とこり
2025-09-28 09:55:01
9526文字
Public
 

現パロ⑤

続き。
高校生の生活がわからず平成の高校ベース、もはや家庭家部は勢いのみで書いた歌さに♀(自我)
会話も全て地の文に組み込んであるので読みにくい。
雰囲気で読んでください。

今日は家庭科部のお店の担当を二時間。
二日目だから、開店の準備は大変じゃない。
朝、商品焼いて、ラッピングして、店に並べて。
食べ物屋は好評で、文化祭の時ばかりはゆるゆる家庭科部も忙しい。
去年も今年も売る方の担当だから、商品補充で結構バタバタ移動する。
食べ物を扱うお店には、やっぱりなんだかんだお客さんが来る。
アレルギー対応のクッキーとマフィンは外部からの子連れの親御さんに好評だった。
クッキーは型抜きでかわいいもんね。
もう少し手をかけられればいいなって、部長の気持ちもわかる。
交代の子も早めに来てくれて、自由の身になった直後、知らない人とばっちり目があった。
見たことある。
被服部の先輩だ。
眉間にめっちゃ、深い皺が寄ってる。
調子のってんなよ、ブース、バカ女!
その人の口からそんな言葉が飛び出してきた。
目が合ってるんだから、私に言ってる。
何で初対面の人に、そんなこと言われなきゃならないのかわかんないし、小学生みたいな悪口から伝わる、明確な悪意にげんなりする。
いや、初対面じゃない可能性もあるな。
私の場合。
覚えてないだけかもしれない。
おや、随分、品のあることを言うじゃないか、という聞き覚えのある声が、後ろから降ってきて、何故か私の背筋がピンと伸びた。
いや、聞き覚えはあるんだけど、低くない?
ものすごいド低音ボイスじゃない?
体感温度が低いんだけど、これ、私だけ?
いや、私だけじゃないな。
被服部の先輩も真っ青だ。
私以上にヤバい感じだ。
何か寒いよねえ?
肩にがしっとでっかい手が置かれて、意図せず自分から、ぴぎって声が出た。
痛かったわけじゃないんだけど、すごい怖い。
何か、何かね?
締め切り破って、部員に怒ってたり、むぎちゃん先生に技かけたりしてた時とは違う感じの怒り方じゃない?
ここここ、怖いんだけど。
何?何?どうしたの?
液体窒素ですか?みたいな温度が怖すぎて、振り返れないんだけど。
振り返れないはずなのに、顎に手が添えられて、絶対零度の方向に振り向かされた。
口に何か当たる。
歌仙さんの顔面が近すぎて、顔全部が視界に入らないんだけど、どういうこと?
まわりから、きゃーっていう、悲鳴みたいな声が聞こえる。
え、何?
行こう、と手を引かれて、されるがまま、よたよたとついて行く。
何?
何かすごいことが起きたね?
何だ?
何が起きた?

手を引かれたまま、引っ張られるように歩く。
歌仙さんが何かぶつくさ言ってるけど、背中越しだし、頭がぼーっとして、よく聞こえない。
何だろ。
何か、考えなきゃいけないのに、頭が痺れたみたいになってる。
化学部に行くんだろう?と聞かれて、なんとか頷いた。
そう、カルメ焼きが食べたい。
だから、化学部の段ボール迷路をクリアするんだけど。
だけど。
何度か大丈夫か、尋ねられたけど、何か大丈夫なような、大丈夫じゃないような感じがして返事ができない。
化学室までどうやって行くか、行き方を思い出せないまま、手を引かれて歩く。
あっ、化学部の部室……
えっ、ねぇ、待って。
何が起きたの?
迷路に入ってすぐ、何度目かの大丈夫かい、を聞いて、そこで今日初めて歌仙さんと目があった。
瞬間、涙がぼろぼろ溢れた。
一瞬、ぎょっとした顔が見えたけど、すぐに歪んで見えなくなる。
キスしたよね?
ねえ、やっぱ、勝手にキスしたよね?
あんな、公衆の面前で。
酷くない?
起こったことをちゃんと理解した瞬間、涙が溢れてきた。
すごい!
視界が歪んで、錯視効果、全然ない。
普通の段ボール迷路と変わらないけど、視界が歪んじゃって迷路が見えないから、結局、手を引いてもらってクリアした。
カルメ焼きは二人分もらえて、歌仙さんの分も私にくれるって言うから、もらったけど、今、味がわからないと思う。
涙止まんないし、ゴール担当の人もびっくりしてた。
当たり前だよ。
知り合いじゃなくてよかった。
次はどこに行くか、聞かれたから、武道場の裏って言った。
この顔じゃ、学祭の中、歩けない。

