Kaori
2025-04-03 01:10:58
3670文字
Public ウルトラマンアーク
 

桜めぐるたび

SKIPのみんな+2人(?)でお花見。
最終回よりも少し先のお話。

満開宣言が出て数日経っても、まだ桜は十分に見頃だ。
夕暮れの中、薄ピンクの花びらがひらひらと落ちてくる川沿いの道を、大きな買い物袋を下げたユウマとシュウが並んで歩いていた。

「シュウさんも来てくれて助かりました。まさかこんなに大荷物になるとは」
「たくさんオマケしていただきましたね」

今夜はSKIP星元市分所のお花見だ。リンやユピーたちが先行していて、ユウマは商店街に前もって頼んでいた弁当や惣菜を受け取る役目だった。
SKIPの花見と聞いて、気の良い商店街の人たちはあれこれとオマケを付けてくれた。ありがたい話だが、ちょうどシュウが合流しなかったら運びきれなかったかもしれない。

「今日はシュウさんの都合もついて良かったです。防衛隊の仕事、忙しいんじゃないですか?」
「たまたま今夜は予定が空いていたんです。最近は以前ほど忙しくないですよ」

“SKIPで花見をするが可能なら参加しないか?” とユウマから連絡をもらって、二つ返事でOKした。そのために無理やり予定をこじ空けたことは、わざわざユウマに伝える必要はない。
スマホが何度か震えているが、「今日これ以降は絶対に連絡取れません」と明言して出てきているのでメールや着信を確認する気もなかった。

「もうすぐ公園です」

目的地が近付いて桜の樹が増えてきた。舞い落ちる花びらでそこかしこが薄ピンクに染められている。

「壮観ですね」
「ですねー。あー、なんか、こうやって桜を見るのはすごく久し振りな気がします」
「そうなのですか?」
「だって僕、去年は桜見てないんで」

さらっと言われた内容に、シュウの足が止まりかける。

「帰ってきたときにはもう桜は終わっちゃってたんです。だから二年ぶりです」
……もう、一年が過ぎるんですね」

歩みを止めないように前を向いたままシュウは言葉をつなぐ。

「私も昨年の桜は記憶にないです」
「え? でも、通勤路にけっこう咲いてますよね?」

かつてユウマとよく一緒になった川沿いの通勤路は、今、二人が歩いている道の先だ。ここと同じように道沿いには桜の樹が並んでいたはずだ。だがその桜の記憶はシュウの中には残っていない。

「昨年の私には、桜を眺める余裕がなかったので」
「仕事、忙しかったんですね」

労うようなユウマの声音に、シュウは曖昧な笑みを返した。

…………あの頃は、一番気持ちが辛かったかもしれない)

走り続けていくことが、ユウマ自身の有りようなのだとわかっていた。
自分がいるからこそ走り続けられる、そう言われたことは誇らしかった。
遥か彼方まで向かうけれど、戻ってくる気があることもわかっていた。
それらを受け止めて、シュウも納得して送り出したつもりだった。
けれど。
ユウマが旅立った日の、透けるような青空の冷たい風。
その冷たさが少しずつ緩んで、花芽がほころんで、空が霞むような暖かい空気が流れ込んでくるにしたがって。
そういった季節の移り変わりを感じることが、いつ戻ってくるのかわからない彼だけを置き去りにしてしまっているようで、心のどこかでは受け入れることを拒んでいた。
だから、春の移ろいの象徴のような桜の記憶は、シュウの中からこぼれ落ちていたのだろうか。

「そうですね。昨年の今頃はいろいろと後始末の報告書が……

努めて軽い口調で会話を続けようとしたとき、ざあっ、と風が吹き過ぎる。
枝々が揺れて、薄紅の花を舞い散らせる。
花びらがいっせいに広がり、視界を隠して――――――

「ユウマくん……っ!」

咄嗟に、隣にいた友の手首を握り締めていた。

……シュウさん?」

一瞬の強風だったのだろう。舞い上がった花びらはすぐに落ち着いて、目の前には瞳を見開いてこちらを見ているユウマがいた。
驚いたユウマの様子に、はっとして慌てて握った手を放す。

「すみません……君が、桜に連れ去られてしまうような気がして……

口にしてみれば、そんなこと起こるわけがないと自分でも思う。
けれど、今、花びらが舞った瞬間は、桜に溶け込んでしまいそうな透明感をこの友人に感じてしまった。
その感覚を的確に言葉にすることができなくて、自分の思い過ごしだと笑って誤魔化そうとして。

