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きなこ
2025-11-01 10:28:37
2286文字
Public
ワグボク
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ワグボクハロウィン
ハロウィンでお誘いをしたけれど振られたボクオーンと、鈍いワグナス、を見守るノエル&スービエの話
今日はハロウィンだ。
皆が浮き足立っている空気の中、気晴らしに飲み会をしても良いかとノエルとスービエが話していた時のこと。少し離れた場所をぴょんと一房跳ねた赤毛が横切っていった。
「ボクオーン?」
振り向いた彼は頭にレース付きのカチューシャをつけていた。まじまじと姿を見てみれば、長い丈のスカートとフリルがついた白いエプロンを身に纏っている。
「メイドの仮装をして、これからワグナスとお楽しみか?」
「ワグナス殿には振られたところです。街に出て楽しんできますよ」
「ところで、なぜメイド服なのだ? 今日はハロウィンなので、魔物の格好をするのではないのか?」
「ワグナス殿はメイド服が好きだからですが?」
ぶっと隣のスービエが吹き出した。
ボクオーンはつまらなさそうにスービエを一瞥し、手に持つ棒付きキャンデーをひらひらと振りながら去ってしまった。
「また揉めてんのか、あいつら」
苦笑しながら二人はワグナスの執務室を訪れた。
「トリックオアトリート」
声を揃えながら、無断で扉を開く。
恋人と揉めてたいそう落ち込んでいるかと心配していたが、ワグナスは穏やかに微笑みながら二人を出迎えてくれた。
「お菓子を受け取りに来たのか? 好きなものを持っていくと良い」
ワグナスは引き出しの中からカボチャを模した籠を取り出し、書類の山の上に載せた。
ボクオーンとの温度差に違和感を覚えながら、ノエルとスービエはそっと視線を交わした。
「ボクオーンは来なかったか?」
「ん? ああ。先ほどお菓子を受け取りに来たぞ」
「その時の状況を詳しく説明してもらってもいいか?」
ワグナスは大きく瞬きをして腕を組むと、当時の状況を語り始めた。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「トリックオアトリート。お菓子をくれなきゃイタズラするぞ」
扉が叩かれたので返事をしたら、そんな声と共にメイド服を着たボクオーンが部屋に入ってきた。
――
メイド服⁉︎
ワグナスはついつい二度見して、頬を染めた。
今日は街をあげてのハロウィンパーティのため、仮装をしているのだろう。それにしても、ボクオーンは黒いロングスカートのメイド服がとても似合う。服の清楚さと彼自身が持つ妖艶さが混ざり合い、色気を漂わせていた。
じっとりとこちらを見つめる金色の瞳に吸い寄せられる。獲物を見据えるような視線に、思わず背筋が震えた。
その金色の瞳がすうっと細まり、三日月を形作る。漂う色香を浴びて喉を鳴らす。
彼はしずしずと歩いて来て、ワグナスの膝に乗り、首に腕を回した。指先がくすぐるように首をなぞる。理性がグラグラと揺れる。
「い・た・ず・ら、しますよ?」
温かい吐息が唇に触れた。
腰に手を回しかけたところで我に返った。そうだ、ハロウィンだ。悪戯をされたくなければお菓子を寄越せと子供達が家々を回る行事ではないか。
――
正直を言えば、据え膳を食いたい気持ちはあるが、今は行事を、自らの任務を遂行するときだ。
「ちゃんとお菓子を準備している。君が好むものがあれば良いのだが」
自制心を総動員して、引き出しの中からカボチャのカゴを取り出した。
ボクオーンが眉を顰めた。
「悪戯はされたくありませんか?」
「今は仕事中なので、悪戯は困るかな」
ボクオーンはワグナスのことをじっと見つめ、ややあって大きくため息をついた。
彼はワグナスの膝から降り、乱れたスカートの皺を直すとカゴの中から棒付きのキャンディーを手に取った。
「
……
興が削がれましたので、帰ります。キャンディ、ありがとうございました」
スカートの裾をひらりと翻し、ボクオーンは部屋から出ていった。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
その話を聞き終えたノエルは頭を抱えた。
隣に立つスービエは口元に手を当て、あさっての方向を向いて肩を震わせている。
不思議そうな顔をしてワグナスが首を傾げる。
何から説明したものかと言い淀んでいると、笑いを堪えた上ずった声でスービエが告げた。
「ボクオーンはお誘いに来たのに、袖にされたと怒ってたぜ。今すぐ追いかけないと、メイド服が大好きな相手を見つけてお楽しみしちゃうかもよ?」
ワグナスが目を見開きながら立ち上がった。勢いよく立ち上がったため、椅子が大きな音を立てて倒れる。
「どういうことだ⁉︎」
「どういうことも何も、ボクオーンはお菓子が欲しかったんじゃなくてお前に悪戯されたかった
――
つまりイチャイチャしたかったんだろ」
そんなスービエの説明を聞きながら、ワグナスが鈍感でなければ情事の最中に突入することになっていたのかと気付き、ノエルはぞっとした。ワグナスが生真面目で良かった。
「す、すまない。あとは頼んだ」
青ざめて出ていくワグナスを見送って、二人はため息をついた。
「いつも揉めている気がするが、大丈夫なのか?」
「我らが軍師殿は、追いかけてきてくれるのも織り込み済みなんだろ。多分」
笑いながらスービエが頭の後ろで手を組む。
「さて。仕方がねぇから、二人で飲むか」
踵を返すスービエの首根っこを掴み、ノエルはため息をついた。
「
……
この場を任されてしまったので、君も手伝ってくれないか?」
ノエルが指した先にはワグナスが処理途中の大量の書類が積まれている。
スービエは顔を顰めて、ガックリと肩を落とした。
ノエルもまた苦笑を浮かべながら、執務机へと歩き出した。
ハロウィンの夜は、まだまだ長い。
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