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└| ∵ |┐
2025-10-17 15:53:50
1461文字
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演劇【推しの子】
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黒雨朦々
千代田であれこれあった後のキザミvs匁
パスをつける程ではないキザもめ描写があります
曲解/僭王戴冠
の後、
欠稿/KING of BLADE
あたりのイメージ
「
……
ッ」
泥濘む血溜まりに踏み込んで足先がわずかにずれた。
危うい間合で相手の刃を弾く。鋭い熱が頬骨をかすめる。視界の隅で切り払われた髪が闇に消える。
身体の軸がぶれている。躱したはずの一撃を避け切れなかった。
横殴りの雨が激しく吹きつけている。びしょ濡れの外套が重く纏わりつき枷のようだ。流れ落ちる血が冷たい。骨の髄まで凍えている。
身の裡にあった盟刀の力は反転し、匁を捕らえて離さない。もはや流水死命は匁を呼ばない。
匁は今、死に物狂いで沈黙した鋼を振るっている。
敵も既に制圧の剣筋ではない。全てを乗せた一撃が重い。互いに余裕はない。無様に殺し合うだけだ。
砕ける骨。肉の断面。跳ね上がる血潮。
一瞬の連想が瞼の裏で閃き、冷ややかな昂りがぞくりと背骨を駆け上がる。
「匁、なぜ
……
」
「警告したはずですよ。軽々しく僕の名前を口にするなと」
言い淀む鬼を遮り、一蹴する。
既に心を決めた眼をしている癖にまだ問うのか。
あの夜を思い出すか?
爪を隠した優しい指が恋しいか?
匁の中で匁が嗤っている。
囁くように名を呼ばれた。何度も。飽きることなく。
確かめるようになぞられて、零れる声を殺し切れなかった。
深く求めるように揺れていた。
幾度も絶頂の波に溺れた。
胎の底が疼く。
匁という形を探りながら辿々しく触れて来た手が、少しずつ匁を切り裂く。
いつまでも愚直に何故と問い続けながら、いつか何もかもを暴かれる。
ならば、絶頂のうちに殺せ。喉を裂け。心臓を抉れ。
二度と逃がしはしない。
俺を救うとのたもうた、あの鬼だけは。
キザミ。
獄楽天女を振るう新宿の剣主。
僕/俺が殺し損ねた鬼。
耳元で雨が叫ぶ。風が瓦礫と炎を巻き上げて匁を封じる。視界が塞がれる。聴覚を掻き乱す。冷気が心臓を掴む。刀を握る手指の感覚が薄い。無数の傷口から血が溢れて止まらない。
震えを抑えながら神経を尖らせる。濁流のような暗がりの向こうに匁を狙う切っ先がある。
新宿と渋谷の有象無象。人と鬼。剣主と防人。風水師。
この場にある全ての刀が己に突きつけられている。
ふと、張り詰めた緊張の中にかすかな歪みを覚えた。
胸の奥の空洞を見えない何かが通り過ぎる。知らない記憶に触れていく朧気な影。
それは恐らく漠とした寂寥だった。
この奇妙な心を知っている。
流水死命を継いだ時にもそれは薄っすらとあった。
先代の剣主を殺して、匁は一族の最後の一人になった。命じられた通り成し遂げたはずなのに、とっくに何かが欠けていた。
匁は知らず薄く笑う。
どうでもいい。想うだけ無駄だ。
何を喪くしたかさえ知らないのだから、何を惜しむのかもわからない。
差し伸べた手の先には何もない。
孤独には慣れている。
なのに、吠えるような声を上げて鬼は必死に言い募る。唸る風に途切れながらその切れ端だけが届く。
悲痛を通り越して滑稽ですらある。
「匁
……
俺は、おまえを」
「鬼が」
匁は唇を歪めて吐き捨てた。
救えるとでも云うのだろうか。くだらない。
誰もいない暗闇に両眼を見開き炎を求める。鋼をも溶かす焔。直視できない陽光の閃き。
かすかに捉えたその色に死んだ鋼を翳す。
「鬼が、俺の名を呼ぶなッ」
この叫びも切り裂かれて、聞こえはしないのだろう。
何処からでも来るがいい。
俺が殺す。僕を殺せ。
硬く滾る灼熱で、今度こそ僕/俺の魂を穿て。
「匁ぇ
……
!」
それでも、己を呼ばう咆哮は黒雨を越えて響いた。
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