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憂依
2025-10-28 01:55:52
4532文字
Public
さのぱち
いつかみたゆめ
メンタル弱い攻めと男前で包容力のある受けが好き~~~!!なので、うちのさのぱちはそんな感じです。
マジでFGOでこんなにヘキを打ち抜かれて沼に沈んだの高杉社長以来かもしれない。永倉さん原田君を幸せにしてくれ~~~って気持ちでイベント始まってからずっと原田君のこと考えてる。
というわけで、弊カルデア設定のさのぱちです
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「新八。おまえに、頼みがあるんだが」
いつものように自室で永倉を抱きかかえていた男は、いつになく躊躇いがちに口を開いた。
後ろから抱き着かれているために表情はうかがい知れないが、またいつものように迷子の子犬のような顔をしているだろうと、永倉には容易に想像できた。
数日前から、原田が何か言いたげに自分を見ていることに永倉は気が付いていた。
永倉は生来気が長い方ではない。むしろ短い方だ。特に、若い姿になっている時はそれが顕著になってくる。頭に血が上りやすい性分は年を取っても変わらないとはいえ、今の霊基では老人の時にある多少の落ち着きさえもない。自分に言いたいことがあるはずなのに、いつまでたっても言及しない原田に何がしたいんだと声を荒げそうになるたびに、彼は必死に自分を抑え込んだ。短気だなんだと言われる永倉にしては、我慢したほうである。
「なんだよ、藪から棒に」
それでも、努めて、永倉は何も気づいていなかったかのように振る舞った。
変に騒ぎ立てれば、原田がその頼みを無かったことにしてしまう可能性がある。それだけは避けたかった。
原田は自分の望みを口にしない。
新選組のため、近藤局長のためなら「今度こそ」と言えるのに、自分自身に対してはそれが適用されない。「今は自分の為に槍を振るっている」といいながら、それは真の意味で自分の為ではないのだ。
密偵として育てられ、生きる意味も喜びも知らず生きてきて、ようやく手に入れた仮初めの居場所で仲間を騙し続けていたという過去が、今も彼の足に絡みついている。
今でこそ原田と永倉は交際をしているが、二人が結ばれた際にも一悶着も二悶着も起こった。
自分に夢を見る資格はない。幸せを得る権利などない。そんな自分を許せないと自罰する原田は永倉やカルデアで出会った者達のおかげで、なんとか、少しだけ己の願望を口にできるようになったのだ。
さて、原田は一体何を頼んでくるのか。ここ数日の疑問と我慢がようやく解消されると、永倉は次の言葉を待った。
しかし、である。
十秒、二十秒。
続きを待つが、いつまでたっても続きが発せられることはない。
代わりに、原田は永倉のうなじに額を押し当てはじめた。言うのを躊躇っているのだ。ここまで来て。
「おい。なんだよ、頼みって」
今すぐにキレて叫び出しそうになるのを、永倉はぐっとこらえた。今度は明確に、原田の頼みを尋ねてみる。
「あーー
……
」
問いかけられ、原田も返答しようという意思を見せるものの、結局はっきりとした返事が出てこない。代わりとばかりに永倉を抱きしめる腕に力がこもる。一体、何を躊躇う必要があるというのか。
「言いたいことは全部言えって言っただろうが。おまえの頼みを、俺が今更断ると思ってんのか」
努めていつも通りに喋ろうとするも、どうしても言葉尻に怒気が混じってしまう。
これ以上この状態が続くなら、今すぐ両腕を引っぺがして胸ぐらをつかみ上げてやろうかと物騒な考えが脳裏をよぎり始めたところで、ようやく原田が喋り出す。
「たいしたことじゃ、ねえんだが」
(大したことじゃないなら、余計になんでそんな口ごもってんだ)
口に出して突っ込みそうになったが、それも何とかこらえる。辛抱強く続きを待ちつづけ、
「お前の、その、再臨を変えてくれないか」
「
…………
はあ?」
意を決して原田が告げたのは、あまりにも予想外の内容だった。
「再臨を変えろって
……
、別に構わねえがよ、そんなんでいいのか? ジジイの姿の方がよかったか?」
最近の永倉は革ジャン姿の若い姿の霊基でいるようにしている。再臨を変えろということは、老人の自分の姿になれという事かと思ったが、何故そんなことをわざわざ頼むのかが永倉には分からなかった。
しかし、原田はそれを否定した。
「いや、そっちじゃなくて
……
」
そうして彼が告げた言葉に、また永倉は首をかしげることになるのであった。
* * * *
「これでいいのかよ」
そのすぐ後。原田の部屋には、老いた姿でも革ジャンを着た若い姿でもなく、新選組の浅葱の羽織を羽織った永倉が立っていた。
