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このふたりです。
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「きょうは、お会いできません」
「
…………うん?」
「ザイツさん
……、西の魔女さまは、本日お会いになられないそうです」
湿った地面を蹴り上げ、ほの暗い森を駆けて、駆けて、そのいちばん奥。
白昼でさえほの暗い森の果てに、その古びた塔はあった。
いつもならば、眷属の白猫と黒猫の双子が門番をしているのだけれど。
棘だらけのツルにまみれた扉のまえで、見知った顔が立ちはだかっていた。
「?? コミヤが、門番任されてんのか?」
「見たとおりです」
最初は俺と話すのだって、目が合わなかったのに。堂々としたものだ。
おさがりの黒いローブの袖が余って仕方なかったのは、いくつの時だろう。
いつの間にか養い親の言付けを、うろたえずに伝えることができるようになったんだなぁ~と、まじまじとその顔を見てしまう。
「
――いやいやいや、俺はだな、あいつに呼ばれてきたんだが」
「ええ。そう聞いてます。でもお会いできません。使いにコウモリをやったんですが、あなたの方が早く着いてしまいました」
杖を構えるんじゃない、杖を。
一応この国の王だぞ? と思ったが、あの魔女の家の番人をするならばこのぐらいでないと困る。
それよりも、どういうことだろう。
そもそも門番を眷属に任せていないあたり、おかしいだろ。
いつもならば見た目だけはかわいい古参のケットシーたちが、ここで待ち構えているはずだ。
「具合でも悪りぃのか? 新月が近いもんなぁ」
「
……お答えできません」
「惜しい、それじゃあ『そうです』って言ってるようなもんだぜ、コミヤよぉ」
「っ」
――図星だったのか。
髭なんかたくわえ始めた口元が、ぎゅっと閉じられる。こういう仕草はちっとも変っていない。
分かりにくいようで、実はなかなか分かりやすい。そうしたところがよく似ている。血のつながりなどなくとも。
……あの嵐の夜、笑わない子どもを拾ってきた時はどうしたもんかと思ったが。
孤高の魔女とその拾い子。
重ねた年月のぶん、ふたりは、ふたりだけのカタチになっていった。
「はい、そうですか~って帰るわけにはいかねぇだろ。
……顔だけでも見せてもらうぞ」
「
――いえ。それもできません。帰ってもらうようにと言われてます。なんなら拘束系の固有魔法をおさらいしてもいい、と」
あの扉のツルがそうらしい。『おさらい』といった瞬間、ざわりと棘が増えたのは気にせいじゃないだろう。
仕方ない。この手はあんまり使いたくないのだけど。
「
――コミヤ。おれは誰だ?」
「
……この国のいちばん偉い方です。でも今日はだめです。そう言われてます」
「なぁ、コミヤ。この【最果て】だとか言われてる魔女の森。ここはうちの国の領土だったな?」
「そうですね。あなたが魔女さまをたらしこんだので」
ほんと、よく懐いたもんだ。
だがおれだってこの魔女と、それこそこいつがチビだったころから顔を突き合わせてきたのだ。
「おまえらの住処はここだ。おれの国だ。つまりお前たちも、おれの国の民ってわけだな。
おれは、おれの国のモノには笑ってすごしていて欲しい。それが誰であろうと、だ。
まあ早い話、困ってんなら放っておけねぇってコトだな」
それが、この国をすべるもの。
それが、この国の魔女さまの男だ。
「ってカッコつけちまったが、おまえんとこの魔女さまが心配なんで顔ぐらい見せてくれ~ってことだ。
――頼む」
「
……、
……だそうです、ザイツさん」
――このひとが退かないのは、
あなたがいちばん分かってますよね。
ぽつん、とコミヤが呆れを過分に含んだ声で呟いたとたん、だ。
頑なに閉じていた黒い扉が、音もなく開かれる。
視界に入ってきたのは、艶やかな飴色の床と
――
「??? シーツおばけ?」
いったいなんの遊びだ?
