ぱら子
2025-11-02 00:26:30
5477文字
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暗霧を晴らす北風の音

博士によって妖精の力が暴走しちゃう🕯の話


フリンズがファデュイに連れ去られた。
慌てた様子でフラッグシップに駆け込んできた旅人の言葉に酒を楽しんでいたファルカは一気に酔いが醒めた。
旅人によると霜月の子でラウマと話している時に1羽のトキがやってきて、夜明かしの墓に現れたファデュイの変な奴がフリンズを連れ去ったとラウマを通して教えてくれたのだそう。
ファデュイの変な奴に関しては特徴を聞いただけで断定は出来ないがナドクライによくいるファデュイとは違う格好をしていたことからもしかしたら執行官かもしれないというのが旅人の考えである。
恐らくランプのフェイとしての力を狙われたようだがフリンズがフェイであることを知っている者は極わずかで、その時旅人と一緒にいたラウマも知らない。何処からか情報が漏れてしまったらしい。
ラウマは協力を申し出てくれたがフリンズは自分の正体を知られるのがあまり好きではないので、旅人は何とか誤魔化しつつファルカの元に来たのだった。
「知らせてくれた事には感謝するが……何で俺の所に来たんだ?」
「え?だって、ファルカってフリンズと付き合ってるんでしょ?」
「なっ!?知ってたのか!?」
クーヴァキ実験設計局が見える高台でファルカは旅人からの返しに驚く。確かにファルカはフリンズと付き合っている。告白したのはファルカからで夜明かしの墓で亡霊たちに見守れ(?)ながら彼に愛を伝えた日の事は昨日のように覚えていた。
別に隠すつもりはなく、時が来たら正式に周りに自分たちの関係を話そうと考えていたのだが旅人は何故か知っているようだった。
「だって二人ともお互いの話題になった時、態度が分かりやすく変わってたから」
ファルカはフリンズの話になった時、フリンズはファルカの話になった時、各々自覚はないだろうが愛しい者を想う気持ちを感じさせる雰囲気を醸し出していたらしく、それぞれと関わりのある旅人は「あ、この二人」と察していたのである。
「安心して、誰にも話したりはしてないから。それより早く行こう。大事な人を助けなきゃでしょ?」
……あぁ!」


***


「はぁ……はぁ……
よく分からない機械類が並ぶ窓のない無機質な部屋でフリンズは頭上で両手首を拘束された状態で苦しそうに荒い息をしていた。
「他のフェイ共はすぐ根を上げたというにここまで耐えるとはな」
少し離れた所にあるデスクに腰掛けていた白い服に水色の髪、顔には黒い仮面を付けた男、ファデュイ執行官第二位の「博士」は言う。
今、部屋には不快な金属音のようなものが響いているのだが、それはフェイであるフリンズにだけ効力がある博士作の特殊なものらしく、ずっと聞いていると頭がおかしくなってしまいそうだった。現に身体に上手く力が入らず少しでも気を抜いたら意識を失ってしまいそうなのだが、何とか気力で耐えていた。
夜明かしの墓でいつものように過ごしていた時、何処からかこの音が聞こえてきてあまり頭の痛みに気を失う直前、博士が部下を引き連れてくるのを霞む視界の中で見た。
そして気が付いた時にはこの状態となっていて、大事なランプは博士の手にあった。
「流石はかの"ランプのフェイ"……いや、"蒼炎のキリル"ともいったか」
博士は感嘆するように言う。かつての呼び名を知っているとは、どうやらこの男はあの貴族名簿にしっかりと目を通しているらしい。
「そこまで……僕のことを調べているとはっ……ずいぶん情熱的、ですね……
……ふん」
相当限界のはずであるのに口角をあげて余裕を見せるフリンズを面白いと思ったのか博士も笑みを浮かべると傍にあった機械のつまみを大きく捻る。
「うぁ゙っあ゙ぁあ゙あ゙!!」
先程までよりも大きくなった音にフリンズは苦悶の声を上げる。両手首を縛る拘束具もガチャガチャと音を立てるが外れる様子はない。
ここまで来れば後は時間の問題だろうと博士が思っているとノックの音と「博士様、今よろしいでしょうか」という部下の声が聞こえてきた。「入れ」とだけ返すと一人の男が部屋に入る。
博士の部下として彼の様々な実験を見てきた男は、フリンズを気に留めることなく博士の元へと向かう。
「お忙しい所失礼します。ご報告が……
部下の男は博士に近寄って耳打ちする。報告を聞いた博士は何かを思いついたかのように、ニヤリと笑うと部下に指示を出した。
「え……博士様直々に、ですか?」
「あぁ。丁度試したい実験があってな」
「分かりました。では失礼します」
部下の男が敬礼して出ていくと、博士は既に限界にきていて意識が朦朧しているフリンズに近づき、顎を指で掬いあげる。
「"客人たち"に協力してもらうとしよう」
準備が整うまで少し休むといい、そう言って虚ろに博士を見るフリンズの目を博士は手で覆う。博士の黒い手袋によって視界を遮られたフリンズは未だ金属音が頭に響き続ける中、目の前の暗闇に誘われるように意識を失った。


