夜明 奈央
2025-10-16 19:09:05
3663文字
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五年 友情は変わらない

ガチ恋中の推しが友達である兵助(俳優)と結婚することになった竹谷/1人の女を取り合うことになった代理の友情の話 (便宜上推し=綾♀なので久々綾♀と竹→綾♀ぽいけど綾出てきません)
久々綾♀の新婚旅行番組を見守る続編→推しの幸せ、友達の幸せ / 芸能パロその他のお話
2025年10月15日初出

「よっ! こうやって集まるのは久しぶりだな!」
「おう、八左ヱ門! 元気にしてたかー?」
「してたしてた」
 学生時代の友人に呼び出されて店を訪れると、俺が最後だったようで中には既に懐かしい面々が揃っていた。大人になってそれぞれ別の仕事に就いてしまうと、どうしたって予定はなかなか合わない。みんなに声を掛けても1人か2人は来られないことが多くて、中高の仲良しグループだったこの5人が勢揃いするのは一体何年振りだろうか。
 しかも今回呼び出したのはその中でもダントツで欠席率の高い兵助だ。中学生の時は予想もしていなかったが、今や日本じゃ知らない人はいないだろうイケメン俳優として名を馳せている。友人として鼻は高いが、俳優業が軌道に乗ってからはめっきり会う機会も減っていた。すっかり有名人になってしまった兵助に配慮して、今日集まったのも個室型の居酒屋だ。
「そうだそうだ。どうしたんだ? 改まって」
「まさか結婚とか?」
 乾杯が済むと、三郎と雷蔵が早速とばかりに尋ねる。
「そのまさかだよ。一応みんなにはメディア発表の前に教えておこうと思って」
「えっ!? 結婚!?」
 兵助に彼女がいるなんて寝耳に水。爽やか系イケメンで売っている兵助は昔から真面目一筋で、人気絶頂、稼ぎ時の今は恋愛なんて二の次なのだと思っていた。当然スキャンダルのひとつも聞いたことはない。
「おお、遂にか!」
「おめでとう!」
「お幸せにな!」
「ちょちょちょ待てよ! え、どういうこと!? 誰と!?」
 けれど驚いているのは俺1人なのか、他の3人は実にすんなりと受け入れている。
「あ、あー、まあ、そうだな」
「っていうかこれ兵助の結婚祝いより八を慰める会になるんじゃ……
「なにそれ怖いんだけど!? 相手誰なの!?」
「アイドル学年の」
「まさかあやちゃん!?」
 アイドル学年といえば俺の永遠の推しであるあやちゃんが所属する5人組アイドルグループだ。兵助と関わりがあるといえば数年前に共演したあやちゃんしかいない。まさかそれだけは違うよなと願いを込めてみんなの顔を順番に見るが、気まずそうに目を逸らされたり苦笑いを返されたりするばかりだ。
「嘘、だよな……?」
 一縷の望みを込めて兵助を見る。
「まあ、そういうことです」
……………………マジで?」
 その後しばらくの記憶は途絶えている。


