彌夜
2025-11-24 15:51:42
4433文字
Public 景丹
 

Shekar miyaan-e kalaametaan

景元×丹恒。ふたりでケーキを食べるお話。
去年?載せたお話を多少手直しした再掲です。実際の誕生日などわからないのもあり、相変わらず捏造妄想ばかりです。何でも大丈夫な方はどうぞ。

ケーキはもう涙でしょっぱくならない。
君という砂糖がいるのだから。





やれやれ、声にするなら今の合間かな。おめでとう。丹恒」

去りゆく仙舟風の羽織が起こした風が静まり、口の中のスポンジを飲み込んでから。取り残された獅子は幸福感でシトリンの金眼を蕩かせる。
呟くのは、生を享けた本人すら知らぬ祝福。
唱え続けた言祝ぎがこれで何回目かも景元は忘れてはいない。周りから聴こえるのは怨嗟ばかりと耳を塞ぐ子どもに届かずとも。誰からも姿を隠し、真珠が孵ったその日から違う事なく、年を重ねる度、繰り返してきたのだ。
産まれ直して猶、欠けた月が犯した罪は心臓を鷲掴み、騒乱の種ではあるけれど。亡き友の忘れ形見。本来なら記憶も何もかもを雪がれた無垢な命。激しく滾る澄んだ碧が生まれ落ちた奇跡は、等しく愛すべきものなのだ。
そしてその愛おしさは、博愛から情愛へと色を変えても、確かに景元の胸へ息衝いている。
銀のフォークで皿からひと掬い。舌へ乗せたスポンジはしゅわしゅわ淡雪より儚く溶け、柔らかく、ほんのり甘やか。同時に香り高い抹茶の苦味と上手く調和し、胃の腑へ落ちていった。

だが愛おしい白蓮から食べさせてもらった時の方が、幸せな甘みを強く感じた気がするのは錯覚だろうか。

餌付けの余韻に浸りつつ、ケーキを口へ運び続ける。あっという間に己の分は、機械的に、測ったように質量を無くしていく。
それだけならもう何回も繰り返してきた。薄暗くがらんどうな部屋。聞き手不在の誕生祝い。下手すると糾弾の焼け焦げた苦みしか感じ取れぬ麻痺した舌で、それでも旅路の幸いと、幸福を祈れる理性が己に残っているのに打ちのめされた日々。やるせない切なさで喉を通ったケーキは、あの子はどんな味が好きなのだろうかと夢想させるばかりであった。

だが今回ばかりは、銀の髪で隠した眼を景元はうっそり眇め、くっきり描く未来予想図へと艶美に撓ませる。

丹恒は景元からの誘いを断らない。害を与えないと、私人として接する限りは信じているからだ。懐に入れたものへ丹恒は無防備だ。こうやって不意にケーキを出しても、疑いはしても腹へ収めてくれるだろう。上手くやれば、これからも今日のように手ずから食べさせてくれるやも。
くつり。羅浮を護る策略家は、たった独りのために更なる奸計を講じる。お茶会といっても手は抜けない。彼に真意を悟られぬよう、上手く事を運ばねばならぬ。同じ日に恒例と勘付かれてもいけないから、月齢と計算を組み合わせてみようか。
あの手この手。そんな企みは意外と難しくとも、天人の心を瑞々しく弾ませた。

幸いなるかな。喜ばしきかな。
これからは誰もおらず薄暗い部屋でひとりきり。冷めた紅茶と固くなったケーキを、淡々と平らげずとも良い。聞かせるつもりのないおめでとうも、声にせずとも、本人を前にそっと心の底で打ち明けられるのだ。

だってこれからは。
何でもない日だと言い繕って。
共にケーキをつつけるようになったのだから。

(今日という日の意味は秘密。君にも告げはしない。これからも私だけが、独り占めしていよう)





(Shekar miyaan-e kalaametaan)
(貴方の言葉の間に砂糖)