あがさ
2025-10-04 21:56:35
1372文字
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君の許へと帰る





 鬼と人の血肉が歪に混ざり合った何とも形容しがたい、けれどとうの昔に麻痺した感覚器官では何とも思わなくなってしまった饐えた臭いが周囲に漂っている。

 今日も今日とて夜通し人喰い鬼の頸を刎ね、気がついたら杏寿郎は朝を迎えていた。漆黒だった空が白み始め、東の山際辺りから金糸雀色とも黄丹色とも言えない濃淡が徐々に広がっていき、遂には日輪が一条の光を世界に灯す様は何時いかなる時見ても美しいと思う。己と周りが膜一枚で遮られているかのような鈍った感覚と気怠い疲労を抱えて朝ぼらけの中一息つくとき、決まって今頃まだ暖かな布団の中で安らかに眠っているだろう弟に思いを馳せる。その夢の内容が幸せなものであることを願ってやまない。
 大きく息を吸い込みながらぐっと伸び、肺にたまった空気を一気に吐き出すと同時に身体を弛緩させた直後、周囲に響き渡る声で他の隊士に怪我人の具合やその他被害の状況を確かめるよう、杏寿郎は炎柱として簡潔に指示を出した。一足早くお館様へ報告に向かうよう鎹烏を空に飛ばすのも忘れない。暫く前からこの近辺でちらほらと被害報告が出ていたので数日間張り込んで調査をしていたが、のらりくらりと包囲網をすり抜け続けられていた。その鬼が昨晩ようやく尻尾を出したので引きずり出し、一晩かけて仕留めることに成功したのだ。共食いや仲間内での争いに発展するので鬼が徒党を組むことは珍しいが、今回は複数で行動を共にして人の血肉にあり付ける勝率を上げていた知能犯だった。しかも厄介な鬼血術まで使いこなすとくる。それでもどうにか隊の被害は最小限に抑えて戦い抜いた。今回かなり大掛かりな任務だったのと、それ以前も現場に赴く任務や事務的な作業が立て込んでいたため、久しくゆっくりと身体を休めていない気がする。

──こういう時は、千寿郎が湧かしてくれた風呂に浸かり、千寿郎が作ってくれた旨い飯を腹いっぱいに食べ、久しぶりに兄上と一緒に寝たいですと可愛らしく強請る愛しい子のぬくもりを感じながら寝るに限る──

 寝不足気味で若干霞がかかったような頭で杏寿郎は考えた。
 少し休暇を申し込んでも差し支えないだろうか、と思案するほどには自分も疲れているのだなと彼は苦笑する。

 確か冨岡が弟弟子の竈門少年及び竈門妹と共に師匠の鱗滝左近次殿のところへ里帰りするため、暫く前から休暇を取っていたはず。ならば、入れ替わりで己が抜けることにあまり問題はないだろう。うむ!そうと決まれば、早速お館様に掛け合ってみるとしよう!

 そう思い至ると、疲労で軋む身体のことがその瞬間は感じなくなるほど晴々とした気持ちになり、杏寿郎は相好を崩した。そしてそのまま、血や砂ぼこりの汚れすらいとわない、炎を彷彿とさせる赫が毅然な羽織の裾を風になびかせ、足取り軽く鬼殺隊本部へと向かう。

 そんな炎柱を傍から見ていた他の隊士たちは、体力化け物かよぉ、とげっそり彼を見送った。



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