武道場の裏は、学祭中だけど、誰もいなくてほっとした。
メイン会場から少し離れていて、微妙に使い勝手が悪いのだ。
表はたまにぱらぱら人が出入りするから、サボるにも勝手が悪い。
ここ穴場だと思う。
イチョウがずらり植えてあって、その葉っぱはまだ黃緑だ。
これが11月になれば、多分、銀杏が臭くて座ってられない。
涙は止まらないので、そのまま座り込んで、膝に顔を埋める。
歌仙さんが横に座って、肩に手を回そうとしてきたけど、ん゛〜!!って言って、手でばばばってやって振り払った。
溜息が聞こえる。
溜息付きたいのはこっちだよ!
もしかして、初めてだったのか、って聞かれたけど返事はしなかった。
初めてでも、初めてでなくても、勝手にやっちゃだめなんだよ!
初めてだけど。
横で最初は被服部の先輩の文句言ったり、言い訳してたりしてたけど、だんだん言葉が謝罪の言葉だけになった。
知らないもん。
それすら、聞こえなくなって、二人で黙って座る。
ほっといてくれれば、いいのに。
好きなところ、見に行けばいいじゃん。
そう言ったけど、黙って隣にいる。
私ってこんなに涙が出せるんだなあと感心し始めた頃、歌仙さんが待っておいで、と言ってどっかに行った。
歌仙さんの顔見ないでいたら、少し落ち着いた。
あの被服部の先輩、歌仙さんのこと好きだったのかな。
歌仙さんがぶつくさ言う中で、もうちょい賢いと思った的なこと言ってた気がする。
あんな小学生みたいな悪口しか出てこないんだから、あんま悪口言ったことないのかもしれない。
歌仙さん、それわかってて、私にキスしたのかな。
だとしたら、先輩に対しても、私にも対しても大分、酷い。
風が少し涼しくて、熱くなった目を冷やしてくれる。
空が高いな、秋の雲だなとか、ぽつぽつ考える。
いっぱい泣いたけど、カルメ焼きは崩さずに持っていられた。

しばらくして、歌仙さんが帰ってきた。
顔見たら、目頭とか顔とか、体中が全部、熱くなってまた泣きそうになる。
両手になんかいっぱい食べ物抱えてる。
もうお昼だったんだ。
大分、長いことぐずぐずしてたんだなあ。
どれがいいかとずらずら並べられる。
焼きそばとかたこ焼きとか、あっ、声楽部のシチューがある!!
美味しいやつ。
ケバブ、ロコモコ、ホットドッグ。
後、むぎちゃん先生の豚汁とおにぎり。
いつもだったら大喜びだけど、今、全然食べたくない。
むぎちゃん先生の豚汁とおにぎりだけもらったけど、やっぱり味がしない。
他のもの何も食べられなかった。
歌仙さんもあんまり食べてない。
残ったもの、ビニール袋に詰めて、カルメ焼きも貸すよう言われたけど、握りしめた。
もう、別行動したいんだけど。

