新横浜に多数の吸血鬼が現れてから、そこそこの月日が経った。
吸血鬼たちはあっという間に街に馴染み、今はもはや会えばフランクに挨拶を交わしてくるような間柄になっていた。害がないからいいけど、この街はこれで大丈夫なんだろうか、なんて思うこともある。
だが、あんなに大量の高等吸血鬼たちと戦うとなれば、こちら側の被害も必至。それを考えると、あの男がこちらに協力的になってくれたのは、人間側にとっては救いだったと言えるだろう。
吸血鬼にしてはお人好しで心優しすぎる男。そんな彼と一緒に暮らすようになり、すれ違いもありつつも確実に距離を近づけていくようになり、そして。
「なあドラ公! 服貸して!」
「おい勝手にクローゼットを開けるんじゃない!」
私はすっかりロナルド君に振り回されるようになっていた。
いや、確かに遠慮ばかりしている彼にもっとワガママを言えとは言った。言ったが、まさかこんなに豹変するとは思わんだろう。あの大人しかった彼はどこへ。戻ってきてほしい訳ではないけれど。
風呂上がりにびしょ濡れのままで歩き回り、冷蔵庫を勝手に開けてセロリに泣きながら悲鳴を上げる。
その度に体を拭け頭を乾かせ風邪をひくだろうが、セロリを投げるんじゃないもう買ってこないから! と怒鳴る生活。なんだ、私はお母さんか? こんな大きな息子を持った覚えはないのだが。あとなんでセロリはダメなんだ。マジニンラーメンは喜んで食べるのに。
そして今度は服を貸せ、だ。思わず頭を抱えた。
鏡で己の体型をよく見てほしい。私の服が入るように見えるだろうか、その筋骨隆々の体が。
「ドラ公ジーパンとか持ってんだ。これ借りていい?」
「いい訳ないだろ絶対入らないぞそれ! おい履こうとするな!」
私の服が無惨な布切れに変わる前になんとか阻止する。勘弁してくれ。高いんだぞ、これ。
「急にどうしたの。服なんて今まで何も言わなかったのに」
破壊行為を何とかやめて欲しいという思いで聞くと、ロナルド君は急に口を閉ざした。赤い瞳をうろうろと彷徨わせる様子は、悪いことをしたあとの子どもを思わせた。
「
……なに、何かした?」
「し、してない! してないんだけど
……」
私が怒るようなことをしたのかと思い問いただしたが、反応から見てもどうやら違うらしい。まあ、悪いことをしたから服を借りるなんて、意味のわからない行動はしないか。
続きを促すように視線を送るが、ロナルド君はああとかううとか唸りながら気まずげに目を逸らす。たがそのまま口を開いて、ポツポツと話し出した。
「
……その、さっき散歩してたんだけど」
日光も平気なこの吸血鬼は、日中暇なときによく散歩に行く。おじいちゃんみたいだな、と思っていたが、どうやら街のパトロールも兼ねているらしい。
おかげで、そちらの吸血鬼に助けていただきました、と吸対へ感謝のメールが届いたりする始末だ。
まあ悪いことはしていないし、本人に見せたら嬉しそうにはにかんでいたので、今のところ止めるつもりもない。
「うん。それで?」
「そのとき、小学生に会って」
「ふむ」
途切れ途切れになる彼の言葉を根気強く待つ。正直ここからどうやって服に繋がるのかさっぱりわからないが、彼にとって重大な何かがあったのだろう。
と、思っていたのだが。
「コスプレおじさん、って言われた
……」
「ングっ」
がっくりと項垂れるロナルド君が目に入るがそれどころじゃない。変に詰まった呼吸を落ち着けるために何度か咳をする。
いや、だめだ。無理だ。横隔膜がひくついている。変なツボに入った。
コスプレおじさん。畏怖されるべき不死の王が、コスプレおじさん!
