「ただいま戻りました」
「おかえりなさい、ユウマくん。外は寒かったんじゃないですか?」
「
……え? シュウさん?」
想定外の人物に出迎えられて、ユウマは分所に入ったところで足を止めてしまう。
「所長とリンさんは」
「ホットラインに電話があり出かけられました。緊急性はなさそうなので、ユウマくんは連絡あるまで待機しているようにとのことです。ちょうど資料を届けに来ていた私が伝言係と留守番を任されました」
「そうですか。仕事で来てるシュウさんに留守番させるなんて、所長もリンさんも相変わらず
……」
軽い口調でそう返したものの、ここでシュウと顔を合わせるとは思っていなくて、言葉がうまく続けられない。
今、シュウの姿を見たら、否応なしに先ほどまでの事柄が思い起こされてしまう。
――――――「その姿には特別な意味があるんだ! 悪用なんてさせない!」
心の奥底から迸った叫び。
模された外側は同じだが、中身はまったく異なる歪な存在。
そのことを十分わかっていても。
それでも、大切な友人と同じ姿を倒すことに、痛みがまったくなかったわけではない。
自分の心の中を大きく占める大切なもの。その姿を利用された怒りと、悲しみと、やるせなさと。
黒幕を倒しても波立った胸の裡は鎮まりきらず、じんわりと揺れが残っている。
「
……ユウマくん?」
気付いたら、突っ立ったままのユウマの顔を覗き込むように、眉を寄せたシュウが目の前まで来ていた。
「あ、えっと、すみません。その、シュウさんがいてくれたことに驚いたというか」
慌てて言い訳しようとしたユウマの指先に、ふわりと温かいものが触れる。
「ああ、指先がこんなに冷えている。やはり外は寒かったようですね」
「え
……」
シュウの手が、ユウマの指先を、そして手のひらをしっかり掴んでいた。
それは、冷えた手を温めるためというよりも、はぐれるのを防ぐために繋ぐ手のようで。
「ユウマくん。大丈夫です。私は、君が戻ってくるところに必ずいますよ」
ユウマが抱えていた波立った心をすべて受け止めてくれるような、穏やかで優しい瞳を眼鏡越しに向けられて、ユウマは大きく息を吐き出す。
「
…………はい。わかっています」
その言葉どおり、シュウはちゃんとそこにいてくれた。
初めて別の次元に行ったときも。
遥か宇宙の彼方まで出かけていったときも。
蘇ってきた亡霊たちと闘ったときも。
そして今回の闘いも。
シュウがそこにいてくれると信じられるから、自分は走り続けていける。
あの姿は、親友が共に走り、共に戻ってくることの象徴なのだ。
頷いて、ユウマは温かいシュウの手を握り返した。
その力を受けてシュウが目元を優しく緩める。
「さて。ユウマくんに暖まってもらうために、温かいコーヒーを淹れましょう!」
「
……牛乳を持ってきてもいいですか?」
「邪道な! と言いたいところですが、今日は特別に許します」
「ありがとうございます
……??」
「ですが、暖まってもらうのが目的ですからね。冷たい牛乳をそのまま入れるのはダメです」
「えー、めんどくさい
……」
「はい、とりあえずここは入り口近くで寒いですから、奥までいきましょう」
シュウに背中を押されてユウマは自分の机に向かった。
背中に掛かる友の温かい力に、安堵を感じながら。
――――――――――――――――――
オメガの次元にユピーも一緒に行っていたので、向こうの様子はユピーを通じてある程度はこちらの次元でも見えていたはずで。
だからこそ、所長とリンさんはシュウさんだけを残して二人きりにさせたんじゃないかな、と思ったりもしました。
以前に書いたシュウさんの話とちょっと対比させてます。
『桜めぐるたび』
https://privatter.me/page/67ed6192d3bab
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