まだ気持ちがぐらぐらするけど、体育館に向かう。
午後は、ベストカップル賞の発表がある。
みるちゃんときよみっちゃんが、それに応募してるらしいから、見届ける。
クラスからも立候補者いるけど、みるちゃんたちに入れたんだ。
あれだけ毎日、きよみっちゃん、きよみっちゃん言いながら、お菓子作ってれば、家庭科部員なら絶対入れると思う。
組織票とか言われないといいけど。
歌仙さんもついてきてる。
興味ないと思うんだけどな。
ベストカップル賞には夢みたいな世界に浸れる遊園地のペアチケットが贈られる。
今回は7組のカップルが、舞台に並んでいた。
見たことある子もいる。
投票してるんだから、もうすでに結果はわかってるはずなのに、お互いへの愛を叫ぶというのをやらされている。
それぞれが叫ぶ度に、ヒューとか、囃す声があがる。
みるちゃんは「きよみっちゃんの存在にメロメロです」って恥ずかしそうにマイクにむかって喋ってて、可憐でかわいかった。
きよみっちゃんは、マイク切って、こっちにむかってめちゃくちゃ大きい声で「みるの頭の中が俺でいっぱいなの、控えめに言ってサイコー!」って叫んでた。
多分、体育館中に響いてた。
すごい声量!
きよみるがベストカップル賞に選ばれて、無事にペアチケットを手に入れてた。
そして、チケットが渡された瞬間から、体育館内に響き渡るキスコール。
みるちゃんは顔を真っ赤にしているし、きよみっちゃんはコールの矢面に立たされている。
壇上に並んだ、他の組からもキスコールが巻き起こり、きよみっちゃんがええい!ままよ!とばかりにみるちゃんにキスをして、体育館がどっと沸いた。
ふたりとも恥ずかしそうではあるけれど、同時にとても幸せそうでもある。
いいな。
私もあんな風だったら良か……良くないな。
見られるのは嫌だな。
そう思ったら、目に涙が盛り上がってきて、あわてて体育館を出た。

悲しさが止まらなくて、結局そのまま、武道館裏で過ごす。
歌仙さんは、何故か隣にいる。
最後の文化祭じゃん。
こんなつまんない場所にいなければいいのに。
ぐすぐずしながら、そう言ったのに、頑として動かない。
喋るのも疲れて、結局、ただ黙って過ごした。
歌仙さんも絶対、楽しくない。
自力でテンション回復するのは無理だから、一人で回ってくればいいのに。
別に最後の文化祭の邪魔をしたいわけじゃない。
一緒に楽しむことはできないけど、それに関しては歌仙さんの自業自得すぎるから、私は知らない。
涙は何とか止まって、空を見たり、雲を見たり、ぼんやりしていた。
歌仙さんも気分は?とか、おやつは食べないのか、とか聞いてきたけど、返事しなかった。
自分でも感じ悪いと思う。
見捨ててくれてもいいのに。