***


クーヴァキ実験設計局に潜入したファルカ、旅人とパイモンはフリンズを探す中である事に気付く。
「おかしい……こんなに歩いたはずなのにファデュイを誰も見かけない……
「もう俺たちがいるのはバレてるんだろうぜ。ったく、随分舐められたもんだ」
静かすぎる通路を歩きながらファルカは呆れた様子で言う。旅人とパイモンがいる手前、冷静を保っているつもりなのだが内心はフリンズを心配する気持ちと攫ったファデュイへの怒りの気持ちが共存していた。
何度か手合わせした事があるファルカはフリンズの強さをちゃんと知っている。余程の事がなければファデュイ相手にフリンズが遅れをとるなどないはず。それにフェイだと知って行動してきているなら、捕える為に過激な手段にも出ているかもしれない。早くフリンズを見つけなければと足を進めていた一行は開けた空間に出た。そこは以前、旅人がニェドチカという女の子と共に訪れた所で戦いによって壊したプレス装置や二階部分の割れたガラス窓の一部も修繕されていた。
ファルカたちが警戒しつつも歩いていき、中央まで来た時、パイモンが何かに気付いてガラス窓の方を指さした。
「おい見ろ!あそこにいるのって……!」
「博士……
ガラス窓の向こうに立つ博士は三人を静かに見下ろす。
「異郷の旅人に西風騎士団の北風騎士……遠路遥々ここには何用かな?」
「ハハッ、俺たちが来た事なんてとっくに知ってただろうに白々しい。単刀直入に言わせてもらおう、フリンズは何処にいる?」
余裕のある笑みから一変、北風の名に相応しい冷たい眼差しが博士を見つめるが博士は浮かべた薄い笑みを崩さず手をあげる。
「フリンズ……。あぁ、其奴なら"貴様たちの後ろ"にいるだろ?」
博士の言葉に後ろを振り向くとそこには探していたフリンズが立っていた。少し顔を俯かせ表情が見えないが、特に怪我もない様子に旅人が駆け寄ろうとした時、何かに気付いたファルカが肩を掴んで制止する。
「ドットーレ、何を企んでる?」
目を細めて睨むファルカに対し、博士は手に持っていた機械のボタンを押す。するとファルカたちがいる空間に奇妙な音が響き始めた。甲高い金属音のようなものに三人が何が起こるのかと身構えていると、ずっと静かだったフリンズに変化が現れる。
「ぁ……ゔあ゙っ……あ゙ぁぁっっ!」
「フリンズ!?」
苦しむフリンズから蒼い炎が燃え上がり、いつもは隠しているフェイとしての蒼い羽根が大きく伸び上がっていく。
「さぁ、実験を始めよう」
博士が言うと共にフリンズを中心に燃え上がった炎は激しく暴れだし、ファルカたちに襲いかかった。


