皆瀬茶太(シキゴウ全)
2025-11-08 17:38:55
4747文字
Public 洋画
 

キートンバッツの主従アルブルSS2本

遅刻です!!!すみません。詫びに1本書いて2本にしました。
キートンバッツ物もイベントの度にSS増やしてます。
このままいけば小冊子できそう。ちゃんとキートンバットマンやブルースや執事になってると良いな。
ほぼ健全な主従ですが、書き手がカプ属性なのでカプです。アルブルです。



2:影を捕まえようとする手にシャンパンを持たせてみた


 年が明けるまであと僅かの時、ウェイン邸の一角はピリついていた。
 場所は、邸宅の足元にそびえるバットケイブ。
 ブルースがスーツのマスクと上だけを脱ぎ、背中に受けた傷の手当を、アルフレッドから受けている。
「お前は極端から極端になる奴だ、過激だな」
「あなたが内にこもり過ぎるのです、保守的な」
 二人の間に緊迫感が走ったが、それも一瞬で通り過ぎる。元々、長引かせる気は互いにない。
 屋敷の中だというのに冬の街で肌を刺す冷たい空気も、互いの溜息であっさりとぬるま湯のような心地になる。
「俺を煽っても無駄だぞ。言い過ぎたのは謝る」
「ブルース様こそ、居直るほど私の経験は浅くありません。立場をわきまえず、申し訳ありません」
「いや良い。許す」
 ひらひらと手を振り、頭を下げる従者に主らしく振舞った。
 アルフレッドの、滅多にない喧嘩腰の原因は自分だと、ブルースは自覚していた。
 怪我をしたのが理由だが、従者が怒っている大半の理由が、不注意からくる高所からの落下によるものだったからだ。
 結果だけ見れば打ち身でも、ケアレスミスで命を落としかけた。
 怒られて当然だと、素直に手当も受け入れている。
 口喧嘩になったきっかけは、ケイブに戻ったブルースに対しての、アルフレッドの苦言だった。
 いつも以上にブルースにとって耳に痛いもので、子供のように手当を拒否したのが悪かった。
……お前の事実は傷より傷む」
「その割に治りが早いですね」
 背後から聞こえる声だけが刺々しい。手つきは優しい。
 ブルースはクリスマス以降、心ここにあらずだった。
 主人が今も認めていない事実を、アルフレッドは顔が見られないのを幸いと内心憤慨していた。
 アルフレッドの主、ブルース・ウェインは、命の損失に機敏な人だ。
 彼の手からセリーナ・カイルが消え、夜道で拾った猫も、いつしかいなくなっていた。
 きっと猫も、生きてはいない。
 執事にとって癪な事に、彼の中ではオズワルド・コブルポットの死も、あのジョーカーの事故死でさえ、原因の一部なのだ。
 死に影響を受けやすく、死に捕らわれるのに抵抗を感じない。
 こうして手当をし、幸福と安寧を祈る生者の声より死者の方が明瞭なのだろうと、アルフレッドは溜息を押し殺す。
 ウェイン財団として、グループ会社も長期休暇に入ったタイミングも悪かった。 
 次に会うのはニューイヤーだとなった、年の瀬。
 おごそかに、ひそやかに、ただ静かに、街の誰かは興奮を隠さずに、カウントダウンを始める時刻。 
 警察とバットマンは働いた。
 怪我を負ったのはバットマンだけ。捕まえた犯人の方が元気だった。
 執事もついに愚痴りたくもなった。
 ファッキンどもめ。過去の遍歴洗い出して、なんなら捏造までしてでも一生出れないようにしてやる。
……アルフレッド、無言で圧をかけるな」
「あなたにではありません」
「その言い訳だと、子供じみてるって俺のこと言えなくなる」
 くすりと笑う声に、アルフレッドは意識的に殺意を霧散させた。
 地獄にまで手を伸ばせるなら、念入りに土に埋め返したかった。
「あなたは耳だけでなく、気配にも聡いですね」
「お前、せっかく仲直りしたのに良くないぞ」
 誰のせいだと聞かれれば、アルフレッドは答えられる。
「ブルース様が優しすぎるのがいけません」
 悪党であっても死を痛み、殺しを回避して戦う。
 罪は動機と行動の結果であり、それが街の病の元だと思っている。
 人の性根だとしてしまえば、両親の死からの理不尽に抗い、犯罪の無い街にしたい意味を失うのだろう。
「あなた様は出来ることが人より多いから、ひらひら逃げる影もすぐに見つけるのです。もっと鈍感でいれば良いのです」
「なんだピーターパンの話か」
「皮肉です」
……お前は本当に……
 この執事はどうしようもないなと、苦笑する。 
 手当は終わったと、無傷の肩をポンと叩かれた。
「なんですか、愚痴りたくもなりますよ。年明け最初に飲む酒をお前の趣味で用意しろ、一緒に飲もうとおっしゃったからご用意したのに。年が明けてどれぐらい経ちました?」
 ブルース・ウェインは優しい。
 闇の声に身をゆだね、死者の声すら捨てられない。
 そして、そんな主の従者であるアルフレッドも、優しい男だ。
 死者の誘惑に惹かれるブルースの耳を一時でも塞ぐ。そして悪霊を追い払うべく、家の戸口のランタンに火を灯してやる。
 カボチャではなくカブをくり抜く国の男は、正しくそうしたかった新年の光を見せ、敬愛する男を導いてやるのだ。
 背中越しの、わざと口調をテンポアップさせた執事に、ブルースも見えない角度を幸いに苦笑する。
 生者である執事の声が、光の届かないケイブに差した心地だった。
 この声が届く限り、彼もおどけて執事に返せる。
「そういうな。まだ29時だろ? 朝日には間に合うんだから、お前のとっておきを飲ませてくれ」
 ハッピーニューイヤーは、乾杯にとっておこう。