閉祭式まで待って、のそのそと校庭に出る。
学祭まわれなかったけど、最後くらい見ようと思えるようになった。
校庭の真ん中のキャンプファイヤーにむかって、弓道部で一番腕が良いと評判の吉行くんが、火のついた矢を射る。
危なげもなく見事に命中して、炎が一気に燃え上がった。
わあっと大きな歓声があがる。
同時に音楽が流れ出して、ダンス部が炎の周りを囲み、流行りの曲を踊る。
演奏は軽音部の生演奏だ。
二曲目は有名な曲で簡単ふりつけのもので、校庭のみんなを誘いながら踊る。
何回か見れば踊れる動きの繰り返しで、みんな次々に参加していく。
比べるものでもないかもしれないけど、去年より自由で、でも独りよがりな感じがしなくて、雰囲気が良い。
歌仙さんも入ってくればいいのに。
何度か勧めたけど、やっぱり首を横に振る。
もう意地になってるだけじゃないの?
ダンスが終わると、校舎にプロジェクションマッピングが映される。
今年の文化祭実行委員の目玉だ。
生徒会も噛んでるらしいけど、もっぱら実行委員が中心にがんばったらしい。
音楽と一緒に学祭のタイトルがバーンと流れて、学祭の様子が流れる。
各クラスの出し物の様子、部活の様子。
いつの間に取られてたのか知らないけど、家庭科部の店だけじゃなくて調理の様子も映っている。
映し出される映像の中に、みんな映っている。
アントシアニンの魔術師の婚約者は二日目も来ていたらしい。
一日目も、二日目もちょいちょい映像に映ってるけど、部長ずっと腰抱かれてる。
なんかすごいな。
よううちゃんもいる。
ちょも先生とあちこち店を回ったみたいで、そこここに映っている。
犬の形のバルーン持って、私のクラスの写真スポットで、ちょも先生のお膝で写真を撮っていた。
どうして、私が受付の時に来てくれなかったの!
悔しすぎる。
あいるちゃん、二日目は知らない人と映ってた。
もしかして、面接で一目惚れされて、つきまとわれている、アイスのチェーン店の社長さんでは?
何だろう。
ちょっとだけアントシアニンの魔術師の婚約者に雰囲気が似てるような気がする。
それにしても、部活4つかけもちしてるだけあって、あいるちゃん、どこにでも映ってるな。
化学部の迷路でバタバタと人が倒れてるのが撮られてた。
ちらっと私と藍夜ちゃんも入り口にいるのが映ってる。
そのさらに遠くに、藍夜ちゃんを見つけた瞬間っぽい肥前くんも映ってた。
なかなかの顔をしてる。
この顔見てれば、あ、お付き合いしてるなって一発でわかったと思う。
みるちゃんはもちろん、ベストカップル賞受賞の時が大きく一面に映し出された。
みんな楽しそうに笑ってる。
私も昨日まであっちにいたのに、どうしてこんな悲しい気持ちなんだろう。
さっき吉行くんが矢を放ったところまで画面が進み、ダンスの動画が流れて映像が途切れる。
すっかり暗くなった空に、小さいけれど、花火が上がる。
花火は毎年恒例だけど、みんな何度でも歓声をあげる。
私も去年はその中にいたのに、今年は駄目だった。
全然、心躍らない。
綺麗だなとは思うけど、ガラス一枚挟んで景色を見てるみたい。
打ち上げがあるならいけば?って言ったけど、暗いから送ると言われて並んで、会話もなく夜道をとぼとぼ歩く。
まだちゃんと顔見たくなくて、挨拶もせずに家に入る。
明日はお昼、別々でいいし、帰りも別々でいいって連絡した。
買ってあったお昼ご飯の残りは押し付けられるように渡されたけど、食欲なくて、お父さんと弟が嬉々として食べていた。

おはようございます。
朝起きたら、悲しさが落ち着いているかと思ったけど、怒りに変わってた。
お・こ・っ・て・る!
ぷん!
やっぱり納得いきません!!
お昼、ちらっと歌仙さんが迎えに来たの見えたけど、昨日、断ったはずだし、さっさと逃げた。
うぅ……本当はすごい惜しい。
歌仙さんのお弁当、食べたい。
でも、まだ、あんまり味がわかんないと思う。
全然、楽しみじゃない購買へ行く。
今日は運も味方して、サンドイッチ、ゲットできた!!
これはすごい!
白身魚のフライのサンドイッチしか残ってなかったけど。
でもちょっとタルタルソース入ってる。
購買出たら、鈴木が話しかけてきた。
また、手に焼きそばパンと目玉焼きがのった食パンを持ってる。
いいな!
その上、昨日、部長とすごかったらしいな、とか話しかけてくるので、私はご機嫌が斜めです!
いつぞや奢った炭酸のジュースを、全力でシャカシャカ振ったやつをプレゼントした。
すごい喜んでたけど、五時限目の時、制服の襟のところ濡れてたし、髪の毛濡れてたから、多分、いたずら大成功だと思う。

友だちと帰ろうとしたら、歌仙さんが待ってた。
何で!?
別々で良いって言ったじゃん。
友だちは遠慮して、蜘蛛の子を散らすように去っていく。
待ってー。
置いてかないでー!!
一緒に帰るっていうか、私がぷりぷり怒りながら、のしのし歩く後ろを、歌仙さんがしょぼくれた犬みたいについてくる。
バイバイも言わずに家に帰る。
明日は、別々で帰ろうね!

いつもと変わらず、連絡くれる。
読んではいるけど返事しなかった。

お父さんと弟がカルメ焼き食べちゃった!!
この世には神も仏もいなかった!!
信じられない!!