***


「なんだなんだ!?フリンズのやつ、どうしちまったんだ!?」
襲いかかる炎を避けながらパイモンは声を上げた。旅人とファルカは剣を振るって炎を防ぎつつ、中心にいるフリンズに近づこうとするが熱さと勢いに思うように近付けない。
その間フリンズは頭を押さえてずっと苦しんでいて、荒れ狂う炎は彼の叫びを表れしているかのようだった。
その痛々しい様子にファルカは顔を顰め、どうすればと考えてある事に気付く。
あの金属音が鳴り出した途端、フリンズは苦しみ始めた。音はまだ鳴り響いている。原因はこれなのか?
「旅人!制御室に行ってくれ!」
「え!?でも
一人でどうする?と旅人は聞きたげだったが、すぐにファルカの意に汲んでくれたようで「分かった」とだけ言ってパイモンとその場から走り去っていった。
二人がいなくなるとファルカは、ふぅとひとつ息を吐いたのちに大きく口を開いた。
「フリンズ!俺はここにいる!」
持っていた大剣を自ら手放し、フリンズに向かって一歩ずつ真っ直ぐに歩いていく。蒼炎が襲い、頬や足に傷を負わせられても立ち止まらずにただ進んでいく。
そしていよいよ手を伸ばせば彼に届く距離まで近付けた。
「『やめろ……やめ、ろ……』」
漸く近くで見れたフリンズは譫言のように妖精語でそう呟き続けていて、ファルカのことは見えていないようだった。
ファルカにフリンズの妖精語は分からない。でも彼がとても苦しんでいるのは分かる。
身体を焼かれるのを覚悟しファルカはフリンズに手を伸ばして腕を掴むと一気に自分へと引き寄せ、彼の身を強く抱き締めた。燃える炎が腕を焼く痛みに耐えながら、優しく囁く。
「もう大丈夫だ、キリル」
その言葉にフリンズはハッと顔を上げるのと同時にずっと響いていた音が止まる。
燃えていた炎は徐々に収まり、伸び上がっていた羽根も小さくなっていって最後は霧散した。
旅人がやってくれたかとファルカが思っていると、小さな声が聞こえた。
「ふぁるか……さ、ん……
「よく頑張ったな、休んでいいぞ」
言ってすぐ気を失い力をなくしたフリンズの身体を優しくゆっくりと横抱きにしてやる。ファルカの腕の中で穏やかに眠っているフリンズに安堵し暫く待っていると旅人とパイモンが戻ってきた。全員が揃い、ここから脱出する為に出口に向かうと先程まで上階にいたはずの博士が目の前に現れた。博士はわざとらしい様子でパチパチと手を叩き、ファルカたちと相対する。
「なかなかに面白いものを見せてもらった」
「お前……!」
思わずファルカはフリンズを抱える手に力が入る。
「そうカッカするな。いい実験データは取れた、もう其奴に興味はない」
博士はそう言うと奪い持っていたフリンズのランプを旅人に投げ渡し、悠々と去っていった。


***


実験設計局から脱出したファルカは眠ったままのフリンズを抱えて夜明かしの墓に向かう。旅人には西風騎士団への言伝を頼み、途中で別れた。
とりあえず地下室のベッドに行って彼を休ませるか、と思いつつ夜明かしの墓に足を踏み入れた時、フリンズの目がゆっくりと開いた。
「目が覚めたか?」
「はぃ……
「ベッドまでちゃんと連れてってやるからもう少し寝てていいぞ」
「いえ、あちらにお願いします……
フリンズが示したのは灯台下のベンチ。
「あそこか?分かった」
地下室に向かっていた歩みをベンチへと変更し、フリンズを座らせてやった後、ファルカも隣に腰を下ろした。
「すみません。ベッドで休んだ方がいいのは分かるのですが、風と波の音を聞いていたくて」
先程まで嫌な音がずっと頭に響いていましたからね、とフリンズは自嘲気味に笑い、海の方を眺めた。ファルカはそれならここでゆっくりさせてやろうと思い、何も話さずただ隣に居続けた。
暫く穏やかな風と波の音だけが辺りを包む。
「ふぅ……大分落ち着けました。今回はありがとうございます。怪我までさせてしまい申し訳ありません」
「これくらい気にすんな。やっぱりあの煩くなってた音が問題だったんだろ?」
「えぇ、あの音は僕たちフェイにだけ効果があり、正気を奪って力を暴走させるものだったようです。聞いていると頭の中を掻き回されている感覚に襲われ、意識を保つ事が困難になっていく。僕も最初の内は耐えていたのですが、途中で強度を上げられて意識を失ってしまいました」
それでも防衛本能によって完全に堕ちきらずにギリギリの部分で耐えてはいたのだが、永遠に響き続ける音に力も抑えきれなくなってもう堕ちる寸前だった時、一人の声が優しい北風のように聞こえてきた。『もう大丈夫だ、キリル』と。
「貴方の声があの音の中からハッキリと聞こえてきましたよ」
「ハハッ、それはまた恋人冥利に尽きると言うやつかね」
フリンズはそっとファルカに寄りかかり、彼の手に自分の手を重ねる。
「貴方の声を聞いていると、とても安心できます。もっと聞かせてください」
「あぁいいぞ!でも俺ばっかじゃつまらないだろ?お前の声も沢山聞かせてくれ」