「笑うなよぉ!」
「ック、ごめんごめん
……ッフフ、あーだめだ」
「もぉー!」
駄々をこねる子どものような声に、とうとう堪えきれなくなりアハハと声を出して笑う。ロナルド君が睨みつけてくるが、そんな頰を赤らめた状態では何も怖くない。
「あーお腹痛い。なるほどね、だから私服が欲しかったんだ
……フフッ」
「笑いすぎだろ!」
吸血鬼にとってのゴールデンタイムは言わずもがな夜だ。昼に出歩くのは日光が平気な一部のみ。しかも今の時代、ロナルド君のように吸血鬼のテンプレート的な格好をする者は少なくなっている。だから、昼に散歩する姿を見てコスプレと言われてしまったんだろう。
そこで、人間と同じ服を着て行こうという訳だ。ここで散歩をやめるという選択肢がないあたりがロナルド君らしい。
そんな健気な願いと、いつか引き裂かれるかもしれない私の服を慮って、彼にひとつ提案をすることにした。
「じゃあ、買えばいいじゃない」
「え?」
「これから買いに行こうか、君の服」
*
服を買いに行くための服がない、という状態を初めて見た気がする。
いや、いつも着ている吸血鬼然とした服はあるのだが。それでいいじゃない、とロナルド君に言ったところ、「またコスプレおじさんって言われたら立ち直れない」とさめざめと泣かれ、少し笑ってしまった。ロナルド君には怒られた。
だが私の服は貸せるサイズがない。ということで、とりあえずマントとベストを脱いだ状態で出かけることにした。シャツとズボンだけなら、そこまで吸血鬼らしくは見えないだろう。
畏怖られたいと言う男が吸血鬼らしさを無くしたいとは、よっぽどあの発言が堪えたらしい。子どもって、無邪気に残酷なこと言うからな
……。
「どうだ? 変じゃない?」
「うーん
……」
シンプルなシャツとズボンだけのロナルド君をジッと見つめる。変ではない。変ではないのだが、何かもう少し
……。
「ああそうだ、髪も変えてみたら?」
「え?」
「オールバックって吸血鬼ぽいし。えい」
徐に彼の頭に手を伸ばし、ワシャワシャとその髪を混ぜる。「わ、ちょ、」とロナルド君の慌てるような声が聞こえるが全て無視をする。後ろへと撫で付けられていた銀の髪は、いとも簡単に崩れていった。
ボサボサになった髪を適当に手で梳き、整える。二、三歩後ろへ下がり、全体を眺め
……ううん、これは。
「なんというか、髪型が違うと印象って変わるものだね」
「素直に似合わないって言えよ
……」
ロナルド君が恥ずかしそうに前髪をいじる。似合わない訳ではない。ただ、そう。少しばかり、幼く見えるのだ。キリリと形のいい眉が見えなくなるだけで、こうも変わるものなのか。
私もたまには、と思ったが、すぐに頭から打ち消した。おじさんの若作りなど、痛々しい以外の何物でもない。
「そんなことないよ。かわいいと思う」
「かわっ
……!?」
「ほら、そろそろ行こう」
私の発言に目を白黒させるロナルド君の背を押す。そろそろ出かけないと、探しているうちに日が暮れてしまう。
悲しいかな、今日は夜から出勤なのだ。
*
「ドラ公あれ! 俺あれがいい!」
「却下」
「なんでだよ!」
近くのショッピングモールにたどり着いた途端、ロナルド君が騒ぎ出す。その指が向く先に視線をやって、ショーウィンドウに飾られた服を見た瞬間の私の顔は、さぞ歪んでいたことだろう。
流れるように否定をした私にロナルド君が食ってかかる。だが、ダメだ。あれはダメだ。あんなもん買ってたまるか。
「ダメに決まってるだろうがこのアバンギャルド君が! 私は嫌だぞ、あの服を着た君の隣を歩くのは!」
「あえっ」
くわっと目を見開きながら怒る私に、ロナルド君がたじろぐ。
視線の先にあったのは、今まで見たことのないような派手な服装ばかりだった。なんだあのギラギラしたスーツは。どこに着ていくためのものなんだ。