お昼は逃げて、帰りは無言で帰る。
連絡は来るけど、返事しない日が続いた。
私の周りももう、許してあげたらどうかという、歌仙同情派が出てきた。
歌仙さんはもう謝ってくれてるんだよね。
私が許すかどうかだし、さすがに四日も経てば、少しは落ち着くんだけど、顔を見ると、今度はどうにもバツが悪い。
一日だけでいいから、とにかく一人にしてくれないかなぁ。
その時はもう、愛想つかされてるのかな。
現金なもので、今日、生理が来たらちょっと気持ちが落ち着いた。
気持ちは落ち着いたんだけど、何も考えられないくらい眠い。

眠すぎて、寝坊した。
朝は本当に得意じゃないけど、生理中は比べ物にならない。
遅刻ぎりぎりいっぱいまで寝ちゃったから、朝ご飯お味噌汁しか飲めなかった。
こういう日に限って、四時限目が長引く!
大嫌いな購買に行かなきゃいけないのに、遅くなるとパンが残ってない!!
予想通りあんドーナッツ一個しか買えなかった……
も、もつかな。
まあ、今日、五限までだし、部活休んで帰ろう。
なんとかなるでしょ!

部活は休めたけど、何でいるの?
いるわけないと思って気を抜いていたら、校門で歌仙さんに捕まった。
そういえば、学祭終わったら、部活引退って言ってたっけ。
気まずい思いして一緒にいることないと思う。
別々に帰るのはどうかな。
それくらいは言ってみようかな。
無言のまま暫く歩く。
……ちょっと待って、これ、本当にやばいかもしれない。
私、学校に戻るから、そのまま帰って。
ついてこないでね。
久しぶりに歌仙さんに向かって発した言葉は、拒絶のそれだった。
自分でもどうかと思うけど、今の偽らざる気持ちだからしょうがない。
少し後ろを歩いていた歌仙さんを追い越して、学校に戻る。

校門を入ったところで力尽きて、目立たないところを見つけて座り込んだ。
動けなくなってうずくまる。
あと少しだったんだけどな。
保健室まで辿りつけなかった。
気持ち悪い。
お腹も痛い。
朝昼のごはんが少なかった上に、授業に体育があったのが効いたっぽい。
一年に一回とか、それくらいの頻度で運が悪いと生理の時こうなっちゃう。
多分、今、体温34℃台だと思う。
友だちとか、先輩後輩とか、誰にも見つかりませんように。
そう思って陰に座ったのもあんまり良くなかった。
寒い。
眠い。
このままここで、うとうと寝ちゃえば回復するかなあ……
あんまり回らない頭で考えていると、こんなことだろうと思った、とさっきまで聞いてた声がした。
肩に何か、ばさっとかけられた。
なんだろう。
わかんないけど、歌仙さんの匂いがする。
ちょっとだけあったかくなった。
自分の顔色がどんなだったか、気付いてなかったのかい?
生気がないような青白い顔をして。
怒っているような、困っているような声だ。
締切破った部員にしてたのに近い。
絶対零度じゃない方。
そんなこと言われても、自分の顔色なんて、自分じゃ見えなくない?
このまま、倒れたりしないと思うし。
時間かかるけど、休んでれば治るかもしれないし。
抱き上げられそうな気配がして、力をふりしぼって抵抗する。
た、立てます!
よたよたと立ち上がると、抱きしめられた。
悪かった。
すまなかった。
もう何度も聞いた謝罪の言葉。
もう、許さなくていいから、何かさせておくれ。
そう言うから、びっくりした。
何言ってるの?
何でそんなことになっちゃったの?
違うよ。
許さないなんて思ってないよ。
そんなこと言わせたいんじゃないよ。
いや、喋ってなかったからわかんないか。
思ってたより大分、悪いことした。
やばい。
泣きそう。
困っちゃって、そのまま重心を預けると、ちょっとびっくりしたみたいだったけど、受け止めてもらえた。
かた、かして。
あんまりしゃべれなくて、それだけ言った。
それより先に、言わなくちゃいけないことがあるのにね。

