに包まれる。
この存在を愛おしいと、ともに在りたいと思える。
それなのにこんなに恐れていることを知られるのは嫌だった。彼に勘違いされてしまうのも怖かったのだ。

「結翔」

そんな壁を簡単に壊してしまうのが、彼だというのを、今自分は思い知る。

彼は自分を容易く抱きしめると背中を撫で、そして額にキスをしてくれた。
そのままあやすように、一緒にベッドに横たわる。

「このまま一緒に眠ろう。大丈夫だ、我がお前を起こしてやる。眠るときも起きるときもともに在ろう」

細めた目で愛おし気に見つめてくる。
彼はどうして、こうやって、いつも自分の闇を払ってくれるのだろう。
この安心する腕が、声が、体温が。彼という存在が、消えませんようにと祈りながら。

「うんありがとう、ベル」


おやすみなさい、また明日。
そう言って彼に縋り付いて、目を閉じた。
明日のことを夢に見ながら。




もう一度目を覚ました時に昼であることが怖いんだ。
その隣に誰もいないことも。
夜になったら眠ってしまうことも。
今この瞬間の幸せが、夢だったと、妄想だったといわれることも。

もしもこれが夢の世界で、目が覚めた世界が本物だといわれてしまったら。
きっともう、息もできない。





だから、明日また会えたなら、彼に愛しいと伝えよう。