シーツを取り込むのをしっぱいしたような、おざなりに白い布をかぶった物体が、ゆらゆらと目の前でゆれている。
ゆれているというか、
よたよた。
よたよた。
「ど、どうなってんだ?」
「
……ザイツさん、ご自分のくちから説明してください」
異質な状況なのだが、気の抜けてしまう光景のせいか、すこしも恐くはなかった。
コミヤの様子を見るに、そこまで切羽詰まったような状態ではないようだ。
(めずらしいな。魔術の失敗、か
……?)
ほんとうに珍しい。出会ったころから魔力量もその操作も最上のモノだったが、失敗がなかったわけではない。
ここ最近じゃ、ほとんどない。
どうにも危なっかしいので、よたつく背中(?)をぐっと引き寄せ、捕獲してしまう。
「っ」
びくんっ
かわいそうなくらい跳ねるしろいシーツに、なんだか悪いことをしたような気持ちになってしまう。
なのに、なぜか俺がふれても大丈夫だという謎の確信があった。
「
…………んん??」
動きを止めてしまったのをいいことに、そおっとシーツの中に手を差し込めば、細い首筋と、あどけない顎のラインがあらわれる。
艶やかな黒い瞳がぱちぱちと瞬いて、固まってしまっていた。
――それはおれもだけれど。
「
――ザイツ、だよな?」
固まってる小さな顔を覗きこんでやる。
まるっこい。ちいさい。
よく見れば、形の良いあたまには、やわらかそうな三角の耳がくっついている。
艶やかな髪は、白い耳が見えてしまうくらい、短い。
『おまえ、髪伸ばしたりしねぇの?』って聞いたら、
勝手に『長いのがすき』って勘違いをしてくれちゃって、訂正しないままのばしていたあの髪が。
「
……しっぱい、しました
……」
「お、おお」
見ればわかる。出会ったころよりも、わずかに幼い。
にんげんでいったら十五、十六あたりだろうか。
「そのシーツは?」
「
……恥ずかしいので」
「ふはっ」
吹きだしたとたん、ぎゅっと目尻がとがる。
頭上でぴくぴくしてる小さな耳のせいで、ただただ可愛いだけだ。ゆるむ口元がおさえきれない。これは仕方ないだろう。
極上にきれいな仔猫なんだなぁ、どう見ても。
この子がかつて『厄災』などと呼ばれ恐れられていたなんて、だれが信じるんだろう。
「かいどう、さん」
被りなおしたシーツがゆれる。顔はわずかに、のぞかせてくれたまま。
――あれだ。オバケなどと言ってしまったが、見ようによっては違うモノにみえる。
室内のひかりを集めたみたいに真っ白なシーツが、やわらかくカイドウのかわいい魔女を包んでいた。
「
……かいどうさん」
「んー?」
よくみたら前髪にへんなクセがついてしまっている。
めずらしくへこんでる魔女の顔を見ながら、ついでとばかりに撫でてやった。
無防備なまるいおでこの下で、変わらぬ黒曜石のひとみが、こちらをじっと見上げてくる。
「
――……コミヤくんが、そこに、まだ」
「お、おお」
すまない、コミヤ。
思ったよりもずっと浮かれてしまっていた。
コミヤは何も映してない目で、置物のようになっている。
ほんとうに申し訳ない。でも、これは
――
(これはなぁ、仕方ないよな)
今夜は世間でいうところの、お祭りである。
これは確信なのだが。
この不器用な魔女は、じぶんの男を喜ばせようとして失敗したのだろう。
カイドウにとってみれば、失敗どころか会心の一撃だ。
「あー
……その、なんだ。顔見るだけじゃ、ムリみてぇ」
心の底から『すまない』ともう一度くり返す。
そうしてシーツごと自分のかわいい魔女を、抱き寄せたのだった。
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(予告:海財ねこみみえっちは書きます!)
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