隣を歩きたくないという言葉が効いたのか、ロナルド君は「じゃあやめとく
……」と少ししょんぼりしながらも諦めてくれた。いい子だ。今度バナナケーキ作ってあげるから。
「じゃあさ、ドラ公が選んでくれよ、俺の服」
「えっ」
だが、今度は私が固まる番だった。
ここにジョンとメビヤツはいない。アパレルショップに行くなら、とお留守番をお願いしたのだ。つまり、今日はロナルド君と私の二人だけ。彼のセンスを真っ向から否定したいま、私にお鉢が回ってくるのは当たり前のことだった。
「だって、俺わかんねえし」
私もわかんないんだけど、と言えたらどれだけ良かっただろう。
私だって、服なんてよくわからない。私服より制服を着る機会が圧倒的に多い生活、正直服なんて着れたらそれでいいと思っている。ロナルド君に引き裂かれかけたジーパンも、適当に買ったらべらぼうに高くて目をひん剥いた代物だ。
「私より、店員さんに見立ててもらった方が」
「やだ。ドラ公がいい。ドラ公が選んで」
やだじゃないんだよ、と思ったが、ロナルド君が続けざまに「ドラ公が選んでくれないなら、さっきのところで買う」とまで言うものだから、私は「おいバカやめろわかったから!」と白旗を上げるしかなかった。
*
適当な服屋に入り、ハンガーで下げられた服を取っては戻す。うんうんと悩む私の横には、ピタリとくっつくように並ぶロナルド君が、Tシャツを手に取って矯めつ眇めつ眺めている。なんだか楽しそうだな、君。
私は君のことでこんなに悩んでいるのに、と少し恨めしい気持ちになって、彼が持つ服を取り上げた。
突然の行動に驚いたのだろう、彼の瞳が奪われたTシャツからこちらに移る。二つの赤がこちらを見ていることに、何とも言えない満足感がジワリと滲んだ。
「どうしたんだ?」
コトリと、ロナルド君の首が傾く。まん丸の赤い瞳がこちらを見つめる。まるで、疑うことなど知らぬと言うように。
「
……これと、あとこれとこれ。はい試着室行ってきて」
その辺にぶら下がっていたカーディガンとパンツをひっ掴み、Tシャツと一緒にロナルド君に押し付ける。「なんか適当じゃね?」と不満そうに言いながらも素直に受け取ってくれた。さて試着室はどこだろうと視線を彷徨わせた途端に、店員が「ご試着ですか?」と声をかけてきた。ずっと様子を伺っていたのだろうその瞳は、まるで獲物を逃がすものかと言わんばかりに力強い。
「えっ。あっ、はい」
「ではこちらへどうぞ」
急に入ってきた第三者に驚いたのか、ロナルド君が少し肩を揺らしながら返事をした。
そんな彼にニコリと笑いかけながら、店員が試着室へロナルド君を促す。まあ試着くらい一人でなんとかなるだろう、と見送りかけたところ、くん、と腰のあたりを引かれる感触があった。見ると、がっしりとした指が私の服の裾を掴んでいる。
その指を、腕を辿り、その主の顔へと視線を送る。こんなことをする奴は、ここには一人しかいない訳で。こちらを見つめる二つの赤と、パチリと目が合う。
一人で行きな、と本当は言うつもりだった。だが、こちらをチラと振り返る彼の瞳が、まるで迷子の子どもが縋り付くようなそれで、とうとう何も言えなくなってしまった私は、大人しく彼のあとに続くことにした。
つくづく、私はロナルド君には甘いらしい。
「ドラ公、着替え終わるまで待っててな」
「はいはい」
「いなくなるなよ!」
「わかったから! 早く着替えろ!」
無理やり試着室のカーテンを閉めると「わぶっ」という間抜けな声が聞こえてきた。カーテンに顔をぶつけでもしたのだろう。彼の言う畏怖い吸血鬼からは、もはや遠く離れていっているが、本人は気づいているのだろうか。服がどうこうと言っている時点で今さらか。
そんなことをぼんやりと考えていると、隣から「こんにちは」と声がした。釣られてそちらを見ると、先ほどの店員がにこやかにこちらを見つめている。
「
……どうも」