思ったよりおっきいなあと思う。
男と女ってこんなに差があったっけ?
力が全然違う。
肩、貸してもらってるけど、私ほとんど自力で歩いてないと思う。
いっぱいいっぱいだから、よくわかんないけど、多分。
下駄箱でもたもた靴を履き替えようとしたら、座らされて、さっさと靴を脱がされて、上履きを履かされた。
抵抗するエネルギーが何もなくて、赤ちゃんみたいになっている。
肩借りると、立ち上がるの楽。
保健室にたどり着いた。
保健の先生が私の顔を見るなり、これは具合が悪そうねえ、寝た方が良いわ、と断言した。
気持ち悪いし、寒い。
一時間で起こしてくれるという言葉に甘えて、もたもたとベッドに腰掛けると、これまたさっさと上履きを脱がされて、横になるやいなや布団をかけられた。
待って、待って。
何か肩にかけてくれたやつを、布団の中からよろよろと差し出す。
上着だった。
丁寧にできないから、ぐちゃぐちゃのまま返しちゃった。
体を横にするだけで、少し楽になる。
寝たいんだけど、ポニテをほどかないと頭が痛い。
しかしこれが大問題だった。
指に力が全然入らない。
自分で結んだヘアゴムがほどけない。
上半身を起こしてがんばるけど、それでも全然だめだった。
もう諦めようかと思ったら、おずおずと手伝おうかと声をかけられた。
上履き脱がすのも、布団かけるのも勝手にやったのに何で?
声出すのが、もうしんどいから、見上げて頷く。
横になりたい。
助けて。
ほどいてもらったヘアゴムを腕につけて、ようやく横になる。
歌仙さんが外に出て、ベッドのカーテンを閉めてくれた。
お礼、言えなかった。
元気になったら連絡しよう。
横になって体が楽になったけど、すぐ眠れるわけじゃなかった。
布団に入っても寒いし、お腹痛いし、脂汗もまだ止まる感じじゃない。
早く眠りたいのに、なかなか寝付けない。
カーテンの向こうから先生と歌仙さんの話す声が聞こえるけど、頭がぼーっとして、内容が入ってこない。
そうこうしているとようやく布団が暖かくなってきた。
待っていた睡魔がやって来て、思考が溶けていく。
おやすみなさい。
心の中で誰かに言った。

先生に起こされる前に目が覚めた。
大分、回復したけど、まだちょっとぼーっとする。
でも寝る前と全然違う。
顔がポカポカしてる。
上履きを履いて、カーテンから外を覗いてびっくりした。
歌仙さんいる!
何で帰ってないんだろう?
背中を向けているが本を読んでいるらしいので肩から生えてみた。
急に生えてみたのに驚きもしない。
具合を聞かれて、大分回復したけど、もうちょっと寝たいと答える。
先生は職員会議らしく、しばらく戻ってこないだろうと言う。
読んでいる本を覗き込めば教科書!
化学だ。
うわー、何書いてあるかすでにちんぷんかんぷんだよ。
そんなこと考えてると、こっちがびっくりするくらいの大きい溜息をつく。
どうしたの?って聞いたら、今回はさすがに堪えたと呟く。
今回ってどれだ?
思い当たる節が多すぎて、特定できない。
素直にごめんねって言った。
もう怒ってないよ。
あと助けてくれてありがとう。
伝えると少し眉尻が下がって、優しい顔になった。
それ見たら、またとろとろ眠くなってきた。
ベッドに戻ろうとすると支えようとするから、断った。
今はもう一人で歩けるよ。
ベッドに乗ると、もう一度怒ってないか聞かれる。
大分、長らく話してなかった気がするもんね。
怒ってないよ。
許し方がわかんなくて困ってただけだよ。
寝ようと思うのにベッドから出ていかないで、歌仙さんは何か考えてる。
やり直してもいいかい、と聞かれて首を傾げる。
何を?
は?
キス?
待って、さっき、堪えたって言ってなかった?
堪えるの意味、私、間違って認識してる?
呆然としていると、だめかい?と聞かれる。
ねえ、何で、そこで押そうと思ったの?
どう考えても引くところじゃない?
これ断ったらどうなるの?
実質の選択肢、私になくない?
あーあ……
いいよって言っちゃった。
気が済んだのか、ゆっくりおやすみってカーテン閉めてったけど、これ私寝れるのかな?
自分でいいよって言っちゃったのに。
ちゃんと寝れるかな?
大丈夫かな?
そう思ってたけど寝れた。
睡魔、最強だった。