「なあ、兵助があやちゃんと結婚するってことは、あやちゃんが結婚しちゃうってこと?」
「そうだな」
「俺とは結婚してくれないってこと?」
「それは元からわかってただろ」
「そうだけどそれは言わない約束じゃないか」
 めそめそと泣きながら酒を飲む。ほとんどお通夜みたいな気分の俺をみんな代わる代わる慰めてくれるが、誰も本気にしてくれていない気がする。俺はこんなに落ち込んでいるのに、向かいからは「式はいつ頃の予定なんだ?」とか「家族に挨拶は済ませたのか?」とか聞きたくもないやけに具体的な話が耳に届く。
 兵助があやちゃんと共演した後「何かあったりしないだろうな!?」と詰め寄った時には「共演しただけだよ。あるわけないだろ」と笑っていたくせに。俺は俳優の演技力にすっかり騙されていたということか。
 許すまじ兵助。ドラマ内であやちゃんとキスしただけでも許せないというのに……
「はっ……! まさかお前あやちゃんの処女を……!?」
 結婚という衝撃に打ちのめされすっかり忘れていたが、これは重大な問題ではないのか! ガタリと立ち上がって兵助を睨みつけると、気まずそうに目を逸らされる。
……ノーコメントで」
「その顔! 絶対ヤっただろ!? 嘘だろふざけんな!! 俺のあやちゃんの純情を返せ!」
「おい待て落ち着け!」
「誰かこいつを止めろ!」
「ここお店だよ!?」
 兵助に掴みかかろうとすると、両側から三郎と勘右衛門が俺を取り押さえ、雷蔵が兵助の前に立ち塞がる。そんな、俺たちずっと友達だと思っていたのに、みんな兵助の味方をするというのか!? 俺がライブや握手会に行って「やっぱり可愛い。結婚したい」とか言ってたのをみんな内心嘲笑っていたというのか!?
 勘右衛門に腕挫十字固を掛けられて床に沈んでいると、俺の目からは再び涙が溢れていた。
「兵助とは絶交だ……兵助のファンクラブなんか今すぐにでもやめてやる……
「いいの? 絶交したら結婚式呼んでもらえなくなっちゃうよ? あやちゃんの結婚式参加できるファンなんてたぶん他にいないよ?」
「結婚式……りゃくだつ、こん……?」
「略奪すな」
 雷蔵に優しく諭され、淡い希望が頭に浮かんだところで三郎に容赦なく額を叩かれた。
「よく考えろ。結婚を発表したら一時的にでもまず間違いなく2人の人気は下がる。一部のファンからは非難を浴びるだろう。そこを買い支えてやるのが本当のファンというものじゃないのか!?」
「っていうかお前、ファンクラブの会員No.1桁だって自慢してなかったか? いいのか、一時の感情でそんな希少な権利を失って。俺だって結構頑張ったのに2桁だったんだぞ」
 ようやく勘右衛門の腕挫十字固が少し緩む。
「なんだ、お前たちまだファンクラブ会員なんて続けてたのか? 私は最初の1年でやめたぞ」
「三郎は薄情すぎ」
「あいつのファンクラブ会員何人いると思ってんだ。もう私が抜けたくらいで食い扶持に困ることもないだろ。あと会報誌の発行頻度が高すぎて捨てるのが面倒」
「あっはは、ファンからは好評なんだけどな」
 やいやい言い合っていると、兵助がようやく会話に入ってきた。雷蔵が場所を空けてくれて、兵助と向かい合う。
「ファンクラブ会員なんてやめていいよ。年会費だって安くないし、それくらいで友達じゃないなんて思わないよ。もちろん他のみんなもね」
「じゃあ俺やめようかな」
「僕も。地味に財布に痛いんだよね」
「わかる」
「いいけどお前ら現金だな」
 ふざけたやり取りに場の空気が緩む。
「ごめんね、黙ってて。八左ヱ門が推してるのは知ってたから、どう思うか考えたら言えなくて。でも、記者会見で初めて知ったらもっとショックだろうと思ったらこのまま黙ってるわけにはいかないと思ったんだ」
 勘右衛門が俺の上から退く。ゆっくりと身を起こすと、兵助に顔を覗き込まれた。
「許せないって言うなら、それでもいいよ。隠してたのは事実だし、絶交されるかもしれないくらいの覚悟はしてきた」
 兵助は俺のことをまっすぐに見つめる。俺との友情よりあやちゃんとの未来を取ると決めた顔だ。昔からこうと決めたら絶対に成し遂げる。そういう強い意志を持った男だった。
「ずるいだろ……お前がそんないい男だから、勝てないってわかってるから、こんなに悔しいんじゃないか」
 後ろから誰かに背を叩かれる。ばしんばしんばしんと違う方向から3回。
「おめでとう、兵助。あやちゃんのこと、幸せにしてくれよ……
「ああ、言われなくとも、そのつもりだ」
 兵助に正面から抱きつかれる。そのまま胸に顔を埋めようとしたら、ぐいっと肩を押されて遠ざけられた。涙と鼻水でぐちょぐちょだったから仕方ないかもしれないが、ここは空気を読むところじゃないのか。内心憤慨していたら、3人が俺たちをまとめて抱きしめるみたいにしてくっついてきた。その所為で兵助のシャツは見事に俺の鼻水塗れだ。でも、今度は振り払われなかった。
 大人の男が5人も揃って無言でくっついているのは、傍から見れば相当に異様な光景だったろう。じんわりと胸が熱くなる。改めて俺たちの友情を再確認したところで、俺は拳に力を込めて叫んだ。
「俺、親にも兵助のファンクラブ入ってもらう!」
「なんで?」
「これからはお前に貢ぐ金はイコールあやちゃんの金にもなるわけだろ!?」
「それはそうかもしれないがあやちゃんに直接貢げばよくないか?」
「アイドル学年のファンクラブは既に入ってもらってるから! 兵助の方はまだだし!」
 元気よく宣言した。
「ったく、しょうがねぇなあ! お前らの生活のために、俺もファンクラブ会員続けてやるかぁ!」
「確かに新婚早々路頭に迷ったら可哀想だしね」
 勘右衛門と雷蔵が追従する。
「いや、ありがたいけど、そこまでお金に困ってないからね!? こう言っちゃあなんだけどたぶんみんなより稼いでるからね!?」
 兵助がわたわたし始めると、三郎がにやりと笑った。
「それもそうだな。じゃあここは兵助の奢りってことで!」
……別にいいけど、普通結婚祝いで俺が奢られる方じゃないの?」
「八左ヱ門泣かせた罰ってことで」
「そっちが勝手に泣いたんだろ!?」
 兵助の情けない声にどっと笑いが起きる。巷で噂のイケメン俳優とはとても思えないが、中学の頃から変わらないそれだ。
 変わるもの、変わらないもの。俺たちの友情は変わらないものであればいい。

続編 / 芸能パロその他のお話


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