「シュウさん。大丈夫です。僕は、ちゃんとここにいます」

大きな瞳がじっとこちらを見据えていた。
シュウの中に押し込めていた痛みも、戸惑いも、恐れも。すべてわかっているというような、穏やかな柔らかい瞳を向けられて、シュウは息を吐き出す。

「どこかに行ってしまいません。ちゃんとシュウさんのところに戻ってきます」
…………はい。わかっています」

その言葉通り、ユウマはちゃんと帰ってきた。
そのことを信じていれば良いのだ。
表情を整えきれなくて、眉が下がったままシュウは微笑む。

「それに、今だったらもう、何かあったらシュウさんも一緒に来てくれますよね?」

いたずらっぽい笑顔を向けられて、シュウは眼鏡の奥で目を大きくする。

「ふっ……ええ、もちろん。今なら君と共にどこまでだって駆けていけます」

ユウマと同じように含みのある笑顔でそう返すと、ユウマはとても満足そうに笑った。

「とはいえ、行き先も告げずに三ヶ月もいなくなるようなことは、もう止めてほしいですが」
「あんなに長くかかるとは思ってなかったんですよ。っていうか、アークの故郷に行くってちゃんと言ってったじゃないですか」
「そんな大雑把な行き先では、何かあってもすぐに辿り着けません」
「だって出発するときは僕も詳しい場所知らなくて。アークに連れて行ってもらったんで……

そんなことを言い合いながら歩いていると、公園の方から二人を呼ぶ声が聞こえてきた。

「おーい! ユウマー! シュウー! こっちこっちー!」
「ユピー! お待たせ!」
「待ちくたびれたよー」

大きく手を振る水色のロボットに向かって、ユウマもシュウも足を早める。
何組かの花見客の中を通り過ぎてユピーが案内してくれたのは公園の左手。大きく枝を広げた桜の樹の近くだった。

「荷物お疲れ、ユウマ! 石堂さんもありがとうございました」
「所長〜。けっこうな大荷物だったんですよ」
「二人とも遅〜い。すっかりお腹空いちゃった」
「お待たせしてすみません、リンさん」
「お二人ともお疲れ様でした。キノコ鍋ももう出来上がりますよ〜」
「ヌマタさんもありがとうございます!」

先行していたSKIPの三人とヌマタが広げていたシートの上に、ユウマたちが二人で運んできた料理も並べていく。

「美味そうだなー」
「さっそく食べましょう! 和子さんのところのお惣菜、楽しみ〜」
「キノコ鍋もどうぞ〜」
「あ、僕いただきます!」
「ユウマくん、唐揚げこちらに回してもらえますか?」
……シュウさん、唐揚げ好きですよね?」
「あのお弁当屋さんの唐揚げは絶品です」
「えー、わたしはタルタルフライの方がお薦めかな」
「みんな若いんだからどっちも食えるだろ。どんどん食べろ」

所長が言うまでもなく、用意された料理はあっという間に減っていく。
やがてお腹も満たされると、皆はのんびりと桜を眺めながら思い思いに言葉を交わす。
シュウも持参したポットのコーヒーを片手に、夜空に広がる桜を見上げた。

……いいですね。お花見って」

ぼそりとした呟きは、隣にいたユウマには届いたようだった。

「防衛隊ではお花見しないんですか?」
「他の部署は分かりませんが、私の所属する班ではそういう習慣はないです。それに私は海外にいた期間も長かったので、こういうお花見はあまり経験がなくて」

はらはらと落ちてきた花びらがコーヒーの中に入らないようにカップをそっと動かす。濃い液面に桜の色が映るのも風情があるな、などと思い浮かべていると。
ユウマが軽く首を傾げて元に戻した。

「じゃあ、来年も僕らと一緒にお花見しましょう。来年も、その次も毎年」
「毎年?」
「ええ。シュウさんと僕と、所長、リンさん、ユピー、ヌマタさん、他にも知り合いを呼んだりして……それからもちろん、アークたちも!」

ユウマの声に合わせたように、手元のコーヒーの表面できらりと何かが反射した。
一瞬のそれは、青と赤の二色の光。
ぱっと上空を見上げても光源はない。だが、それが意味するものはわかる。馴染みのある光の色合い。

「アークたちも賛成してくれたようですよ」

ユウマもその一瞬の光に気付いたのだろう。嬉しそうに笑う。
自分たちにだけわかるその合図に、シュウも目を細めた。

「喜んでご一緒します」

桜の季節がめぐるたびに、こうやって皆で集まってともに過ごそう。
大切な仲間たちと時が繰り返される未来の予感に、胸の奥がふわりと暖かく軽くなる。
薄ピンクの花びらに託した約束は、青と赤の光が見守って、きっと叶えてくれるはずだ。