十月ぽるてさんの魔女集会設定をお借りしています。
・
・
・
「
……いい加減にしてもらえませんか」
「お、おお」
――あんたらの痴話げんかひとつで、国が亡ぶんですよ。
コミヤは、うんざりしていた。
使いにやられた王宮の一室。書籍まみれの部屋は、この国の王様というよりも賢者か研究者に近い。
少々埃をかぶっているのは、ここの主が不在であったからだ。それも半月ほど。
ちなみに窓の外は、季節外れの大吹雪である。
あと三日あれば、こんな城なんて氷漬けだろう。
コミヤの記憶でここまでの惨状は、この男
……カイドウがまだ王太子だった頃以来だと思う。
あの時の寒波も酷かったが、今回もなかなかである。前回より幾分かマシなのは、この人があの魔女を相手に、必死に喰らいついてきた十五年のおかげだろう。
そう。かつて『この世の絶望』だと恐れられていた西の森の魔女は、ここ数年『祝福の魔女さま』と呼ばれている。
強大な力の祝福をそそがれるのは、ただひとり。
国の厄災になりかねないイキモノを懐柔しにかかった王太子に、ぼくの養い親である魔女さまはまんまと懐いてしまった。
それから十五年だ。
拾われたばかりのころ、傷だらけのチビだったぼくも、こうして魔女さま
――ザイツさんのお使いができるくらいには大きくなった。
「あんたは約束しただろ? 魔女と
――」
――魔女は、約束をしない。
魔力を扱うものは、こころで魔法を使う。
心を裏切れば、約束や契約を破れば
……その魔力は失われてしまう。
魔力とは、魔女のたましいそのものだ。
魔力を失ったモノが、どうなるか
……この男はしっているはずだ。
どこにも還れない、ひとりで冷たい石になり果てる。
約束を破る、契約を反故にする
――ぜんぶ命取りなのだ、たったそれだけのことが。
それでもザイツは、約束をした。この男と。
・
・
・
かつての氷の厄災は、すっかり懐いてしまったザイツが、王太子が他のにんげんのモノになってしまうことに絶望したことによるものだった。
王都だけじゃない。色をなくした西の森の前には、分厚い氷の壁が立ちはだかっていた。
真っ白な視界のなか、ゴウゴウと唸る吹雪に負けぬ声で、この男は叫んだのだ。『バカやろーッ』と。
「勘違いさせたんなら、いくらでも謝る。でもなぁ、おまえっ、おれがお前を! 手放すわけねぇだろーがッ」
――だれだと思ってる。おまえの男だぞ、と。
「この国の王子で、王で、そんでおまえの男だろ? そのぜんぶが俺だ」
せかいが恐れる厄災で、
ひとりぼっちが嫌な大魔法使いで、
おれのかわいい魔女。
「それがおまえだろ? ぜってぇ手放さねぇし、嫌だっつっても食らいついてやる」
そう、凍傷になりかけている両足を踏ん張り、高らかに宣言したのはこの男だ。
赤裸々な告白だ。
コミヤまで、落ち着かない気持ちになった。
男がためらうことなく言い切ったことに、胸の奥からじわっと何かが沁みだしてくる。
じぶんが嬉しいと思っているのだと、そのとき気づいた。
つよくて、うつくしい。強大な力をもつイキモノ。
自分みたいなモノを拾ってしまうような、お節介でさみしがりやの魔女のことを、コミヤは自分なりに大切に思っている。
じぶんの大切なものは、大切にされてほしい。
赤裸々な告白をまえに、自分まで体温を失いながら、なんども、なんども静かに頷く魔女のひとみのふちが、うすく透明に光っていた。
それはやさしくて、うつくしい光景だった。
嘘のように晴れわたる空のいろとともに、コミヤは昨日のように覚えている。
――それが十五年まえ。
『ずっといっしょ』の約束は守られるべきだ。
なのに、この男はそれを破ろうとした。
『わたしが石になったら、コミヤくんが食べていいよ。わたしの一番弟子だからね』
そんな一方的な魔力譲渡の話なんか勝手にされて、背筋にぞわっと鳥肌がたった。
このままでいられるか。
そんな哀しい約束、させてやるものか。
「
――悪いですけど、これからあんたを捕縛して、みっちり言い訳を聞いてやろうと思う」
……魔女の森から、
生きて出られると思うなよ。
息継ぎもせずに、一気にいう。
じぶんがこんなに話せるなんて、思わなかった。
「
……いや、おまえ
……そんなに喋れるんだな
……っつーか、なかなかどころか結構なついてんじゃねぇか」
「なんですか、いまさら。ぼくを拾ったのはあの人ですよ。国を護ってる魔女に酷い仕打ちしてるあんたよりはずっと、恩を感じてます」
「あー
……すまない。せめておまえには先に言っとくべきだったな
……でもお前らって、何だかんだず~~っといっしょだから
……」
「???」
ぺらっと。目のまえに出された、羊皮紙。
――勅許状だ。
豪奢な王家の紋章は、魔女にみせてもらったことがある。本物だ。
「おとなりさん。和平条約とってきた」
「???」
はくっと口を開けたまま、コミヤは次の言葉をつなげることができない。
だって、そんなモノなくたってこっちにはかつての『厄災』がいるのだ。
(なん、で
……?)
わざわざ、そんなことしなくていいのだ。
この国でいちばん偉いこの人が。いちばんつよい魔女に護られているこの人が。
「思ったより時間かかっちまったのは、悪い。ただなぁ~言ったらぜってぇついてくるだろ、あいつ。今度の花祭りの約束はしてたし、それに間に合わせるつもりだった」
――お隣さん。
いまだに魔女といったら忌子だからなぁ、って。
クマのにじむ目許をぎゅっとしかめて。
「いくら強いっつっても嫌なことされた事実も、した現実も、なかったことになんねぇだろ」
それは、大丈夫って言わない。
それは、大丈夫にならない。
「っつーわけで早いとこ吹雪を止めちまいたいんだが
……っえ、花?」
「
……ですって、ザイツさん」
コミヤの黒いローブのフードから、艶やかな黒猫がちょこんと顔をのぞかせる。
ぱらぱら、
ぱらぱら、
まっしろだった窓の外に、鮮やかな色彩が移りこんでくる。
――赤、青、むらさきにピンク。
大きいのも小さいのも。
色んな花が、次から次へと空からふってくるのだ。
みゃあ、と。
ちっちゃな声で鳴いた猫は、しばらく人のかたちに戻ってくれなかったけれど、
当然のように気づいた彼の王さまのうでの中で、色づく花びらをくっつけたまま、
抵抗になっていない抵抗で、ぺちぺちとその腕を叩くのだった。
・
・
・
ハッピー(すぎる)エンド!
・
・
・
※こちらの魔女集会な海財(+小宮くん)のお話の三次創作です。
If you make a mistake, you can cancel it by pressing the reaction.