kurotera
2025-10-07 19:29:11
2609文字
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10/19 全開ケイデンス39 鏑木×青八木小説 新刊サンプル

10/19 全開ケイデンス39 東7 L33bにてサークル参加します。
鏑木×青八木を久しぶりに出しますのでよろしくおねがいします。再録+書き下ろしです。



 ザワークラウトの中で自転車を漕ぐ
 
 鏑木一差は広大な酢漬けキャベツを見下ろしていた。
 傍らに愛車を持ち、細かく刻まれたキャベツの草原を眺めれば、遥か遠くにぽつん、とゴールゲートが立っている。
 それならば話は早い。自転車乗りならば、するべきことは一つだ。
 サドルにまたがり、ビンディングをはめる。脚に力を入れればタイヤはそれに応えて、回り出した。
 ざくざくざく、と野菜の音が足下から聞こえてくる。いったい誰が、何のためにこのキャベツの千切りで出来た道を作り出したのか、鏑木は知らない。ただその音と共に香る、特有の発酵臭が少し嫌で、顔をしかめながらペダルを回した。舗装された道ではないからか、どうにも上手く進まない。ざくざくと音は鳴っているのに、ペダルを踏めども踏めども、一向に進んだ気がしないのだ。
 ――いや、ちょっとぐらいは進んだだろ? ――
 せめて数キロぐらいは。そう思って後ろを振り返ってみると。
「ハァ!?」
 すぐ後ろ、五メートルも満たない後ろに、スタートラインがある。いやいや、んなわけないだろ。顔を引きつらせて笑いながら、鏑木一差はムキになってペダルを回した。もっと回せ、ケイデンスを上げろ。キャベツの音なんて、酸っぱい匂いなんて、気にするな。
 しかしどうにも、ペダルとタイヤは虚しく回り続ける一方で、進む気配が無い。ペダルを踏めども踏めどもキャベツの酢漬け、気でも狂ったかオレ! と叫びたくなるのをぐっとこらえて踏み続ける。
 いや、いっそ降りてやろうか。降りて、愛車を押していったほうが早いんじゃないか、鏑木一差。現実的な解決案が浮かんだが、奇妙なことにビンディングを外せない。なんだこれ、と冷や汗が額から流れていく。
 どうなってるんだと周囲を見渡しても、自分以外誰もいなかった。
 そもそもどうして、キャベツなんだ?
 ここでようやく鏑木はまず最初に浮かぶべき疑問に帰結した。


 しかし、何もかもが分からないことだらけで、やっと鏑木は、ああ、これは夢なんだ。最悪だな、畜生。と悪態をついた。さっさと目を覚ませオレ! そう叫べばその大声で起きると思ったが、今日の自分は熟睡気味らしい。
 ざくざくざく、ざくざくざく。
「うるせー!」
 キャベツの音がうるさい。鼻は酸っぱい匂いで馬鹿になったようだ。
 神様仏様お星様、助けてくれよ! と祈るか拝むかしてみるものの、夢なので、夢が続く限りレースは続行の様相を呈している。
 黄色っぽいキャベツの大地と、オレンジに染まった空。変わることの無い景色で、鏑木一差は延々とザワークラウトの中でペダルを回し続けていた。

「は?」
 部室に駆け込んでくるなり、キャベツが、千切りが、と喚く鏑木をじろりと睨み付け、率直な感想――にも満たない一単語を青八木は口にした。