「仲がよろしいんですね」
「ああ、まあ、そうですね」
自分自身、あまりいい対応をしているとは思えなかったが、店員は嫌な顔ひとつせずに話しかけてくる。
こういう時間は、どうも苦手だ。何かを買おうとしているなら有り難いときもあるが、今日は私自身は何も買う予定がない。
早くしてくれロナルド君。そんな祈りを目の前のカーテンに念じていると、店員がひとつの問いを投げかけてきた。
「お友達ですか?」
「え
……」
それは、当たり障りのない、ただ会話のフックにするためのものだったのだろう。だが、私はそれに、すぐに答えを返すことができなかった。
お友達? 違う。ならば同居人。正しいが、その一言で完結できるような関係ではない気がする。
吸血鬼対策課の隊長と備品。これも合ってはいる。いるのだが
……。
「ドラ公着替え終わった!」
当たり障りのない言葉すら出ないうちに、ロナルド君が試着室のカーテンを引いて出てきた。ああ助かった、とそちらに目を向ける。
「なあ、似合う?」
「
……!」
瞬間、電流に打たれたような、そんな感覚が頭からつま先へと駆け抜けた。頭の奥がジンと熱を持つ。彼から、目が離せない。
目の前には、渡した服へと着替えたロナルド君。Tシャツにカーディガンを羽織り、ズボンを履いたシンプルな姿。ただ、それだけなのに。
何が起こったのか、全く持ってわからない。ロナルド君を見た瞬間に起こったのだから、彼が原因であることは間違いないだろう。
もしや催眠でもかけられたのか? と思ったが、ロナルド君と出会ってから今現在に至るまで、彼がそんな能力を持っているという報告を受けたことがない。ロナルド君自身も使えないと言っていたから、催眠を受けたわけではないことは確実だろう。
ならこの、奇妙な感覚はなんだ?
「ドラ公?」
「っ、」
ロナルド君に声をかけられてハッとする。瞬きすらも出来ていなかったのか、瞳が少し乾いていた。
ロナルド君も何も言わない私をおかしく思ったのか、少し首を傾げる。だがすぐに何かに思い至ったのか、居心地が悪そうに俯く。
「あー
……、やっぱり変? こういうの、似合わないよな」
「違、似合ってる。似合ってるよ」
隣で店員も「よくお似合いですよ」と微笑んでいるが、全く聞いていない。私はともかく、店員の言葉は信じたらいいのに。いや、むしろ店員だからこそ、だろうか。お世辞を言われていると思っているのかもしれない。
「いいって、そういうの。わかってるから」
「いや本当に」
「昔言われたことあるし」
おい誰だこの子にそんなこと言ったやつは。
会ったこともないだろう存在へ恨み言を向けるのと同時に、目の前の彼にも少し苛立ちが滲む。ふうん、君、そういうこと言っちゃうんだ。
「ロナルド君は、私よりその言葉を信じちゃうんだね」
「へっ?」
「今ここにいる私の褒め言葉は全然信用しないくせに、前に言われた誰かの悪口はずっと信じてるんだ」
「え、あ」
私の言いたいことがわかったのか、ロナルド君が目に見えて狼狽しだす。自分の言葉で私を傷つけたと思っているのだろう。
別に傷ついてはいないけどね。ちょっとだけ、腹が立っただけで。
まあ、こういう子だよなあ、ロナルド君って。顔がよくて強いのに褒められ慣れていないというのは一体どういうことだろうとは思うが。
どうしよう、と顔に書かれているのかと思うほどに慌てる彼に、自然と笑みが浮かぶ。目に涙を浮かべる彼の頭を、ゆっくりと撫でた。
「ごめんね、意地悪言った。でも似合ってるっていうのは本当だよ」
ロナルド君の口から「えうっ」とよくわからない言葉が飛び出してくる。だが頬が赤らんできたところを見ると、今度こそ私の言葉は正しく届いたらしい。
よく似合っている。本当に。
派手な顔をしているからこそだろう、シンプルな服装がよく映えている。合わないかと思いながらも渡した空色のカーディガンも、彼のために設られたのではと思ってしまうほどにピッタリだった。