カルデアに来てからは特異点で気合を入れた時にしかならない格好なので、カルデア内でこの姿でいることに永倉はどうにもむず痒いものが付きまとってしまう。
羽織姿の永倉をベッドに座ったまま見上げていた原田は、静かに立ち上がると永倉の目の前まで歩み寄る。
黒い瞳が、どこか遠くを見ているかのように揺れていた。
そのままそっと、まるで壊れ物でも扱うかのように、原田が永倉を抱きしめた。いつもは力強く抱きしめてくるのに、今は触れるか触れないかの躊躇いがちな力加減で、余計に、永倉には原田の意図が分からなかった。
「
……
あの日」
ぽつりと、吐息交じりに声がこぼれる。
「あの日、本当は、こうしたかった」
————
ひどく、震えた声だった。
今にも泣きだしそうな声、だった。
抱きしめられているせいで、原田の表情は永倉からは伺えない。それでも、彼の纏う気配が硬くなっているのが分かる。
「あの日って、いつだよ」
「
……
俺が」
一瞬、原田が口ごもる。躊躇うように、それでも、確かに彼は口にした。
「お前から離れて、出ていった日だ」
「
…………
」
……
その日のことを、原田がカルデアに来てから、永倉は尋ねたことはない。二人が両想いになってからも。
あの日、原田がいなくなった日。彼がいなくなってはじめて、永倉は自分の想いを自覚した。
己の傲慢さと愚かさを、嫌というほど突き付けられたあの日。英霊になってなお、思い返そうとすれば胸が痛む、喪失の記憶。
それなのに。
「あの日、俺は、お前のことが好きだと気づいちまった。
……
気づいて、自分の気持ちと向き合うのを恐れて、お前からも逃げ出した」
生きていた頃の原田は、密偵であることに負い目を感じていて。引け目を覚えていた。
そんな自分が、幸せになることを許せなかった。誰かを好きになることを認めらなかった。まして、それが。自分が長年騙してきた相手なら、なおさら。
「でも、本当は、お前の傍にいたかった。お前に触れたかった。
……
お前を、抱きしめたかったんだ」
「
……
そうか」
今の自分達はかつて死んだ存在の影法師。過ぎ去った過去は戻らず、歴史に刻まれた道行は覆ることはない。
それでも、人間はやり直しを求めずにはいられない。あの時ああしていたら、こうしていたら、今よりもっと良い人生を送れていたかもしれない。そんな、もしもばかりを夢想してしまう生き物だ。
原田もまた、あの日の自分の選択を後悔していたのだろう。
後悔して、こうして、あの日の姿をした永倉相手に、やり直しの夢を見ている。
(このくらいのこと、さっさといえばいいのに。何日も何日も言い出せずにいたのかよ、お前は)
「おい、左之助」
呼びかけて、原田の身体を自分から引きはがす。対して力の入っていない腕を解くのは至極簡単だった。
けれど、引きはがされた本人にとってはそうではなかったようだ。長い前髪の隙間から、不安げに揺れる瞳が垣間見える。
その顔に無性に腹が立ってきて、彼の頬を両手で包む。そのままグイと顔を引っ張って、その唇に、噛みつくように口づけた。
「っ!」
一瞬だけの、触れるだけの接吻だった。
その一瞬に、永倉は万感の想いを籠めていた。
「
……
俺も。できる事なら、あの時のお前にこうしたかったぜ」
己より頭一つ背の高い恋人の呆けたバカ面を見上げながら、永倉は告げる。
あの頃の二人は、共に恋も愛も知らない子供だった。己が抱く感情の正しい名前も知らず、気づいた時には全てが手遅れになっていた。
永倉が己の恋に気づいた時には、もう原田は彼の前から去ったあとだった。
過去は覆らないけれども、永倉だって幾度となく考えた。もし、自分が。もっと早く、原田への想いを自覚していたのなら、何か変わったのだろうかと。
けれど、現実はそうはならなかった。永倉と原田は再会することは叶わず、二人は遠く離れた地で歳を重ねて死ぬこととなった。
だからこそ。こうして、再び出逢えた奇跡をかみしめずにはいられない。
今このひと時は、サーヴァントである彼らにとって泡沫の夢のようなものだ。例え、全てが終わって退去した後、座の本体に何も還元されることがなくても。二人は、わずかな間だけでも、愚かな夢を見続けることを選んだ。
「新八
……
っ」
永倉が柔く微笑めば、今度は痛いくらいに抱きしめられた。あまりの力強さに、骨がミシミシと悲鳴を上げている。
……
それでも、それが原田が自分に向けている想いの強さだと思うと、痛みすら永倉には愛おしかった。
彼の背に腕を回して、自分も力の限り彼を抱きしめる。
どれほどささいな事であっても、己を許せなかった男が、己の願いを口にしたのだから。恋人として、その願いも思いも、全て、受け止めてやりたかった。
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