ああ、と、唐突に先ほど受けた奇妙な感覚の意味を理解する。
端的に、見とれたのだ。この美しい吸血鬼に。
珍しく下された銀糸も、そこから覗く赤も。均整な肢体を包む衣服が、彼の全てを引き立たせているように思えてたまらない。
全身を走る稲妻の正体を知り、そしてまた、新たな疑問が頭をもたげる。いや、見とれたって、なんで。
この男、とりあえず見目はいい。だが中身はわんぱくが過ぎる五歳児だ。母親のごとく何くれと世話をしているこの男に、見とれるとは。
見とれる。見惚れる。
……いや、そんな。
「まさかね」
「なんか言ったか?」
「なんにも」
突然頭をもたげ出した可能性に、思わず頭を振る。さすがに、そんな訳がない。
とりあえずこの一式は購入することを店員に伝え、レジで預かってもらうことにする。
ひとつだけでは心許ないだろうと他にもいくつか見立て、着せ替え人形と化したロナルド君がぐったりとしだしたところで、よくやく店を出ることになった。
「服買うって、疲れるんだな
……」
両手に紙袋を持ったロナルド君がげんなりとしながら呟く。どれだけ戦闘を続けても溌剌としていた彼の珍しい姿に、思わず笑みが溢れた。
「服も買ったし、今日はそろそろ帰ろうか」
そこそこの時間をあの店で過ごしたらしく、すっかり傾いてしまった太陽を見ながら言う。今から帰って支度をして出勤。正直なところ、もう夕飯食べて寝たいしなんなら外食でもして済ませたいレベルだが、仕事を休む訳にもいかない。
彼もそれは理解しているものと思って提案したのだが、返ってきたのは「えっ」という、端的かつ落胆を多分に含んだものだった。
「もう、帰るのか?」
「うんまあ、これから仕事だし」
君もでしょう、と言うと、ロナルド君は「忘れてた
……」と小さく呟く。思わず目を丸くした。この戦闘大好き吸血鬼が、仕事の日を忘れるなんて。
眉をへにゃりと下げながらとぼとぼ歩くロナルド君。その姿に庇護欲を刺激されたのか、気づけばこんな言葉を投げかけていた。
「またいつでも出かけられるじゃない」
服も買ったし、と続けると、またロナルド君が「えっ」と呟く。だがその声には落胆の色はなく、期待に満ち満ちた温度を含ませていた。
「また、一緒に出かけてくれるのか?」
「
……そう言ってるつもりだけど」
改めて聞き返させると、なんというか、少し気恥ずかしい。つっけんどんになってしまった返事に、だが彼はその瞳をキラキラと輝かせた。
「ありがとう! ドラ公!」
「グワーッ声がでかいわバカ! 静かにしゃべれ!」
「えっ、ごめん!」
全然ボリュームが落ちてないだろうが。
続けて文句を言おうとして、だがその言葉が紡がれることはなかった。
それは何気なく、もっと言うならばほとんど反射で行った動作。どうせなら彼の目を見て言ってやろうと思って行ったそれ。
見てしまったのだ。
夕焼けを背にしたロナルド君の姿を。
美しい銀が夕日に焼かれて染まる。二つの赤い瞳は影の中にあってなお鮮烈で、恒星のように煌めく。
そんな、この世ならざる者としか思えないような存在を放つ彼が、頬を染め、ふんわりと嬉しそうに目を細めながら、こちらを見ている。
幸せを目にみえるようにしたらきっと、今の彼の形をしているのだろう。
先ほど散らした感情が、また顔を覗かせてくる。
ああ、なんということだ。もし、もしこの気持ちがそうであるなら、私は。
「ドラ公? どうした?」
「
……耳が痛い」
「えっ、どうした!? 病院行くか!?」
「貴様のせいじゃボケッ!」
ええっ、と本気で驚く彼を横目で見ながら、私は痛くもなんともない耳を手のひらで押さえる。
その手が、熱を持った頬を隠してくれていることを祈りながら。
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